ポケットコンピュータ

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シャープ製のポケットコンピュータ
1980年代後半には、漢字表示機能を搭載した機種も登場していた。写真は大型の部類に入るPC-1360K(1986年発売)で、メモリカード増設により最大64KBのメモリを搭載できた。

ポケットコンピュータ1980年代に広く使われた携帯用の小型コンピュータである。通称ポケコン

概要[編集]

その名の通りポケットに納まる程度、もしくはそれよりやや大きな外形寸法で、長時間のバッテリー駆動が可能な物であった。BASICなどの高水準言語プログラムユーザーが作成できるように設計されていたが、小型軽量化のためと当時の技術水準のため、表示機能や記憶容量は非常に限定されていた。

日本ではシャープ1980年に発売、同じ電卓メーカーであるカシオが低価格機種で追い上げる形で、日本国内外に数多く製品が販売されていった。またパーソナルコンピュータ8ビットパソコン)を発売していたメーカーも、一部がこのポケコン市場に関連した製品を発売していた(→ポケットコンピュータの製品一覧)。なお同時期、各社から電子手帳という一般向け製品(2000年代に於ける携帯情報端末に相当する機器)が発売されていたが、これらはそのほとんどがプログラミングすることを前提とせず、内蔵または別売りのソフトウェアロムカードを追加して利用されるものであったため、ポケットサイズの素朴なコンピュータともいえる電子機器ではあったが、ポケットコンピュータの範疇には含まれない。ただ、住所録などの機能を付与した電子手帳的利用を視野に入れた製品も登場している。

なお最盛期であった1980年代において可搬型コンピュータとしては、この電卓を出発点とするポケットコンピュータのほかに、パーソナルコンピュータ8ビットパソコンなど)を出発点とするラップトップパソコン、あるいは単に「携帯性の良いコンピュータ」という視点に基づくハンドヘルドコンピュータのような製品が存在した。しかしハンドヘルドとラップトップが産業用・業務用機として小さな市場を奪い合っていたのに対し、ポケットコンピュータは安価で扱い易いなど様々な理由により、産業商業教育独学ないし趣味といった企業から個人までの幅広い市場を形成していた。なお、ラップトップやハンドヘルドも個人の消費者(好事家)に購入者が無かった訳ではないが、それらは一部のパソコンマニアに限定された。

また、現在でも工業高等学校などでは使用されている。

特徴[編集]

小型・軽量である 
ポケットに入るサイズ(多少嵩張る機種でも、背広の内ポケット位になら収まる)・重量(数百グラム程度)とされ、片手で支えて利き手でキーを叩く事によって、場所を選ばず利用できる。特に当時の他のコンピュータが腕に抱えて移動しなければならない物しか無かった事から見ても、格段に運搬性に優れていた。
駆動時間が長い 
乾電池リチウムボタン電池で連続100時間以上は駆動できる物がほとんどで、どこの電気店でも売られているような一般的な電池を使っていた事から、いつでもどこでも電池切れを気にせず利用できた。学生が日に数時間プログラミングをする程度の利用では、一ヶ月以上は電池切れの心配をしないで済んだ。
プログラミングし易い 
容量的には限られたものではあったが、即興で必要に応じたプログラミングを行い易いよう、高級言語BASICが搭載された(後述)。
安定した性能 
起動時間は1秒弱。フリーズは滅多に起こらない。ウィルスは存在しない。オールリセットで簡単に初期状態に戻せる。
学習教材 
パソコンが高価であった当時、コンピュータを使った機械制御の学習やコンピュータ言語の教材として使用された。このため、後期の学校向けポケットコンピュータでは機械制御用ボードを接続するためのオプション用のコネクタやバスコネクタが装備され、工業高校や専門学校に導入されて専用ボードを用いた機械制御の学習用に用いられた。また言語学習用として情報処理試験のCASLやC言語、アセンブラが搭載されるようになった。
豊富な関数 
関数電卓の延長として開発されていたため、数学で利用する様々な関数が豊富に用意されていた。それぞれの関数の組み合わせをダイレクトコマンドとしても使えたので、プログラムを書かなくても、数式で入力してやれば一瞬で答えが出た。更に複雑な計算式も、ユーザーが自分の好みでプログラミングし、たちどころに答を知る事が可能であった。当時もプログラム可能な関数電卓は存在したが、BASIC言語を使った、より本格的なプログラミングを利用できる点で優位であった。また、幾つかの機種では数式を入力すると変数の値をポケットコンピュータが問いかけてくれて計算結果も表示してくれる機能が搭載された。
表示量が小さい 
当時の技術的な水準から、白黒液晶画面で12~32桁・1~4行程度の文字表示のものが多かった。複雑なプログラムを書くには、少々使いにくいものであった。
記憶容量が小さい 
これも弱点であるが、当初はプログラムに利用可能な容量は1KB(1000文字)程度のものが販売されていた。後に記憶容量の大きい機種も出たが、それでも32KB程度を超える物も少なく、あまりに複雑なプログラムは作る事が出来なかった。しかし表示機能が限られている事や、計算能力も決して高速ではない事もあり、それほど問題になる事も無かった。
その他の機能 
音を出す機能は一般に貧弱で、Beep音と呼ばれる電子ブザーの単純な音のみの物や、幾つかの音程が出せる程度で、廉価版の機種には音を出す機能その物が無い物もあった。拡張用として、専用プリンタや、カセットインタフェースなどが用意されていた。

いわゆる「ポケコンBASIC」に関して[編集]

ほとんどのポケットコンピュータへ標準的に搭載されたプログラミング言語BASICは、簡単な英語の単語を基本とした言語であるため、当時はプログラミングの入門用とされていた。

機種間で細かい文法の違い(方言)は多かったものの、多くのBASIC言語においては実際の数式に比較的近い単純なフォーマットで数式が記述できたうえ擬似命令や複雑な定義文が不要なこともあり、初心者が簡単な計算を利用する際にも扱いやすかった。実行時には逐次プログラムを解釈して実行するインタプリタ型であった事もあり、無限ループするようなプログラムを作ってしまっても気軽に止めることができた。また作りかけのプログラムを動作させても途中まで動いて終了し、さらにプログラムを入力できる事から、利用者は安心してプログラムを作成、または改変する事が出来た。なおこの当時のBASICはステップバイステップで実行され、プログラム設計しやすいこともあり、必要に応じて適時プログラムを組むためには便利の良い言語でもある。

ただしこのBASICは、構造化命令(→構造化プログラミング環境)が整備されておらず、追加に次ぐ追加でプログラムを改良して行くと構造が煩雑になりがちで、作った本人でさえ後日プログラムソースが理解できなくなることすらあった。もちろん後日手を加えることを意識して、汎用性の高いプログラムを組むなどの対処をする者もいたが、ソースコードを公開して他者に使わせることを前提としない「使い捨てのプログラム」ともみなされた。

だが、ポケコンの用途は関数電卓の延長上にあることも多く、ポケットコンピュータに搭載されたBASICは使いまわしを考えずとも、現場で必要に応じ計算プログラムを組む際にも有効であったため、コンピュータプログラミング入門者向けであるのと同時に、科学計算向けなど技術者科学者が現場で利用するといった専門分野でもおおいに役立ち、この「使い捨てのプログラム」は必要十分な利便性を発揮した。携帯性に優れたポケットコンピュータにBASICを搭載することは、理に叶った設計だったのである。

なお末期の機種では、教育に於けるプログラミング演習や他の環境に親しんだ利用者ニーズの観点もあって、ソフトウェア開発全般で主流となっていた構造化プログラミングへの対応が図られた。

用途[編集]

コンピュータとしての性能は非常に貧弱ではあるが、高性能電卓として、工事現場での構造計算から学術研究フィールドワークにおける計算に、変わったところではカジノにおけるブラックジャックのカードカウンティングにと、様々な分野で活用された。

また、内蔵するプログラミング言語プログラムを組むことにより、簡単なゲームを楽しむなど、趣味の分野にも盛んに利用された。 特に、当時の家庭向け・ホビーユースに発売されていたパーソナルコンピュータが、新卒労働者月給の倍近くする価格であった事もあり、コンピュータに関心を持つ層が、ポケットマネーを奮発するだけで買える安価なコンピュータとして購入した。 『I/O』『PiO』(工学社)や『マイコンBASICマガジン』(電波新聞社)などのパソコン雑誌に投稿プログラムが多数掲載され、全盛期には専門誌『ポケコンジャーナル』(工学社)も刊行されていた。また、『ポケコンマシン語入門』(工学社)ではシャープのPC-12シリーズでマシン語プログラムを組む際に使える多数の内部ルーチンの解説や、液晶画面を直接制御する方法など、様々な内部情報が解説されていた。

ゲーム[編集]

ポケットコンピュータ本体がパーソナルコンピュータに比べて安価なことから、画面が小さく、モノクロ表示である等の短所にも関わらず、多数のゲームが製作された。内容は、簡単なパズルゲームから、シューティングRPGアドベンチャーゲーム等の複雑なゲームまで、多岐に渡った。表現においては、脱衣物をはじめとした、より複雑な絵を表現する試みがなされた。

これらのゲームは、主に雑誌に発表されるなどして流通し、一部は今日でもインターネット上で公開されている。

その後[編集]

今日では、汎用性が高く安価で高性能なパーソナルコンピュータ携帯情報端末の普及により、一般市場からは殆ど姿を消したが、一部のエンジニア理系学生の間で使用されたり、工業高校の教育用教材として利用する市場があるため、現在も生産が行われている。その一方で、昔からの根強いファンも多く、ポケコン関連のウェブサイトなども多数存在する。

こういった愛好者層にとってポケットコンピュータは小型のため収納スペースに困らず、またこれまでに多種多様な機種が販売されては消えていった関係で、ミニカー等にも似たコレクションアイテムとしての価値すら見出している模様である(→収集家)。

生産が終了したモデルであっても、希少性があるモデルやかつての名機などがインターネットオークションなどで高値売買されている様子も見られないではない。ただ工学生向けモデルは出荷台数の多さや生産が続いているなどの事情もあり、売買価格は全般的におちついている。

関連項目[編集]