フランス組曲 (プーランク)

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フランス組曲』(フランスくみきょく、フランス語: Suite française d'après Claude Gervaise)FP.80は、フランスの作曲家フランシス・プーランク1935年に作曲した、エドアール・ブールデフランス語版の戯曲『王妃マルゴ』のための付随音楽による組曲[注 1]ルネサンス期の作曲家クロード・ジェルヴェーズ[注 2]の音楽に基づいて書かれており、小オーケストラ版、ピアノ独奏版、チェロとピアノの二重奏版、の3つのヴァージョンがある[1]。演奏時間は約12分[2]

作品について[編集]

「王妃マルゴ」こと、マルグリット・ド・ヴァロワ(1553年 - 1615年)

『王妃マルゴ』(La Reine Margot)のための劇付随音楽は、戯曲の作者である劇作家エドアール・ブールデフランス語版からの依頼により1935年に作曲された[3][1][注 3]。主人公の王妃マルゴは16世紀後半から17世紀初頭に実在した人物であり[3]、プーランクは16世紀フランスの作曲家クロード・ジェルヴェーズの舞曲を劇音楽の素材として選んだ[3][1][注 4]。ジェルヴェーズの舞曲集は1908年にアンリ・エクスペール(Henri Expert)が出版しており、プーランクはこの楽譜に基づいて選曲したと考えられている[3]。作品は、古い時代の舞曲の雰囲気を残しながらもプーランク的な新しい和声が使われており、新鮮な魅力にあふれている[2]

劇『王妃マルゴ』は1935年11月26日にマリニー劇場フランス語版で初演されており[5]、プーランクは同年に劇音楽からピアノ版と小オーケストラ版の2種類の組曲を作った。ピアノ独奏版の楽譜には劇の初演よりも早い「1935年10月」の日付があり[5]、小オーケストラ版は同年12月11日にパリにおいてシャルル・ミュンシュ指揮、パリ・フィルハーモニー管弦楽団 (Orchestre philharmonique de Paris) のメンバーによって初演されている[5][注 5]。その後、小オーケストラ版の楽譜が1948年にデュラン社から出版された[2]

チェロとピアノによる版は、1953年にプーランクがチェリストのピエール・フルニエ[注 6]と行ったイタリアへの演奏旅行[7]のために作曲者自身によって編曲されたものである[8]

なお、プーランクは1939年にジェルヴェーズに基づくピアノ独奏曲『ジェルヴェーズによるフランセーズ』FP.103を作曲している[4]

楽曲の構成[編集]

楽曲構成は3つの版とも同じである。ここでは小オーケストラ版にもとづき解説する。

第1曲 ブルゴーニュのブランル
明るいトランペットの旋律で始まり、様々な楽器に渡されて行く。
第2曲 パヴァーヌ
トランペットとトロンボーンによる荘重なコラール。
第3曲 小さな軍隊行進曲
一転して明るいリズミックな曲想で、金管の合奏による。
第4曲 コンプラント(嘆き)
オーボエによる田園風なカンティレーナ。
第5曲 シャンパーニュのブランル
中庸な速さで、素朴な旋律が管楽器のアンサンブルで淡々と演奏される。
第6曲 シシリエンヌ
古風で優雅な舞曲で、金管が中心で、クラヴサン、オーボエ、低音のトロンボーンの応答が入る。
第7曲 カリヨン
「カリヨン」は鐘のことで、いかにもそれに相応しい単純で楽しい旋律が華麗に展開される。

小オーケストラ版の楽器編成[編集]

オーボエ2、ファゴット2、トランペット2、トロンボーン3、打楽器1(スネアドラムシンバルバスドラム)、クラヴサン(チェンバロ)1

打楽器のうち、シンバルとバスドラムは第3曲「小さな軍隊行進曲」の中間部分で使われ、スネアドラム奏者がその両方を演奏する[9]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ プーランクと同じく「6人組」の一人であるダリウス・ミヨーにも、同じく『フランス組曲』と題する作品がある。これは1944年に書かれた吹奏楽のための組曲である。
  2. ^ ジェルヴェーズはヴァイオリンの名手でもあった。
  3. ^ 『王妃マルゴ』の劇音楽にはオーリックも一部協力した[2]
  4. ^ この劇付随音楽(FP.78)は未出版である[4]
  5. ^ 久野(2013)は、1935年にピアノ版の組曲が作られ、1948年に小オーケストラ版に編曲したと記述している[1]
  6. ^ フルニエは『{チェロソナタ』FP.143(1948年)の委嘱者であり初演者でもある[6]

出典[編集]

  1. ^ a b c d 久野麗『プーランクを探して-音楽と人生と-』 春秋社、2013年11月20日、ISBN 978-4-393-93573-6、126-127頁
  2. ^ a b c d 美山良夫(項目執筆)『最新名曲解説全集 補巻第1巻 交響曲 管弦楽曲 協奏曲』 音楽之友社、1982年2月1日、ISBN 4-276-01031-4、332頁
  3. ^ a b c d 美山(1982)、331頁
  4. ^ a b 久野(2013)、巻末資料20頁
  5. ^ a b c Jean Roy Francis Poulenc: Oeuvres completes(CD),Warner Classics, 2012, p. 65
  6. ^ 久野(2013)、242頁
  7. ^ 久野(2013)、279頁
  8. ^ Jean Roy (2012) p. 61
  9. ^ Francis POULENC SUITE FRANAÇISE pour Orchestra(SCORE) , Editions DURAND, pp. 13-15

参考文献[編集]

  • 久野麗『プーランクを探して-音楽と人生と-』 春秋社、2013年11月20日、ISBN 978-4-393-93573-6
  • 美山良夫(項目執筆)『最新名曲解説全集 補巻第1巻 交響曲 管弦楽曲 協奏曲』 音楽之友社、1982年2月1日、ISBN 4-276-01031-4
  • Poulenc, Francis. SUITE FRANAÇISE pour Orchestra(SCORE) , Editions DURAND,
  • Roy, Jean. Francis Poulenc: Oeuvres completes(CD),Warner Classics, 2012

外部リンク[編集]