ブラックハット (映画)

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ブラックハット
Blackhat
監督 マイケル・マン
脚本 モーガン・デイビス・フォール
製作 マイケル・マン
トーマス・タル
ジョン・ジャシュニ
製作総指揮 アレックス・ガルシア
エリック・マクレオド
出演者 クリス・ヘムズワース
音楽 ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
アッティカス・ロス
撮影 スチュアート・ドライバーグ
編集 ジョー・ウォーカー
スティーヴン・E・リフキン
製作会社 レジェンダリー・ピクチャーズ
配給 アメリカ合衆国の旗 ユニバーサル・ピクチャーズ
日本の旗 東宝東和
公開 アメリカ合衆国の旗 2015年1月16日
日本の旗 2015年5月8日
上映時間 133分
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $70,000,000[1]
興行収入 $19,652,057[1]
2100万円[2] 日本の旗
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ブラックハット』(原題: Blackhat)は、2015年アメリカ映画

ストーリー[編集]

中国、香港で稼働していた原子力発電所が悪質なハッカー“ブラックハット”にハッキングを受け、冷却ポンプを破壊された結果、水蒸気爆発を起こし、メルトダウンこそ食い止めたが大きな損害を出してしまう。更に株の市場にもハッキングが行われ、大豆の暴沸が起きる。

中国政府は軍の情報部のチェン・ダーワイ大尉に事態の解決を依頼。ダーワイの調べでハッキングに使われていたコードがかつてダーワイがアメリカに留学していた際にルームメイトで親友であった天才ハッカーのニコラス・ハサウェイが過去に作成していたものであることを突き止める。米国の原発もハッキングを受けていたことが発覚し、米中の合同捜査が行われることになり、ダーワイは同じくプログラム技術に長ける妹のリエンを連れて米国に赴くが、そこでFBI側の能力不足を見たダーワイはハサウェイを捜査に加えることをFBIのバレット捜査官に申し出る。カード詐欺の常習犯となり、刑務所に十数年の刑で服役しているハサウェイはハッカーの逮捕に貢献できたら釈放することを条件に捜査協力を了承。共同でブラックハットの足取りを追っていく。

キャスト[編集]

※括弧内は日本語吹替

服役囚にして凄腕のハッカー。
中国人民解放軍の情報部大尉。
ダーワイの妹。中国のネットワーク・エンジニア。
香港警察の刑事。
サイバーテロ集団の幹部のレバノン人。元ファランヘ党の民兵。
サイバーテロ集団の首領であるハッカー“ブラックハット”。

製作[編集]

マイケル・マン監督は、エキゾチックなアジアの雰囲気と洗練されたコンピューターの世界を融合したサスペンスアクション映画を作りたいと考えていた。その彼に作品のインスピレーションを与えたのは「スタックスネット」(2010年にイラン核開発施設をサイバー攻撃したコンピューターワーム)に関する文献だった[3]

脚本家モーガン・デイヴィス・フォールを呼んで脚本を書き始めたが、その頃は「キリングフィールズ 疾走地帯」やHBOのテレビシリーズ "Luck"などの製作や脚本に携わっていたため、書き終えるのに3年半を要した[4]

脚本に取り掛かってから約4年後、本格的に製作が始まったが未だタイトルは決まっておらず「サイバー」という仮題が付けられた。


コンピューター関連の指導は、元ハッカーケビン・ポールセンとクリストファー・マッキンリー、FBIサイバーチーム出身のマイケル・パニコに依頼した。彼らはコンピューターを題材にした映画にありがちな大袈裟な演出を避けるよう努めた。

マイケル・マン監督は登場人物の裏設定を作り登場人物に深みを持たせることで知られるが、主人公ニコラス・ハサウェイには『シカゴのサウスサイド(犯罪多発地区で知られる)出身の鉄鋼労働者の息子』という設定が設けられた。この役作りのためクリス・ヘムズワースはシカゴで数日間を過ごし、言の専門家にシカゴ訛りを教わりながら、早朝4時にはUSスチールの工場に出勤して溶鉱炉の仕事を体験した[5]

またシカゴ近郊のステートヴィル刑務所英語版を訪問し、囚人たちが会話をするときの独特のリズム感や生活ぶりなどを習得した[6]。刑務所に入るとき長い髪を後ろで縛って帽子を被っていた。刑務所長は、囚人たちはきみの映画を未だ観ていないから帽子を取っても大丈夫だと言ったのだが、彼が監房に入った途端、「ソーが来た!ハンマーはどうした!」と一斉に野次が飛び交ったという[7]

また、ヘムズワース、ワン・リーホンタン・ウェイヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲンは、ケビン・ポールセンたちからハッカーが使っている専門用語、ハッキングの操作手順やプログラミングなどを学んだ。FBI捜査官役のヴィオラ・デイヴィスはワシントンD.C.に飛び、DEAの女性捜査官と行動を共にしながら捜査官の言葉使いや仕草、歩き方やコーヒーの飲み方まで見習った[5]

撮影[編集]

2013年5月に開始した撮影は、ロサンゼルス香港クアラルンプールジャカルタの4都市、計276ヶ所で行われた。

香港の油麻地では公園や商店街、石澳の民家(武装グループの隠れ家)、完成して間もない荃湾排水トンネルなどが使われた。荃湾排水トンネルの排水口ではすぐ隣の法面にコンテナヤードのセットを作り銃撃戦を撮影した[8]

ハサウェイとリエンが武装グループに襲撃されるシーンは、香港島のコンノード通りに面する恒生銀行(ハンセン銀行)の前で5晩に渡って行われた。ただし車の爆破は許可が下りなかったためインドネシアで撮影し、マレーシアの特殊効果専門会社の”Archipelago Special Effects”がデジタル合成した[9]

マン監督は場所を提供してくれた恒生銀行に感謝の意を込めて、この銀行名義で香港コミュニティチェスト(香港の慈善団体)に30万香港ドルを寄付した[10]

”ゴーストマン”がインターネットを通じてサダックと会話する韓国料理店は香港ではなく、ロサンゼルスのW6th Streetにある韓国料理店”Hamjibak Ddal”である。

クライマックスとなるジャカルタのニュピ祭のシーンでは、パレードを再現するためバンテン広場に3千人のエキストラが集められた[11]

4ヵ国に渡る撮影は2ヶ月で完了した。マイケル・マンはデジタルカメラを多用することで有名だが、本作では全ての映像をデジタルカメラで撮影した[12]

公開[編集]

タイトルは「ブラックハット」と決まり、2015年1月に公開された。クリント・イーストウッド監督の「アメリカンスナイパー」の対抗馬になると思われたが、予想に反して公開1週目の成績は7位に終わった。

2,500を超える映画館で封切りしたが、集客が見込めないことがわかると2週間後にはわずか236館に減らされた[13]

海外での興行も予想を下回り、オーストラリアやベルギーでは劇場公開が見送られDVDリリースとなった。またワン・リーホンとタン・ウェイのハリウッド進出作品であることから中国での成功が期待されたが、中国政府は上映を認めなかった。

最終的な収益は製作費70万ドルに対し19万ドルで、マイケル・マンにとって最も興行成績の低い作品となってしまった。

音楽[編集]

音楽担当は公式ではハリー・グレッグソン=ウィリアムズになっているが、マイケル・マンはアッティカス・ロスやマイク・ディーンにも並行して作業させていた。ウィリアムズが作った90分ものスコアは断片的に使用されただけで、彼は映画を観てそれを知り相当なショックを受けたという[14]

マンは「コラテラル」(2004)のときも複数の作曲家に依頼している。『シーンやキャラクターによってどんな曲を使うかは私と映画が決めることだ。自分の曲を使って欲しいなら競い合えばいい』とインタビューで言い切った[15]

ほかにライアン・エイモスの「エリジウム」のオリジナルサウンドトラックも使われた。

その他[編集]

  • 「ブラックハット」とは悪意のあるコンピューターハッカーを意味する俗語で、西部劇に度々登場する黒い帽子を被った悪者から由来する。
  • ニコラス・ハサウェイの人物像は、マックス・バトラー(通称”マックスビジョン”)という実在するハッカーをモデルにしている。
マックス・バトラーは身長198センチ、18歳で暴行罪で逮捕されたことがある。若い頃に空軍や国防省のコンピュータに侵入したがその才能を見込まれFBIに協力して罪を逃れた。しかしその後、銀行やクレジットカード会社にハッキングして情報を盗み、8600万ドルもの被害を出した罪で2007年に逮捕された。13年の懲役刑に処されたが、刑務所でもアンドロイド携帯を入手し、闇サイトで購入したデヴィッドカードを使って囚人らの口座に送金していた[16]
  • コードを解析するシーンでモニターの右側に意味不明な文字が並んでいるが、これはフランスの小説「O譲の物語」の一説を逆さにタイプしたもの[17]

脚注[編集]

  1. ^ a b Blackhat (2015) - Box Office Mojo”. boxofficemojo.com. 2015年3月6日閲覧。
  2. ^ キネマ旬報」2016年3月下旬号 76頁
  3. ^ Probo, Vega. “Ramuan Kecanggihan dan Eksotika Asia ala Michael Mann” (インドネシア語). hiburan. 2023年6月9日閲覧。
  4. ^ Fun Facts: Things You Might Not Know About #BlackHatMovie - Hype MY” (英語) (2015年1月13日). 2023年6月9日閲覧。
  5. ^ a b Blackhat Interview: Michael Mann and Chris Hemsworth Talk Cyber Thriller” (英語). Collider (2015年1月13日). 2023年6月9日閲覧。
  6. ^ Murray, Rebecca (2015年1月15日). “Chris Hemsworth Talks 'Blackhat,' Michael Mann, and Hackers” (英語). ShowbizJunkies. 2023年6月9日閲覧。
  7. ^ Chris Hemsworth Says He Visited a Prison and Got Heckled” (英語). Time (2015年12月5日). 2023年6月9日閲覧。
  8. ^ (日本語) Blackhat: Behind the Scenes Full Movie Broll - Chris Hemsworth, Viola Davis, Wei Tang, Michael Mann, https://www.youtube.com/watch?v=eJSk81E2MmE 2023年6月9日閲覧。 
  9. ^ Blackhat – Archipelago Special Effects” (英語). 2023年6月9日閲覧。
  10. ^ Blackhat – Archipelago Special Effects” (英語). 2023年6月9日閲覧。
  11. ^ https://www.facebook.com/detikhot.+“Syuting di Jakarta, Premiere Film Blackhat di LA Dihadiri Mari Pangestu” (インドネシア語). detikhot. 2023年6月10日閲覧。
  12. ^ Conca, James. “Nuclear Goes To The Oscars In A Blackhat” (英語). Forbes. 2023年6月9日閲覧。
  13. ^ Viola Davis is one of the most enthralling actresses of this or any generation” (英語). The Week. 2023年6月10日閲覧。
  14. ^ Jagernauth, Kevin (2015年1月13日). “‘Blackhat’ Composer Harry Gregson-Williams Says Michael Mann Scrapped Most Of His Score” (英語). IndieWire. 2023年6月9日閲覧。
  15. ^ Contributor, Quora (2015年2月9日). “How Do Directors Pick Composers to Score Their Films?” (英語). Slate. ISSN 1091-2339. https://slate.com/human-interest/2015/02/michael-mann-how-do-directors-pick-composers-to-score-their-movies.html 2023年6月10日閲覧。 
  16. ^ 【マックスバトラー】被害額100億円以上!史上最大の被害を出したサイバー犯罪”. 株式会社ライトコード (2020年9月18日). 2023年6月9日閲覧。
  17. ^ (英語) Blackhat (2015) - Trivia - IMDb, https://www.imdb.com/title/tt2717822/trivia/ 2023年6月10日閲覧。 

外部リンク[編集]