パナマックス

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パナマ運河のミラフローレス閘門。2隻の船が壁ぎりぎりに収まっている。

パナマックス: Panamax)とは、パナマ運河を通過できるの最大の大きさを指す言葉である。閘門の寸法、水深により制限されている。これは、貨物船を設計するときの重要な要素であり、多くの船が制限値ぎりぎりの設計で作られているとともに、世界の大洋をパナマ運河以外の制約を受けずに航行できる最大サイズであり、船舶設計におけるデファクトスタンダードの一つとなっている。

同じような言葉として、スエズ運河マラッカ海峡セントローレンス海路を通航可能な最大の大きさとしてそれぞれスエズマックスマラッカマックスシーウェイマックスという言葉がある。

外法[編集]

アイオワ級戦艦の1つであるミズーリが1945年にパナマ運河のミラ・フローレス閘門を通過する様子。幅ぎりぎりであることが窺える。

パナマックスは、パナマ運河の閘門の閘室の大きさに制限されている。各閘室は幅 33.53 メートル、長さ 320.0 メートル、深さ 25.9 メートルに作られており、実際に利用できる最大長は 304.8 メートルとなる。実際に利用できる水深に関しては閘室毎に違うが、一番浅いのはペドロ・ミゲル閘門の南側で、ミラフローレス湖が 16.61 メートルの時に 12.55 メートルである。また、船舶の高さについては、アメリカ橋によって制限されている。

実際に通過が許可されている船舶の大きさの制限値は以下の通りである[1]

  • 全長:294.1m
  • 全幅:32.3m
  • 喫水:12m(熱帯淡水において)
  • 最大高:57.91m

排水量6万5,000トンが典型的な大きさである[2]

例外[編集]

アメリカ橋では、事前承認を得れば、干潮時に限り、最大高62.5mまでの船舶が通航可能である。

例外的に、全幅32.61mまでは喫水の条件が合えば通航が許可される場合がある。また閘門の壁よりも上にでる部分が、前後左右にはみだすものは、事前検査を受け承認されれば通航可能な場合がある。アイオワ級戦艦は全幅32.971 mだが形状によりギリギリ通行可能である。

異常乾期には、ガトゥン湖の水位が下がるため、喫水の制限が下げられることがある。

通過船舶中、史上最長のものはバラ積み兼用船San Juan Prospector 号(現 Marcona Prospector 号)で、長さ 296.57 メートル、幅 32.3 メートルであった[3]。史上最大幅のものは、いずれもノースカロライナ級戦艦であるノースカロライナワシントンである。いずれも幅 33.025 メートルであった[4]

海運に及ぼす影響[編集]

客船ラインダム号が閘門を通過する際に、壁とのゆとりを確認するオフィサー

一回の航海でなるべく多くの貨物を運べるように、パナマックスの最大値ぎりぎりで建造される船の数は増えており、船の設計においてパナマックスは重要な要素である。

バルクで扱われる商品(石炭や穀物など)の多くは、主にパナマックス(あるいは準パナマックス)サイズの船舶で運搬されている。

運河にとっては、制限値ぎりぎりに設計された船舶数の増大は問題となっている。パナマックスサイズの船舶は、閘門をぎりぎりで通過するために、船舶の操作にも細心の注意が必要であり、通過できるのは日中に限られるほか、閘門の閉鎖時間も長くなる傾向がある。また、最大級の船舶はゲイラード・カットで安全にすれ違うことができないため、これらの船舶に対しては、片道交互航行をとらせる。

超パナマックス船[編集]

パナマ運河を通過中のパナマックス貨物船。喫水の制限内に収めるために、一部のコンテナは積み下ろし、パナマ地峡を走るパナマ鉄道で運ばれている。

超パナマックス船(ポスト・パナマックス船)とは、パナマ運河を通過できない、パナマックスよりも大きな船舶を指す用語である[5]。岬を回ることから、ケープサイズとも呼ばれる。

超大型タンカーや、最大級のコンテナ船など、現代の船の多くはパナマ運河の制限よりも大きく、運河を利用できない。東アジア北アメリカを結ぶ定期コンテナ船のうちの多くが、北米西海岸の港湾にしか入港せず、パナマ運河を通らねばならない東海岸へは向かわない。西海岸で下ろされたコンテナは、大陸横断鉄道の貨物列車で中西部や東部へ大量輸送されている。

アメリカ海軍超大型空母も超パナマックス級である。ニミッツ級航空母艦は長さ 333 メートル、幅 41 メートル であり、発着甲板幅が 76.8 メートルである。日本の大和型戦艦も、アメリカ軍対抗しうる大きさの戦艦を建造した場合、パナマ運河を通航できないデメリットが大きいことを計算に入れて建造された。

新外法[編集]

新パナマックス対応のコンテナ船、セオドア・ルーズベルト

パナマ運河の拡張は、すでに1930年代から提案されていた。

2006年10月22日パナマの国民投票により拡張が認められ、2014年に拡張工事が完了する予定であったが[6]、ストライキやコスト超過に関するトラブルなどで何度か延期され、2016年6月26日に開通した。同6月27日、商用船で初めて通過したLPG船「Lycaste Peace」(リカステピース)は日本郵船所属である[5]。商用コンテナ船では「MOL Benefactor」(ベネファクター、商船三井)が同7月1日に初めて通峡した[7]

この拡張後には、パナマ運河を通航できる船舶の最大値は、約 5,000 TEU から 1万2,000 TEU となった。

新パナマックスの規格は以下の通り[5][8]

  • 全長:366m(+72m)
  • 全幅:49m(+17m)
  • 喫水:15.2m(+3m)
  • 最大高:57.91m(旧パナマックスと変わらず)

新パナマックスにおいても最大高が変わらない事が最大の制約となっており、新造船設計上のデファクトスタンダードとなっている。その反面、パナマ運河を通る船の量は拡張から1年で1,500隻増え、その過半数(795隻)を数えた[9]

脚注[編集]

  1. ^ Panama Canal Authority による Vessel Requirements
  2. ^ Modern ship size definitions[リンク切れ], from Lloyd's register
  3. ^ Background of the Panama Canal, Montclair State University
  4. ^ Battleships, United States Battleships in World War II, by Robert O. Dulin, Jr. and William H. Garzke, Jr.; pages 62 and 145. Naval Institute Press, 1976. ISBN 0-87021-099-8
  5. ^ a b c 乗りものニュース編集部: “世界のものさし「パナマックス」とは? パナマ運河103年、拡幅から1年”. 乗りものニュース (2017年5月5日). 2020年10月22日閲覧。
  6. ^ (Pdf) OP NOTICE TO SHIPPING No. N-1-2010, Rev. 1 Vessel Requirements. Panama Canal Authority (ACP). (April 16, 2010). p. viii. https://www.pancanal.com/eng/maritime/notices/2010/N01-2010-r1.pdf 2020年10月22日閲覧。 
  7. ^ 商船三井/新パナマックス型コンテナ船、新パナマ運河を通峡”. logistics Partner inc. (2016年7月5日). 2020年10月22日閲覧。
  8. ^ Morrison, Brandon (2012年5月). “Race-to-the-Top: East and Gulf Coast Ports Prepare for a Post-Panamax World” (英語). 2020年10月22日閲覧。
  9. ^ 「パナマ運河拡張後1年で通航船1,500隻超 ネオパマックス船が795隻、来年は倍増も スエズ運河と極東/北米東岸船奪い合い (北米輸送特集)」『荷主と輸送』第44巻第5号 (通号 514)、オーシャンコマース、東京、2017年8月、15-17頁、ISSN 0389-6943 

関連項目[編集]

関連文献[編集]

以下、※印は国立国会図書館デジタルコレクションより、インターネット公開文献。

外部リンク[編集]