フラバン-3-オール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
フラバン-3-オールの化学構造(化学式: C15H14O2、モル質量: 226.27 g/mol、精密質量: 226.09937966)
エピカテキン (EC)
エピガロカテキン (EGC)

フラバン-3-オール(flavan-3-ol、フラバノール)類は、2-フェニル-3,4-ジヒドロ-2H-クロメン-3-オール骨格を有するフラボノイドの一群である。代表的なフラバノール類としては、カテキンカテキンガラートがある。

ケト基を有するフラボノール類は、フラバノール類と異なるフラボノイドの一群である。

フラバノール類はプロアントシアニジン類の構成要素である。フラバノールには2つのキラル炭素を有することから、それぞれ4種のジアステレオマーが存在する。

カテキン類は、フラボノール類と呼ばれるクェルセチンルチンといったケトンを含むフラボノイドと区別される。バイオフラボノイドという用語は最初フラボノールを説明するために使用されていたが、不明確な用語として、ポリマー化したヒドロキシル基のみを有するフラバン-3-オール類(カテキン)含む多くのフラボノイドに対して使われている。

カテキン含有植物[編集]

カテキンはチャノキ (Camellia sinensis) 由来のココアチョコレート[1]カカオ Theobroma cacaoの種子から作られる)に豊富に含まれている。

カテキン類は果物、野菜、ワイン[2]といったヒトの食品にも存在しており、その他の多くの植物種にも含まれている[3]

カテキンおよび没食子酸エステル[編集]

カテキンおよびエピカテキンエピマーであり、天然では (+)-カテキンおよび (−)-エピカテキンが最も一般的な光学異性体である。カテキンの名称は、最初に化合物が単離された植物抽出物カテキュ (Catechuに由来する。分解点を越えて加熱されたカテキンはピロカテコール(カテコール)を放出する。

エピガロカテキンおよびガロカテキンは、それぞれエピカテキンおよびカテキンと比べてフェノール性ヒドロキシル基が一つ多い。

カテキンガラート類はカテキン類の没食子酸エステルである。没食子酸エピガロカテキン (EGCG) は茶の最も豊富に含まれているカテキンである。

(−)-エピカテキンの生合成[編集]

フラボノイド類はシンナモイル-CoAを出発ユニットとして、マロニル-CoA 3分子を縮合して合成される。反応はIII型ポリケチド合成酵素によって触媒される。これらの酵素はアシルキャリアータンパク質 (ACP) を利用しない代わりに補酵素Aエステルを利用し、鎖伸長、縮合、環化といった一連の反応を行う単一の活性部位を有している。4-ヒドロキシシンナミル-CoAと3分子のマロニル-CoAによる鎖伸長によりまずポリケチドが得られる。これらはクライゼン様反応により芳香環を形成する[4] [5]

植物における (−)-エピカテキン生合成の概要。酵素は青で示されており、略称は以下の通り: E1, フェニルアラニンアンモニアリアーゼ (PAL); E2, チロシンアンモニアリアーゼ (TAL); E3, シンアマート 4-ヒドロキシラーゼ; E4, 4-クマロイル: CoA-リガーゼ; E5, カルコン合成酵素(ナリンゲリン-カルコン合成酵素); E6, カルコンイソメラーゼ; E7, フラボノイド 3'-ヒドロキシラーゼ; E8, フラボノン 3-ヒドロキシラーゼ; E9, ジヒドロフラバノール 4-レダクターゼ; E10, アントシアニジン合成酵素(ロイコアントシアニジンジオキシゲナーゼ); E11, アントシアニジンレダクターゼ。CoA, 補酵素A; L-Tyr, L-チロシン; L-Phe, L-フェニルアラニン

カテキン類の健康効果[編集]

カテキン類の健康効果はヒトおよび動物モデルで大々的に研究されてきた。動物モデルでは動脈硬化症の低下が見られている[6]In vitroにおいて発癌 (Carcinogenesisの低下が見られている[7]

多くの健康効果に関する研究がカテキン成分と結び付けられてきた。ハーバード大学医学部教授のNorman Hollenbergによれば、エピカテキンは、主要な健康問題のうちの4つ、脳卒中心不全がん糖尿病のリスクを低減することができる。Hollenbergは、週にココアを40杯以上飲む習慣のあるパナマクナ人英語版について研究し、「4大疾患」の患者数が10%未満であることを発見した。Hollenbergは、エピカテキンが食品中の必須成分であり、ゆえにビタミンに分類されるべきであると信じている[8][9][10]

ある研究者によれば[11]没食子酸エピガロカテキン (EGCG) は抗酸化物質であり、皮膚を紫外線照射による損傷英語版や腫瘍形成から保護する助けとなる。

DNAの保護[編集]

カテキン類は習慣的運動と組み合わさった時、ある種の加齢を遅らせることが明らかにされている。カテキン類を与えられたマウスは加齢のレベルが低下し、ミトコンドリアにおける酸化ストレスが低下し、ミトコンドリア関連タンパク質のmRNA転写が上昇する[12]

処理チョコレートの健康効果が低下する可能性[編集]

医学誌The Lancetの論説は、ラベルに表示されることなく苦味を取り除くために有益な化合物がダークチョコレートから取り除かれている場合があるため、健康の改善のためにこのようなチョコレートを摂取する人が増えていることに対して警鐘を鳴らしている[13]。加えて、このような製品は鉛、脂肪、砂糖、カロリーが高く、心疾患のリスクを増大させるかもしれない。

抗発癌作用[編集]

2008年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 (UCLA) のがん研究者らは、若干のフラボノイドを含む食事を摂取した患者において肺癌の発達が妨げられているように見えることを発見した。Zhang教授は、最も効果が高いように見えるフラボノイドとして、イチゴ、緑茶、紅茶に含まれるカテキン、メキャベツおよびリンゴに含まれるケンフェロール、豆類、タマネギ、リンゴに含まれるクェルセチンを挙げている[14]

アグリコン[編集]

フラバン-3-オール類
構造 化合物名 化学式 オリゴマー
(+)-Catechin カテキン, C, (+)-Catechin C15H14O6 プロアントシアニジン
Epicatechin エピカテキン, EC, (-)-Epicatechin (cis) C15H14O6 プロアントシアニジン
Epigallocatechin エピガロカテキン, EGC C15H14O7 プロデルフィニジン
Epicatechin gallate エピカテキンガラート, ECG C22H18O10
Epigallocatechin gallate 没食子酸エピガロカテキン, EGCG,
(−)-Epigallocatechin gallate
C22H18O11
Epiafzelechin エピアフゼレキン C15H14O5
Fisetinidol フィセチニドール C15H14O5
Guibourtinidol グイブルチニドール C15H14O4 プログイブルチニジン
Mesquitol メスキトール C15H14O6
Robinetinidol ロビネチニドール C15H14O6 プロロビネチニジン

健康効果[編集]

カカオ豆あるいは由来のフラバノール類は、動脈の柔軟性を保ち[15]、小血管の血液循環を増加させ[16]、血圧を低下させ[17]、日光皮膚炎を防止する[18][19]と信じられている。

脚注[編集]

  1. ^ Hammerstone JF, Lazarus SA, Schmitz HH (August 2000). “Procyanidin content and variation in some commonly consumed foods”. J. Nutr. 130 (8S Suppl): 2086S–92S. PMID 10917927. http://jn.nutrition.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=10917927. 
  2. ^ Ruidavets J, Teissedre P, Ferrières J, Carando S, Bougard G, Cabanis J (November 2000). “Catechin in the Mediterranean diet: vegetable, fruit or wine?”. Atherosclerosis 153 (1): 107–17. doi:10.1016/S0021-9150(00)00377-4. PMID 11058705. http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0021915000003774. 
  3. ^ Mabry, Helga; Harborne, J. B.; Mabry, T. J. (1975). The Flavonoids. London: Chapman and Hall. ISBN 0-412-11960-9. 
  4. ^ Dewick, Paul M. (2009). Medicinal Natural Products: a biosynthetic approach (3rd ed. ed.). John Wiley & Sons Ltd. pp. 168. 
  5. ^ Winkel-Shirley, Brenda (2001). “Flavonoid Biosynthesis. A Colorful Model for Genetics, Biochemistry, Cell Biology, and Biotechnology”. Plant Physiol. 126: 485-493. 
  6. ^ Chyu KY; Babbidge, SM; Zhao, X; Dandillaya, R; Rietveld, AG; Yano, J; Dimayuga, P; Cercek, B et al. (May 2004). “Differential effects of green tea-derived catechin on developing versus established atherosclerosis in apolipoprotein E-null mice”. Circulation 109 (20): 2448–53. doi:10.1161/01.CIR.0000128034.70732.C2. PMID 15136500. http://www.circ.ahajournals.org/cgi/content/full/109/20/2448. 
  7. ^ Mittal A, Pate MS, Wylie RC, Tollefsbol TO, Katiyar SK (March 2004). “EGCG down-regulates telomerase in human breast carcinoma MCF-7 cells, leading to suppression of cell viability and induction of apoptosis”. Int. J. Oncol. 24 (3): 703–10. PMID 14767556. 
  8. ^ Roberts, Michelle (2007年3月11日). “Cocoa nutrient for lethal ills”. BBC. http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/6430777.stm 2012年2月16日閲覧。 
  9. ^ “Cocoa 'Vitamin' Health Benefits Could Outshine Penicillin”. Science Daily. (2007年3月11日). http://www.sciencedaily.com/releases/2007/03/070311202024.htm 2012年2月16日閲覧。 
  10. ^ Bayard, V.; Chamorro, F.; Motta, J.; Hollenberg, N. K. (2007). “Does Flavanol Intake Influence Mortality from Nitric Oxide-Dependent Processes? Ischemic Heart Disease, Stroke, Diabetes Mellitus, and Cancer in Panama”. Int. J. Med. Sci. 4 (1): 53-58. doi:10.7150/ijms.4.53. 
  11. ^ Katiyar S, Elmets CA, Katiyar SK (May 2007). “Green tea and skin cancer: photo-immunology, angiogenesis and DNA repair”. J. Nutr. Biochem. 18 (5): 287–96. doi:10.1016/j.jnutbio.2006.08.004. PMID 17049833. 
  12. ^ Murase T, Haramizu S, Ota N, Hase T (July 2008). “Tea catechin ingestion combined with habitual exercise suppresses the aging-associated decline in physical performance in senescence-accelerated mice”. Am. J. Physiol. Regul. Integr. Comp. Physiol. 295 (1): R281–289. doi:10.1152/ajpregu.00880.2007. PMID 18480242. 
  13. ^ The Lancet (22 December 2007). “The devil in the dark chocolate”. The Lancet 370 (9605): 2070. doi:10.1016/S0140-6736(07)61873-X. PMID 18156011. 
  14. ^ Irwin, Kim (2008年3月29日). “Fruits, vegetables, teas may protect smokers from lung cancer”. UCLA news. http://newsroom.ucla.edu/portal/ucla/fruits-vegetables-and-teas-may-51210.aspx 2012年2月16日閲覧。 
  15. ^ Cocoavia Health Facts : Fortified chocolate good for heart, but there's a catch”. Harvard Health newsletter on CocoaVia (2006年2月). 2012年2月16日閲覧。
  16. ^ Neukam K, Stahl W, Tronnier H, Sies H, Heinrich U (2007). “Consumption of flavanol-rich cocoa acutely increases microcirculation in human skin”. Eur. J. Nutr. 46 (1): 53-56. doi:10.1007/s00394-006-0627-6. PMID 17164979. 
  17. ^ Taubert D, Roesen R, Lehmann C, Jung N, Schömig E (July 2007). “Effects of low habitual cocoa intake on blood pressure and bioactive nitric oxide: a randomized controlled trial”. JAMA 298 (1): 49–60. doi:10.1001/jama.298.1.49. PMID 17609490. 
  18. ^ Williams S, Tamburic S, Lally C (September 2009). “Eating chocolate can significantly protect the skin from UV light”. J Cosmet Dermatol 8 (3): 169–73. doi:10.1111/j.1473-2165.2009.00448.x. PMID 19735513. 
  19. ^ Heinrich U, Neukam K, Tronnier H, Sies H, Stahl W (June 2006). “Long-term ingestion of high flavanol cocoa provides photoprotection against UV-induced erythema and improves skin condition in women”. J. Nutr. 136 (6): 1565–9. PMID 16702322.