ピー信仰

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家の精霊に祈りを捧げる仏僧

ピー信仰とは特にタイ族によるアニミズム(精霊信仰)を指して用いられる言葉である。ピー (ผี) タイ語において「精霊妖怪お化け」の類を説明するために用いられる言葉である。バラモン教仏教伝来などの外来の宗教伝来以前に顕著に見られたタイ族全般に見られる信仰の形態であり、現在でもそれらの宗教の影響を受けながら、信仰する傾向がタイ族に見られる。

なお、東南アジア北部や中国雲南省などに分布しているが、ここでは主にタイ人によるピー信仰を扱う。

ピーとは、一般的にどのようなものを指すかというのは人によって考えに相違があり一定のイメージは存在しないであろうといわれている。 大まかにいえば、日本ののようなものであり、実体のないものとして存在するとされるが、プラカノーンのメー・ナークなどのように実体を伴っている場合もある。

目次

[編集] イメージ

上述のようにピーのなかには様々なイメージが存在する。ピーは日本で言う、死霊、妖怪、小さき神々の総体として存在する。一般的にバンコクで、ピーについて話すと映画などで現れる死霊がイメージされる。なお、英語のghostや日本の霊、お化け、妖怪の類はタイ語ではこの語を用いて表現される。農村でのピー信仰になると、民間信仰の神々としてのイメージが現れてくる。荒神的性格があり、人々の生活を守護すると同時に、不敬な行いに対しては祟ることがある。一方で自然霊悪霊浮遊霊のようなイメージもあり、日本の妖怪のような性格を持つ。

[編集] 分類

ピーの種類は人間へ善行をなすか、悪行を成すかによって大きく、悪霊と善霊に分かれる。これらすべてのピーを総称してピーサーンテーワダー (ผีสางเทวดา) と称される[1]。なお、善行をなすピーはテーワダー(เทวดา、諸神)と同一視される場合があり[2]、一方で、祭祀されない霊が悪霊に変ずるとの見方もある。

ピーの自然霊、出自、守護範囲によっても分類ができる。

  • 自然霊…山の神(チャオカオ:เ้จ้าเขา)、樹霊、水神(ピーナーム:ผีน้ำ)、穀物神(プラメー・ポーソップ:พระแม่โพสพ あるいは、クワンカーウ(稲魂):ขวัญข้าว)、水源霊(ピートンナーム:ผีต้นน้ำ)、浮遊霊(ピーパー:ผีป่า)など
これらは一般に守護の神(テーパーラック:เทพารักษ์)とされている[1]。樹霊として有名なものに、プラメー・サイガームพระแม่ไทรงาม)、ナーン・タキアン(นางตะเคียน)などがいる。
  • 出自…祖先霊(ピーバンパブルット:ผีบรรพบุรุษ あるいは ピープヤーターヤーイ:ผีปู่ย่าตายาย)、英雄霊(ピーウィーラブルット:ผีวีระบุรุษあるいは、ピーチャオナーイ:ผีเจ้านาย)など
先祖霊は生前の功績により霊となって生前のゆかりの地を守るものであると考えられている[1]。 一方、英雄霊とは三国志の関羽霊(ผีกวนวู)などの様に文字通り英雄の霊と考えられる。北タイではカムデーン王などの英雄の神格化も見られる。
  • 守護範囲…家霊(ピールアン:ผีเรือน) 、村霊(チャオティーバーン:เจ้าที่บ้าน)、守護霊、国守護霊など

それぞれのピーの間には階層があり、階層間移動も行われる。たとえば浮遊霊は、霊威を見せることで祠に祭祀されることがある。一方、国守護霊(ピームアン:ผีเมือง)であっても、時とともに名を忘れ去られ、祭祀されなくなってしまうこともある。

英雄霊・守護霊(ピーチャオナーイ:ผีเจ้านาย)の中には、霊威によって階層があり、高位の霊は阿羅漢となるのを待っているとされる。下位の霊は憑依を行い、善行をなし階層をあがっていく[3]

自然霊は、高位の霊は神と同一視され、タムクワン儀礼などに呼び出される。舟競争の舟のタムクワンの際には樹霊(ナーンマイ:นางไม้)が呼び出される。一方、下位の自然霊は、多くのバリエーションを持つ。とくに祭られない下位の霊は悪霊(ピーラーイ:ผีร้าย あるいは ピーレーオ:ผีเลว)とよばれ、そのほとんどが、人間に対して害をなすものと考えられている。これら悪霊は出現の時間場所に設定のあるものがあり、日本の文化における妖怪の類に近い。餓鬼(ピーボープ:ผีปอบ)は排泄物水牛や人の臓物を好み徘徊する。夢魔(ピーアム:ผีอำ)は、家の梁にぶら下がっており、北枕にして寝ていると胸の上に落ちてきて、呼吸をとめる[4]。これが、一般に悪夢とされている。その他、植物が腐ったり、人間などが病気になったりすることを「霊が入る」(ピー・カオ:ผีเข้า)と表現することもあるが同類の悪霊と考えられている。

[編集] 憑依儀礼

ピー信仰には、憑依儀礼があり、シャーマンはマーキー(ラーンソンのほうが一般的)と呼ばれる。諸事の託宣を受けることができる。また、儀礼の中には医療儀礼も含まれる。病気の判じ(ピー原因、ピーと自然の原因、自然原因)や薬、護符などの処方を行う。その際に、病院での近代治療、医薬を同時に用いることを勧めることもある。

[編集] 憑きものと憑きもの落とし

悪霊の中には人に憑くものがある。北タイではピーガ(ผีกะ)、東北タイではピーボープ(ผีปอบ)と呼ばれる。

北タイのピーガはを媒介に悪霊が運ばれて、人に憑く。憑かれた人は正気を失い、親族を襲うとされている。ピーガが出た際には、儀礼を行い調伏する。また、ピーガは家系に憑くともいわれており(憑きもの筋)、ピーガに憑かれている家では毎年リアンピーガと呼ばれる饗応儀礼を行うことで災厄を取り除く。時に、村人が一家丸ごと村から追い出してしまうこともあったため、今もなお、ピーガは村の暗部として語られることがはばかられる。

東北タイのピーボップの除霊には、モータム(除霊師)による調伏儀礼が行われる。

[編集] 祭祀者

ピーに関連する重要な儀礼にはそれぞれ異なる技能を持つ専門家が関わる。タンバイア(1970)による東北タイの研究によると以下のように分類される。

  • アジャーンワット:在家信者の長
  • プラム(パラーム、バラモン、モー・クワン):タムクワン儀礼を行う、村の長老層
  • チャム:憑依儀礼の際のピーとの仲介を行う。適任者はピーに憑依されるが、その後の憑依はない。
  • ティアム(マーキー、ラーンソン、コンソン):依り代。ピーに憑依される。ピーを供応する。修養が悪いと神がかりが起こらなくなったり、新たな適任者に乗り移ったりもする。
  • モー・タム:除霊師。呪法を駆使して、ピーの調伏を行う。修養が必須であり、誤った使い方をすると悪鬼(ピーボップ)化する。
  • モー・ソーン:判者。除霊・供応は行わないが、病気災厄がピーによるものかを判ずる。
  • モー・ドゥー:占星術師
  • モー・マウ:失物探し師
  • モー・ヤー:薬師
  • モー・ラム:歌手

 北部タイでは、祭祀者の呼び名、役割の異なるものがある。たとえば、プラム、モータムは「供物(米)を捧げる者」を意味するタンカーウ、もしくはコンタンカーウと呼ばれ、バラモン的な性格は弱くなる。    日常的なピー儀礼は必ずしも専門的な知識を必要としない。代々伝わってきた様式、祈祷文によって祭祀を行う。たとえば、田、畑の神(ジャオティ)の祭祀はその土地を耕作する普通の村民が行う。  ただしいくつかの儀礼は祭祀適格者の性別、年齢が決まっている。北部の母系祖先霊(ピー・プーニャー)の中心祭祀者は基本的に一族の最高齢の女性でなければならない。守護霊(ピー・アハック)には、男性が望ましいとされている。また、脱穀における稲魂(クワンカーウ)の儀礼では、はじめの稲は女性の手で脱穀されなければいけない。稲魂はメー・ポーソップという女性の精霊であり、男性が脱穀すると怖がって稲魂が逃げてしまうと信じられているためである。  

[編集] 仏教・バラモン教との習合

仏教、ピー信仰ともに相互に儀礼の中で習合が行われている。ピー信仰内の習合にみに言及すると、儀礼中での経の読経、シャーマンの仏教戒律による修身などあげられる。また、ピー自体の仏陀の弟子としての位置づけが行われていたりもする。(ピー・プーセ・ヤーセ 他)

バラモン教との関連では、タムクワン(スークワン:東北部・北部)儀礼はタイ土着のバラモン教と関係があるが、その際にはピーが召喚される場合がある。

また、1956年、エーラーワン・ホテルの工事中に事故が多発し、作業員が「悪霊がいる」として建設作業を拒否したため、ホテルの経営側がヒンドゥーの神ブラフマーを祭るエーラーワンの祠を設置したのち、工事が順調にはかどったたといわれている話がある。この後、多くの場所でブラフマーが土地神 (พระภูมิ) として悪霊を鎮めるという信仰が広まり、多くのブラフマーの祠が建設されている[5]

[編集] ピー信仰と死霊

人の霊魂に対する考え方には、ピーのほかに、ウィンヤーンクワンなどの概念があり、ピー信仰における死霊は、それらの概念の連関の中で語られる。それぞれの概念をまとめると以下のようになる。

[編集] ピーと死霊

仏教によって輪廻転生の思想が導入されたことから、人が死んでピーになると言う信仰は仏教的な意味合いに於いてはないが、民間信仰であるピー信仰においてはよく見られる。

死霊に関係するピーは、ピー・ダーイホーンは惨死者の霊、ピー・プラーイ (ผีพราย) は産褥死した妊婦の霊であり気性が荒く[1]、生者を取殺すとされている[6]

祖先霊については、祖父母の霊が死後に融合していくと見る説もあるが、一般的には死霊との関係は否定されている。北タイの母系霊(ピー・プーニャー)では、母系の出自に沿って代々、霊が受け継がれる形になっており、その際に先代の死霊とは関係がない。

[編集] ウィンヤーン(วิญญาณ)

人の霊魂であり、死ぬことにより肉体から離れる。葬礼の中で肉体からは離す儀礼が行われる。パーリ語のvinnana()から来ており、より仏教的な意味合いが強い。転生を行う主体である[2]。基本的にはピーにはならない。

ウィンヤーンは死の直後は、ピーであるとも考えられている。周囲の悪霊から影響を及ぼされ悪霊化しやすい状況にあると考えられている。そのため、儀礼により、悪霊化を防ぐ。また異常死や突然死の場合、死者は悪霊化し、近親に厄をもたらすと考えられており、葬送儀礼をせずに速やかに、土葬される[2]

[編集] クワン(ขวัญ)

生きている人間、動物(牛)、植物(米)、物(車、船、町)などに宿るとされる。クワンが抜けたり、弱まったりすると、病気を引き起こす。驚いたときに抜けてしまったりもする。クワンは儀礼によって強化することができる。人間の体の部位に分散して存在するとも考えられ一説では、32カ所に分類されている[2]。船の場合、3ヶ所に分散しているとされる[4]。ウィンヤーンと異なり、死霊との関係は薄い。

[編集] 祭礼

6・7月の満月の夜に3日間に行われるパウェート祭(ผะเหวดもしくはบุญพระเวส:ヴェサンドン祭・マハチャート祭:布施太子を祝う祭り)の中で行われる仮装行列。米を蒸す甑で仮面を作り仮装を行う。縁起はヴェッサンタラ・ジャータカ(布施太子本生経)にあり、布施太子が王都(シーヴィー国)に帰国した際に、森に住む人、精霊がその帰国を喜び、付き従ったとある。ダーンサーイの祭りは、3柱の守護霊(チャオポー・グワン、チャオメー・ナーン・ティアム、セーン)が関連しており、その守護霊の信者集団が祭りを取り仕切っている[7]。一説によると、ピーターコンは、もともと恐ろしい死体であり、守護霊が憑依することで、人々に善を成すものに変えた。それゆえにピー・ターム・コン(人につき従うもの)と呼ぶとされる。ピーターコンは民を安らげ、田を潤す雨を呼ぶとされる。

  • ヨッククルー(北タイ各地)

ランナー暦9月(5月頃)に北タイの各地でピージャオナーイ(ผีเจ้านาย)の憑依儀礼が行われる。依代に霊を下し、託宣、医療儀礼など行う。同様の儀礼は新年である4月に行われることもある。

[編集] 注脚

  1. ^ a b c d 冨田竹二郎 『タイ日大辞典』 めこん、1997年、第三版、pp.984-985。ISBN 9784839601140
  2. ^ a b c d Tambiah, Stanley (1970). Buddhism and the Spirit Cults in North-East Thailand. London: Cambridge University Press. ISBN 9780521078252.  タンバイアは上述のようにピーを善悪二つに分け、さらにピーとテーワダーを対立的に見ている。しかし補足として、一般的に混同して考えられることがあると述べている。タンバイアは善行をなすピーをテーワダーと異なる守護霊 guardian spirits として議論を展開する。
  3. ^ ฉลาดชาย รมิตานนท์ (2527). ผีเจ้านาย. เชียงใหม่: โรงพิมพ์มิ่งเมือง. 
  4. ^ a b Davis, R. B. (1984). Muang Metaphysics : A Study of Northern Thai Myth and Ritual. Bangkok: Pandora, pp.50. ISBN 9789748622606. 
  5. ^ Trilok Chandra Majupuria (1993). Erawan Shrine & Brahma Worship in Thailand, New Edition, Bangkok: Craftsman Press, pp.82-83. ISBN 974874525. 
  6. ^ Manich Jumsai, M.L. (2000). Thai Folktales, Fifth Edition Revised by Chamsai Jotisalikorn, Bangkok: Chalermnit, p.24. ISBN 9789748585666. 
  7. ^ ชไมพร พรเพ็ญพิพัฒน์ (2547). ผีตาโขน มรดกแผ่นดินศรีสองรัก. กรุงเทพฯ: สำนักพิมพ์ที.เจ.เจ., pp.57-68. ISBN 9789749104583. 

[編集] 関連項目