マイル修行
マイル修行(マイルしゅぎょう)とは、航空会社の運営するマイレージサービスに沿って多頻度客へ提供される特典を目的とした、有償航空券による旅行の俗称。しばしば単に「修行」と略される。そのような旅行者は短期間に多回数飛行機に乗り続ける上、体力と時間と貯蓄を消耗するなど心身の苦痛も伴うため、僧侶の修行に例えられ、マイル修行僧(または修行僧と略す)と呼ばれる。通常これらの特典は飛行回数や飛行距離が一定のレベルに達することによって提供されるため、旅行好きが専らゲームとして行う旅行もあれば、日頃仕事で飛行機をよく利用する者が上級会員のサービスを求めて自費で行う旅行なども含まれる。英語では、Mileage run(マイレージラン)と呼ばれる。
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[編集] 概要
1990年代中頃、当時の円高を反映して航空券が割安になって気軽に海外旅行に行く人が増えてきたことを背景に、ユナイテッド航空やノースウエスト航空など米国の航空会社が日本語でマイレージサービスの情報を提供するようになった。日本人会員の数が増えるとパソコン通信、ニュースグループ (fj)、電子掲示板、メーリングリストなどを介して情報交換が盛んになり、その中でマイレージ加算を一種のゲームと考えて旅行を楽しむ人々が現れた。
これらの米系航空会社ではアジア地域内の自社便特典航空券を比較的少ないマイル数で提供しており、ビジネスクラスやファーストクラスでは現金での価格設定に比べて特にメリットが大きかった(例: 日本~ニューヨークをエコノミークラス格安航空券で2往復すれば、自社の運航するアジア都市間(東京~バンコクなど)をビジネスクラス特典航空券で飛ぶことができた)。この点に着目した旅行者達の間で、近距離特典旅行の獲得を目的として長距離の太平洋路線を閑散期の格安運賃で利用することが流行した。エコノミークラスでの長距離旅行は時間的・身体的に負担がかかり、しかもその旅行の目的地での観光や用事には大きく執着せず、その過程で得られたマイルや上級会員資格に大きな価値を見出す、というそれまでにない旅行のスタイルが、一般的な旅行の常識からかけ離れていたことから、僧侶の修行になぞらえて「修行の旅」というやや自虐的な表現が、ネットコミュニティを利用する旅行者の間で自然発生した。これらはいずれもネット以外のコミュニティやメディアでは見かけられない表現である。
1997年に日本航空や全日本空輸がそれまでのポイントプログラムを改良してマイレージサービスを始めると、日本国内線も対象に加わることとなる。米系航空会社の例と比較すると航空券価格・必要マイル数などでコスト的なメリットは少ないものの、上級会員特典を国内線利用時にも受けられることから、資格獲得を目的として短距離路線を頻繁に往復する修行も行われるようになった。
航空会社の提携・運賃の多様化・海外発券の豊富な情報を背景に修行のパターンは多様化しており、近年では海外発のファーストクラスやビジネスクラスを利用した最早「苦行」とは呼べない修行も見られる。
似たような行動として「ヒルトン」「マリオット」「スターウッド」等、マイレージプログラムと関係の深い高級ホテルチェーンの上級会員資格を満たす為に移動と宿泊を繰り返すことを『ホテル修行』と呼ばれる。
[編集] 主な動機
- 総飛行距離に応じてマイレージと交換できる無料航空券や、上級座席(ビジネスクラスなど)へのアップグレード
- 年間飛行距離や年間飛行回数に応じて設定される上級会員資格には、ボーナスマイル・搭乗手続き・空席待ち・手荷物扱いの優先、本来ビジネスクラス以上の乗客しか入れない空港ラウンジの利用などの特典がある。
- 短時間とはいえ旅行を通じて様々な機材や航空会社を体験したり、移動によって非日常な風景や事物に触れることもできる。飛行機への興味を膨らませたりと、本来の旅行の楽しみをマイル修行の過程で実感することも少なくない。
- また、一定のルールの中で飛行距離を最大化する、などのパズルゲーム的な要素を楽しむこともある。
- 日本の航空会社に特有の現象として、上級会員組織(JGC、SFC)への入会を目的とした修行が挙げられる。1年(その年の1月1日から12月31日)のうちに一定の搭乗回数や搭乗距離に到達すると入会資格が与えられ、以後は搭乗実績、搭乗距離、搭乗区間に関係なく年会費を支払う限り特典が継続する。日常的に国内線利用の多いビジネスマンには特にメリットが大きいため、入会を希望しているものの日常の出張だけでは入会資格に到達できない場合には、自費での修行が必要になる。
[編集] 主な手段
- 限られた予算内でのマイレージの最大化
- 飛行距離の獲得には、国際線では閑散期に安価で提供される長距離路線(全米4都市周遊の格安航空券によるフロリダ往復や南回りヨーロッパ路線、時に米国経由ヨーロッパ行きなど)が用いられる。国内線ではバーゲン運賃などの割引運賃を活用し、羽田と沖縄を往復する方法が一般的。
- IATAや航空会社が個別に定める航空券の規則の範囲内で、敢えて遠回りや乗り継ぎの多いルートを計画する。
- 同じ路線が複数の提携航空会社から販売される場合(コードシェア便)に最も安い発券会社を選ぶ。
- 閑散期や決算前には、利用率の低い路線や競合他社のある路線を対象に割引運賃の提供やマイレージの割増加算が行われるため、これらの情報を仲間内で交換しながら経路を最適化することも行われる。
- 1990年代からソウル、バンコク、台北、コロンボ発、日本経由の航空券を日本語で扱う海外業者も登場した。日本の繁忙期に関係なく日本よりは割安な運賃が設定されており、特にエコノミークラスとビジネスクラスの運賃差が小さいことが特徴。日本の繁忙期に海外発券で利用できる座席数は限られているが、盆正月など繁忙期にしか休みが取れない旅行者は半年以上前から修行旅行を計画することで安く飛んでいる。ただし非居住者による利用増加と共に海外発運賃は値上がりの傾向にあり、また為替相場の影響を受け易いため、円安の時期にはメリットが薄れがちである。
- 飛行回数の最大化
- 航空券が安価な国内線区間、北海道・東京・大阪・九州・沖縄から離島などへのコミューター路線※がよく用いられる。
※伊丹-コウノトリ但馬、福岡-鹿児島、鹿児島-屋久島、那覇-石垣、那覇-宮古、那覇-久米島、札幌丘珠発着道内各便など。2007年までは羽田-大島、羽田-八丈島、大島-八丈島、福岡-対馬も多用された。
- 直行便を敢えて利用せず、小刻みに経由する(例:東京-鹿児島を、東京→大阪→福岡→鹿児島と経由)。
- 週休2日の社会人や学生が行う場合、週末の1~3日程度をかけて同じ区間を繰り返し往復する。
- 国際線普通運賃では乗継や途中降機の回数制限がないことから、海外で発券される安価なチケットを購入して国内線区間数を増やす。(海外発券ではソウル, シンガポール, バンコクなどが有名)
- ルートきっぷ(ANA系、現在は廃止)・美ら島きっぷ(JAL系、現在は廃止)など、多回数搭乗出来る割引切符を利用する。
- 他にもタイ国内線の往復(バーツラン)といった方法もあるが、バーツラン対策のためか、タイ国際航空が一部路線をスターアライアンスに加盟していない航空会社に運航を譲渡しているものの、バーツランで上級会員のステータスを得る修行僧も健在である。
- 上級会員資格の獲得・維持
- スケジュールに多少の影響があっても、一暦年の間は単一の航空連合に加盟するエアラインに出張利用を集中したり、時に自費で航空券を追加購入して修行を行う。
- 日系航空会社で上級会員向けクレジットカード取得した場合、ショッピングマイル・提携先利用によるマイル・マイル修行で取得したマイル等で特典航空券の交換条件をクリアする場合や、特典航空券に関心が低ければ以後の修行は行われない。その他の航空会社では上記を毎年繰り返す必要がある。
- 搭乗以外でのマイレージ獲得
- 提携クレジットカード・店舗・ホテル・レンタカーなどの利用によってもマイレージは獲得できる。
- 詳細はマイレージサービスを参照
[編集] 主な悪影響
- 非効率な遠回り旅行は利用区間数を増やすこととなるため、繁忙期には航空会社の提供座席(=収益機会)を消耗する。また最短距離ではない経路では自動運賃計算システムが対応しきれないことがあり、旅行会社や航空会社の発券部門のマンパワーに負担をかける。
- 短期間に集中して地方路線を利用する場合、離島などの生活路線が混雑し、現地に暮らす人々の移動、ビジネスや医療機関の受診などが影響を受ける。また搭乗回数を増やすために乗継時間の短いスケジュールを立てた場合、前便が遅れると後続便の他乗客を待たせてしまう。
- 本来は多頻度客の待合時間の利便に供するために存在する空港ラウンジであるが、多くのラウンジを訪れてサービスを比較するなどラウンジ利用やそこでの飲食休憩そのものが目的化した結果「度々の写真撮影や周囲の観察など挙動不審な行動をとる」「待ち時間に利用可能なラウンジを『はしご』する」など他の旅行者にとって迷惑な行動も散見される。
- ネットコミュニティでは、これらを快く思わない他の旅行者が用いる揶揄表現として「修行僧(または僧)」「マイレージ・ジャンキー」、珍走団をもじった「珍乗」などが見かけられる。
- 鉄道旅行でいう完乗と類似しており、あくまで自己満足的性格が強い行為である。また、航空券代をはじめとして様々な経費がかかるために会員が持つ経済力や航空旅行に対する知識がものをいう。その結果、会員が自分のブログ等でファースト・ビジネスクラスのみで修行した成果を報告することで単なる財力自慢となりかねない内容となったり、逆に経済力のない修行僧は実際に自己破産に陥ったケースも存在する。
[編集] 航空会社から見たマイル修行の位置付け
- マイレージの割増加算などのマーケティングツールによって旅行パターンを誘導できるため、不採算路線の閑散期の搭乗率を見かけ改善したり、平準化することができる。路線ごとの収益の向上には必ずしも結びつかないが、搭乗率は経営状態の指標の一つとして用いられるため、時に有用である。
- 同様に、競合他社が新規参入した路線で対抗したり、自社のより高額な運賃(例:正規割引運賃>格安航空券)に利用者を誘導したりする手段としても用いられる。[要出典]