マルグリット・ユルスナール

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マルグリット・ユルスナール(Marguerite Yourcenar, 1903年6月8日 - 1987年12月17日)は、フランス小説家。本姓はド・クレイヤンクール(de Crayencour)で、「ユルスナール」はそのアナグラム筆名とした。

来歴[編集]

フランス貴族の末裔たる父ミシェルと、ベルギー貴族の末裔たるフェルナンドを母にブリュッセルで生まれたが、母は出生時の産褥熱で世を去っている。もっぱら博学な父の教えにより西洋古典の教養を身につけた。また幼少時から父に伴われて各地を旅行し、父を26歳のときに亡くした以降もヨーロッパや小アジア各地に遊学した。1937年に渡米し一時帰国したが、1939年に第二次世界大戦開始により、再びアメリカに渡り1958年まで、ニューヨーク近郊サラ・ローレンス大学比較文学を教えた。退職後はメイン州のマウント・デザート島の小さな屋敷に住み、著作の合間に旅行をする生活を送った[1]

主な作品に、『アレクシス あるいは空しい戦いについて』(1929年)、東洋の伝承を翻案した作品集『東方綺譚』(1938年)、第一次大戦の動乱期を背景とする『とどめの一撃』(1939年)、ローマ皇帝の個人的な回想の形をとった歴史小説『ハドリアヌス帝の回想』(1951年)、ルネサンス期の錬金術師の激動の生涯を描く『黒の過程』(1968年。フェミナ賞)、作家自身のルーツをたどった『世界の迷宮』三部作など。

なおユルスナールはバイセクシャルで、作品の主人公も同性愛者が圧倒的に多い。三島由紀夫を評価していたことでも知られており、三島を扱った評論『三島あるいは空虚のビジョン』がある。ほかにイタリアの版画家ピラネージを扱った『ピラネージの黒い脳髄』がある。

1980年には女性初のアカデミー・フランセーズ会員となった。1987年12月、モン・デゼール島の小さな町バー・ハーバーの病院で死去した。

主な著書[編集]

  • アレクシスあるいは空しい戦いについて(Alexis ou le traité du vain combat)
  • 夢の貨幣(Denier du rêve)
  • 火(Feux)
  • 東方綺譚(Nouvelles orientales)
  • ハドリアヌス帝の回想(Mémoires d'Hadrien)
  • 検証を条件に(Sous bénéfice d'inventaires)評論。コンバ賞受賞
  • 黒の過程(L'Œuvre au noir)
  • 追悼のしおり 世界の迷宮Ⅰ(Souvenirs pieux(Le labyrinthe de monde I))
  • 北の古文書 世界の迷宮Ⅱ(Archives de Nord (Le labyrinthe de monde II))
  • 何が? 永遠が 世界の迷宮Ⅲ(Quoi? L'Éternité(Le labyrinthe de monde III))
  • 三島あるいは空虚のビジョン(Mishima ou la vision du vide)
  • 姉アンナ…(Anna, soror...)
  • 時、この偉大なる彫刻家(Le temps, ce grand sculpteur)評論

日本語訳[編集]

  • 多田智満子訳『ハドリアヌス帝の回想』白水社
  • 岩崎力訳『黒の過程』白水社
  • 岩崎力訳『アレクシスあるいは空しい戦いについて』白水社
  • 岩崎力訳『とどめの一撃』雪華社、のち岩波文庫
  • 若林真訳『夢の貨幣』 集英社「世界の文学」第24巻
  • 多田智満子訳『火 散文詩風短篇集』白水社
  • 多田智満子訳『東方綺譚』 白水社、のち白水Uブックス
  • 澁澤龍彦訳『三島あるいは空虚のビジョン』河出書房新社
  • 岩崎力訳『姉アンナ…』白水社
  • 岩崎力訳『流れる水のように』白水社
  • 吉田加南子訳『青の物語』白水社
    • ※以上の訳書は、『ユルスナールセレクション』(全6巻[2]白水社)に収録。
  • 岩崎力訳 『追悼のしおり 世界の迷路Ⅰ』白水社、2011年5月、
  • 小倉孝誠訳 『北の古文書 世界の迷路Ⅱ』白水社、2011年11月
  • 堀江敏幸訳 『何が? 永遠が 世界の迷路Ⅲ』(未刊行)

参考文献[編集]

  • 須賀敦子『ユルスナールの靴』[3]河出書房新社、1996年[4]
  • マルグリット・ユルスナール 『ハドリアヌス帝の回想』 多田智満子訳、白水社、新装版2008年

脚注[編集]

  1. ^ 須賀敦子全集3』、p.570f(河出書房新社、2000年)、「ユルスナールの小さな白い家」を収録。
  2. ^ 収録内容は上記の他に、評論集『空間の旅・時間の旅』、ロング・インタビュー集『目を見開いて』。
  3. ^ この中で須賀は「語彙の選択、構文のたしかさ、文章の品位と思考の強靭さ。それらで読者を魅了することが、ユルスナールにとっては、たましいの底からたえず湧き出る歓びであり、それがなくては生きた心地のしないほどの強い欲求だったにちがいない」と評価している。
  4. ^ 河出文庫(1998年)、白水Uブックス(エッセイの小径:2001年)、「全集3」に収録(河出書房新社のち河出文庫)で再刊された。


前任:
ロジェ・カイヨワ
アカデミー・フランセーズ
席次3

第17代:1980年 - 1987年
後任:
ジャン=ドニ・ブルダン