トミー (アルバム)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
ロックオペラ “トミー”
ザ・フースタジオ・アルバム
リリース 1969年5月23日
録音 1968年9月19日1969年3月7日ロンドンIBCスタジオ
ジャンル ロック
時間 74分
レーベル Track, Polydor (UK)
Decca, MCA (U.S.)
プロデュース キット・ランバート英語版
専門評論家によるレビュー
ザ・フー 年表
マジック・バス~ザ・フー・オン・ツアー
(1968)
トミー
(1969)
ライヴ・アット・リーズ
(1970)
テンプレートを表示

ロックオペラ“トミー” ( Tommy ) は、ザ・フー1969年5月発表の4枚目のアルバム

ザ・フーのキャリアの中でも重要な位置にあり、後にオーケストラとの共演、映画、再結成ライブでの演奏、ブロードウェイ・ミュージカル化と、形を変えて何度も発表されている。三重苦の少年トミーを主人公にした物語は若者、またはピート自身の孤独や苦悩を反映させたスピリチュアルなもので、ピートが傾倒しているインド人導師ミハー・ババの影響が初めて作品に顕著に現れたものである。

このアルバムによってザ・フーは、ヒット・シングルを連発なければならないプレッシャーから解放され、全英2位・全米4位とセールスの面でも大成功を収めた。1969年から70年にかけてのツアーではライブの中盤に必ずほぼ全曲演奏され、その様子は『ウッドストック』『ワイト島1970』といった映像作品で観ることができる。

1975年には映画化(監督:ケン・ラッセル)され、ヴォーカルのロジャー・ダルトリーが主人公のトミーを演じた。

1993年にはブロードウェイミュージカル化され、トニー賞を5部門受賞した。2006年には日本でも公演された。

また、ピンボールをテーマにしているということもあり、実際にトミーをモチーフとしたピンボールも発売された。

ローリング・ストーンの選ぶオールタイム・ベストアルバム500」において、96位にランクイン。

あらすじ[編集]

オリジナルの歌詞は散文的で抽象性が高く難解であり、アルバムリリース後のピート自身による解説においてもストーリーは一貫しなかった。ケン・ラッセル監督作の映画版やミュージカル化によって脚本が補強された結果、具体的で整合的な理解が可能となった箇所もある。

本項で述べるあらすじは、英語版の記述を元にする。

登場人物[編集]

  • トミー・ウォーカー - アルバム・タイトルとなった主人公の少年。父の犯した殺人を目撃したショックで視覚・聴覚・発話障害の三重苦を負う。
  • ウォーカー大佐 - トミーの父親。夫人の浮気を目撃して衝動的に情夫を殺害する(イギリス軍制におけるcaptainは大尉ではなく大佐)。
  • ウォーカー夫人 - トミーの治療方法を模索して迷走する母親。
  • ウォーカー夫人の情夫 - ウォーカー大佐に殺害される。
  • 叔父アーニー - トミーの叔父で小児性愛者。トミーに性的な悪戯をする。
  • 従兄弟のケヴィン - トミーの従兄弟。トミーを執拗に虐待する。
  • ザ・ホーカー - 治療を願うウォーカー夫人が訪れるカルト教団の主導者。
  • 元チャンピオン - ピンボール大会で競り負け、トミーに”ピンボールの魔術師”の称号を奪われる。
  • アシッド・クイーン(ジプシー) - トミーを治療すると称して幻覚性の薬物を投与したジプシーの女。
  • 医師 - トミーの障害が身体ではなく精神に起因することを突き止めた。
  • サリー・シンプソン - トミーの熱狂的な信者の少女。

物語[編集]

  • Overture(序曲)/ It's a Boy(イッツ・ア・ボーイ)
    時は第一次世界大戦。イギリス軍のパイロットであるウォーカー大佐は戦闘中に行方不明となり、戦死と報告される。ウォーカー夫人は悲報を聞き、失意の中息子のトミーを出産する。
  • 1921(1921)
    4年後、ウォーカー大佐は生還を果たし帰宅するも、夫人の”浮気”(夫人は夫が生還すると思っていなかったので不実ではないが、結果として)を目撃し、情夫を殺害する(歌詞の中に実際に「殺した」という表現は出てこないが、後の詞の展開からして殺したと解釈していいだろう)。鏡越しにこれを目撃してしまったトミーに対し、両親は「あなたは何も見なかったし、何も聞いていなかった」(you didn't see it, didn't hear it)、そして「このことを一生誰にも話さないように」(You won't say nothing to no one ever in your life)と言い聞かせる。これがトラウマとなり、トミーは視覚・聴覚・発話障害を負ってしまう。
  • Amazing Journey(すてきな旅行)/ Sparks(スパークス)
    荒廃したトミーの潜在意識が、銀色に輝くガウンを着て金色のあご髭を生やした見知らぬ長身の男(He's dressed in a silver sparked glittering gown and his golden beard flows)として現れ、異常な精神世界への「すてきな旅行」を誘いかける。Sparks(スパークス)は、トミーが垣間見た精神世界を表現しているとされる。
  • Hawker(光を与えて)
    両親は彼を治療するためにカルト教団の教会を訪れる。
  • Christmas(クリスマス)
    子供達が楽しみにしているクリスマスの季節。両親は、今日が何の日か理解できないばかりか、神の存在も神に祈ることも知らない(Doesn't know who Jesus was or what praying is)トミーの境遇に嘆き悲しむ。「トミー、聞こえるかい?」と語りかける両親に対し、彼の内なる心がはじめて「僕を見て、僕を感じて(See me, feel me)」と語る。
  • Cousin Kevin(従兄弟のケヴィン)
    外出する両親は従兄弟のケヴィンにトミーの子守を託す。二人きりになったところで、いじめっ子を自認するケヴィンは抵抗できない彼に対し執拗な虐待、拷問を加える。
  • Acid Queen(アシッド・クィーン)/ Underture(アンダーチュア)
    トミーの両親は再度治療を試み、アシッド・クイーンを名乗るジプシーの元へトミーを連れて行く。彼女は幻覚性薬物を使って彼をドラッグ漬けにしてしまう。Underture(アンダーチュア)はトミーの見た幻覚を表現しているとされる。
  • Do You Think It's Alright?(大丈夫かい)/ Fiddle About(フィドル・アバウト)
    両親は叔父のアーニーにトミーの子守を託す。異常性愛者のアーニーは抵抗できないトミーに性的虐待を加える。
  • Pinball Wizard(ピンボールの魔術師
    トミーは突如ピンボールの才能を開花させる。彼は大会でチャンピオンを負かし、一躍”ピンボールの魔術師”と呼ばれるスターになる。人々は三重苦の青年が確実なプレイをすることに驚き、彼は突っ立ったまま機械と一体化し(He stands like a statue, becomes part of the machine)”匂い”でプレイしているのではないか(Plays by sense of smell)と訝しみながらも彼の奇蹟を賞賛する。
  • There's a Doctor(ドクター)/ Go to the Mirror!(ミラー・ボーイ)
    両親は彼を治療できるという医師を見つけ出す。病因を解明するために数多くの試験を試みた結果、医師は、彼の肉体は完全に健常で病因は精神性のものである(Needed to remove his inner block)と結論づける。彼の内なる心は再び「僕を見て、僕を感じて(See me, feel me)」と語りかける。
  • Tommy, Can You Hear Me?(トミー、聞こえるかい)/ Smash the Mirror(鏡をこわせ)
    「トミー、聞こえるかい?」と熱心に呼びかけるものの、それに応えずただ鏡を見つめるだけの彼に業を煮やした母親は鏡を壊してしまう。
  • Sensation(センセイション)/ Miracle Cure(奇蹟の治療)
    鏡を壊したはずみにトミーは寛解する。彼が完治したというニュースは一世を風靡し、導師のような立場に祭り上げられた彼は、教祖としてファン達を教化するようになる。
  • Sally Simpson(サリー・シンプソン)
    この曲のみ、トミーの熱心な信者の一人であるサリー・シンプソンを扱った挿話的なエピソード。彼女は聖職者の娘だったが家出してトミーの説教を聞きにやってくる。トミーに触れようと手を伸ばした彼女は警備員によりステージから投げ出され、顔に傷を負ってしまう。
  • I'm Free(僕は自由だ)
    トミーは治癒によって得られた自由を満喫し、説教を聞きに来た人々を教化しようとする。
  • Welcome(歓迎) / Tommy's Holiday Camp(トミーズ・ホリデイ・キャンプ)
    トミーは自宅を教会として開放し、より多くの信者の獲得を命ずる。すぐに自宅が一杯になってしまったため、彼は誰でも参加できるホリデイ・キャンプを開設し、その運営を叔父のアーニーに託した。しかし、アーニーは信者を教化するというキャンプの目的を無視して私腹を肥やし始める。
  • We're Not Gonna Take It(俺達はしないよ)
    トミーは信者達を境地へ導くために、飲酒や喫煙者を排斥し、目と口と耳をふさいた状態でピンボールをプレイするよう命じる。しかし、このような無茶な教義や彼の一族による搾取に反発した信者達は、「もう付いていけない、こんなことはもうご免だ(We're not gonna take it, Never did and never will)」と、彼に反旗を翻し、キャンプは崩壊する。何もかも失った彼の発する内なる声「僕を見て、僕を感じて(See me, feel me)」とともに物語は終わる。

収録曲[編集]

  1. Overture(序曲)
  2. It's a Boy(イッツ・ア・ボーイ)
  3. 1921(1921)
  4. Amazing Journey(すてきな旅行)
  5. Sparks(スパークス)
  6. Hawker(光を与えて)
  7. Christmas(クリスマス)
  8. Cousin Kevin(従兄弟のケヴィン)
  9. Acid Queen(アシッド・クィーン)
  10. Underture(アンダーチェア)
  11. Do You Think It's Alright?(大丈夫かい)
  12. Fiddle About(フィドル・アバウト)
  13. Pinball Wizard(ピンボールの魔術師
  14. There's a Doctor(ドクター)
  15. Go to the Mirror!(ミラー・ボーイ)
  16. Tommy, Can You Hear Me?(トミー、聞こえるかい)
  17. Smash the Mirror(鏡をこわせ)
  18. Sensation(センセイション)
  19. Miracle Cure(奇蹟の治療)
  20. Sally Simpson(サリー・シンプソン)
  21. I'm Free(僕は自由だ)
  22. Welcome(歓迎)
  23. Tommy's Holiday Camp(トミーズ・ホリデイ・キャンプ)
  24. We're Not Gonna Take It(俺達はしないよ)

エピソード[編集]

  • Tommy's Holiday Camp(トミーズ・ホリデイ・キャンプ)は、実際はピート作曲である。キース・ムーンが、トミーの”聖地”をイギリスの伝統的な「ホリデイ・キャンプ」とするアイデアを出したので、ピートの計らいによりキース作とクレジットされた。
  • Sally Simpson(サリー・シンプソン)の歌詞の原型となった実際のエピソードが存在する。1968年ニューヨーク市のシンガー・ボウル(現在の名称はルイ・アームストロング・スタジアムテニス全米オープンの会場として有名)において行われたライブにおいて、ザ・フーはドアーズと競演した。この時、警備員がジム・モリソンに触ろうとした少女をステージから投げ飛ばす事件が起きた。バックステージからこれを目撃したピートは触発され、構想中のオペラの作中に盛り込んだ。
  • Sparks(スパークス)およびUnderture(アンダーチュア)は、1967年発表のアルバム、セル・アウト収録のミニ・オペラであるRael(ラエル)が元となっている。
  • このアルバムは、ピートの崇拝するミハー・ババに捧げられており、アルバムには彼の名が「アバター」としてクレジットされている。
  • このアルバムのために作曲されたものの没となった曲として、"Beat Up" "Trying To Get Through" "School Song" "Dream (Erotic)" "Cousin Kevin Model Child" のほか、未完のライフハウス・プロジェクトの構想で有名な"Water"がある。
  • 本アルバムのベスト・パフォーマンスとしては、1969年ウッドストック・フェスティバルが名高い。この時の模様は、1979年の映画The kids are alright、同じく1969年の映画Woodstockに収録されており、アメリカにおける本アルバムの知名度を高めたと言われている。
  • ピンボールの元チャンピオン役で映画出演も果たしたエルトン・ジョン、同じくアシッド・クイーン役のティナ・ターナー共に、自らのライブでそれぞれPinball Wizard(ピンボールの魔術師)、Acid Queen(アシッド・クィーン)を持ち歌として愛唱している。特に、映画におけるティナの鬼気迫る演技と歌唱は評価が高く、ミュージカル版におけるアシッド・クィーンはオリジナルのピート風ではなく、全てティナ・バージョンで歌われている。

映画版[編集]

ケン・ラッセル監督、コロンビア映画配給で1975年3月に映画版が公開された(詳細は「トミー (映画)」を参照)。

オリジナルアルバムからの主な変更点[編集]

  • ウォーカー夫人にノラという名が与えられている。
  • ウォーカー夫人の情夫はフランクという名が与えられており、トミーの叔父という設定。
  • 物語の背景が第二次世界大戦後となっているため、曲名の1921はyou didn't hear itと改題され、歌詞の1921年(nineteen-twenty-one)は1951年(nineteen-fifty-one)と歌われている。
  • ウォーカー大佐はRAF(イギリス空軍)に所属することが明示されている。
  • 最大の変更点として、ウォーカー大佐は原作とは逆に夫人の情夫であるフランクに殺害される。
  • I'm Free(僕は自由だ)はアルバム収録の順番とは異なり、治癒した直後のトミーが自由を満喫するシーンにおいて高らかに歌われる。

関連項目[編集]