パンスペルミア説

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パンスペルミア説のイメージ図

パンスペルミア説(パンスペルミアせつ、panspermia)は、生命の起源に関する仮説のひとつで、生命宇宙に広く多く存在しており、地球の生命の起源は地球ではなく、他の天体で発生した微生物芽胞が地球に到達したものであるという説。

アレニウス[編集]

1903年には、スウェーデンのスヴァンテ・アレニウスが唱えた[1]

1905年にはアインシュタイン光量子仮説でノーベル賞を受賞したが、その3年後の)1908年アレニウスは自著『世界のなりたち』を出版。そこにおいて、パンスペルミアが、隕石に付着せずとも、それ自体として、恒星からの光の圧力(放射圧、光圧)で宇宙空間を移動する、とする説を提示した[2]。この説を「光パンスペルミア(説)(radio-panspermia)」と言う[2]。地球の位置における太陽光の光圧は5マイクロパスカルにすぎないが、宇宙空間に浮かぶ小さな物体を動かすことは可能かも知れないのである[2]。100年前は光圧を用いた太陽帆の実証実験など全く行われていない段階だったので、アレニウスは(ブラックホール研究でも名高い)シュヴァルツシルトの推算値を提示することで説を補強した。その推算値によると、太陽放射の影響を最も受ける球体の大きさは160ナノメートル (nm) だと計算した[2]。(なお、アレニウスの時代には微生物の最小の大きさは200~300nmと考えられていたが、現在では200nmをやや下回るくらいだと考えられるようになっており、シュヴァルツシルトによる推算値に近づいてきている[2]。)

(なお、アレニウスの「光パンスペルミア」と対比して、隕石などに付着した生命の種子に起源がある、とする説のほうは「弾丸パンスペルミア (ballistic-panspermia)」や「岩石パンスペルミア (litho-panspermia)」と言う[2]。)

光パンスペルニアにせよ弾丸パンスペルミアにせよ、微生物が地球にたどりつくには宇宙の超低温に耐えなければならない。海王星の温度は当時マイナス220度と推定されていたので、アレニウスは微生物が液体空気のマイナス200度で半年以上耐え続けられることを実験で示して例証のひとつとした[2]。生命現象を化学現象の一種だととらえるならば、温度が低いほど生命の過程もゆっくり進むことになる、とアレニウスは洞察し、室温10度で1日で死ぬ微生物の場合、海王星のマイナス220度ならば死滅するのに300万年かかる、と試算した[2]

トムソン、ヘルムホルツ[編集]

ウィリアム・トムソンもパンスペルミア説を唱えた。ウィリアム・トムソンを嫌っていたツェルナーは、トムソンの様々な説を批判し、トムソンの支持したパンスペルミア説も批判した。「大気圏突入の熱に耐えられない」と攻撃した。トムソンの仲間のヘルムホルツはトムソンの説を擁護。隕石の深部の温度は上がらないので大丈夫、隕石表面の微生物や大気圏突入時に隕石が割れた部分の微生物は大気圏の摩擦で振り落とされゆっくり落ちるのでショックは小さい、と擁護した[3]

フレッド・ホイル[編集]

1978年にはフレッド・ホイルが、生命は彗星で発生しており彗星と地球が衝突することで地球上に生命がもたらされた、とした[1]

クリックとオーゲル[編集]

1981年にはフランシス・クリックレスリー・オーゲル英語版が、高度に進化した宇宙生物が生命の種子を地球に送り込んだ、とする仮説を提唱した[1]。「地球が誕生する以前の知的生命体が、意図的に“種まき”をした」とする説は「意図的パンスペルミア」と呼ばれている[4]。これは、一般的なセンスではまるでSFのネタのようにも聞こえる説ではあるが、クリックはこの説の生物学的な根拠を提示した[4]。現在の地球上の生物でモリブデンが必須微量元素と重要な役割を果たしているが、クロムとニッケルは重要な役割を果たしていない。だが、地球の組成はクロムとニッケルは多いのだが、モリブデンはわずかしか存在しない。これは、モリブデンが豊富な星で生命が誕生した名残だと考えることができる、としたのである[4]。もうひとつの論拠として、地球上の生物の遺伝暗号がおどろくほどに共通したしくみになっているのは、そもそも「たったひとつの種」がまかれて、その種から地球上の全ての生物が変化していったのだ、と考えられる、としたのである[4]

可能性を支持する根拠の強化[編集]

ヴィクトール・ヘスが宇宙線を発見すると、「パンスペルミアは宇宙線で死滅してしまうのでは」と否定的に見られた。だが、隕石内部は宇宙線から守られている、とされるようになった。その後も、1980年代に火星起源の隕石が地球に到達していることが発見され、「天体衝突によって岩石が惑星間を移動する可能性がある」とされるようになり、また科学誌NatureScienceに、「大気圏突入の過熱や衝撃に微生物は耐えうる」とする論文などが発表され、岩石パンスペルミア説の可能性に関して成熟した検討を行うことが可能になった[5]

たんぽぽ計画[編集]

パンスペルミア説を検証するために、日本の共同チーム(代表は東京薬科大学の山岸明彦)によってたんぽぽ計画が進められている。これは2015年5月からおこなわれるもので、国際宇宙ステーション (ISS) の実験棟「きぼう」の船外に「超低密度エアロゲル」という寒天状の物体を取りつけ、それで宇宙空間を漂う(高速で飛んでいる)微小な隕石や粒子を捕集し、そこに生命の材料になるような有機化合物が含まれるか調べ、そうした物質が宇宙空間を移動している可能性があるのか調査するのである[6]

参考文献[編集]

  • 長沼毅『生命の起源を宇宙に求めて: パンスペルミアの方舟』化学同人、2010年、ISBN 4759813365
  • 中村運『生命科学の基礎』化学同人、2003年

脚注[編集]

  1. ^ a b c 『生命科学の基礎』p.72
  2. ^ a b c d e f g h 『生命の起源を宇宙に求めて: パンスペルミアの方舟』p.84-85
  3. ^ 『生命の起源を宇宙に求めて: パンスペルミアの方舟』p.81
  4. ^ a b c d 『生命の起源を宇宙に求めて: パンスペルミアの方舟』pp.98-100
  5. ^ 『生命の起源を宇宙に求めて: パンスペルミアの方舟』pp.101-102
  6. ^ たんぽぽ計画 コトバンク

関連項目[編集]