フィン・マックール

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フィン・マックール(Fionn mac Cumhaill)はケルト神話に登場する、エリン(アイルランドの古い呼び名)の上王コーマックを守る、フィアナ騎士団の首領。レンスター国のバスクナ一族の生まれで、生来の名はデムナ(ディムナ)だったが、金髪で肌が白くて美しいことからフィン(『金色の髪』の意)と呼ばれるようになった。

アイルランド神話を構成する4つのサイクルの内の三番目にあたるフェニアンサイクルで伝えられる。

生い立ち[編集]

フィン・マックールはヌァザの孫娘マーナ(ムィルナ)とフィアナ騎士団の団長クール(Cumhail)・マックトレンモーとの間に生まれ、ディムナと名付けられる。父は彼の生まれる前に隊長の一人であったゴル・マックモーナ(ゴール・マック・モーン(Goll mac Morn))に殺されており、出産間近だったマーナはゴルがクールの息子を生かしてはおくまいと恐れ、信頼できる二人の侍女を連れて山の隠れ家へと逃げ、出産後は自分がいては息子の身の危険に繋がると、二人の侍女へ息子を預け、一人流離い消える。

二人の育ての親に荒野で生きるためのあらゆることを授けられたデムナは、素晴らしい狩人になった。ある日、家である小屋から離れたところに出歩いたデムナと同じ年頃の少年たちがしているハーリング(アイルランドのスポーツ)に興味を持ち、仲間に入って遊んだところ、たちまちの内に上達し一人で全員を相手に勝利を治めた。このことを知った少年たちの族長がデムナに興味を持ち、名前を誰も知らなかったので外見の特徴である「太陽のように明るい髪をしている」から「フィン」と呼ぶようになった。

このことは噂としてゴルの耳にも入り、その少年がクールの息子ではないかと恐れたゴルは配下の騎士たちに生死を問わず見つけ出し捕まえるように命じ、フィン捜索の騎士たちが野に放たれた。そのことを魔術で見聞きしたフィンの育ての親の一人である魔女は彼に出生を明かし、彼をフィアンナの団長としての地位を勝ち取るための旅に出した。育ての親から貰った槍を手に旅する中でフィンは王や族長に仕え、戦士としての経験を積む。

知恵の鮭[編集]

旅の中でフィンは、騎士団長となるための知恵を付けるためにボイン川近くで出会ったドルイド僧・フィネガスの弟子となる。7年経ち、もうすぐ成人しようというとき、フィネガスに命じられ、食べたものにあらゆる知識を与えるという知恵のフィンタンの調理を行う。その鮭の料理をフィネガスの前に持ってきたとき、フィンの顔つきが変わったことに気がついたフィネガスは、鮭を食べたかどうか聞くと「焼いている最中に脂が親指にはね火傷をしたので、傷をなめた」と答える。するとフィネガスはフィンに鮭を食べさせた。以後、フィンは難解な問題に立ち向かう際、親指をなめることによって知恵を得られるようになり、両手で掬った水を怪我人や病人を救う癒しの水へと変えることができるようになった。

フィアナ騎士団長の座へ[編集]

知恵と癒しの力を得たフィンは、サラワン祭りの頃にターラの王宮の上王コーマックの元へ行き、自分の出生を明かして近衛騎士として仕えることを申し出る。これはフィアナ騎士団に所属するには団長のゴルに忠誠を誓わねばならないからである。王に快く受け入れられたフィンだが、宴の中で宮殿を二十年間毎年サラワン祭りの頃に燃やしてしまう『炎の息のアイレン』という怪物を倒したものに褒美を取らせる、という上王の言葉を聞いた際に、恩賞に騎士団長の座を頂けるか交渉し、了承させる。

『炎の息のアイレン』は竪琴の音を聞いたものを魔法の眠りに付かせる不思議な力を持っていため、これまで誰にも倒すことが出来なかったが、フィンは父に恩のある騎士の一人から魔法の槍を受け取っていた。これは神々の刀鍛冶レインが作った槍で、太陽の火と月の秘力が鍛えこまれて月光のように青く輝き、袋を被せておかないと勝手に血を吸おうとする獰猛な槍で、穂先を額に当てることで、眠気を吹き飛ばすことが出来た。これによりフィンはアイレンの音色を打ち破り、討ち倒す。こうしてフィンはフィアナ騎士団の首領の座に収まり、前団長にして父の仇であるゴルとも手を結んだ。

一説によればゴルを決闘で倒したことにより騎士団長の座を得たという。

騎士団長として[編集]

フィンは団長になるにあたり、上王からキルデアにあるアルムの砦を与えられ、フィアナ騎士団の最盛期を築き、数多くの優秀な騎士を配下として従えた。フィアナ騎士団の人数は三千人を超え、入団希望者も後を立たなかったが、フィンはフィアナ騎士団の入団に厳しい試験を設けたため、入団できるものは限られた。フィンの死と共に騎士団の栄光も終わりを迎えることとなる。

有名な配下の騎士には、元仇敵であったが誠実で信義に厚い隻眼の勇者ゴル・マックモーナ、フィンが殺してフィアナの宝袋を取り戻したルケアの息子コナン・マックリヤ、常識を知り背中に黒い羊の毛が生えているコナン・マウル、音楽の才能と俊足を持つキールタ・マックローナン、丘の端から端まで一跳びにできるほどの軽やかな脚のリガン・ルミナ、相談役の一人で知恵深いファーガス・フィンヴェル、未来や遠くの出来事を知ることが出来るディアリン・マクドバ、勇敢で心が広いディルムッド・オディナ、最初の妻サーバとの息子アシーン、孫のオスカなどが挙げられている。

フィンは公平であり、物惜しみもせず、人を笑って許す、多くの騎士たちに慕われた優れた将だったが、その一方で月の影のような側面もあり、深い恨みを長年貯め続け、相手が死ぬまで憎むこともあった。

フィンは二頭の猟犬を愛犬としており、ブランとスコローンと名付けた。

最初の妻サーバが攫われてからしばらくの時に、エイネーとミルクラという美しいダナン族の姉妹に求婚されたが、フィンは二人に見向きもせず妻を探していた。そのうち、婚約が無理なら誰のものにもならないようにしてしまおうと考えたミルクラの策略と魔法によりフィンは老人に変えられてしまう。その後エイネーの黄金の杯によりフィンにかけられた魔法は解けるが、彼女の夫となる気が無かったフィンは髪だけは元に戻さず、生涯金の髪は銀色に輝くことになった。

フィンの妻[編集]

最初の妻のサーバは妖精であり、同族の黒いドルイドによって鹿に変えられた彼女が砦の近くに逃げ込んだのをフィンが助けて出会った。本当の姿を取り戻した彼女と暮らす内に二人は愛しあうようになり、妖精の彼女との種族と寿命の差による多くの悲しみと苦難を覚悟して婚姻を結んだ。妻の傍から離れたくないためフィンは狩りにも戦にも興味を無くし、騎士たちからは「人が違ってしまった」と囁かれるほどに深く愛し合い幸せに暮らしていた二人だったが、フィンが国と契約を結んでいる騎士団長の役目としてどうしても出陣せねばならない戦に出かけている隙に、フィンに化けて現れた黒いドルイドによってサーバは再び鹿に変えられ攫われてしまい、フィンは七年間彼女を必死に探すものの見つからなかった。その後、森で出会った不思議な少年から、彼が自分とサーバの子供であること、鹿に変えられたサーバは黒いドルイドを拒み続けたものの、最後は体を操られ従わされたことを聞かされ、フィンは二度とサーバと会えないことを悟った。サーバが残してくれた息子には、アシーン(ちいさな子鹿、の意)と名付けた。

長い年月が経った後に迎えた二人目の妻は黒膝のガラドの娘マーニサーであった。子も成し彼女との生活は順調に進んだが、彼女はフィンより先に死んでしまい、老年に差し掛かったフィンはまたも一人身と成り、サーバを失った悲しみを思い出されるようになる。アシーンはそんな父の気持ちを理解して結婚を薦め、ディアリンはフィンの新たな妻の候補に上王の娘グラーニアを挙げる。フィンはあまり乗り気ではなかったものの、グラーニアを妻に迎えたいと上王に申し出るように命じた。アシーンたちがフィンとの結婚について上王とグラーニアに申し出たところ、二人の了承を受け、グラーニアとフィンの結婚が決まった。しかし、結婚の宴の場でグラーニアは老年のフィンとの結婚を嫌がり、ディルムッド・オディナに惚れ込んで、彼をゲッシュによって縛り駆け落ちを強制させてしまう。

妻となるはずだったグラーニアを連れて騎士団を抜けたディルムッドに激怒したフィンは全力を持ってディルムッドを殺そうとするが、配下の騎士たちはディルムッドとの友情から、あまり気乗りはしなかった。長い追走の内に人間ではディルムッドを追い詰めることはできないと知ったフィンは育ての親の魔女に助力を願うが、彼女も返り討ちにあってディルムッドに殺されてしまう。自分たちの不和が多くの騎士と養い親の命を奪ったことに気落ちしたフィンはディルムッドと和睦を結ぶことになる。しかし恨みは完全には消えておらず、その後ディルムッドとフィンの前に恐ろしい猪が現れた際、「ここにいては命取りになる」「忘れたのか、イノシシを狩ってはならないといういましめを!」などディルムッドを止めようとするフィンの言葉を聞かずに猪に挑みかかる彼を見て、笑いたいような、泣き嘆きたいような、2つの感情が心のなかでせめぎあい、イノシシの牙により致命傷を負った彼を癒しの水で助けることを拒む。ディルムッドとオスカの言葉でかつての忠義と恩を思い出し助けようとするが、グラーニアのことを思い出す度に手から水はこぼれてしまい、オスカの言葉もあって三度目でディルムッドの元へと水を運ぶことに成功するが、同時に彼は息を引きとり、ディルムッドの親友であった孫オスカとの間に確執が生まれてしまう。その後グラーニアの元に時間をかけて通い、彼女に軽蔑されても愛情深い態度を崩さずゆっくりと構えることで、ついには彼女と再び正式な婚姻を結んだ。しかし騎士たちの反応は冷ややかなもので、フィンがディルムッドよりグラーニアを選んだ割の悪い取引をしたと蔑んだ。その後グラーニアは一生を砦で過ごす。

しかし、グラーニアは「ディルムッド以外を愛さない」というゲッシュを誓っており、生涯未亡人を貫いた。又は、ディルムッドを失った悲しみのあまり後を追うように死んでしまった、という伝承もある。

フィンの死[編集]

ディルムッドの死からしばらく後、上王が代替わりしたが、新しい上王ケアブリはフィンとフィアナ騎士団を恐れ、嫌っていた。ケアブリは騎士団との誓いを破り使者を殺害して宣戦布告した結果、騎士団を捨て上王に従う者とフィンに従う者に真っ二つに分かれてしまう。両派閥はお互い援軍を連れて戦争となり、オスカはケアブリと相打ちとなる。オスカの死を嘆くフィンに対して、オスカは自分はフィンが死んでも泣いたりはしないと拒むが、フィンはディルムッドのことでオスカとの確執があると理解してなお彼の死に泣き、オスカも冗談と悲しみに浸りながら死亡した。孫の死を看取ったことで、年老いたフィンに再び若き日の勇猛心が目覚め、敵軍の多くを討ち倒すが、一人一人とまた忠臣が戦死していき、最後は一人で孤軍奮闘しするものの、疲労困憊となったところをアーリューの五人の息子に槍で囲まれたことで終わりを悟り、胸を張って五本の槍を迎え、戦死した。

参考文献[編集]

  • 『黄金の騎士フィン・マックール』ローズマリー・サトクリフ作 金原瑞人・久慈美貴訳

関連項目[編集]