ヒノオビクラゲ

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ヒノオビクラゲ
Marrus orthocanna.jpg
分類
: 動物界 Animalia
: 刺胞動物門 Cnidaria
: ヒドロ虫綱 Hydrozoa
: クダクラゲ目 Siphonophora
: ヨウラククラゲ科 Agalmatidae
: ヒノオビクラゲ属 Marrus
: ヒノオビクラゲ M. orthocanna
学名
Marrus orthocanna
(Kramp, 1942)[1][2]

ヒノオビクラゲ(学名 Marrus orthocanna)は漂泳区分帯に生息するクダクラゲの一種で、多数の個虫からなる複雑な群体を形成する。個虫はポリプ体やクラゲ体の形態をとる。北極などの冷たく深い海の洋心に遊泳する[3]

特徴[編集]

長い「幹(かん)」によって繋がれた多数の個虫からなる群体を形成するのは、クダクラゲの例にもれない[3][4]。先端には気体が詰まり浮き袋となる橙色の「気泡体」がある。これに、末端の閉じない赤い管が放射状についた透明な泳鐘が連なる「泳鐘部」が続く。泳鐘は釣鐘型をしたクラゲ体で、収縮して水を押し出すことで群体が移動するのに使われる。収縮は組織的に行われ、前進・併進あるいは後退することができる。ほか「サイフォソーム」(siphosome) という部位を持ち、この部位の個虫はほとんどがポリプ体で、長い足を持ち、餌を捕らえるのに使われる。足のないサイフォソームの個虫は、集めた食物を消化し、栄養を群体全体で共有させる役割を持つ。サイフォソームにはポリプ体のほか、繁殖能力を持つクラゲ体や、他の機能を持つ個虫もある。群体の個虫は、さまざまな形態のものが同じ繰り返しパターンで並んだものである[3][4]

分布・生息域[編集]

北極海太平洋北西部・ベーリング海オホーツク海大西洋北部・地中海の中深層漂泳区分帯に分布する[5]。水深200から800メートルでみられる。最も深いところでは、水深約2000メートルで観測されている[4]。この程度の水深では水温は約 4 °C で、水面からの光はほとんど届かず、人間による観察は潜水調査船によるものに限られる[6]

生物学[編集]

体長は数メートルに達し、足は各方向50センチに及ぶ。小刻みに前進し、停止してから、付近を通り過ぎる生物を捕食するための足を伸ばす。肉食性であり、餌は主にエビ類オキアミカイアシ類アミなど小型の甲殻類であると考えられている[4]

群体の発生は一個の受精卵から始まる。生まれた幼体は出芽により増殖し、遺伝的に同一な個虫からなる群体を形成していく。幼体は最初細長く延びてゆき、中節部分が幹となる。口と反対側の端が気泡体となる。次に幹に生長する部分ができ、そこで出芽が起こって泳鐘が形成される。さらに幹は長くなり続け、その上に個虫ができていく。生長する部分がもう一つでき、サイフォソームが形成されて、幹の伸長に伴い下のほうに位置するようになる[3]。各個虫による役割分担は、深海での生存競争で有利になるよう進化した結果である。ヒノオビクラゲのような生物は、個虫がそれぞれ単独では生存することができず、完全に独立したポリプ体と、完全な群体生物の中間であるといえる[7]

出典[編集]

  1. ^ Marrus orthocanna (Kramp, 1942)”. ITIS. 2010年10月15日閲覧。
  2. ^ Mapstone, Gill (2010年). Schuchert, P.: “Marrus orthocanna (Kramp, 1942)”. World Hydrozoa database. World Register of Marine Species. 2010年10月15日閲覧。
  3. ^ a b c d Dunn, Casey (2009年). “Siphonophores”. 2011年10月1日閲覧。
  4. ^ a b c d Raskoff, Kevin; Hopcroft, Russ (2010年). “Marrus orthocanna”. Arctic Ocean Diversity. School of Fisheries and Ocean Sciences, University of Alaska Fairbanks. 2011年10月1日閲覧。
  5. ^ Mapstone, Gillian M.; Arai, Mary N. (2009). Siphonophora (Cnidaria, Hydrozoa) of Canadian Pacific waters. Ottawa: NRC Research Press. pp. 117–121. ISBN 978-0-660-19843-9. http://books.google.co.uk/books?id=8epLkhYnBGYC&pg=PA117 2011年10月2日閲覧。. 
  6. ^ Bathyal zone”. Encyclopædia Britannica. 2011年10月2日閲覧。
  7. ^ Wilson, David Sloan; Wilson, Edward O. (2008). “Evolution "for the Good of the Group"”. American Scientist (74): 380–389. http://evolution.binghamton.edu/dswilson/wp-content/uploads/2010/12/American-Scientist.pdf 2011年10月2日閲覧。. 

外部リンク[編集]