ディープ・スロート (ウォーターゲート事件)

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ディープ・スロートDeep Throat)とは、ウォーターゲート事件で、二人の記者に指導する形で情報を示した謎の人物のことである。のちに、アメリカ合衆国政府高官であったことが判明して、内部告発を行ったことになると見なされた。1972年1月に公開され、大ヒットしたポルノ映画の題名(『ディープ・スロート』)にちなんで、ワシントン・ポスト編集局次長によって名付けられた。

ポイント[編集]

ディープ・スロートは厳密には「内部告発を行なった」わけではない。つまり、世間に対して、自ら何かを訴えたわけではない。また、情報を自分で漏らしたわけでもない。情報を入手して世間に明かしたのは、ワシントン・ポストの二人の記者である。

では、ディープ・スロートは何をしたかというと、情報を漏らしたのではなく、情報を得る方法を二人に示唆したことにある。「ここに情報がある」というふうに直接的に情報を示すかわりに、「こういう情報を探せ」というふうに道筋をおおまかに示した。

ただし、具体的に道筋を見つけるのは、あくまでも二人の記者の仕事だった。二人の記者は、必死に情報を探したことで、めざす情報を見つけた。その後、二人の記者が見つけたものに対して、ディープ・スロートは「それではまだ不足だ。もっと探せ」とか、「同じ種類の情報をもっと探せ。二重チェックせよ」とか、ボスの立場でいろいろと指導した。あるいは、「それでいい」と合格点を与えることもあった。

つまり、ディープ・スロートは、どのような情報があるかを明らかに知っていたのだが、その情報を自分で教えることはしていない。その意味で「秘密漏洩」をしたわけではない。また、自分自身で直接的に内部告発をしたわけでもない。このことから、ディープ・スロートは、自分では肝心の情報を知っていたのに、その情報を自分で漏らすわけには行かなかった、ということが窺える。

ディープ・スロートの正体[編集]

ディープ・スロートが誰なのか長い間謎であった。その正体としてフレッド・ラルー(Fred LaRue、ニクソン政権幹部で事件の隠蔽工作を行ったとされる)や、ジョージ・H・W・ブッシュ(George H.W.Bush、のち第41代大統領)、ヘンリー・キッシンジャー(Henry Alfred Kissinger、事件当時の国家安全保障担当大統領補佐官)らの名が噂された。

また、レン・コロドニー&ロバート・ゲトリンの著書「静かなるクーデター」(訳は新潮社)では、ペンタゴンからニクソン政権に送り込まれた軍事問題補佐官、アレクサンダー・ヘイグ准将以外ではありえないと論じられている[1]

2005年5月31日に、当時の連邦捜査局(FBI)副長官だったマーク・フェルト(William Mark Felt)が自分がディープ・スロートであったことを公表した。当時事件を取材したワシントン・ポストボブ・ウッドワードも、マーク・フェルトがディープ・スロートであったことを認め、ウッドワードは内幕を明かした『ディープ・スロート 大統領を葬った男』(伏見威蕃訳、文藝春秋、2005年10月)を刊行している。

なおフェルトは2008年12月18日に95歳で、カリフォルニア州サンタローザ市内の自宅で死去している。

公開済みのニクソンの大統領執務室での会話録音テープなどから、ホワイトハウス側は、事件当時からフェルトがディープ・スロートではないかと疑っていた節があった。

行為に対する評価[編集]

ディープ・スロートの正体が明らかになるとともに、行為への様々な評価が噴出した。

元上院議員のマイク・グラベルは「彼は英雄であり、自由勲章を与えられるべきだ」と告発を称賛した。一方、ニクソンのスピーチライターでもあったパトリック・ブキャナンは「彼が30年以上隠し通してきたのは、自分の行為を恥じているからだ」と非難した。43代大統領ジョージ・W・ブッシュは、フェルトの評価について「判断するのは難しい」と述べた。

動機の一つに、フェルトのFBI長官昇進問題への個人的な不満があったとされる点も、評価が分かれる一因とみられる。

映画化・テレビ化[編集]

映画監督アンドリュー・フレミングは、「ディープ・スロートの正体はわずか15歳の2人の女子学生であった」とする大胆な設定のコメディー映画『キルスティン・ダンストの大統領に気をつけろ!』(原題:Dick、米、1999年。キルスティン・ダンストミシェル・ウィリアムズ主演)を製作した。

ヒーローの存在する架空の世界を描いたコミック『ウォッチメン』においてアラン・ムーアは、ニクソンに送り込まれたヒーロー「コメディアン」によってウォーターゲート事件は隠匿され、結果ニクソンが大統領の座に座り続けたとする歴史改変を行っている。ゲーム版においてはこの一件が中心となっており、ディープ・スロートことマーク・フェルト、およびワシントン・ポスト紙の記者ボブ・ウッドワードカール・バーンスタインらが殺害されるに至った経緯が描かれる。

テレビドラマ『X-ファイル』に登場する情報提供者の名も同じディープ・スロートで、設定はウォーターゲート事件でワシントンポストに情報提供した人物とされている。

また、ゲーム『メタルギアソリッド』に登場するサイボーグ忍者『グレイ・フォックス』も同じ名のディープ・スロートで、主人公にヒントを与えている


追記[編集]

転じて、こんにちではこの言葉は、広義には、「活動先の組織において要職に就き、重要情報を漏洩させるスパイ」を意味するようになっている。

脚注[編集]

  1. ^ 主な出典:立花隆「ぼくはこんな本を読んできた」233頁より、文藝春秋

外部リンク[編集]