ドンシャリ
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ドンシャリとは、高音域と低音域が強調された周波数特性(f特)を指し示す、オーディオ業界・音楽業界の用語である。「低音がドンドン、高音がシャリシャリ」の意。
逆に高音域と低音域が弱い(中音域が主立った)周波数特性は、周波数特性グラフの形から「かまぼこ」と呼ばれ、また均一な周波数特性は「フラット」と呼ばれる。低音域が特に過剰なものは「ブーミー」であると呼ばれ、高音域が特に過剰(あるいは低音域が特に不足している)ものは「スカスカ」「キンキン」であると呼ばれる。
音響再生システムを媒体に記録された音源(原音)を純粋に再生するシステムと考えるならば、周波数特性は均一(フラット)であることが理想である。しかしながら、現実にはそういった音響再生システムを作ることは難しく、あるいは製品に音質的特徴を持たせるために、市場には大なり小なり偏った周波数特性をもった音響再生システムが存在している。その中でも、高音域と低音域が強調されたものは「ドンシャリである」と称される。
同じ音源をドンシャリ特性とフラット特性で比較すると、フラット特性では、中音域が司る声や楽音(メロディ)や残響音が相対的に主立って聞こえ、高音域や低音域が司る噪音(打楽器)やアタック音(楽器の鳴り始めの破裂音など)による、明瞭さや迫力は相対的に弱まる。一方、ドンシャリ特性では、少々音に歪みが生じても相対的に明瞭で歯切れの良い音に聞こえる。このため、音が濁りがちな音響再生システムや、ドラムやベースなどのリズム楽器を強調したい場合、そのほか明瞭さを強調させたい場合には、あえてドンシャリな周波数特性に調整する手法がある。また、人間の聴覚特性(等ラウドネス曲線)は小音量において高音域と低音域の感覚量が減衰するため、ドンシャリ特性には小音量における高音域と低音域の不足感を補う効果がある。
かたや、アコースティック楽器を使ったクラシック音楽やジャズなどを好む層、または原音再生を追求する高級オーディオマニアには、ドンシャリ特性よりも、純粋さ・自然さを感じさせるフラット特性(時には落ち着きを感じさせる「かまぼこ」特性)が好まれる傾向がある。また、イコライザーのプリセットでも同様に音楽ジャンルによって周波数特性が使い分けられる傾向があり、経済的に余裕のある者はそれぞれの音質的特徴を持った複数の機材を楽曲に応じて使い分けることもある。
また、小型の音響再生システムにおいては大口径のウーファーを搭載することができず、低音域の量を補うためにバスレフ機構などを使用して低音域を増強することがしばしばあるが、この際に質や造りが悪いと、一部帯域のみが不自然に増強されたり、低音がボンボンと鳴ることがあり、こうしたシステムに対しても批判的にドンシャリという語が用いられる。
[編集] 由来
ドンシャリが語られるようになった時代には諸説あるが、アメリカのモータウン・レーベルが1960年代初頭に自社のR&Bサウンドを市場に広めるにあたり、カマボコ型の周波数特性であるAMラジオで放送されることを念頭に、予めビートの強調された音に補正したレコードを制作したのが始まりではないかと言われている。これ以降発達したディスコサウンド・ダンスミュージックでは、微妙な表現力を要求されるアコースティック楽器に代わって電気楽器が多用されるようになり、中音域よりもドンシャリな音に対するニーズが発生した。
こうした経緯の中、再生機器にとってシャリ部分が意識されるようになった大きな契機が1980年代なかばに普及したコンパクトディスク(CD)である。それまでのアナログレコードではノイズと不可分であり難しいとされた高音域をフラットに記録しクリアに再生できるCDの特徴を、最大限に活かそうとする流れが行きすぎた結果としてシャリ付きのある音が一気に普及した。
いっぽう、ドンに関してはこれも諸説あるが、ウーファーつきラジカセなど低音再生を可能にした時代があげられる。それまで重低音が不可能とされたラジカセではあったが、CDが普及した時期と前後して、バブル景気でウーファーを備えた高付加価値のCDラジカセ(バブルラジカセ)が生まれ、そこで低音域を楽しむ世界が一気に開花した(なお、実際の重低音とされる100Hz以下の再生は、ラジカセのウーファーなどではまず無理で、実際は重低音ではなく100~200Hz帯域が限界であった)。
これらの時代背景を越えた後、イヤホンで出力することが一般的な、2003年以降に発売されたiPodをはじめとするデジタルオーディオプレーヤーにドンシャリな音が受け継がれた。イヤホンの高音質・広帯域化は近年進化が見られるが、再生機器そのものはMP3やATRAC3などの普及によって、全帯域でデジタル信号をCD以上に圧縮するようになっており、中音域の豊かな表現力を原音に忠実に再生しようという方向からはさらに遠ざかっている。(ただしiPod等のデジタルオーディオプレーヤーは必ずしもドンシャリというわけではなくある程度フラットな出力を持つ物もある。また音楽信号の非圧縮ないしロスレスでの再生をサポートしている機器も多い。結局の所これらは機器の使用方法によるという点には注意されたい。)
[編集] 日本における音楽ジャンルとの関連性
音楽ジャンルとドンシャリ傾向は非常に重要な接点を持っている。そもそも、重低音再生が不要であったり、逆効果であっては意味はない。ジャンルから見たドンの転機は、R&Bやダンスミュージックなど重低音を積極的に活用し始めた音楽が日本でも広く受け入れられたことがあげられる。それまでの音楽、例えば1980年代前半までの歌謡曲の多くは非常にシンプルで、かつ強力な重低音再生を前提にしていない楽曲が多い。そのすべてをあげればきりがないが、キャンディーズや、中森明菜、井上陽水といった歌謡曲が全盛の頃は、メロディーを聴かせる、声を聞かせる、伴奏はそれをもり立てるわき役であり、場を支配しないように造られていることが多い。
もちろん、100Hz以下の低音は音楽の腰を支える屋台骨としての役割は持っているが、中域を立たせる音の作りで、必ずしもドンがなくても、音楽としてある程度のバランスを持って成りたつように作られていることが多い。
だが、宇多田ヒカルやHOME MADE 家族など、昨今の楽曲では映画のLFE(Low Frequency Effect)的に積極的に使われる例が増えている。そうした音楽はドンがあることが前提であり、なくなると途端に中域の凹んだ、シャリシャリだけの淋しい音楽になることがある。 J-POP・R&B・ロック・Tranceといくつものジャンルがあるが、シャリ付きについても、電子楽器の煌びやかな奏でる音を楽しむことが多いジャンルで、高音域のシャリ付きは重要である。 アナログレコードの時代ではシャリ音をきれいに記録しにくかったために、極端にビートを必要とするこれらのジャンルが育つ土壌になかったとも言える。
若者向けの音楽は、ドンシャリの特性を持つオーディオ機器で再生されることを前提に作られることが多い。この場合、(モータウン・サウンドとは逆に)高音域と低音域とが強調される分を差し引いて、あらかじめ高音域や特に低音域を小さめの音量にして録音される。ドンシャリの特性を持つオーディオ機器で再生すると、ほぼ作者の意図した周波数バランスで聞こえるが、高級オーディオ等、フラットな周波数特性を重視した機器で再生すると高音域や特に低音域の音量が小さくなり、制作者の意図とは違った周波数バランスで再生されてしまう。一方、クラシックやジャズのCDは通常、フラットな周波数特性を持つ機器で再生されることを前提に制作されているので、若者向けの音楽もクラシックやジャズ等も聴く人にとっては、オーディオ機器をドンシャリかフラットかどちらに調整すればよいか悩みの種になることが多く、イコライザなどの装置が重宝される。

