ナスレッディン・ホジャ

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ホジャを描いた17世紀のミニアチュールトプカプ宮殿所蔵)

ナスレッディン・ホジャ(Nasreddin Hoca)は、トルコ民話の登場人物。トルコ人の間で語り継がれる小話の主人公である。

2000年代までに[1]ホジャが登場する頓知話、笑話、権力者への皮肉が550以上集められているが、その中にはアラブペルシャ起源の小話がホジャを主役にした話に変化したものも混ざっている。彼の説話はトルコ共和国以外に、カフカーズクリミア半島バルカン半島などかつてオスマン朝の領土だった地域、トルキスタンのトルコ系民族の間でも知られている。

機知とユーモアに富んだ人物として書かれることが多いが、別々の人間によって語り継がれる民話集の主人公という性質上、話によって性格や職業がたびたび変わる。

ホジャの実在性[編集]

ホジャの生年がいつであるか、そもそも実在の人物であるかどうかについては、研究者の間でも意見が分かれている。ティムールをやり込める小話が少なからずあることから14世紀末から15世紀初頭の人物とする説、1208年に生まれ1283年に没したとする説、この2つが有力とされている。

2つの有力説と否定説[編集]

ホジャがティムールと同時代の人物と初めて記述した[2]のは、17世紀のトルコ人旅行家エヴリヤ・チェレビである。しかし、チュレビが旅行記で引用した、ホジャがティムールを値踏みする話は、元々はトルコの詩人アフメディー(? - 1412年)とティムールのやり取りとして16世紀の書籍に記載されていた話が、ホジャを主人公とした話に変化したものだった。加えてこの説は彼の墓が建てられた年代とも矛盾するところが多く、多くの批判を受けた[3]

後者の説は、トルコ共和国の文学者、外務大臣のファト・キョプリュリュによって提唱された。彼によれば、1208年にイマームの子としてシヴリヒサル(en:Sivrihisar)で生まれ、父の死後にイマームの地位を他人に譲り、アクシュヒル(en:Akşehir)に移った後に1283年に同地で没したという。この説は発表後、イスマイル・ハーミ・ダニシュメンド、イブラヒム・ハック・コンヤルら後進の学者によって検証と批判を重ねられて現在に至っている。

トルコ国内ではホジャを実在の人物と見る向きが強い[4]が、ヨーロッパの研究者には実在を否定する意見も多い。 フランスのルネ・バセは、ホジャは10世紀末に流行した笑話から生まれたと唱えた。イラククーファ生まれのアラブ人ジュハー(あるいはジョハー)の笑話が口伝えでアナトリア半島に伝わる過程でトルコ人に聞きなれない「ジュハー」が「ホジャ」に変化したというのが、バセの主張であるが、この意見にはヨーロッパの研究者からも批判があった[5]。他に、ナスレッディン・ホジャという道化師が語ったアラブやペルシャの小話が、時代を経てホジャを主人公とする話に変化したとする説も存在する。

その他の生年と素性に関する説[編集]

アクシュヒルの墓から996年没とする説[6]大セルジューク朝時代の人とする説[7]、果てはハールーン・アッ=ラシードと同時代の人とする説[8]もある。

生年以外に関しては、カスタモヌの貴族であり本来の名前はハージ・ナーシリュッデインだったとする説、コンヤで教師と判事を務めていた説がある。

霊力[編集]

ホジャは霊力を持った聖者とも信じられており、霊廟が現存するアクシュヒルには彼にまつわる奇蹟が伝えられる。結婚したときはホジャの墓を詣でて彼を結婚式に招待しないと夫婦仲はうまくいかなくなる、彼の墓の土はある種の眼病に効果があるなど。エヴリヤ・チェレビはホジャの墓を参拝した人間は彼のことを思い出して笑わずにはいられないと記したが、チェレビの記述が転じてホジャの墓の前で笑わない者には災いが降りかかるという物騒な伝承に変化した。

脚注[編集]

  1. ^ 『新イスラム事典』刊行当時
  2. ^ 『ナスレッディン・ホジャ物語』(護雅夫訳, 東洋文庫)、286頁
  3. ^ 『ナスレッディン・ホジャ物語』(護雅夫訳, 東洋文庫)、288-289頁
  4. ^ 護雅夫「ナスレッディン・ホジャ」『世界伝記大事典 世界編』7巻
  5. ^ 『ナスレッディン・ホジャ物語』(護雅夫訳, 東洋文庫)、298頁
  6. ^ 「ナスレッディン・ホジャ行状記」『アジア歴史事典』
  7. ^ 「ナスレッディン・ホジャ行状記」『アジア歴史事典』
  8. ^ 『ナスレッディン・ホジャ物語』(護雅夫訳, 東洋文庫)

小話集の主な日本語訳[編集]

  • 『ホジャの笑い話』(児島満子、児島和男訳・再話, れんが書房新社, 1997年3月)ISBN 4846201805
  • 『ナスレッディン・ホジャ物語―トルコの知恵ばなし』(護雅夫訳, ワイド版東洋文庫, 平凡社, 2007年9月)ISBN 4256800387

参考文献[編集]

  • 柴田武「ナスレッディン・ホジャ行状記」『アジア歴史事典』7巻(平凡社, 1959年)
  • 『ナスレッディン・ホジャ物語―トルコの知恵ばなし』(護雅夫訳, 東洋文庫 (平凡社), 平凡社, 1965年3月)
  • 護雅夫「ナスレッディン・ホジャ」『世界伝記大事典 世界編』7巻 (桑原武夫編, ほるぷ出版, 1978年 - 1981年)
  • 護雅夫「ナスレッディン・ホジャ」『新イスラム事典』(平凡社, 2002年3月)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]