コーポラティズム

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コーポラティズム(corporatism)は、社会集団が領域ごとのヒエラルキーに組織され、政治システムに組み込まれていること。あるいは、そのような政治システムが望ましいとする政治思想のこと。

政治システムとしてのコーポラティズムには、第二次世界大戦期の全体主義諸国や戦後権威主義諸国による団体統制と、戦後の民主主義諸国における政府利益集団のパートナーシップに基づく政策立案・政策運営・利害調整が見られる。特に両者を区別する場合には、前者を国家コーポラティズム(state corporatism)[1]、後者をネオ・コーポラティズム(neo-corporatism)[2]と呼称する。


目次

[編集] 思想としてのコーポラティズム

コーポラティズム的な着想は、19世紀後半以降の非常に多種多様な思想の中に垣間見ることができる。具体的には、

などが挙げられる。また、ヴァイマル憲法における経済議会はコーポラティズムの制度化とも考えられる。

[編集] 国家コーポラティズム

国家コーポラティズムの典型例としては、イタリアファシズムにおける「協同体国家」が挙げられる。これは元マルクス主義者でファシストのアルフレド・ロッコが理論化した。このほか、ポルトガルエスタド・ノヴォなど、戦後のイベリア半島ラテン・アメリカの権威主義諸国も国家コーポラティズムの性格を有していた。

ただし、フィリップ・シュミッターは、思想としてのコーポラティズムも、政治システムとしての国家コーポラティズムも、検討が十分ではないと指摘している。

[編集] ネオ・コーポラティズム

[編集] 背景

戦後のヨーロッパの小国(北欧諸国やオーストリアなど)では、集権的な利益集団システムや、政府・労働組合経営者団体の協調に基づく政策過程が観察された。シュミッターやゲルハルト・レームブルッフは、国家コーポラティズムとの外見的類似性から、このような政治システムをネオ・コーポラティズムと呼称した。

特に1970年代先進諸国スタグフレーションに喘ぐ中で、ネオ・コーポラティズム体制を構築していた開放経済の諸国は比較的良好な経済パフォーマンス(低失業率、低インフレ率)を維持していた。ネオ・コーポラティズムは、このことを説明する政治的要因としても着目された。

[編集] 定義

ネオ・コーポラティズムは主に賃金政策やマクロ経済政策の分析に使用される概念である。これを例にとって定義すると以下のとおりである。

ネオ・コーポラティズムと多元主義
ネオ・コーポラティズムと多元主義

[編集] 利益集団システム

ネオ・コーポラティズムは、最も狭義には集権的な利益集団システムを指す。たとえば労働組合の場合、集権性の度合いは、

  • 労働組合の組織率が高い。
  • 国内の労働組合が単一の全国組織(頂上団体)を頂点としたヒエラルキーとして組織されている。
  • 各労働組合にとって上位組織への加入が強制的である。
  • 組合費の配分について頂上団体への比率が相対的に多い。
  • 下位組織のストライキなどに際して頂上団体が財政支援を行う。
  • 頂上団体が多数の専属スタッフを抱えている。
  • 頂上団体の決定から逸脱する下位組織に対して、頂上団体が有効な制裁措置を執りうる。

などの指標によって測られる。このように利益集団システムの集権性の度合いが強いほど、その国のコーポラティズム度は高く位置づけられる。

[編集] 団体交渉

労使交渉が、工場レベル・企業レベル・産業レベル・国レベルなど、どのレベルで行われるかは国によって、また年代によって異なる。労使交渉が国レベルなどのハイレベルで行われ、かつ、労使の上位組織による交渉結果がそれぞれの下位組織を強く拘束する場合、コーポラティズム度は高く位置づけられる。

[編集] 政策過程

労使の利益集団システムが高度に集権化されている場合、政府は、それぞれ頂上団体にそれぞれのセクターの利害を包括的・独占的に代表させ、利害調整のパートナーとして政策決定過程に組み込むことがある(利益表出)。また、政策決定における独占的な地位と引き換えに、政労使の利害調整を経て決定された政策について、労使の頂上団体が円滑な政策実施に対して責任を負う。そして、頂上団体は、当該政策が自分たちの利益に適うこと下位組織に説明し、その受容を強要する(利益媒介)。さらに、行政機関に代わって労使の利益集団が政策実施の一部を担うこともある[3]。このように、利益集団が政策過程に組み込まれる度合いが高いほど、コーポラティズム度は高く位置づけられる。

[編集] 多元主義との違い

利益集団システムのとしてのネオ・コーポラティズムに対して対極に位置づけられるのが多元主義である。すなわち、

  • 利益集団が分立・割拠しており、セクターの利害を独占的に代表する頂上団体が存在しない。
  • 政策決定に対して影響力を行使するために同じセクターの利益集団どうしが競争している。

という状態である。多元主義の特徴が強い国としてはアメリカが挙げられる。

[編集] 特徴

[編集] マクロ経済への影響

ネオ・コーポラティズム論において、インフレ率などの経済指標と労働組合の強さの関係について、通説と異説の見解に分かれる[4]

通説的理解では、労働組合が強さや集権性に反比例してインフレ率が低くなる傾向が主張される。その理由としては、

  • 労働組合が集権的に組織されている場合、政府が社会保障政策を充実させることと引き換えに、労働組合が賃上げ要求を抑制する。
  • 労働組合の交渉力が経営者にとって無視しがたいほど強力である場合、労働組合の経営参加が制度的に保障されるため、企業経営やマクロ経済を圧迫するほどの賃上げ要求を控えるようになる。
  • 労働組合が集権的に組織されていない場合は「賃金交渉における集合行為問題」[5]が生じてしまう。その一方で、労働組合が集権的に組織されている場合、労組の全国組織は、全国レベルでの賃金交渉でマクロ経済全体を考慮した水準に抑制し、その交渉結果を傘下労組に強要するため、「賃金交渉における集合行為問題」が回避される。

などと説明される。

これに対して異説では、労働組合の力や集権性が弱い場合と強い場合の両極端でインフレ率が低くなり、その中間でインフレ率が高くなる傾向が主張される。労働組合の力が弱い場合、市場メカニズムに従って賃金水準が決定されるため、インフレが抑制される。しかし、労働組合が分権的ながらも一定の交渉力を持っている場合、「賃金交渉における集合行為問題」によりインフレが生じる。「賃金交渉における集合行為問題」が回避されるには、労組の全国組織が賃上げ抑制を傘下労組に強要できる程度に、労働組合が集権的に組織されている必要があるとされる。

[編集] 福祉国家との関係

集権化された労働組合が賃上げ要求を抑制する場合、その見返りに経営者団体が社会保障政策の拡充を容認することがある。逆に、左派政党の政権下で、賃上げ抑制に対する見返りの政策が期待できる場合、集権化された労働組合は賃上げ抑制に応じやすくなる。

また、普遍主義的な社会保障政策は、失業率が上昇すると一気に財政負担が増大してしまうことから、完全雇用の実現が前提条件となる。このため、普遍主義を志向する福祉国家では積極的労働市場政策が推進されることが多い。ネオ・コーポラティズムの性格が強い国では、生産性の高い産業への労働者の移動や、産業の再編・合理化に対して、労働組合が協力(もしくは率先して推進)することがある(たとえばレーン=メイドナー・モデル)。

[編集] 衰退

しかし、1980年代頃からネオ・コーポラティズム的な政労使の協調体制の衰退が指摘されている。原因の1つはグローバル化の影響である。すなわち、資本の国際移動の自由化により国内産業の流出する可能性が生じたことから、政策決定における経営者団体の発言力が高まっている。また、製造業からサービス産業への産業構造の転換によって労働者の均質性が失われ、労働組織率の低下に伴って労働組合の発言力も低下している。

スウェーデンは従来からネオ・コーポラティズムの典型例と言われてきたが、社会民主労働党の下野(1991年2006年)に象徴される労働組合の退潮や賃金交渉の分権化など、ネオ・コーポラティズムの著しい衰退が指摘されている[6]

[編集] 脚注

  1. ^ あるいは権威主義的コーポラティズムとも呼ばれる。
  2. ^ あるいは社会コーポラティズム(social corporatism)、民主的コーポラティズム、社会民主主義的コーポラティズムとも呼ばれる。
  3. ^ たとえばスウェーデンの場合、政策決定過程では、
    調査委員会(utredning、kommittéer)
    平均4名程度で行われる審議会に、官僚政治家、利益集団などが参加する。
    レミス(remiss)
    利益集団に対する意見聴取手続き。
    政策実施過程では、
    行政委員会(Lekmännastyrelse、直訳すると「素人委員会」)
    政策実施を担当する行政機関である「庁」(styrelse、verk、イギリスサッチャー政権下の行政改革におけるエージェンシーに相当)の運営機関に利益集団が参加。具体的には、労働市場庁(Arbetsmarknadsstyrelsen、1948年)の行政委員会を通じた労働組合の影響力行使が有名である。
    などの諸制度が挙げられる。
  4. ^ このほか、
    • 労働組合の集権性と政府の党派性の組み合わせ
    • (労働組合ではなく)経営者側の協調体制
    • 中央銀行金融政策との関係
    を重視する研究などがある。
  5. ^ 「賃金交渉における集合行為問題」とは以下のような囚人のジレンマである。
    • 過度な賃上げは労働コストの上昇による国際競争力の低下やコスト・プッシュ・インフレを招く。
    • しかし、労働組合が分権的に組織されている場合、個々の労働組合にとって、他の企業・産業の賃金交渉で賃上げ抑制が実現される保証はない。
    • もし他の企業・産業で大幅な賃上げが実現したにもかかわらず、自分たちだけ賃上げを抑制してしまうと、インフレによって実質賃金が低下してしまう。また、たとえ他の企業・産業で賃上げが抑制されたとしても、自分たちだけ抜け駆けして大幅な賃上げを実現することで、(個々の賃金交渉がマクロ経済全体に及ぼす影響は小さいから)「良好なマクロ経済環境」と「大幅な賃上げ」の両方の果実を得ることができる。
    • このように「良好なマクロ経済環境」は公共財の性格を持つため、多くの労働組合がただ乗りして、大幅な賃上げを要求してしまう。
    • その結果としてマクロ経済が悪化する。
  6. ^ 井戸(2006)

[編集] 関連項目

[編集] 参考文献

  • 井戸正伸 「コーポラティズムの復権?」 宮本太郎編 『比較福祉政治』 早稲田大学出版部〈比較政治叢書〉、2006年。
  • 稲上毅他 『ネオ・コーポラティズムの国際比較-新しい政治経済モデルの探索』 日本労働研究機構、1994年。
  • Ph.C.シュミッター 「いまもなおコーポラティズムの世紀なのか?」 Ph.C.シュミッター・G.レームブルッフ編 『現代コーポラティズム(Ⅰ)-団体統合主義の政治とその理論』 山口定監訳、木鐸社、1984年。
  • 新川敏光他 『比較政治経済学』 有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2004年。
  • 宮本太郎 『福祉国家という戦略-スウェーデンモデルの政治経済学』 法律文化社、1999年。
  • 山口定 「コーポラティズム」 川田侃大畠英樹編 『国際政治経済辞典』 東京書籍、2003年。