フォレスト・シャーマン級駆逐艦

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フォレスト・シャーマン級駆逐艦
Uss Hull DD-945.jpg
「ハル」(SCB-85A)
艦級概観
艦種 駆逐艦
艦名 海軍功労者。一番艦はフォレスト・シャーマン提督に因む。
前級 ミッチャー級(DL)
次級 スプルーアンス級(DD)
チャールズ・F・アダムズ級(DDG)
性能諸元[1]
排水量 基準: 2,750t
満載: 3,920t
全長 127.5m
全幅 13.8m
吃水 4.6m
機関 FWボイラー[脚注 1]
(84kgf/cm², 510℃)
4缶
GE蒸気タービン[脚注 2]
(35,000 hp/26 MW)
2基
スクリュープロペラ 2軸
速力 最大: 34ノット
航続距離 4,500海里(20ノット時)
乗員 士官17名、兵員275名

フォレスト・シャーマン級駆逐艦英語: Forrest Sherman-class destroyers)は、アメリカ海軍駆逐艦の艦級。基本計画番号はSCB-85であったが、ハル (DD-945) 以降は発展型のSCB-85Aに移行しており、ハル級駆逐艦として区別する資料もある。

第二次世界大戦後にアメリカ海軍が初めて量産建造した駆逐艦であるとともに、艦砲魚雷を主武装とした最後のアメリカ駆逐艦でもあり、究極の在来型駆逐艦と評される[1]1953年度計画より18隻が建造され、1955年より順次就役を開始したが、1990年までに運用を終了した[2]

設計[編集]

本級の設計は、おおむね、先行する嚮導駆逐艦であるミッチャー級駆逐艦を縮小したものとなっており、フレッチャー級以来の強いシアを持つ平甲板船型も踏襲された[2]。またSCB-85A計画艦では艦首乾舷を高くするなどの設計変更も行われている[3]

主機関についても、ミッチャー級と同様に蒸気圧力1,200 psi (84 kgf/cm²)、温度510℃の高圧ボイラー[脚注 3]を備えている。また蒸気タービンとしても、高・中圧タービンと低圧・後進タービンの2車室を備えた2胴式・2段減速のギヤード・タービンが踏襲された。ボイラー2缶とタービン1基をセットにして、両舷2軸を駆動するため2組を搭載しており、機関配置としては、艦首側から前部缶室・前部機械室・後部缶室・後部機械室が並ぶシフト配置とされている[4]。またSCB-85A計画艦においては、新型のボイラー自動燃焼システムを装備している。

装備[編集]

本級は、従来の艦隊駆逐艦の伝統を引き継いだコンセプトを採択している[5]。このため、防空用の対空砲火力は非常に重要であった。主砲としては、新型のMk.42 54口径5インチ単装速射砲を3基搭載した。装備要領としては、アレン・M・サムナー級で前甲板に2基を背負式に装備したところ艦首側の重量が増加し、特に荒天時の凌波性低下が顕著であった反省から、前甲板に1基、船体後部に背負式に2基と、同級と逆の配置とされたが、これは重量バランスが良好であったとされている。またこれとは別に、近接防空用にMk.33 50口径76mm連装速射砲も搭載されており、将来的には70口径長に長砲身化したMk.37に換装される予定であったが、これは実現しなかった[2]砲射撃指揮装置(GFCS)としては、5インチ砲用の主方位盤としてMk.68が艦橋上に、5インチ砲用の副方位盤および3インチ砲用の主方位盤としてMk.56が第2煙突上に搭載されているが、これらはいずれも、アナログ計算機使用・レーダー照準・自動追尾式の新鋭機であった[6]

一方、対潜兵器に関しては、対潜任務艦であった嚮導駆逐艦(DL)や対潜駆逐艦(DDK)航洋護衛艦(DE)と比してやや弱体であった。ソナーとしてはこれらと同じく10 kHz級のAN/SQS-4を搭載したが、対潜前投兵器としては、これらの艦が搭載していたMk.108 324mm対潜ロケット砲や旋回式改良型のMk.15 ヘッジホッグ対潜迫撃砲ではなく、戦中世代の固定式Mk.10 ヘッジホッグが搭載された。ただし水雷兵装としては、誘導対潜魚雷の運用に対応した固定式のMk.25 533mm連装魚雷発射管が1・2番煙突間の両舷に1基ずつ搭載されていた。これらは、後述の#改装の際に、新しく標準装備となったMk.32 3連装短魚雷発射管に換装された[2]。

改装[編集]

最後の砲装型駆逐艦として建造された本級も、1960年代には、新開発のミサイル兵器のバックフィット改修を受けることになった。

まずターター・システムを搭載してのミサイル駆逐艦改修として、SCB240計画が計画された。これは後部のMk.42 5インチ砲 2基を代償にしてMk.13 mod.0 GMLSおよびMk.74 GMFCSを搭載するほか、後部マストを大型化してAN/SPS-48 3次元レーダーを搭載したものである。またソナーを低周波(5 kHz級)・大出力のAN/SQS-23に改装するとともにアスロック対潜ミサイルも搭載された。当初は全艦がSCB240改修を受けるよう計画されたが、新造のチャールズ・F・アダムズ級に比べて、戦闘能力が2/3に限定され、費用対効果が劣ると判断されたことから、4隻が改修されるに留まった。

その後、DDG改修を受けなかった艦を対象に、対潜能力を高める改装が計画された。これは、ソナーをAN/SQS-23に改装するとともにAN/SQS-35可変深度ソナーを追加装備し、さらに長射程の対潜火力としてQH-50 DASHを搭載するというものであったが、改修が実行に移される前にDASHの運用が中止されたため、実際には、アスロック対潜ミサイルを運用するためのMk.16 GMLSを搭載することとなった。この改修は、当初はSCB251と呼ばれていたが、実際には、最初に改修されたDD-933「バリー」以外の艦に行なわれた改修はSCB221と呼ばれている。また、当初はDDG改修を受けなかった全艦が対象とされていたが、予算削減の煽りを受けて、実際に改装されたのは8隻に終わった。

兵装・電装要目[編集]

対潜能力向上化改装後の「バリー」(SCB-251)
DDG改装後の「ディケーター」(SCB-240)
新規建造時
SCB-85/85A
対潜強化艦
SCB-221/251
DDG改装艦
SCB-240
兵装 Mk.42 127mm単装速射砲×3基 Mk.42 127mm単装速射砲×2基 Mk.42 127mm単装速射砲×1基
Mk.33 76mm連装速射砲×2基 Mk.13 ミサイル発射機×1基
(RIM-24/66 SAM)
Mk.10 ヘッジホッグ対潜迫撃砲×2基
Mk.9爆雷投下軌条×1条 Mk.16 アスロック 8連装発射機×1基
Mk.25 533mm連装魚雷発射管×2基 Mk.32 3連装短魚雷発射管×2基
FCS Mk.68 GFCS×1基
Mk.56 GFCS×1基 Mk.74 GMFCS×1基
Mk.105 UBFCS×1基 Mk.114 UBFCS×1基
レーダー - AN/SPS-48 3次元式
AN/SPS-29 または AN/SPS-37 または AN/SPS-40 対空捜索用
AN/SPS-10 対水上捜索用
ソナー AN/SQS-4 AN/SQS-23
AN/SQS-35 IVDS
電子戦 AN/WLR-1 電波探知装置
AN/WLR-3 レーダー警報受信機
AN/ULQ-6 電波妨害装置

配備[編集]

本級は1960年代から1970年代にかけて、アメリカ海軍の空母戦闘群において護衛兵力の一翼をなし、トンキン湾事件でも「ターナー・ジョイ」 (DD-951) が参加した。また、大発射速度・長射程のMk.42 54口径5インチ単装速射砲3門による砲火力は、38口径5インチ緩射砲6門搭載のギアリング級よりも高く評価された。しかし、1970年代後半になると、防空火力ではミサイル駆逐艦に及ばず、また、SCB199シリーズ護衛駆逐艦よりも、機関の維持等の運用コストが高いにもかかわらず対潜能力が同等であることから、コストパフォーマンスの悪い艦と見なされるようになっていた。このため、1970年代中盤より、新世代の汎用駆逐艦であるスプルーアンス級が就役し始めるとともに、本級は順次運用を終了し、DDG改装艦は1985年までに全艦が退役、冷戦の終結に伴って未改修艦やASW強化改装艦も急速に減勢し、1990年までに全艦が退役した[2]

同型艦一覧
番号 艦名 造船所 就役 退役 改装 その後・備考 リンク
DD-931 フォレスト・シャーマン
USS Forrest Sherman
バス鉄工所 1955年 1982年 未改装 記念艦としての寄贈は断念され、スクラップ処分 [1]
DD-932
/ DDG-32
ジョン・ポール・ジョーンズ
USS John Paul Jones
1956年 DDG改装 艦隊演習で実艦標的として海没処分 (2001/01/31) [2]
DD-933 バリー
USS Barry
ASW強化 除籍後に記念艦として寄贈のため保管 (1983/01/31);
現在ワシントンD.C.で公開中
[3]
DD-936
/ DDG-31
ディケーター
USS Decatur
ベスレヘム
・スチール
,
フォアリバー
1983年 DDG改装 艦隊演習で実艦標的として海没処分 (2004/07/21) [4]
DD-937 デイヴィス
USS Davis
1957年 1982年 ASW強化 防衛再利用マーケティング・サービス(DRMS
によってスクラップとして売却 (1994/06/30)
[5]
DD-938 ジョナス・イングラム
USS Jonas Ingram
1983年 艦隊演習で実艦標的として海没処分 (1988/07/23) [6]
DD-940 マンリー
USS Manley
バス鉄工所 防衛再利用マーケティングサービス(DRMS)
によってスクラップとして売却 (1994/06/30)
[7]
DD-941 デュポン
USS Du Pont
防衛再利用マーケティングサービス(DRMS)
によってスクラップとして売却 (1992/12/11)
[8]
DD-942 ビグロー
USS Bigelow
1982年 未改装 艦隊演習で実艦標的として海没処分 (2003/04/02) [9]
DD-943 ブランディ
USS Blandy
ベスレヘム
・スチール,
フォアリバー
ASW強化 防衛再利用マーケティングサービス(DRMS)
によってスクラップとして売却 (1994/06/30)
[10]
DD-944 ムリニクス
USS Mullinnix
1958年 1983年 未改装 艦隊演習で実艦標的として海没処分 (1992/08/23) [11]
DD-945 ハル
USS Hull
バス鉄工所 艦隊演習で実艦標的として海没処分 (1998/04/07) [12]
DD-946 エドソン
USS Edson
1988年 記念艦として寄贈のため保管中 (2004/06/14) [13]
DD-947
/ DDG-34
ソマーズ
USS Somers
1959年 1982年 DDG改修 艦隊演習で実艦標的として海没処分 (1998/07/22) [14]
DD-948 モートン
USS Morton
インガルス
造船所
ASW強化 防衛再利用マーケティングサービス(DRMS)
によってスクラップとして売却 (1992/03/04)
[15]
DD-949
/ DDG-33
パーソンズ
USS Parsons
DDG改修 艦隊演習で実艦標的として海没処分 (1989/04/25) [16]
DD-950 リチャード・S・エドワーズ
USS Richard S. Edwards
ピュージェット
・サウンド
ASW強化 艦隊演習で実艦標的として海没処分 (1997/04/10) [17]
DD-951 ターナー・ジョイ
USS Turner Joy
未改修 記念艦として寄贈 (1991/04/10);
現在ワシントン州ブレマートンで公開中
[18]

脚注[編集]

  1. ^ DD-937,943,944,945,946,948は B&W
  2. ^ DD-931はWEC
  3. ^ Twelve Hundred Pounderと通称されていた。

参考文献[編集]

  1. ^ a b 香田洋二「国産護衛艦建造の歩み(第6回) 1次防艦 その1“いすず”型」、『世界の艦船』第779号、海人社、2013年6月、 146-153頁。
  2. ^ a b c d e 中川務「アメリカ駆逐艦史」、『世界の艦船』第496号、海人社、1995年5月、 13-135頁。
  3. ^ 「船体 (技術面から見たアメリカ駆逐艦の発達)」、『世界の艦船』第496号、海人社、1995年5月、 150-155頁。
  4. ^ 阿部安雄「機関 (技術面から見たアメリカ駆逐艦の発達)」、『世界の艦船』第496号、海人社、1995年5月、 156-163頁。
  5. ^ 中川務「アメリカ駆逐艦建造の歩み」、『世界の艦船』第496号、海人社、1995年5月、 141-148頁。
  6. ^ 香田洋二「国産護衛艦建造の歩み(第10回) 2次防艦に関わる外国製新装備」、『世界の艦船』第785号、海人社、2013年10月、 104-110頁。