ビリー・ミリガン

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ビリー・ミリガン (Billy Milligan, William Stanley Milligan, 1955年2月14日 - ) は、アメリカ合衆国生まれの男性で、オハイオ州の強盗強姦事件で逮捕・起訴されたが、彼は解離性同一性障害(多重人格障害)を患っていると主張、裁判で多重人格と事件の関わりにおいて注目され有名になった。日本でもダニエル・キイスの著作によりその名を広く知られることとなった。現在は名前を変えて生活している。

事件の概要[編集]

以下の内容は関連書籍のダニエル・キイスの小説による。

ビリーは、1977年に、オハイオ州立大学キャンパス内にて、三人の女性に対する連続強姦及び、強盗の容疑で逮捕された。裁判の計画を進める中、弁護士との打ち合わせの際に自分はビリーではなく、ビリーは今眠っていると証言する。ビリーの担当弁護士となったジュディ・スティーヴンスンは不信を持ち、接見を通して彼の異常性に気付く。裁判を受けられる能力に疑問を持ったジュディは、検事や精神科医などを呼ぶ。その後の調査により彼は、ビリー(基本的人格)、デイヴィッド、ダニー、トミー、アレン、同性愛者のアダラナ(女性人格)、イギリス訛りのアーサー、レイゲンなど、合計 23 人の人格を持っていることが明らかとなった。

元々の人格であるビリーは、小さい頃実の父親(ジョニー・モリスン)が自殺し、その後義父(チャーマー・ミリガン)に縄で縛られ吊るされるなどの身体的虐待や挿入を含む性的虐待を受けており、その影響で人格が複数生まれることになる。自分の与り知らぬところで時間が進んでいることにわけの分からなくなったビリーの人格は、17歳の時にビルの屋上から飛び降り自殺を図る。しかし、飛び降りる直前にレイゲンが彼を止め自殺は失敗し、長い間眠らされる事となった。

その後、犯罪を好むケヴィンの人格が薬局強盗事件を起こして逮捕され、約一年半刑務所に服役する。刑務所のような場所では強いレイゲンがスポット(後述)を支配するようになる。仮釈放になった後は複数の人格が入れ替わる状態が続いていたため、定職について生活を営むことができなかった。まずアダラナが花屋でアルバイトを始めるが、客の目の前で突然他の人格と入れ替わり、客に迷惑をかけたため解雇されてしまう。その後、トミーが工事現場でアルバイトも始めるが、そこでもまた突然他の人格と入れ替わって仕事を嫌がり、解雇されてしまう。そしてキャンパス婦女強姦強盗事件の前にトミーが機械の補修員の仕事に就くが、勤め先の上司と折り合いが悪くなり解雇されてしまう。勤め先の住居にも居られなくなった後、ある時レイゲンが目を覚ますと大量の請求書(車や家具などの)を見つける。その支払いをする為にレイゲンが強盗を計画し、オハイオ州立大学に到着する。しかし薬の影響の為に他の人格にスポットを与えてしまい、キャンパスにて人格が突然入れ替わり、強姦強盗を合計三件犯してしまう(まずアダラナとなって女性に近寄り、その後フィリップが現れてその女性を車で人気のない林へ連れ去って乱暴し、その後ケヴィンがその女性を脅して銀行へ連れて行き、小切手を現金化させ奪った)。レイゲンの人格に戻ると、手元に札束があったため、誰かが上手くやったと思った。しかしまた他の人格が別のこと(請求書の支払いや画材購入など)に使ってしまい、この繰り返しとなる。警察に逮捕された彼は、検事署内で多重人格だと知られる。

真似できないようなイギリス訛りの人格(アーサー)や、煙草を吸う愛想の良い人格(アレン)などそれぞれの人格に入れ替わり、でまかせとは思えないものだったため検事官や弁護士、精神医学者には演技ではないと信じられた。

人格アレンの証言によると、脳内のスポットと呼ばれる一点を中心として各人格が立っており、スポットに立つ人格が意識を持つ。比較的安全である場所ではアーサー、刑務所内や検事署内などビリーにとって危険である場所では、レイゲンがどの人格をスポットに立たせるかを決めるという。なお、このとき基本人格ビリーは、目を覚ますと自殺をする恐れがあるため寝かせたままだという。

1978年3月からハーディング病院にてビリーの精神治療が開始された。何とか法廷で証言できる程度に人格を安定したビリーは1978年12月に裁判で無罪を言い渡された。 その後、アセンズ精神衛生センターの精神医学者による本格的な治療が行われ、24人目の人格、「教師」と名乗る統合人格が生まれた。精神医学者は、彼が最も本来の人格に適していると結論づけ、彼を本来の人格とした。

しかし、彼を危険視する政治的圧力によって、1979年10月に環境劣悪な州立ライマ病院へ移転させられ、そこでビリーは病院による虐待を受けることとなる。 ライマ病院から移動した後も環境の劣悪な病院を転々とさせられ、周囲の反対を押し切って結婚した女性との破局や、彼の身を自由にすることに対してのマスコミの非難によって彼の人格は分裂と統合を繰り返す。 彼がアセンズ精神衛生センターに戻ったのは1982年4月であった。

1985年2月にビリーを危険視する勢力が無実の罪を口実にして警察にビリーを逮捕させる。ビリーはアセンズ精神衛生センターからモリッツ司法ユニットに移され、適切な治療を受けられずに精神が分裂し始める。それを悲観したビリーはそこから脱走したが、結局逮捕される。絶望したビリーは断食による自殺を試みたが、それに慌てふためいたモリッツ司法ユニットは彼の待遇を改善したので、ビリーは断食をやめた。

彼の人格は長い年月をかけ安定し、裁判所は1991年8月に彼の精神が安定したとし、彼を解放した。

彼の人格達[編集]

以下の内容は関連書籍のダニエル・キイスの小説による。

名前 英名 年齢 性別
ビリー・ミリガン / ウィリアム・スタンリー・ミリガン Billy Milligan / William Stanley Milligan 26歳
核となる人格。他の人格の存在を知らず、自殺を図ったにも関わらず生きていることにより精神不安定に陥る。
アーサー Arthur 22歳
上流階級のイギリス人。合理主義者で両手の指先同士を合わせて喋り、流暢なアラビア語を読み書きできる。人当たりが良く知識もあるが、自らスポットに立とうとはしない。危険の無い場所では彼が人格たちのリーダーとなる。知的な話しぶりとイギリス訛りによって半信半疑であった判事らに多重人格者あることを確信させた重要な人物の一人。
レイゲン・ヴァダスコヴィニチ Ragen Vadascovinich 23歳
憎悪の管理者。彼の名前は "Rage Again" (再度の憎悪)からとられた。ユーゴスラヴィア人。銃と弾薬の権威で、空手の達人、怪力の持ち主でアドレナリンの分泌を操ることが可能。アーサーと対をなす人格で、刑務所を含め危険な場所では彼が人格たちのリーダーとなる。そのため街のならず者たちとの交流も深く、状況によっては暴力による解決を認めている。スラブ訛りの強い英語を話す。
アレン Allen 18歳
唯一煙草を吸い、右利き。愛想が良い性格で、口先がうまく外部の人間との交渉を担当する。肖像画を描く。母と親密。
トミー Tommy 16歳
喧嘩っ早い縄抜けの名人で、ビリーが義父から虐待を受け、縄で縛られた際に誕生した人格。風景画を描く。電気の知識に長けている。
ダニー Danny 14歳
いつも怯えている。父親の虐待のせいで屋外を恐れている。静物画が得意。
デイヴィッド David 8歳
苦痛の管理者で、他の人格が受けた苦痛を負う役で何もわからずただ泣く。他の人格から愛されている。
クリスティーン Christene 3歳
イギリス人の少女。隅の子供。失読症。ビリーの中で最初に誕生した人格(実父がビリーの目の前で自殺未遂をした際に誕生)。
クリストファー Christopher 13歳
クリスティーンの兄。コックニー訛りがある。ハーモニカを吹く。
アダラナ Adalana 19歳
レズビアン。孤独で内向的。詩を書く。強姦事件に関与したため後にスポットを追われる。他の人格のために家事を行っている。
教師 Teacher 26歳
裁判で無罪が確定した後、アセンズ精神衛生センターの治療によって誕生した統合人格。統合前の全人格の記憶をほぼ完全に覚えている。しかし、周囲・マスコミに追い込まれる中で安定して教師が意識を支配するには長い年月がかかった。現在のビリーである。注意すべきは「統合」と言っても教師が他の人格を制御できるようになっただけで他の人格と完全に融合したわけではない。
以下、13 人の『好ましくない者たち』。アーサーに押さえ込まれている。
フィル / フィリップ Phil / Philip 20歳
乱暴者。強いブルックリン訛り。犯罪を犯している(強姦事件の張本人)。
ケヴィン Kevin 20歳
犯罪を好む男。薬局強盗事件を起こし逮捕され、刑務所に服役する。その後強盗事件の張本人となる。
ウォルター Walter 22歳
オーストラリア人。生まれながらの猟師で方向感覚が抜群。
エイプリル April 19歳
ボストン訛りがある。義父に対する復讐心が強い。
サミュエル Samuel 18歳
正統派ユダヤ教徒で、全人格で唯一の神を信じる人格。
マーク Mark 16歳
自主性がない。働き者。他の人格に命令されなければ何もしない。
スティーヴ Steve 21歳
人々の真似をして喋る。常に人を嘲る。
リー Lee 21歳
悪ふざけを好むコメディアン。
ジェイスン Jason 13歳
癇癪を起こす“安全弁”。
ボビー / ロバート Bobby / Robert 17歳
夢想家。自信が無く現実的な行動力に欠けている。
ショーン Shawn 4歳
耳が不自由で蜂に似た音を出す。ビリーの中で 2 番目に誕生した人格(ビリーが幼い頃に花瓶を落として割ってしまい、母に叱られそうになった際に誕生)。
マーティン Martin 19歳
俗者のニューヨークっ子。
ティモシー / ティミー Timothy / Timmy 15歳
花屋につとめるがそこでゲイの店長に関係を迫られ心を閉ざしてしまった。

解放後〜現在[編集]

1991年に解放されたビリーは名前を変えてカリフォルニアで生活していた。英語版記事によると、1996年に映画会社"Stormy Life Productions"を運営していた。その会社でショートフィルムを制作する予定であったが、実際には何も作らなかったと書かれている。

2009年12月に日本のテレビ番組『ザ!世界仰天ニュース』にてビリー・ミリガンの特集が放送された。実際の貴重な映像(人格交代する映像など)と再現ドラマを交えた内容であった。

しかし、ビリー・ミリガンに対する誤解を招きかねない致命的な誤りが二つあった。

  1. 最初に誕生したビリーの交代人格がショーンである(正しくはクリスティーン)
  2. ビリーの実父が服薬自殺した(正しくは、服薬自殺は未遂に終わった。その後、実父は自動車の排気ガス中毒で自殺する)

この番組の内容だと母親に叱られた影響で多重人格になったことになるが、実際には家庭環境と実父の自殺未遂の影響で最初の交代人格クリスティーンが誕生したのである。この番組の最後にビリー・ミリガン本人がビデオ出演した際、彼は未だに「自分は多重人格だ」と証言しており、今は他の人格を自身がコントロールしているだけであると言う。

彼をモデルにした映画 "The Crowded Room" が、2008年にアメリカで公開予定とされたが、延期され、2010年に公開予定となった。しかし、未だに公開されていない。

英語版記事によると、2012年現在、住所が不明でかつての知人との連絡も絶っているとのことである。

関連書籍[編集]

  • ダニエル・キイス著 『24人のビリー・ミリガン』 The Minds of Billy Milligan 、上巻ISBN 4-15-110104-7 下巻ISBN 4-15-110105-5 - 本人へのインタビューや関係者の証言、裁判記録などの資料に基づくビリー・ミリガンの前半生のノンフィクション。裁判の判決、アセンズ精神衛生センターでの治療、政治的圧力による州立ライマ病院への移転が決まるところまで。
  • ダニエル・キイス著 『ビリー・ミリガンと23の棺』 The Milligan Wars - 上巻ISBN 4-15-110106-3 下巻ISBN 4-15-110107-1 - 上記の後、ライマ病院での死闘、批判勢力との戦い、長年の治療による精神の安定が語られる。日本で1994年に出版されたが、アメリカでは未だに出版されていない(2012年現在)。英語版記事によると、ビリーがライマ病院で受けた虐待を巡っての裁判が継続中とのことで現時点で出版できないらしい。