ヘルマン・ゲッツ

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ドイツの政治家 Hermann Götz (1914-1987) は別人

ヘルマン・グスタフ・ゲッツHermann Gustav Goetz, 1840年12月7日 ケーニヒスベルク - 1876年12月3日 チューリッヒ近郊ホッティンゲン)は、ドイツ人作曲家ベルリンに学んだ後、1863年スイスに転居。音楽評論家ピアニスト指揮者としての活躍に加えて、創作活動を行なった。

生涯[編集]

ヘルマン・ゲッツ

商人の子に生まれ、早くから音楽に親しむ環境に育つが、本格的なピアノの教育を受けたのは1857年になってからだった。しかし、作曲はそれより数年前から始めていた。1850年代の終わりになって数学で学位を取得するため準備に入るが、それを中座してベルリンのシュテルン音楽院に進学し、ピアノをハンス・フォン・ビューローに師事。1862年に無事卒業することができた。翌年、カール・ライネッケの助力のおかげでヴィンタートゥール市のオルガニストに採用され、その地でピアノ教師としても活動を始め、作曲家としても名を揚げるようになる。1868年に結婚してホッティンゲン(現在はチューリッヒ郊外)の集落に移るが、1872年までヴィンタートゥールに雇われていた。1870年から1874年まで音楽雑誌に批評を寄稿した。

1850年代から持病の結核に悩まされていたが、最晩年にはその悪化により教壇や演奏活動から引退し、ついには結核のために夭折した。

作品と音楽様式[編集]

ゲッツは、交響曲と単一楽章のヴァイオリン協奏曲、2つのピアノ協奏曲、たくさんのピアノ曲、ピアノを含んだいくつかの室内楽曲を遺した。シェイクスピア原作のオペラじゃじゃ馬ならし》のほか、ダンテの原作によるオペラ《フランチェスカ・ダ・リミニ》の作曲を進めていたが、誕生日を目前にした急死により、その遺稿はスイスの作曲家エルンスト・フランクの手により完成された。

ゲッツはメンデルスゾーンシューマンの流れを汲む穏健なロマン主義の作曲家であった。ブラームスビューローと親しく、その支持を受けた。当時は、フランツ・リストリヒャルト・ワーグナーらの新ドイツ楽派が優勢であったが、ブラームス同様にウィーン古典派の伝統に心酔し、伝統的な音楽観のもとに作曲活動を続けたため、これ見よがしの効果をほぼ完全に避け、作曲技法の習熟を創作の特徴とした。ゲッツ作品は、抒情性と明晰さが際立っている。

グスタフ・マーラーが作品の数々を指揮したとはいえ、永年にわたってゲッツの名は忘れられてきた。その重要性が見直されるようになったのは、1990年代になってからのことである。ゲッツは決して新音楽の急先鋒ではなく、むしろ作曲技法を完全に操作できる作曲家であった。その作品は高水準を保っており、ゲッツを過小評価することが正しくないことを裏付けている。

主要作品一覧[編集]

音楽・音声外部リンク
ヘルマン・ゲッツの作品を試聴
ピアノ五重奏曲ハ短調作品16
武内麻美(Vn)、佐本博子(Va)、石原まり(Vc)、伊藤珠里(Cb)、越智可奈子(P)による演奏。当該チェロ奏者自身の公式YouTube。
ピアノ三重奏曲ト短調作品1
フォンテーヌ三重奏団による演奏。YouTubeアートトラック公式収集による。
演奏会用序曲「春」作品15
歌劇『じゃじゃ馬馴らし』序曲
(未完)歌劇『フランチェスコ・ダ・リミニ』序曲
交響曲ヘ長調作品9
ピアノ協奏曲第1番変ホ長調(◆)Ⅱ→Ⅲ
ピアノ協奏曲第2番変ロ長調作品18(◆)Ⅲ→Ⅳ
ヴァイオリン協奏曲ト長調作品22(◇)
フォルカー・バンフィールド(P…◆のみ)、ゴットフリート・シュナイダー(Vn…◇のみ)、ヴェルナー・アンドレアス・アルベルト指揮ハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団による演奏。YouTubeアートトラック公式収集による。
  • 管弦楽曲
    • 交響曲 ホ短調 Symphonie e-moll (1866年、断片のみ伝承)
    • 交響曲 ヘ長調 作品9 Symphonie F-Dur (1873年)
    • 演奏会用序曲《春》作品15 "Frühlingsouvertüre" (1864年)
    • ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調 Klavierkonzert Nr.1 Es-Dur (1861年、作品番号なし)
    • ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品18 Klavierkonzert Nr.2 B-Dur (1867年)
    • ヴァイオリン協奏曲 ト長調 作品22 Violinkonzert G-Dur (1868年)
  • 歌劇
    • じゃじゃ馬馴らし "Der Widerspenstigen Zähmung", (1868-73年)
    • 未完オペラ《フランチェスコ・ダ・リミニ》 "Francesca da Rimini" (1875/76年)
  • 声楽作品
    • 合唱とソプラノ・管弦楽のための《詩篇 第137番》作品14 "Der 137ste Psalm" (1864年)
    • フリードリヒ・シラーの詩による《哀哭の歌 "Nänie" 》作品10 (1874年)
    • 歌曲
    • 合唱曲
  • 室内楽曲
    • ピアノ三重奏曲 ト短調 作品1 Klaviertrio g-moll (1863年)
    • ヴァイオリンとピアノのための《三つの易しい小品》 "Drei leichte Stücke" für Violine und Klavier (1863年)
    • 弦楽四重奏曲 変ロ長調 Streichquartett B-Dur (1865/66年、作品番号なし)
    • ピアノ四重奏曲 ホ長調 作品6 Klavierquartett E-Dur (1867年)
    • ピアノ五重奏曲 ハ短調 作品16 Klavierquintett c-moll (1874年)
  • ピアノ曲
    • 2つのソナチネ(第1番ヘ長調、第2番 変ホ長調) 作品8 Zwei Sonatinen (1871年)
    • "Lose Blätter" op.7 (1864-69)
    • 風俗画 作品13 "Genrebilder" (1870-76)
    • 4手のためのピアノ・ソナタ ニ長調 Sonate für Klavier zu 4 Hdn. D-Dur (1855年ごろ)
    • 4手のためのピアノ・ソナタ ト短調 作品17 Sonate für Klavier zu 4 Hdn. g-moll (1865年)

参考文献[編集]

  • Eduard Kreuzhage, Hermann Goetz: Sein Leben und seine Werke, Leipzig 1916

外部リンク[編集]