アクロレイン

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アクロレイン
アクロレイン
識別情報
CAS登録番号 107-02-8
KEGG C01471
特性
化学式 C3H4O
モル質量 56.06
示性式 CH2=CHCHO
外観 無色または淡黄色液体
密度 0.8389 (20 ℃)
融点

−87 °C, 186 K, -125 °F

沸点

53 °C, 326 K, 127 °F

屈折率 (nD) 1.4022 (19 ℃)
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

アクロレイン (acrolein) はアルデヒドの一種で、不飽和アルデヒドの中で最も単純なもの。IUPAC命名法では 2-プロペナール (2-propenal) と表されるほか、アクリルアルデヒド (acrylic aldehyde) 、プロペンアルデヒド (propenaldehyde) とも呼ばれる。分子量は 56.07 である。

性質[編集]

融点 −87 ℃、沸点 53 ℃ で、刺激臭を持つ無色から黄色の液体である。空気中では酸化されやすいため、酸化防止剤としてポリフェノールが添加される[1]。非常に反応性に富む物質なので、安定剤を加え、空気を遮断して貯蔵する。 20℃の水への溶解度は20g/100mlである。

毒性[編集]

ラットによる経口毒性LD50が82mg/kg、ウサギによる経皮毒性LD50が250mg/kgと、毒性が強い他、可燃性も強く、取り扱いには十分注意する必要がある。日本では毒物及び劇物取締法の関連法令である毒物及び劇物取締法施行令(別表第二)により原体が劇物[2][3]消防法により第1石油類に指定されている[3]。また重合を起こしやすいため、市販の物には重合停止剤としてヒドロキノンが含まれていることが多い[4]。純粋なものが必要なときには、蒸留などで精製してすぐ用いるべきである。

食用油を使って揚げ物等の調理作業を長時間行ったために気分が悪くなる現象を「油酔い」と呼ぶ。「油酔い」は加熱分解された油脂から発生するアクロレインが引き起こすものとされている[5]2013年に、東京工科大学築野食品工業株式会社の研究チームにより、アクロレインの生成において、油脂中に含まれるリノレン酸が大きく関係していることが発見された[6]。この研究により、油脂中のリノレン酸が空気中の酸素により酸化されヒドロペルオキシドが発生、そのヒドロペルオキシドが高温下で酸化され分解し、アクロレインが発生することが判明した[6]。なお、これまではアクロレインの発生にはグリセリンが関係していると考えられていた[6]

また、ガソリンエンジンディーゼルエンジン及びタバコ不完全燃焼でも発生し、自動車・船舶等からの排出量は年間1,765トン(製品評価技術基盤機構 2005年調べ)、タバコから年間97トン排出されている。(環境省 2004年調べ[7])なお、タバコ1本あたりからの発生量は主流煙で9.93~116μg、副流煙で288〜348μgと分析されている。(厚生労働省 2002年調べ[8]

合成と反応[編集]

グリセリン硫酸水素カリウムなどの脱水剤を用いて脱水すると生成する[9]。 工業的には、グリセリンの高温の蒸気を硫酸マグネシウムに通じてアクロレインを得る。

還元するとプロピオンアルデヒドを経てプロパノールを生成する[1]

用途[編集]

主にメチオニングルタルアルデヒドピリジンの合成原料として用いられる。他に冷凍機探知剤、アルコール変性剤、殺菌剤などにも用いられる。

出典[編集]

  1. ^ a b 水野慶行 著、化学大辞典編集委員会(編) 編『化学大辞典』 1巻(縮刷版第26版)、共立、1981年10月、46頁頁。 
  2. ^ 毒物及び劇物取締法施行令(昭和三十年政令第二百六十一号)別表第二”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局 (2019年6月28日). 2020年2月1日閲覧。 “令和元年政令第四十四号改正、2019年7月1日施行分”
  3. ^ a b 製品安全データシート アクロレイン”. 職場のあんぜんサイト. 厚生労働省 (2006年4月9日). 2020年2月1日閲覧。 “「適用法令 毒物及び劇物取締法: 劇物(法第2条別表第2)」「適用法令 消防法: 第4類引火性液体、第一石油類非水溶性液体(法第2条第7項危険物別表第1)」”
  4. ^ 製品評価技術基盤機構 (2006) 1頁。
  5. ^ 福田靖子、新井映子、熊澤茂則、内田浩二. “油のフライ加熱時に生じる有害な油酔い成分の解明とその生成防止”. 科学研究費補助金データベース. 2012年2月28日閲覧。
  6. ^ a b c 東京工科大学. “加熱調理中に気分が悪くなる「油酔い」の発生メカニズムを解明。飲食店など調理現場の環境改善に期待 2013年のプレスリリース プレスリリース 東京工科大学”. 2013年6月27日閲覧。
  7. ^ 製品評価技術基盤機構 (2006) 4頁。
  8. ^ 製品評価技術基盤機構 (2006) 10-11頁。
  9. ^ Adkins, H.; Hartung, W. H. Org. Synth., Coll. Vol. 1, p.15 (1941); Vol. 6, p.1 (1926). オンライン版

参考文献[編集]