ハーリ・ヤーノシュ

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ハーリ・ヤーノシュ』(Háry János )作品15は、ハンガリー作曲家コダーイ・ゾルターンによる歌劇、またこれに基づく管弦楽組曲

概要[編集]

タイトルの「ハーリ・ヤーノシュ」はハンガリーの詩人ガライ・ヤーノシュ(Garay János, 1812年 - 1853年)の” Az obsitos ”(外部リンク参照)に登場する、ハンガリー版「ほら吹き男爵」とも言うべき人物である。彼は周囲に、"七つの頭のドラゴンを退治した"、"ナポレオンに打ち勝って捕虜とした"、"オーストリア皇帝フランツの娘(マリー・ルイーズ)から求婚されたが断った" などの荒唐無稽な冒険談を語って聞かせる初老の農民である。

この物語をもとに、パウリニ・ベーラ(Paulini Béla)とハルシャーニ・ジョルト(Harsányi Zsolt)が台本、コダーイが音楽を担当し、プロローグとエピローグを持つ4幕のジングシュピール五つの冒険』が作られた。

『五つの冒険』は1926年秋にブダペスト王立歌劇場で上演され、その後、コダーイはこの劇音楽から6曲を抜粋して演奏会用の組曲『ハーリ・ヤーノシュ』とした。この組曲は各地で好評を博し、コダーイの代表的な管弦楽作品として今日に至っている。

組曲『ハーリ・ヤーノシュ』[編集]

編成[編集]

第3曲と第5曲にハンガリーの民族楽器ツィンバロム(ツィンバロン)が使用されていることが特徴的である。

大変に贅沢なオーケストレーションで、曲ごとに使用する楽器が全く異なる。弦楽器を全く使わない曲が2曲あり、3本のコルネット、銅鑼、シロフォン、チェレスタなどは出番が1曲のみである。

以下、各曲ごとに使用される楽器(管楽器は人数)を記載する。

楽器 I II III IV V VI
ピッコロ 1 1 3 2
フルート 2 2 1 3 1
オーボエ 2 2 1 2 2
クラリネット 2 2 1 2 1
E♭クラリネット* 1
アルトサクソフォーン * 1
バスーン 2 2 2
ホルン 4 3 2 4 4
Cトランペット 3 3 3 3 3
B♭コルネット         3
トロンボーン 3 3 3
テューバ 1 1 1
ティンパニ
スネアドラム
バスドラム
シンバル
トライアングル
タンブリン
タムタム
グロッケンシュピール
シロフォン
チューブラーベル
ピアノ
チェレスタ
ツィンバロム*
弦5部
  • E♭管のソプラニーノクラリネットは1番クラリネット奏者が持ち替える。
  • アルトサクソフォーンは2番クラリネット奏者が持ち替えるが、専門の奏者を用意することもある。
  • ツィンバロムがない場合はハープシコードで代用、それもない場合はピアノで代用する(スコアの注意書き)。

構成[編集]

1. 「前奏曲、おとぎ話は始まる」( Előjáték, Kezdődik a történet
Con moto 3/4拍子 
音楽は壮大な「くしゃみ」の表現から始まる。これは「聞いている者がくしゃみをすれば、その話は本当のことである」というハンガリーの慣用表現からきている。
この後テンポを落とし、Tranquillo, molto moderato の主部となる。音楽は次第にテンポを速めつつ盛り上がり appassionato のクライマックスに到達する。
2. 「ウィーンの音楽時計」( A bécsi harangjáték
Allegretto 4/4拍子 変ホ長調
「音楽時計」と訳されているが、オルゴールのような、ぜんまい仕掛けの機械のことである[1]。バスーン、トロンボーン、テューバを除く管楽器と打楽器、鍵盤楽器で演奏される。
3. 「歌」( Dal
Andante, poco rubato 4/4拍子
無伴奏のヴィオラソロがハンガリー民謡を奏でる。この節がオーボエ、ホルンへと受け継がれ、これらにツィンバロムが装飾的に絡み合う。
4. 「戦争とナポレオンの敗北」( A csata és Napóleon veresége
All Marcia 2/4拍子
poco meno mosso 4/4拍子 
Tempo di Marchia funebre 4/4拍子 ニ短調
3本のピッコロ、アルトサクソフォーン、トランペット、トロンボーン、テューバ、打楽器だけで演奏される。3つの部分からなっており、戦闘の様子が描かれるが、金管のグリッサンドや木管のトリル、唐突なffff のシンバルの一撃など、冗談音楽的な要素が強い。第2の部分でトロンボーンとチューバによって奏される主題は、「ラ・マルセイエーズ」のパロディである[1]。第3の部分(「葬送行進曲のテンポで」)ではトロンボーンのグリッサンドに伴奏され、アルトサクソフォーンが装飾音やトリルを伴う、うらぶれた旋律を奏でる。
5 「間奏曲」( Intermezzo
Andante Maestoso, ma con fuoco 4/4拍子 ニ短調-ニ長調
この曲でもハンガリー民謡が用いられ、ツィンバロムが使用される。中間部ではホルンや各種木管楽器のソロが活躍する。
6 「皇帝と廷臣たちの入場」( A császári udvar bevonulása
Alla Marcia 2/4拍子 変ホ長調
組曲中、最も多彩なオーケストレーションがなされており、絢爛豪華なオーストリア帝国宮廷の様子が描き出される。トランペット、コルネット、トロンボーン各3によるmaricatissimo のファンファーレの後、テンポを速め、最後はバスドラムのfff の一発で曲をしめる。ただし、劇音楽のフィナーレは「間奏曲」の素材に基づいたもので、この曲は劇の途中に出てくる1曲に過ぎない。

参考文献[編集]

  • 「最新名曲解説全集6 管弦楽曲III」(柴田南雄執筆、音楽之友社
  • フィルハーモニア社のスコア序文(Dr.Geza Molnar)

脚注[編集]

  1. ^ a b 属啓成『音楽事典』音楽之友社、1971年

外部リンク[編集]