ミカエリス・メンテン式

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ミカエリス・メンテン式のプロット

ミカエリス・メンテン式(—しき、: Michaelis-Menten kinetics)とは、酵素の反応速度論に大きな業績を残したレオノール・ミカエリスモード・レオノーラ・メンテンにちなんだ、酵素の反応速度v に関する式で、

v \equiv \frac{d[\mathrm{S}]}{dt} = \frac{V_\mathrm{max}[\mathrm{S}]}{K_m + [\mathrm{S}]}

で表される。ここで、[S]は基質濃度、Vmax は基質濃度が無限大のときの反応速度である。また、Km はミカエリス・メンテン定数と言い、v = Vmax /2(最大速度の半分の速度)を与える基質濃度を表す。

この式により、反応速度v

  • 基質濃度が低い([S] << Km )ときはその濃度に比例
  • 基質濃度が高い([S] >> Km )ときはその濃度に無関係

となることが分かる[1]

解析解[編集]

ミカエリス・メンテン式は左辺に基質 S の濃度の時間微分を持つ微分方程式である。この方程式は変数分離形にして積分することで解くことができるが、解は初等関数で表現できる形にはならず、ランベルトのW関数 W を用いて以下のように表される。

[\mathrm{S}](t) = K_m W\left(\frac{1}{K_m}{\exp\left[\frac{t V_{max}+C}{K_m}\right]}\right)

ここで C積分定数である。

実験によるパラメータの決定[編集]

2つのパラメータ、Vmax とミカエリス・メンテン定数Km の値は実験ではハーネスウルフプロット英語版コーニッシュボーデンの直接的直線プロットで求めることができる。または

v^{-1} = \frac{1}{V_\mathrm{max}} + \frac{K_m}{V_\mathrm{max}}[\mathrm{S}]^{-1}

と式変形できるため、横軸に[S]-1 を、縦軸にv-1 をとってプロットすれば直線となり、最小二乗法などを用いて求めることもできる。これをラインウィーバー・バークのプロットLineweaver-Burke plot[2]または両逆数プロットという。

導出[編集]

迅速平衡法による導出[編集]

酵素(以下 E)が基質(以下 S)と結合して酵素基質複合体(以下 ES)を形成、ES が E と S に戻るか反応生成物(以下 P)を生成する一連の反応機構を以下のように仮定する。

酵素反応機構.gif

この反応は \mathrm{E}+\mathrm{S} \Leftrightarrow \mathrm{ES}\mathrm{ES} \rarr \mathrm{E}+\mathrm{P} の 2 つの反応過程からできている。後者の反応を律速段階と仮定し反応速度定数k +2 と設定する。

k_{+2} = \mathrm{ES} \rarr \mathrm{E}+\mathrm{P}

\mathrm{E}+\mathrm{S} \Leftrightarrow \mathrm{ES} の反応は迅速に化学平衡に達していると仮定し、解離定数K s と設定する。

K_\mathrm{s} = \frac{[\mathrm{E}][\mathrm{S}]}{[\mathrm{ES}]} \cdots (1)

仮定されている反応系に存在する酵素種は、基質と結合していない酵素 E と、基質 S と結合した酵素 ES の 2 種類のみなので、全酵素濃度 [E]0 は両者の濃度の和に等しい。

[\mathrm{E}] + [\mathrm{ES}] = [\mathrm{E}]_0 \cdots (2)

[ES] を未知数として (1), (2) の連立方程式を解くと、

[\mathrm{ES}] = \frac{[\mathrm{E}]_0[\mathrm{S}]}{K_\mathrm{s} + [\mathrm{S}]} \cdots (3)

最初に仮定した反応機構では単位時間当たりに産生される反応産物Pの量は酵素基質複合体ESと速度定数 k +2 の積で与えられる。

v = \frac{d[\mathrm{P}]}{dt} = k_{+2} [\mathrm{ES}] \cdots (4)

(3)を(4)に代入して、

v = \frac{ k_{+2} [\mathrm{E}]_0 [\mathrm{S}]}{K_\mathrm{s} + [\mathrm{S}]} \cdots (5)

(4)式から反応速度 v は [ES] に比例することがわかるが、[ES] の最大値は(2)式より [E]0 である。したがって反応速度 v の最大値 V max は次式となる。

V_\mathrm{max} = k_{+2} [\mathrm{E}]_0 \cdots (6)

(5), (6)より、

v = \frac{V_\mathrm{max}[\mathrm{S}]}{K_\mathrm{s} + [\mathrm{S}]}

定常状態法による導出[編集]

迅速平衡法では \mathrm{E}+\mathrm{S} \Leftrightarrow \mathrm{ES} が迅速に平衡に達すると仮定されているため、\mathrm{ES} \rarr \mathrm{E}+\mathrm{P} の速度定数が \mathrm{E}+\mathrm{S} \Leftrightarrow \mathrm{ES} の速度定数よりもはるかに小さい反応にしか成り立たない。定常状態法によって求めることで一般の反応でも同様の式が成り立つことが証明される。

反応機構は同様で、\mathrm{E}+\mathrm{S} \Leftrightarrow \mathrm{ES} について右向きの速度定数をk+1 、左向きの速度定数をk-1 とする。

定常状態では各酵素種の経時的濃度変化はないので、

\begin{align}
\frac{d[\mathrm{E}]}{dt} &= (k_{-1} + k_{+2})[\mathrm{ES}] - k_{+1}[\mathrm{E}][\mathrm{S}] = 0 \cdots (1) \\
\frac{d[\mathrm{ES}]}{dt} &= k_{+1}[\mathrm{E}][\mathrm{S}] - (k_{-1} + k_{+2})[\mathrm{ES}] = 0 \cdots (2)\end{align}

この反応機構では E と ES しか酵素種が存在しないので

[\mathrm{E}] + [\mathrm{ES}] = [\mathrm{E}]_0 \cdots (3)

反応産物は ES よりk+2 の速度で生成されるので

v = \frac{d[\mathrm{P}]}{dt} = k_{+2}[\mathrm{ES}] \cdots (4)

(1)または(2)式と(3)式を連立方程式とみなして [ES] を求めると

[\mathrm{ES}] = \frac{k_{+1}[\mathrm{E}]_0[\mathrm{S}]}{k_{-1} + k_{+2} + k_{+1}[\mathrm{S}]} \cdots (5)

(5)式を(4)式に代入して速度v を得た後、分子分母をk+1 で割る。

v = \frac{k_2 [\mathrm{E}]_0 [\mathrm{S}] }{ \frac{k_{-1} + k_{+2}}{k_{+1}} + [\mathrm{S}]} \cdots (6)

速度パラメーターとして

V_\mathrm{max} = k_{+2} [\mathrm{E}]_0, \quad K_m = \frac{k_{-1} + k_{+2}}{k_{+1}}

と定義すれば、(6)式は

v = \frac{V_\mathrm{max}[\mathrm{S}]}{K_m + [\mathrm{S}]}

となる。

阻害がある場合のミカエリス・メンテン式[編集]

阻害とは何らかの理由で反応が遅くなることで、酵素反応の阻害には

  • 基質阻害
  • 競争阻害(競合阻害)
  • 非競争阻害(非競合阻害)
  • 不競争阻害(不競合阻害)
  • 混合型阻害

などの種類がある。前述の両逆数プロットを使うとこれらを見分けることができる。

基質阻害[編集]

次の図のように酵素基質複合体がさらに基質と結合して不活性となる場合を言う。

Subinhibitkikou.gif

この場合の解離定数は

K_\mathrm{ss} = \frac{[\mathrm{ES}][\mathrm{S}]}{[\mathrm{ESS}]}

含まれる酵素種は E, ES と ESS の3種類なので、全酵素濃度は

[\mathrm{E}]_0 = [\mathrm{E}] + [\mathrm{ES}] + [\mathrm{ESS}]

その他の値は迅速平衡法でミカエリス・メンテン式を求めた時のままで連立方程式を作り [ES] を求めると、

[\mathrm{ES}] = \frac{[\mathrm{E}]_0 [\mathrm{S}]}{K_s + [\mathrm{S}] + [\mathrm{S}]^2/K_\mathrm{ss}}

これを v = k+2 [ES] に代入しパラメーターVmax に変えると、

v = \frac{V_\mathrm{max}[\mathrm{S}]}{K_s + [\mathrm{S}] + [\mathrm{S}]^2/K_\mathrm{ss}}

競争阻害[編集]

競争阻害とは基質と阻害剤(以下、I)が酵素の同じ活性中心に結合する場合に起こる阻害のこと。

反応機構は次式の通り。

Kyousousogai.gif

基質と阻害剤の解離定数は

K_i = \frac{[\mathrm{E}][\mathrm{I}]}{[\mathrm{EI}]}

含まれる酵素種は E, ES と EI の3種類なので、全酵素濃度は

[\mathrm{E}]_0 = [\mathrm{E}] + [\mathrm{ES}] + [\mathrm{EI}]

他の値は迅速平衡法で求めた時と同じで連立方程式を作り [ES] を求めると、

[\mathrm{ES}] = \frac{[\mathrm{E}]_0 [\mathrm{S}]}{K_s (1 + [\mathrm{I}]/K_i) + [\mathrm{S}]}

これを v = k+2 [ES] に代入しパラメーターVmax に変えると、

v = \frac{V_\mathrm{max}[\mathrm{S}]}{(1 + [\mathrm{I}]/K_i)K_s + [\mathrm{S}]}

非競争阻害[編集]

基質と阻害剤が酵素の異なる部位に結合し、両者が互いに他の結合に影響を及ぼさない場合を非競争阻害という。

反応機構は次の図の通り:

Hikyousou.gif

解離定数は、基質が遊離の酵素に結合するときも酵素阻害剤複合体に結合するときも同じで、阻害剤の結合定数も同様なので、

\begin{align}
K_s &= \frac{[\mathrm{E}][\mathrm{S}]}{[\mathrm{ES}]} = \frac{[\mathrm{EI}][\mathrm{S}]}{[\mathrm{ESI}]}\\
K_i &= \frac{[\mathrm{E}][\mathrm{I}]}{[\mathrm{EI}]} = \frac{[\mathrm{ES}][\mathrm{I}]}{[\mathrm{ESI}]}
\end{align}

反応機構の中にある酵素種は E, ES, EI と ESI の4種類なので、全酵素濃度は

[\mathrm{E}]_0 = [\mathrm{E}] + [\mathrm{ES}] + [\mathrm{EI}] + [\mathrm{ESI}]

この3つの式で連立方程式を作り、[ES] について求めると、

[\mathrm{ES}] = \frac{[\mathrm{E}]_0 [\mathrm{S}]}{(1 + [\mathrm{I}]/K_i)(K_s + [\mathrm{S}])}

これを v = k+2 [ES] に代入しパラメーターVmax に変えると、

v = \frac{\frac{V_\mathrm{max}}{1 + [\mathrm{I}]/K_i} [\mathrm{S}]}{K_s + [\mathrm{S}]}

不競争阻害[編集]

基質と阻害剤が酵素の異なる部位に結合するが、阻害剤は遊離の酵素には結合できず、酵素基質複合体のみに結合できる場合を不競争阻害という。

反応機構は次の図の通り:

Fukyousou.gif

解離定数は、

K_s = \frac{[\mathrm{E}][\mathrm{S}]}{[\mathrm{ES}]}
K_i = \frac{[\mathrm{ES}][\mathrm{I}]}{[\mathrm{ESI}]}

反応機構の中にある酵素種は E, ES, ESI の3種類なので、全酵素濃度は

[\mathrm{E}]_0 = [\mathrm{E}] + [\mathrm{ES}] + [\mathrm{ESI}]

この3つの式から連立方程式を作り、[ES] について求めると、

[\mathrm{ES}] = \frac{[\mathrm{E}]_0 [\mathrm{S}]}{K_s + (1 + [\mathrm{I}]/K_i)[\mathrm{S}]}

これを v = k+2 [ES] に代入しパラメーターVmax に変えると、

v = \frac{\frac{V_\mathrm{max}}{1 + [\mathrm{I}]/K_i}[\mathrm{S}]}{\frac{K_s}{1 + [I]/K_i} + [\mathrm{S}]}

混合型阻害[編集]

参考文献[編集]

  1. ^ 大竹伝雄 『化学工学Ⅲ』 岩波書店、1978年、16頁。ISBN 4-00-021103-X 
  2. ^ A. G. Whittaker; A. R. Mount; M. R. Heal; 中村亘男訳 『キーノート化学シリーズ 物理化学キーノート』 シュプリンガー・フェアラーク東京、2002年ISBN 4-431-70956-8 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]