トンネルダイオード

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トンネルダイオードを表す回路記号
1N3716 トンネルダイオード(大きさを示すためジャンパーソケット(2.54mm間隔)を添えている)

トンネルダイオード(tunnel diode)または江崎ダイオード(Esaki diode)は、量子トンネル効果を使った半導体によるダイオードの一種で、高速動作を特徴としマイクロ波レベルの高周波回路でよく使われている。

概要[編集]

1957年8月、東京通信工業(現ソニー)の江崎玲於奈が発明した。江崎玲於奈は、この半導体内のトンネル効果の発見を讃えられ、超伝導体内での同じくトンネル効果について功績のあったアイヴァー・ジェーバーと共に1973年のノーベル物理学賞を受賞している。同年の物理学賞はジョセフソン効果ブライアン・ジョゼフソンにも与えられている。

トンネルダイオードは数十ナノメートルの幅で大量にドープされたpn接合を持つ。大量にドープすることでバンドギャップが壊れ、N型半導体側の伝導帯電子状態がP型半導体側の価電子帯正孔状態と多少なりとも整列することになる。

ソニーは1957年からトンネルダイオードの生産を開始し[1]ゼネラル・エレクトリックなどの企業が1960年ごろからそれに追随、今[いつ?]も少量ながら生産が続いている[2]。通常ゲルマニウムで作られるが、ヒ化ガリウムシリコンでも製造可能である。発振回路増幅回路周波数コンバータ検波回路などで使われている[3]。論理素子への応用として、後藤英一によるゴトーペアがある。

順バイアス動作[編集]

順バイアス動作では、電圧を高くし始めると、非常に狭いpn接合の障壁でN型半導体側の電子とP型半導体側の正孔が整列することで、電子がトンネルを通り抜ける現象が発生する。さらに電圧を高くすると、整列状態が乱れてくるため電流は小さくなっていく。電圧を上げると電流が小さくなるこの状態を「負性抵抗」と呼ぶ。さらに電圧を高くすると、通常のダイオードと同じくpn接合を通して電子が移動するようになり、トンネル効果は失われる。トンネルダイオードで最も重要なのは、負性抵抗を示す電圧領域である。

逆バイアス動作[編集]

逆方向に電圧をかけると、オフセット電圧がゼロで極端な線形性を示す高速な整流器として機能する。逆バイアスでは正確な二乗特性を示す。

pn接合でP側が電子で満たされN側が正孔が並ぶ状態となり、トンネル効果が逆方向に働く。これをツェナー効果と呼び、ツェナーダイオードでも発生する。

技術的比較[編集]

トンネルダイオードの大まかなVI曲線。負性抵抗領域を示している。

普通のダイオードでは、順バイアスでは電流が流れ、逆バイアスでは流れない。しかし、「逆方向降伏電圧」を超えると電流が流れ始める(通常、同時に電子部品としての破壊が起きる)。トンネルダイオードでは逆方向降伏電圧がゼロとなるまでP層とN層のドーパント濃度を高め、逆方向では常に導電性を示すようになっている。しかし順バイアスでは「トンネル効果」という現象が起き、電圧を高くすると電流が小さくなるという電圧範囲が存在するようになる。この負性抵抗領域を利用して、四極真空管ダイナトロンを使った発振回路の半導体版を実現できる。

トンネルダイオードは四極管より遥かに高い周波数でも動作できるため、マイクロ波帯で動作する発振回路やトリガー回路に使われた。用途としては、UHFテレビチューナーの局部発振器、オシロスコープのトリガー回路、高速カウンタ回路、立ち上がり時間が非常に高速なパルス発振回路などがある。また、低雑音マイクロ波増幅回路にも使える[4]。しかしその後、より一般的な発振回路に使える半導体素子が開発され、トンネルダイオードの性能を上回るようになっていった。多くの用途で3端子の電界効果トランジスタの方が2端子の素子よりも柔軟性がある。実用的なトンネルダイオードは数ミリアンペアと1ボルト未満の低出力でしか動作できない[5]ガン・ダイオードも高周波で動作できるという点は同じだが、もっと高出力が可能である。

また、トンネルダイオードの応用が広がらなかったことについて、本命と考えられたGaAsトンネルダイオードの劣化が激しかった、と書いている文献[6]がある。

トンネルダイオードは他のダイオードに比べて放射線に耐性がある。そのため宇宙用など放射線にさらされる環境でよく使われている。

寿命[編集]

ネイチャー誌で江崎らが発表(2010年掲載)した論文では、保存していた50年前の素子を簡単に試験して満足な結果が得られたとしている。また、半導体素子は一般に極めて安定しているとし、室温に保たれた場合の寿命はほぼ「無限」だとしている。[7]報道されたコメントでは「非常に微細な構造が重要な役割を果たすため、経年による劣化に興味があった」という。

脚注・出典[編集]

  1. ^ “ソニー半導体の歴史” (Japanese). http://www.sony.co.jp/Products/SC-HP/outline/overview/history.html 
  2. ^ Tunnel diodes, the transistor killers, EE Times, retrieved 2 October 2009 [リンク切れ]
  3. ^ Fink 1975, pp. 7–35
  4. ^ Fink 1975, pp. 13–64
  5. ^ L.W. Turner,(ed), Electronics Engineer's Reference Book, 4th ed. Newnes-Butterworth, London 1976 ISBN 0 408 00168 pp. 8-18
  6. ^ 高橋茂『コンピュータ クロニクル』 p. 39
  7. ^ Esaki, Leo; Arakawa, Yasuhiko; Kitamura, Masatoshi (2010). “Esaki diode is still a radio star, half a century on”. Nature 464: 31. doi:10.1038/464031b. PMID 20203587. 

参考文献[編集]

  • Fink, Donald G. (1975), Electronic Engineers Handbook, New York: McGraw Hill, ISBN 0-07-02980-4 

関連項目[編集]