ピット (サーキット)

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左側が通常のコース、右側がピットレーン(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)。

ピット (pit) とは、サーキットに設けられている競技車両の整備を行う施設である。レーシングチームの前線基地となる他、レース運営者の管理機能も併設されている。

レース中にピットで作業をすることを指すピットストップについてもこの項で記述する。

概要[編集]

場所[編集]

通常はコントロールライン[1]が設置されるメインストレートの内側[2]に存在するが、外側にある場合もあり、まれにスウェーデンアンデルストープのように、地形の制約などで、それ以外の位置に存在することもある。

本コースとピットエリアはピットウォールにより区分されており、ピットロードを通じて出入りする。本コースからピットエリアに入ることをピットイン、ピットエリアから本コースに合流することをピットアウトと言う。

施設と名称[編集]

1931年フランスGPのピット風景
ピットウォールがない当時のオスカル・ガルベス・サーキット1957年アルゼンチンGP)。
2005年アメリカGPB・A・Rのピットウォールスタンド
2009年トルコGPルノーのピットガレージ内
サルト・サーキットのコントロールタワー
ピットロード
本コースからピットエリアへの侵入、もしくはピットエリアから本コースへ合流するための連絡路。減速を促すため幅員が狭く、シケインクランクが設置されている場合もある。入口は最終コーナー、出口は1コーナー手前に設けられるが、サーキットによっては安全面から位置をずらす場合もある。
ピットレーン
ピットエリア内の通行路。ピットウォール寄りを高速レーン(ファストレーン)、ピットガレージ寄りを内側レーン(インナーレーン)に分けている。ファストレーンはアスファルト舗装だが、インナーレーンはコンクリートの場合が多い(作業中に燃料がこぼれた場合、アスファルトは表面が傷むため)。
ピットウォール
本コースとピットエリアを区分する壁。1960年代までは設置されないことが多かったが、アクシデントにより競技車両がピットに飛び込むと危険なため、現在は設置が義務付けられている。
スタート台
レースディレクターが競技者に対して指示を行う場所。スタート時には車列の準備が整っているか確認し、スタートシグナルの点灯を操作する(ローリングスタートの場合はグリーンフラッグを振る)。レース中には状況に応じてセーフティカー(ペースカー)の導入やレッドフラッグ(走行中断)、ブラックフラッグ(ピットイン命令)などを提示する。
サインボードエリア
メインストレートを走行中の車両に対して情報伝達板(サインボード)を提示する場所。各チームのピットガレージ前に割り振られている。
ピットウォールスタンド
ピットガレージとは別に設営されるレース中の「司令基地」。各種情報モニターや通信機器が設置されており、チームの監督やレース・ディレクターなどは、この場所に陣取り指揮を執ることが多い。
ピットガレージ
主に競技車両の修理や各種作業を行う場所。ロードコースの場合は屋根付きの常設施設であるが、市街地コースでは仮設することもある。ガレージのないカートコースでは、テントを貸し出している。ガレージはピットレーンに沿って縦長に並んでおり、チームごとに均等なスペースが割り振られている。並びは申し込み順や抽選、チームランキング順など様々である。
ガレージ内の装備はカテゴリ・チームによって異なる。工具・スペアパーツなどの他に、各種データ解析用のコンピュータを備えることもある。人気カテゴリではメディアへの露出を計算して、壁面にスポンサーの広告が描かれていることが多い。
かつてはガレージとピットレーンの間にもウォールが設置されていた。NASCARインディカーが開催される北米のサーキットは、現在でもこのタイプが多い。
パドック
ピットガレージの裏手にあるスペース。トランスポーターモーターホームを駐車して、運搬してきた車両や資材をピットガレージに搬入する。レース期間中は、各チームの関係者が顔を合わせる社交場にもなる。
コントロールタワー
空港における管制塔の役割を持ち、見晴らしの良い高層建築となっている。サーキットの管理者(オーガナイザー)や競技委員(オフィシャル)、審議委員(スチュワード)が駐在し、レースの運営や裁定を行う。メディカルルームやミーティングルームも設営されている。
車両検査所
競技車両が重量・寸法などの技術規定に適合しているか車両検査を行う場所。各チームが競技車両を持ち込んでチェックを受ける。通常はピットレーン入口の1番ガレージがあてがわれる。
パルクフェルメ
不正が行われないよう車両をチームから隔離し、一時保管する場所。セッション間に仕様変更を認めない場合、ここに預かって監視する。
表彰台
レース上位3名の表彰式を行う。パルクフェルメから移動しやすいよう、車検場の上のテラスにあることが多い。
リーダーズボード
周回数と走行順位(車両番号)を表示する掲示板。かつては黒板にチョークで手書きしたり、プレートを入れ替えたりしていたが、現在は電光掲示板が主流となっている。

安全性[編集]

ピットレーンは競技車両とチームスタッフが接近しているため危険である。ピットレーンを車両が通過する際には、警笛を鳴らして安全確認を促す。火災発生の危険性もあるため、消防設備が用意されており、燃料の保管は厳重に行われる。

レース中のタイヤ交換などで各車が同時にピットストップする場合は、ピットレーンが混雑して危険度が増す。猛スピードでピットストップ作業を行うため、ピットクルーが跳ねらたり、轢かれたりして負傷するアクシデントも起こる。

1993年のロードレース世界選手権スペイングランプリでは、250ccクラスに出場した若井伸之がピットレーンに飛び出した観客を避けようとして転倒し死亡するという事故が起こった。

ピットへの入場[編集]

レース関係者以外の観客はピットエリアには入場できない。ただし、チームの招待客はパドックパスを受け取れば、パドックやピットガレージの屋上に入ることができる。パドックパスはチームが運営側に事前申請して発行されるもので、スポンサーへの接待などに使われ人気がある。

また、一般客へのサービスとして、レース開催前や開催後にピットレーンを開放するピットウォークという時間が設けられている。ピットガレージ前では競技車両の展示やレーサーのサイン会、ピットストップ作業の速さを競うコンテストなどのイベントが催される。

ピットでのルール[編集]

禁止行為[編集]

  • 走行中はマーシャル以外、ピットウォールを超えて本コース側へ立ち入ることができない。
  • ピットレーンは一方通行であり、逆走(もしくはリバースギアを使用する後進)はできない。ピットガレージに車両を後ろ向きに入れる場合は、エンジンを切り、クルーが手押しで作業する。
  • ピットレーンのファストレーンに車両を停めることはできない。ピットストップ作業などは、インナーレーンのピットガレージ前の指定場所(ピットボックス)に停車して行う。
  • ピットレーン走行中に追い抜きはできない(停車中の車両を追い越すことはできる)。
  • ピットロードとピットレーンの境界には白線が引かれており、ピットレーン区間では制限速度以下で走行しなければならない。制限速度はピットレーンの長さや幅によって異なる。ピットレーンには自動速度違反取締装置が設置されており、速度制限をオーバーするとペナルティが科せられる。

ピットの開放と閉鎖[編集]

  • ピットロード入口とピットレーン終了地点には信号機があり、赤信号の場合はピットインもしくはピットアウトすることができない(ピットレーンクローズド)。
  • フリー走行や予選では、スケジュールの開始時刻にピットレーン出口が開放される。予選で天候の悪化が予想される場合などは、ピットレーン出口に縦列駐車して開始時刻を待つことができる。
  • レース開始前の所定時間にはピットレーン出口が閉鎖される。それまでにピットアウトできない車両は、正規のスターティンググリッドに付くことができない。この車両はピットレーン出口に停車してスタートを待ち、本コース上の車両が全て通過してからレースへの合流が認められる(ピットスタート)。
  • レース中に全区間減速走行(フルコース・コーション)が指示された場合、ピットは一旦閉鎖状態とされ、青信号が表示されるまでピットインすることはできない。

ペナルティ[編集]

レース中の反則についてはピットレーンを通過することで、科せられることが多い。ピットレーンは制限速度が設けられているためタイムロスをさせるのが目的である。

ドライブスルーペナルティ
ピットイン・アウト時に白線を踏むなどの軽い反則に対して、科せられる。ピットレーンを通過しなくてはならない。その際はピット作業をしてはいけない。ただしNASCARのように同時にピット作業が認められている珍しい例がある。
10秒ストップペナルティ
ピットレーンがオープンとなる前に給油をした (F1) など反則に対して科せられる。ピットレーンを通り、通常のピットインのときに止まる場所、または、決められた場所で、10秒間停止しなくてはならない。

ピットストップ[編集]

戦術的なピット作業[編集]

レース中に競技車両がピットインする際、カテゴリにより内容は異なるが、おもに次のような作業が行われる。

  • ドライバー / ライダーの交代
  • 故障やアクシデントにより傷んだパーツの修理・交換
  • セッティングの調整
  • タイヤ交換
  • 燃料再給油

長時間走行する耐久レースでは、ルーティーン作業としてレース中に何回も行われる。走行距離の短いスプリントレースでも、燃料搭載量を軽くし新品タイヤに履き替えることでラップタイムを稼げることから、ピットストップ作戦が普及している。ピットストップのタイミングはおおむねタイヤの磨耗状況や燃料残量によって決まるが、ピットレーンの長さ(=ピットでの所要時間)や、コースに復帰した際の他車との位置関係なども検討材料となる。レース終盤までピットストップを遅らせ、僅かな燃料を注ぎ足す作戦のことを「スプラッシュ&ゴー」という。

コース上ではコンマ数秒レベルの競り合いを行っているため、ピットストップでの数秒のタイムロスがレース結果に影響することがある。マシンの性能やレーサーの技量とは別に、ピット作業ではチームの組織力が問われる。ピットストップ専用の装備を用意し、訓練を重ねることもレースの一部である。

ピットストップ作業を担当するチームスタッフはピットクルーと呼ばれる。マシンの整備を行うメカニック達が担当し、役割分担が決められている。同時に作業できる人数は規定されており、1人で何役もこなす場合もある。給油時の火災発生などの危険が伴うため、ピットクルーにはヘルメットや防火スーツの着用が義務付けられている。

フォーミュラ1[編集]

フォーミュラ1の場合、決勝レース中、1回のピット作業で約20人が同時に作業する。

1994年から2009年までの間は決勝レース中に給油が認められていた。給油注入量が1秒あたり12リットル以下と制限されていたため、ピットイン時間は速くても5秒、長い場合はミスのない場合でも10秒程度かかっていた。2010年以降はタイヤ交換のみとなり、所要時間は3秒程度となっている。トップチームは2秒台で完了する。

ピットクルー[編集]

  • ロリポップマン(1人) : ロリポップと呼ばれる先に標識のついた2m程度の長い棒を持ち、ドライバーに停止位置を示したり、作業進行に合わせ1stギアに入れ待機するよう指示したりする。作業完了を確認するとロリポップを上げて発進を指示する。ロリポップとは所謂ペロペロキャンディで、見た目が似ている事からこう呼ばれる。
  • ジャッキ担当(前後1人ずつ、合計2人) : ジャッキを使い車両を持ち上げる。F1マシンは重量が軽いため(ガソリンを含め約700kg)、人力のジャッキで持ち上げられる。なお、パワーアシスト式ジャッキの決勝レース中のタイヤ交換での使用は禁止されている。
  • タイヤ交換(1つのタイヤにつき3人、合計12人) : 1人はインパクトレンチを使い、タイヤをとめてあるナットを取り外し、新しいタイヤをナットでとめる。1人はナットを取ったタイヤを外す。1人は新しいタイヤをはめる。ただし、ルノーのように、一人がインパクトレンチとオールドタイヤを取り外す役目でもう一人がニュータイヤを取り付けるというふうにひとつのタイヤに2人の場合もある。
  • スターターマン(1人) : フォーミュラカーにはスターターが内蔵されていないので、エンストした場合に、スターターを使いエンジンをかける。

ほかにも、インテークラジエターのゴミを取り除いたり、フロントやリアのウイングの角度を調整するなど様々なことが行われる。

給油が許可されていた頃は、以下の担当もいた。

  • フュールマン(3人) : 燃料給油を担当する。1人は給油ホースの先端のリグを持ち、給油が終了するときに抜く。もう1人がその給油ホース先端を持つクルーとホースを支え、もう1人は給油ホース全体を支える。
  • 消火器マン(数人) : 燃料の給油口は、高温になっているエキゾーストの近くにあるので、燃料が漏れ、エキゾーストに触れると発火するので、発火した際すぐに消火できる様、消火器を持ち待機する。

フォーミュラ・ニッポン[編集]

フォーミュラ・ニッポンでは日本レースプロモーションの定める内部規則により、1台あたり最大8名(日本自動車連盟によるフォーミュラ・ニッポン統一規則では最大12名)と限られている。

ピットクルー[編集]

  • ロリホップマン(1人)
  • タイヤ交換(3人)3人で2つのジャッキアップダウンと、4つのタイヤ交換をしなくてはいけないため、前ジャッキ→右(左)前タイヤ→右(左)後タイヤ→後ジャッキ→左(右)後タイヤ→左(右)前タイヤ→右(左)前タイヤ(前ジャッキ)と、クルーがマシンの周りを回るようにして作業する。
    • 前タイヤから前タイヤに移動する場合は、マシンの前を迂回していくと時間がかかるため、レーシングカーのノーズ部分に手を突き、 軽業師のようにレーシングカーを跳び越すのが一般的である。
  • フュールマン(2名) : 1人は燃料給油用ホースを、1人は燃料タンク内の空気抜き用ホースを持つ。
  • 消火器マン(2名)

SUPER GT[編集]

ARTAのピット作業。

SUPER GTでは作業できる人数が限られていて、全員が同時に作業をすることが認められていない。また、SUPER GTは2名のドライバーで1台のマシンを運転するのでドライバーの交代も同時に行われる。

ピットクルー[編集]

  • ジャッキマン : GTカーは市販車を改造したものなので、車重が重く(約1,100kg)機械的なものでしか持ち上がらないため、エアジャッキが内蔵されていて、エアジャッキに空気圧を入れるホースを差し込む。タイヤ交換が終了すると、ホースを抜き、ドライバーに発進を示す。
  • タイヤ交換(右側のタイヤに1人、左側のタイヤに1人、合計2人)
  • フュールマン(1人)
  • 消火器マン(数人)

ほかに、フロントガラスを拭くなどが行われる。作業は、タイヤ交換と燃料給油は同時に行うことが出来ない。しかし、前タイヤのみ、後タイヤのみの交換も可能である。

NASCAR[編集]

NASCARスプリントカップ・シリーズのピット作業(2008年)

NASCARにも作業人数の限定があるが、全員での同時作業は認められている。しかしウォールの外側からの補助が可能になっているのが特徴。作業時間は4タイヤチェンジで12 - 16秒、2タイヤチェンジで5 - 7秒、スプラッシュ・アンド・ゴーで2 - 3秒かかる。

ピットクルー[編集]

  • ジャッキマン(1人) : エアジャッキなどの使用は禁止で、ガレージで使われるような油圧式ジャッキで片側ずつ持ち上げる。片側とは言え、車重が1560キロある車体を2ストローク半でタイヤが抜ける高さまで持ち上げるという重作業である。
  • タイヤ交換(前後2名ずつ) : 片方はインパクトレンチでタイヤの脱着と古いタイヤの取り出し、片方が新品タイヤのキープと、外された古いタイヤをウォール外へ転がしていく役目である。レギュレーション上車体が片側ずつしか上げられないため、外側→内側と行う。
  • 燃料補給(2名) : 片方が燃料を入れ、もう片方が2本目の燃料缶を持つ。1本12ガロン(約37キロ)を担ぐという厳しいポジション。
  • エキストラマン(1名) : フロントウィンドウの捨てシールド剥がし、フロントバンパー開口部のゴミ落とし、ラチェットレンチを用いてシャーシーアジャストなどを行う。
  • サポートクルー(2 - 3名) : ウォール外から右サイド用タイヤを用意するなど、ピット作業の補助を行う。

インディカー[編集]

インディカー・シリーズでは6人で作業を行うが、一部のクルーには複数の役割が与えられている。またNASCAR同様ウォールの外側からの補助が可能になっている。作業時間は6 - 9秒かかる。

ピットクルー[編集]

  • タイヤ交換(1つのタイヤにつき1人、合計4人)
    • ピットウォールから遠い方のリアタイヤを担当するクルーは、マシンが停車するとエアジャッキに空気を送り込む「ベントホース」を差し込む。また、この担当だけは事前にタイヤの横で待機することが出来ない。
    • フロントタイヤを担当するクルーは、必要に応じてフロントウィングの角度を調整する。
    • さらに右フロントタイヤ担当のクルーは、作業が完了するとドライバーに発進の指示を出す。
  • 燃料補給(1人) : ベントホースが差し込まれた後、エタノール燃料をタンクに供給する。
  • サポートクルー(1人) : 給油が完了した後、水を噴射してマシンに付着したエタノールを洗い落とす。ウォールの外側から作業を行う。

脚注[編集]

  1. ^ 順位やラップタイムの計測を行う周回区分の基準線。
  2. ^ 左回りのサーキットの場合は進行方向に対して右側、右回りの場合は左側。

関連項目[編集]