ポイゾンド・ポーン・ヴァリエーション

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ポイゾンド・ポーン・ヴァリエーション
abcdefgh
8
a8 black rook
b8 black knight
c8 black bishop
e8 black king
f8 black bishop
h8 black rook
b7 black pawn
f7 black pawn
g7 black pawn
h7 black pawn
a6 black pawn
d6 black pawn
e6 black pawn
f6 black knight
g5 white bishop
d4 white knight
e4 white pawn
f4 white pawn
c3 white knight
a2 white pawn
b2 black queen
c2 white pawn
d2 white queen
g2 white pawn
h2 white pawn
a1 white rook
e1 white king
f1 white bishop
h1 white rook
8
77
66
55
44
33
22
11
abcdefgh

ポイゾンド・ポーン・ヴァリエーション (Poisoned Pawn Variation) は、チェスオープニングの1つで、シシリアン・ディフェンスの変化の1つである。右図がポイゾンド・ポーン・ヴァリエーションの基本形で[1]、基本形までの手順は1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cd 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6 6.Bg5 e6 7.f4 Qb6 8.Qd2 Qxb2である[2][3]ポイゾンド・ポーンと略されることも多い[4]

概要[編集]

ナイドルフ・ヴァリエーションの1変化。元世界チャンピオンボビー・フィッシャーが得意としていたオープニングである[5][6]。フィッシャーは黒番を持った時白に1.e4と指されると大抵1.… c5と指してシシリアン・ディフェンスにし[7]、その後ポイゾンド・ポーン・ヴァリエーションにした[7]

黒がポイゾンド・ポーン・ヴァリエーションを指したい場合はナイドルフ・ヴァリエーションの基本形[8]から6.Bg5 e6 7.f4と進行した後7.… Qb6と指す[7][9]。その後8.Qd2 Qxb2と進行してポイゾンド・ポーン・ヴァリエーションの基本形となる[1]

基本形に至るまでの白の8手目で8.Nb3と指す手は黒に8.… Qe3+と指されてクイーンの交換に持ち込まれるので白としてはつまらない手[1]ポーンを1つ損してもポーンのなくなったファイルにルークを移動すると攻撃に弾みが付き結果が良くなる事が多い[1]

主な変化[編集]

9.Rb1 Qa3 10.e5 Nfd7? 11.f5! Nxe5 12.fe fe 13.Be2! Nbc6 14.Nxc6 bc 15.Ne4 d5 16.0-0! Qa4 17.Bh5+ Kd7 18.Rxf8!![10]

この進行は1955年スウェーデンヨーテボリで指されたケレス対フデレラ戦で指された変化である[11]。ポイゾンド・ポーンが国際大会の水準で初めて指されたゲームがこのケレス対フデレラ戦である[4]。その後フィッシャーが黒番で指し好成績を得て世界中で指されるオープニングとなった[4]

白の9手目で9.Nb3と指す手は1972年アイスランドレイキャビクにて当時世界チャンピオンだったボリス・スパスキーにフィッシャーが挑戦した世界チェス選手権の第11局目で白のスパスキーが指した手で[5][12]、その後8.… Qa3 10.Bxf6! gf 11.Be2!と進行しスパスキーが31手で快勝した[5][12]。そのため暫くの間国際大会ではポイゾンド・ポーン・ヴァリエーションは指されなくなった[1][5]

白の10手目では他に10.Bxf6、10.Rb3、10.f5と指す手もある[4]

黒の10手目でフデレラが10.… Nfd7?と指したのが黒の敗因となった[4]。ここでは10.… h6か10.… deと指すのが良い手[4]1961年に対局されたボレマ対シュミット戦では黒のシュミットが10.… h6と指し[4]、以下11.Bxf6 gf 12.Ne4 fe 13.fe de 14.Nf6+! Ke7 15.Nf5+! ef 16.Nd5+ Ke8 17.Nc7+ Ke7 18.Nd5+と進行しパーペチュアル・チェックとなりドロー[4]1965年に対局されたトリンゴフ対フィッシャー戦では黒のフィッシャーが10.… deと指し[4]、以下11.fe Nfd7 12.Bc4 Bb4 13.Rb3 Qa5 14.0-0 0-0 15.Nxe6 fe 16.Bxe6+ Kh8 17.Rxf8+ Bxf8 18.Qf4 Nc6 19.Qf7 Qc5+ 20.Kh1 Nf6 21.Bxc8 Nxe5 22.Qe6 Neg4と進行し白のトリンゴフが投了した[13]

白の11手目で11.Rb3?と指すと11.… Qa5 12.ed Nc5!と進行し[14]、黒の駒の展開が良くなる[14]

黒の11手目で11.… deと指すと12.fe ed 13.ef+! Kxf7 14.Bc4+ Ke8 15.Qf4 Qxc3+ 16.Kd1と進行し白の必勝形[14]。また11.… efと指すと白に12.e6!と指され白が有利[14]

黒の12手目で12.… Bxe6と指すと12.Nxe6 fe 13.Rxb7と進行し白のルークが7番目のランクに侵入してしまう[14]

白の13手目はキャスリングの準備とビショップによるチェックの狙いを持った手[15]

黒の13手目で13.… Be7と指すと14.Bxe7 Kxe7 15.Qg5+と進行し白が有利[15]

白の14手目で14.Rb3と指す手は黒に14.… Qa5と指された後c7に黒のクイーンが逃げてしまうのでつまらない手[15]

黒の14手目で14.… Nxc6と指す手は白に15.0-0と指され白のfファイルからの攻撃が速くなる為黒があまり良くない[16]

白の15手目は16.Rb3と指し黒がクイーンを逃げた後17.Nxd6+と指す狙いを持った手[17]

黒の15手目で15.… Be7と指すと16.Bxe7 Kxe7 17.Qg5+と進行し白の必勝形[17]

白の16手目は17.Bh5+と17.Qf4という2つの狙いを持った手[17]

黒の16手目で16.… de??とナイトを取ると白に17.Qd8#と指されチェックメイト[18]

白の17手目で17.Qf4?と指すと黒に17.… Qxe4と指されナイトを損する[19]

黒の17手目で17.… Ng6?と指すと白に18.Qf4!或いは18.Bxg6+と指される[19]。白に18.Qf4!と指されると18.… Qxe4 19.Qf7#と進行しチェックメイト[19]。18.Bxg6+と指されても18.… hg 19.Qf4と進行し白にはチェックメイトと20.Nf6+或いは20.Nd6+と指してa4のクイーンを取る2つの狙いが残る[19]。また17.… g6?と指すと白に18.Nf6+と指された後19.Nxd5+と指され黒の守りは崩壊する[19]

白に18.Rxf8!!と指され黒のフデレラは投了した[19]。黒がこの後18.… Rxf8と指しても白に19.Nc5+と指されクイーンを取られてしまう[19]。18.… Qxe4と指しても白に19.Rxh8とルークを取られてしまう[19]。また18.… Kc7と指しても19.Rxh8とルークを取られるか19.Bd8+ Kd7 20.Nc5+と進行しクイーンを取られてしまう[20]

参考文献[編集]

脚注・出典[編集]

  1. ^ a b c d e 『やさしい実戦集』、69頁。
  2. ^ 『定跡と戦い方』、100、104-105頁。
  3. ^ 『やさしい実戦集』、67-69頁。
  4. ^ a b c d e f g h i 『やさしい実戦集』、70頁。
  5. ^ a b c d 『定跡と戦い方』、105頁。
  6. ^ 『やさしい実戦集』、68頁。
  7. ^ a b c 『やさしい実戦集』、68-69頁。
  8. ^ シシリアン・ディフェンスにおいて黒が5手目で5.… a6と指した型。初手からの手順は1.e4 c5 2.Nf3 d6 3.d4 cd 4.Nxd4 Nf6 5.Nc3 a6である。
  9. ^ 『定跡と戦い方』、104-105頁。
  10. ^ 『やさしい実戦集』、69-74頁。
  11. ^ 『やさしい実戦集』、67-74頁。
  12. ^ a b 『やさしい実戦集』、69、75頁。
  13. ^ 『やさしい実戦集』、70-71頁。
  14. ^ a b c d e 『やさしい実戦集』、71頁。
  15. ^ a b c 『やさしい実戦集』、72頁。
  16. ^ 『やさしい実戦集』、72-73頁。
  17. ^ a b c 『やさしい実戦集』、73頁。
  18. ^ 『やさしい実戦集』、73-74頁。
  19. ^ a b c d e f g h 『やさしい実戦集』、74頁。
  20. ^ 『やさしい実戦集』、75頁。
  21. ^ ISBNコードは新装版のもの。