ブローバック

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ブローバック方式とは、弾薬の発火時に発生する高圧の燃焼ガスを動力源とする自動装填火器に使用される自動装填および閉鎖機構の総称であり、固定されたシリンダー(銃身)内で2つのピストン(弾頭・薬莢)が前後するシンプルな構造となっており、自動拳銃短機関銃に広く用いられている。

ブローバック方式に連なる全ての自動装填火器 [1] では、遊底の重量(ボルト・スライド)の重量とスプリングの張力によって薬室を閉鎖し、発射後に反作用方向へ働く力を利用して遊底を後退させて自動装填を行わせており、ブローバック方式では、銃身をシリンダーとし、弾頭を作用方向のピストン、遊底(ボルト・スライド)を反作用方向のピストンとする構造(固定単シリンダー+前後2ピストン構造)となっている点が特徴である。

固定単シリンダー+前後2ピストン構造のブローバック方式
遊動単シリンダー+前後2ピストン構造のブローフォワード方式

単純な構造ゆえに製造コストを重視する短機関銃に多く用いられたが、サイズと重量に制限のある拳銃で強力な弾薬を使用するには安全面で問題があり、ショート・リコイル方式や各種の遅動ブローバック方式(後述)など各種の閉鎖機構が派生した。

また、作用・反作用の関係性を変更して、銃身を前後動させる事で遊底を省略したブローフォワード方式と呼ばれる自動装填・閉鎖機構も派生したが、構造上の問題点が多く、Steyr Mannlicher M1894Schwarzlose Model 1908日野式自動拳銃など少数の製品が製造されたのみで、SIG AK53ガス遅延式) が試作されたのを最後に、現代では絶滅した方式となっている [2]

目次

[編集] シンプル・ブローバック方式

[編集] メカニズム

ブローバック方式は、銃身をシリンダーとし、弾頭を作用方向のピストン、遊底(ボルト・スライド)を反作用方向のピストンとする構造(固定単シリンダー+前後2ピストン構造)となっており、発射後のサイクルは下記のように推移する。

シンプル・ブローバックの動作
  1. 図中Ⅰ 遊底とスプリングによって支えられた薬莢が、銃身の後端(薬室)を閉鎖されている。銃砲の使用目的から、弾頭が銃口に向けて前進する力を“作用”方向とし、薬莢底部を介して遊底を後退させる力は“反作用”方向となり、発射後のプロセスは下記のように推移する。
  2. 図中Ⅱ 薬莢内の発射薬が燃焼して大量の燃焼ガスが発生し、周囲に膨張しようとする圧力が発生する。銃身(薬室)は容易に膨張しない素材で作られているため、より柔軟な素材で造られている薬莢の側面は、伸展して銃身(薬室)内部に密着してガス漏れを防ぐ。同時に、圧力を受けた弾頭と薬莢は、作用/前進と反作用/後退方向へそれぞれ動き始める。
  3. 図中Ⅲ 弾頭よりはるかに重い遊底の重量とスプリングの張力による抵抗で、薬莢が後退する速度は抑制されている。一方で、遊底よりも軽量で抵抗の少ない経路を進む弾頭は、加速されながら高速で前進する。
  4. 図中Ⅳ 銃口から弾頭が飛び出した時点で、それまで作用方向・反作用方向の力を生じさせていた燃焼ガスの密閉は失われて消滅し、銃身内の圧力は急速に低下する。薬莢側面の密着は圧力による支持を失い、素材の持つ弾性で若干収縮する。反作用方向に後退する薬莢と遊底は既に慣性を得ているため、そのまま後退を続ける。
  5. 図中Ⅴ やがて薬莢は銃身後端(薬室)から完全に離脱する。

離脱した薬莢は廃莢機構(エジェクター・エキストラクター)によって外部に排出され、終止部で停止した遊底はスプリングの反発を受けて逆向きの銃口方向へ前進し始め、次弾を薬室に送り込みながら閉鎖位置で停止する。

[編集] 問題点

薬莢の構造
一般的なセンターファイア式薬莢は薄い側面部と分厚い基部を持つ構造となっており、自動装填式火器の大部分はこの構造に従ってデザインされている。
シンプル・ブローバック方式では銃身内部が高圧の状態で薬莢が後退を開始するため、その後退速度が速すぎると、脆弱な薬莢側面が露出し、ガス圧で破けて銃が破壊されたり、射手が重症を負う危険性がある。
ガスの噴出事故を防ぐには、遊底の後退速度を充分に抑制する必要があるが、より安全とされるショートリコイル方式でも、薬莢基部の薄い弾薬に過剰薬量が充填されていた場合などに、遊底のロック時間が短くなり過ぎて同様の事故が発生するため、ブローバックに連なる方式では原理的に根絶できない事故である。
また、シンプル・ブローバック方式では発射直後から遊底の後退が始まるため、高圧の弾薬では薬莢側筒部が薬室内壁に張り付いたまま、薬莢基部だけが後方に引っ張られる事で、薬莢が千切れて高圧ガスが噴出する事故が発生する。
これを防ぐために、高圧な弾薬を利用する遅動ブローバック方式の多くでは、薬室内壁に“フルート”と呼ばれる溝を掘り、発射ガスの一部をここに導いて薬莢側筒部の張り付きを防ぐ工夫が施されている。
遊底とスプリング
シンプル・ブローバック方式では、弾頭が銃口から飛び出すまでの時間と、遊底が薬莢基部を超えて後退するまでの時間を重量の遊底とスプリングの張力で調整する必要があり、高い圧力を発生させる弾薬であれば、それに見合った重量の遊底とスプリングの張力が必要になる。
しかし、人間が片手で保持し、手で遊底を引いて使用する拳銃では、重量やサイズにデザイン上の制約があるため、強力な弾薬をシンプル・ブローバック方式で安全に作動させる事は難しくなる。
一方で、拳銃よりもサイズ・重量の自由度が高い短機関銃では、比較的強力な弾薬をシンプル・ブローバック方式で使用しても、安全に作動させる事ができるだけの重量のボルトと強いスプリングが使用できるため、安価で堅牢な構造を実現できるシンプル・ブローバック方式が広く利用されている。
限界点
一般的なサイズの拳銃では、9mmパラベラム弾がシンプル・ブローバック方式では対応できない限界点として認識されている。
同弾を使用しながらシンプル・ブローバック方式で作動する拳銃は、Walther Model 6やAstra M400といった少数のモデルしか製造されていない。
このため、旧ソ連が開発したマカロフPM/PMMスチェッキンAPSなどに使用される9mmx18マカロフ弾(真鍮より高強度な軟鋼薬莢を使用している)がシンプル・ブローバック方式の拳銃で使用できる最も強力な弾薬として認識されている。

[編集] 各種の改良型ブローバック方式

シンプル・ブローバック方式の限界を超えて小型・軽量の拳銃で強力な弾薬を安全に利用するために、遊底の後退速度を強制的に遅らせる各種の方式が考案され、銃身と遊底を強制的に一定時間ロックした後に開放するショートリコイル方式、ロング・リコイル方式慣性方式、様々な方法で遊底の後退を遅らせる遅動ブローバック方式などが派生している。

各方式には一長一短があり、シンプル・ブローバック方式よりも製造コストが高くなり、構造が複雑になれば作動不良を招き易くなるなど、デメリットも多いが、現在ではショート・リコイル方式の改良ブローニング式が9mmパラベラム弾以上の弾薬を使用する拳銃の標準的な作動方式となっている。

ショートリコイル方式であれ、遅動ブローバック方式であれ、ブローバック方式の系統に連なる方式は、ガス圧作動方式のように薬室後端を確実にロックするものではないため、強装弾を使用したり、銃身内で弾頭が止まってしまった場合などには、想定より高い圧力状態のまま薬室が開放され、銃が破壊されたり射手が重傷を負う危険性がある。

[編集] ショート・リコイル方式

ショート・リコイル方式は、発射直後の銃身と遊底をロックして、ブローバックによる薬室の開放を、一定の時間だけ強制的に遅延させる方式の総称である。強力な弾薬を用いる大型自動拳銃機関銃の作動機構として広く利用されている。

詳細は「ショートリコイル」、「en:Recoil operation」をそれぞれ参照

[編集] 遅動ブローバック方式

遅動ブローバック方式は、様々な方法で薬室の開放を遅らせる方式の総称である。商業的に成功したものの代表はH&K社の製品に採用されたローラー遅延式だが、それ以外にも各種の方式が存在している。

詳細は「en:Blowback_(arms)#Delayed_blowback」を参照

[編集] ローラー遅延式

採用例: 省力型MG42試作品, StG 45(M), SIG SG 510, CETME,
G3, MP5, P9sなど多数のH&K社製品

ローラー遅延式は、第二次大戦中にショート・リコイル方式ローラー・ロック機構を持つMG42を開発する過程で、ローラーが意図せずにボルトのロックが解除されてしまうという現象が偶然発見された事から派生した遅延機構であり、Ludwig Vorgrimler博士を中心とするモーゼル社の技術者グループにより省力型MG42の閉鎖機構として実用化が進められた。

終戦間際にモーゼル社がStG 45(M)の閉鎖機構としてローラー遅延式を採用したが、ドイツの降伏によって生産は少数に止まり、戦後になってモーゼル社の技術はフランス・スイスへ流出し、SIG SG 510がこれを採用したほか、Vorgrimler博士がフランス軍に協力した事でローラー遅延式を採用した各種の小火器と短小弾がフランス本国で試作されたが、フランスの財政難とNATO参加によって、これらの開発計画はキャンセルされ陽の目を見る事はなかった。 [3]

その後、Vorgrimler博士は第三帝国と関係の深かったフランコ政権下のスペインへ招かれ、ここで製造したCETME小銃にローラー遅延式を採用し、これに強い興味を抱いた西ドイツ国境警備隊の依頼で7.62mm NATO弾化された製品が開発され、ドイツ連邦軍もこれをG3として採用し、モーゼル社の技術者達によって創立されたH&K社がその生産を担い、G3から派生した現代型短機関銃であるMP5などの幅広い製品を製造した同社は飛躍的成長を遂げた。

現代型短機関銃として圧倒的なシェアを有するH&K MP5
G3系ローラー遅延機構の断面
H&K MP5のローラー遅延機構: 開放時(上)・閉鎖時(下)のボルト・ヘッド(緑)・ローラー(青)・ロッキング・ピース(橙)の状態を示す

G3系統のローラー遅延式のボルト・グループは、ボルト・ヘッドの後端に接する位置で左右に取り付けられた2個のローラーが、リコイル・スプリングに押されて前進したロッキング・ピース先端の傾斜に押し出れて、銃身グループ後端に彫られた溝に嵌合する構造となっている。

発射時の圧力を受けたボルトは後退しようとするが、左右に張り出したローラーによって阻まれている。 しかし、ローラーが張り出した部分は直径の1/3程度しかないため、ローラーは内側に向けて転がろうとするが、ロッキング・ピース先端の傾斜面に当たって転がる事ができない。

ボルトは尚も後退しようとローラーを圧迫するため、逃げ場を求めたローラーは、ロッキング・ピースの傾斜面を転がる事で同部品を後方へ押し戻しはじめ、傾斜面を転がりきった時点でローラーは完全に内側に引っ込み、ボルトは自由に後退できるようになる。

この間に弾頭は銃口から飛び出して銃身内の圧力は急激に下がっており、ローラーによる後退で慣性を得たロッキング・ピースは継続して後退し、ボルト・グループ全体を後方へ引っ張りながら後退して行く仕組みとなっている。

参照: MP5ボルト・グループの各部詳細

ローラー遅延式は非常に強力な遅延(事実上のロック状態である)を実現できる点と、ロッキング・ピース先端の傾斜面角度を変更するだけで幅広い種類の弾薬に適合できる柔軟性を持つ優れた構造であるが、同方式を採用した製品の供給はH&K社がほぼ独占し、G3を基にした機構が主流であるため、デザイン上のバリエーションは非常に少ない。

また、ローラー遅延式のボルトは非常に強い力でロックされるため、これを直接人力で引いても到底解除できない。このためボルトを後退させるためのハンドル部は、ロッキング・ピースと一体化したボルトキャリア側に力を加える構造となっているため、通常の力で後退させる事ができる。

[編集] レバー遅延式

FAMASのレバー遅延式ブローバック概念図
遅延状態(上)と自由後退状態(下)の比較: 作用点(青)・力点(赤)・支点(緑)の第3種てこが構成されている

採用例: FAMAS, AA-52機銃, Benelli B76, Hogue Avenger

レバー遅延式は梃子の原理を利用して、遊底の後退に大きな力が必要となるよう構成した遅動方式である。

遊底が閉鎖位置にある時に、作用点=リコイル・スプリング、力点=遊底、支点=レシーバとなるよう、梃子の役割を果たすレバー状の部品で連結・配置する事で、遊底が後退するためには、より大きな力でリコイル・スプリングを圧縮する事が必要となり、発射直後の遊底が後退するスピードが遅延させられる。

弾頭が銃身から飛び出して腔圧が低下するまでの時間(=梃子が有効に働いている距離)、遊底はゆっくりと後退させられるが、規定の距離以上に遊底が後退すると、梃子の役割を果たすレバーはレシーバの支持を失って梃子の構成は失われ、慣性を得ていた遊底は高速で後退する。

また、人力でボルトを後退させるためのハンドル部は、作用点=リコイル・スプリング側に力を加える構造となっているため、通常の力で後退させる事ができる。

[編集] ガス遅延式

採用例: Volkssturmgewehr 1-5, Steyer GB, H&K P7

ガス遅延式は第二次大戦末期に製造されたVolksgewehr 1-5(国民銃と呼ばれた省力型決戦用兵器)に採用された遅動方式である。

Volksgewehr1-5のデザインはSteyr GBにほぼ踏襲され、銃身をガス・ピストンとし、その前半をスライドと連動したガス・シリンダーで覆う構造となっている。

銃身の中ほどにはガス導入孔が2箇所空けられていて、銃が発射されて弾丸がこの部分を通過すると、ガス・シリンダー内に高圧の発射ガスが流れ込み、スライドの後退が強力に阻害される。

Steyr GBの構造では必然的にスライドのサイズが大きくなるため、中型拳銃サイズのH&K P7ではガス導入孔の位置を薬室直前に移して、銃身とは別パーツのガス・ピストンを用いている。

H&K P7の銃身下部には銃身と並行したシリンダーがあり、スライドに取り付けられたガスピストンがこのシリンダーに入る。また、このシリンダー内部は銃身の薬室部直近に空けられたガス導入孔と繋がっている。

銃が発射されると同時に、発射ガスの一部が導入孔を通じて流れ込み、スライドと共に後退しようとするガスピストンを銃口方向へ押し返す力を与えて、スライドの後退を強力に阻害する。

GBとP7のどちらの構造であっても、弾頭が銃口から飛び出して発射ガスの圧力が下がると、スライドの後退を遅らせていたガスピストンへの力も弱まるため、反動によって慣性を与えられたスライドは速やかに後退し、排莢を行い、さらにリコイルスプリング弾力により前進、次弾を薬室に送り込む。

ガス遅延式では、銃身内が高圧状態となった発射直後のみスライドの後退を遅延させ、圧力が低下したと同時に遅延が解除されるという力の適材適所を実現しており、安全であると同時に、遅延させる力の強弱は弾薬の腔圧と比例する関係にあるため、幅広い腔圧の弾薬に柔軟に対応できる方式である。

また、ブローフォワード方式を採用する最後の火器となったSIG AK53は、Volkssturmgewehr 1-5に似たガス・シリンダーを用いて、銃身の前進を発射ガスで遅延させる構造となっていた。

[編集] 薬室リング遅延式

採用例: Seecamp製品, HK4, マカロフPMM

薬室先端の内径を後端より大きめにテーパー加工(通常の薬室とは逆方向にテーパーを付ける)し、発射時の圧力で薬室内壁に張り付かせた際に、薬莢の後退に大きな抵抗を与える事で後退速度を遅延させる方式。

薬室にテーパーを付けるほかに、薬室内にフルート(溝)を彫り、発射時の圧力で薬莢側面が溝に喰い込むように変形させる方式も存在する。この場合のフルートは、他の遅動ブローバック式で用いられる、薬莢が張り付き難くする役目とは、反対の目的で用いられている。

あまり高圧な弾薬では薬莢側面の脆弱な部分が千切れる可能性があり、低圧・寸胴な形状の薬莢である.380ACP弾.32ACP弾にしか適用できないが、低コストで実現できる遅動方式である。

また、薬莢の素材に真鍮より強度のある軟鋼を用いる伝統のあるソ連・ロシアでは、9mmパラベラム弾並みの強装とした9x18mmマカロフ弾を使用できるように、薬室内に螺旋状の溝が掘られたマカロフPM近代化改修モデル(PMM)が製造されている。

同モデルを9mmパラベラム弾用とした製品も存在するが、一時期米国への輸入が図られた際に真鍮薬莢の9mmパラベラム弾を装填して発射したところ、真鍮薬莢は圧力に耐えられずに千切れてしまった、と伝えられている。

[編集] ヘジテーション・ロック式

ライフル・弾薬メーカーとして有名なRemington社が販売した唯一の自動拳銃であるRemington 51

採用例: Remington 51

本方式を採用したRemington 51では、遊底の一部であるブリーチ部(薬莢底部を支え薬室を閉鎖する)が独立した構造となっている。

ブリーチ部は後方がカーブした断面となっており、このカーブは遊底内部と嵌合していると同時に、ブリーチ部の下部は下方に突起している。

発射直後の遊底はブリーチ部に押されて一緒に後退するが、2mmほど後退したところでブリーチ部の下部にある突起がレシーバとぶつかり、いったんストップ(ロック)させられる。

この2mmだけの後退は、薬室から薬莢が2mmだけ飛び出す事を意味するが、薬莢基部の厚さ以内であるため、薬莢側面は薬室に支持されたままの状態でロックされているため、薬莢が破けてしまう危険は発生しない。

ブリーチ部に押されて2mmほど移動した事で、慣性を得た遊底はブリーチ部を置き去りにしてさらに5mmほど後退する。

遊底とブリーチ部の嵌合に隙間が生じた事で、ブリーチ部後部は上にせり上がる事が出来るようになり、レシーバとぶつかっていた突起部分も上にせり上がって、ブリーチ部はレシーバによるロックから解放されて後退する。

丁度、SKSMP43のティルティング・ボルト閉鎖機構の動作に似ているが、ブリーチ部と遊底を一緒に後退させて、遊底に慣性を与える発想が独特である。

実際に製品化されたRemington 51はピダーセンにより設計され、良好な作動とマイルドな反動で知られている。 Remington社はRemington 51が民間市場で好評を得た事を受け、同じ作動方式で.45ACP弾を使用するRemington 53の試作品をM1911にかわる制式拳銃候補として軍に提出する事を表明した。

Remington 53は軽量で命中精度も優れ、遅動ブローバックのおかげで反動の制御も楽だった。一方のM1911は第一次大戦への実戦参加でその欠点が露呈していたため制式拳銃としての地位が脅かされたが、軍がM1911の大量製造をRemington社に発注する見返りに、同社はRemington 53の提出を取り止める、という不明瞭な取引が行われた。その後の米軍は、更新期を迎えたM1911に替えて改良型のM1911A1を発注し、Remington 53が陽の目を見る事は無かった。

[編集] 銃身遊動遅延式

採用例: Savage 1907, MAB PA-15, FN Five-seven

銃身にロッキング・ラグなどを設けて、カム溝などで遊底内側と嵌合する構造とし、弾頭が銃身を通過する際に内部で生じる力(ライフル回転の反作用や弾頭通過の反作用)を使って遊底の後退を遅らせる方式である。

これらの反作用は銃の反動に比べて極めて微力であるが、遊底と嵌合するカム溝の角度や作用する方向を急角度とする事で、銃身内の圧力が安全なレベルに低下するまで、遊底の後退を遅延させている。

また、銃身内部で力が生じていない限り、遊底は簡単に動かせるため、射手が手で操作するのも容易である。

ショートリコイル方式のロータリー・ロック機構と似た構造だが、こちらはロック機構を有し、その解除がショートリコイル特有の銃身・遊底が一体となっての後退によるものである点が異なっている。

上: MAB PA-15の遊底: 廃莢口から内部のカム溝が見える

中: 銃身: 薬室部の突起がカム溝と嵌合する

下: 遊底内カム溝の導入部には急角度が付けられている

Savage 1907MAB PA-15では、ライフリングと同方向に傾斜したカム溝が遊底内部に彫られ、これが銃身の突起部と嵌合しており、遊底の前後動に合わせて銃身は回転する構造となっている。

弾頭が発射されると、ライフリング(例として右向きのピッチ)と噛み合いながら進む事で弾頭に回転(右)が与えられるが、この反作用として銃身は自ら反対方向へ回転(左)しようとする。

発射時の反作用を受けた遊底は銃身を回転(右)させながら後退しようとするが、銃身はこれに反して回転(左)しようとするため、カム溝を介して遊底の後退が阻害され、遊底は容易に後退できない状態となる。

銃口から弾頭が飛び出すと同時に銃身自らが回転(左)しようとする力は消え、遊底は銃身を回転(右)させながら後退する。

後発のFN Five-sevenでは、弾頭が銃身と摩擦しながら前進する際に生じる摩擦(抜弾抵抗)によって、銃身が前方に引っ張られる力を利用している点が異なるが、銃身が前進しようとしている状態では、遊底の後退が阻害される構造となっている点で同じである。

銃身遊動遅延式では、銃身内部から力が発生している間は、遊底がほぼロック状態となり、ほとんど後退できないため、遊底が得られる慣性は非常に小さい。このため遊底も軽量でスプリング張力も弱くなっている。

[編集] ブリッシュ・ロック式

初期型トンプソンSMGのボルト: 中央・金色の“H”字型部品が真鍮製のロッキング・ピース

採用例: M1型以前の初期型トンプソンSMG

ブリッシュ・ロック式は“Friction Delayed blowback”(摩擦遅延方式)とも呼ばれ、M1型以前の初期型トンプソンSMGに採用されていた遅動方式である。

ボルトの左右側面には傾斜した角度で溝が切られており、“H”字型のロッキング・ピース(真鍮製)がこの溝に嵌合する。ボルトが前進し切ると、レシーバ側の溝に嵌合してロッキング・ピースは上にせり上がってロックされる。この時、ボルトは直接ロックされていないため、ロッキング・ピースを傾斜に沿って上下させるために大きな力が必要になるものの、ゆっくりと後退出来る。

弾薬が発射されボルトが後退しようと動き始めると、ボルトの傾斜に従ってロッキング・ピースが下がり始めるが、ロッキング・ピースが完全に下がり切るまでボルトの後退は遅延させられているため、弾頭が銃口から飛び出して銃身内の圧力が低下するまでのタイミングを稼ぎ、ロッキング・ピースが下がりきってロックが解除されると、慣性を得ているボルトは高速で後退する。

この方式ではロッキング・ピースの上下に大きな摩擦がかかるため、この部分に常時オイルを滴らせるための仕組みも同時に考案されていたが、埃や砂が付着し易くなるため、実際に装着された例は少ない。 また、鋼に比べて真鍮は脆弱な素材であり、ロッキング・ピースは磨耗と破損から定期的に交換する必要のある消耗部品だった。

[編集] 握力遅延方式

Thomas .45acpの概観: グリップ後端のレバーを握り込むと、ブレーキ部品が持ち上がってスライド下部の切り欠き(赤丸で囲った部分)に嵌合する

採用例: Thomas.45acp

1978年に米国のA.J. Ordnance社から販売された、“Thomas .45ACP”に採用された遅延方式で、これ以外の製品例は無い。

グリップ後端のレバーを握りこむと、スライド下部の不等三角形状の切込み部分に嵌合するブレーキ部品が持ち上がり、スライドの後退は遅延させられるが、最終的にブレーキ部品を押し下げてスライドが後退する方式であり、急角度を利用する点でブリッシュ・ロック式などの摩擦遅延方式に連なるアイデアと言えるが、握力に依存した遅延である点が特異である。

握力を利用する事から一見原始的なアプローチにも見えるが、レバーを介したブレーキは梃子の原理を利用して強い制動力を生み出しており、構造も単純であるため信頼性は高く、低コストで実現できるユニークな方式であり、当時の小売価格は250米ドルだったとされるが、今日では珍品として2,000米ドル近い価格で取引されている。 [4]

“Thomas .45ACP”は、自衛用拳銃の基本設計コンセプトである“小型・軽量で安全に携帯でき、最低限の操作で近距離の標的に大威力の弾薬を確実に連射できる”という目標を、同時代に製造されていたVP70同様のDAO撃発機構と強力な.45ACP弾の採用で実現させた、当時としては画期的かつ稀有な製品だった。

1978年当時に存在した同クラスの製品は1911型拳銃を切り詰めて改造したデトニクス社Combat Masterしかなかった。 当時のCombat Masterは撃針安全器の無い1911型拳銃をベースに改造されていたため携帯時の安全性に問題があり、SA(シングル・アクション)自動拳銃であるため発射時の操作が“Thomas .45ACP”より1段階多くなる上に、粗悪な品質でも有名だった。

その後、品質改善に努めたデトニクスが一定の品質水準を達成して市場を確保し、コンシール・キャリー許可の一般化で人気を博したのに対して、“Thomas .45ACP”は独特な発射時の感触(遊底の後退時に押し戻されるレバーが親指の付け根に食い込む)が嫌われて早期に製造は中止され、その悪評のみを今日に残している。

[編集] 軸外ブローバック式

採用例: Jatimatic

弾薬を発射した際の反作用は、通常銃身の軸線延長上に伝達されるが、遊底を銃身の軸線に対して角度を付けて設置する事で、遊底の後退速度を遅くし、併せて反動を制御しようとする方式だが、実際に遅動効果が得られるのか不明であり、反動制御の試みとしての認識が強い。

[編集] 特殊ライフリング式

採用例: VP70

[編集] スクリュー遅延式

採用例: 1942年型カラシニコフ試作短機関銃

[編集] トグル遅延式

採用例: ピダーセン自動小銃(Pedersen rifle), 小倉陸軍造兵廠試製自動小銃・甲

[編集] 遊戯銃におけるブローバック

自動式拳銃を模した遊戯銃において、火薬や圧縮ガスの力で遊底が後退する機構を持つものはモデルガンエアソフトガンの一部のブローバックガスガンが主である。これらの遊戯銃では、スライドが後退する作動を“ブローバック”と一律に表記しており、モデルとした実銃がブローバック方式ではなくショートリコイル方式を採用していても“ブローバック”という用語を使用することが多く、混同の元となっている。

ショートリコイル式ブローバックという表記は日本の遊戯銃における独特のもの [5] で、英語ではブローバック方式と各種リコイル方式は大別された表現で記されるのが一般的なため、注意が必要である。

[編集] 脚注

  1. ^ 銃身内に収められた弾頭と薬莢底部の間で発生した高圧の燃焼ガスは、銃身を膨張させようと働くのと同時に、弾頭を銃口(作用方向)へ向けて加速し、薬莢を後方(反作用方向)に押す力として働く。
    内部動力を用いる自動装填火器は、いずれも弾薬の発火時に発生する高圧の燃焼ガスを動力源としており、各種のリコイル方式遅動ブローバック方式は、銃身内の弾頭と薬莢の間で急速に膨張する燃焼ガスを作用・反作用の力として直接利用して動作しており、ブローバック方式に連なる構造を有している。
    機関銃自動小銃に広く利用されているガス圧作動方式は、ブローバック方式の構造とは大きく異なり、銃身内の燃焼ガスを銃身とは別のガス・シリンダーへ導き、弾頭が銃身内で充分に前進したタイミングで新たに作用・反作用の力を発生させ、銃身やレシーバ(機関部)にロック機構で結合された遊底を、解除・後退させる“固定2シリンダー+前後2ピストン構造”が基本となっている。
  2. ^ 近年では、1990年に出願が認められた米国特許5123329号の例が存在する。
  3. ^ この時期にフランスに移転された遅動ブローバック技術の蓄積は、後にレバー遅延式FAMAS, AA-52機銃, の開発に活かされる事になる。
  4. ^ 参照スレッド
  5. ^ 実用性はともかくとしてショートリコイル式ブローフォワード式の構造も存在し得るため、“ショートリコイル式ブローバック”という表現でも間違いではない。

[編集] 関連項目

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