テルマ (宗教)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

テルマ(Terma、チベット語: གཏེར་མ་; ワイリー式: gter ma; 「隠された宝」)とは、ボン教チベット仏教に伝わる聖典群である。

チベット仏教[編集]

「大地のテルマ」(サテル)と「霊感のテルマ」(ゴテル)の二種がある。「大地のテルマ」は山河や岩など自然の地形や、寺院などの建築物の中に隠され、発見されたといわれるテルマで、「霊感のテルマ」はダルマダーツ(法界)に隠されたものが、霊感や直観によって捉えられ文字化されたものをいう。テルマを発掘する人のことをテルトンen:Tertön)という。彼らは宗教的な夢やヴィジョン、インスピレーションに導かれ、テルマ発見に至るのだという。伝承によればこうしたテルマを記し、埋蔵したのは、パドマサンバヴァと彼の弟子にしてダーキニー(修法のパートナー)のイェシェ・ツォギェルである。

チベット仏教のなかでもニンマ派カギュ派は膨大なテルマを伝承しているが、 平岡宏一によるとゲルク派ではテルマはあまり発達しなかったという。

代表的なテルマとして「チベット死者の書」として知られる『バルドゥ・トェ・ドル』がある。

仏教全般[編集]

ロバート・ビアによるとテルマにはインド仏教からの歴史があり、『般若経』の場合、釈迦がナーガたちに託しておいたのを龍樹が見出したという[1]。『華厳経』では、微塵の一粒一粒の内に三千大千世界に等しい経巻が収まっている、と説かれ、それを天眼と知恵で見出し、衆生のために取り出そうとする人が例え話に登場する[2]。また、別の箇所では海雲(サーガラメーガ)比丘が南方の海門国に住み、大海を観察していたところ仏が現れ『普眼経』という経典を聞いた、と記されている[3]

台密東密には『大日経』や『金剛頂経』が、南天鉄塔の中より龍樹によって取り出されたという伝説がある。

ボン教[編集]

テルマの伝統はボン教にも存在している。大部分のボン教テルマはTrisong Deutsen王統治下の衰退の時代に秘匿され、11世紀頃に再び見出された。教えはLishu TagringやDrenpa Namkhaのような師たちによって、しばしばサムイェーラダックの仏教寺院に隠された。

永遠の三宝[編集]

ボンポ(ボン教聖職者)とGankyilは三つの重要な「テルマ」あるいは永遠なるボンの「宝」の集まり、北の宝(ワイリー式: byang gter)、中央の宝(ワイリー式: dbus gter)、南の宝(ワイリー式: lho gter)を象徴する[4] 。北の宝はシャンシュン王国と北チベットで現れたテキストから、南の宝はブータンとチベット南部で現れたテキストから、中央の宝は中央チベット、とその近くのサムイェー寺に現れたテキストから編纂された[5]

宝の洞窟[編集]

『宝の洞窟』(チベット語: མཛོད་ཕུག; ワイリー式: mdzod phug)は17世紀初頭にShenchen Luga(チベット語: གཤེན་ཆེན་ཀླུ་དགའ; ワイリー式: gshen chen klu dga')が顕わにしたテルマである。マーティンはシャンシュン語en:Zhang-Zhung language)研究におけるこの書物の重要性を指摘した[6]

[編集]

  1. ^ Robert Beér"The encyclopedia of Tibetan symbols and motifs"p.221
  2. ^ 木村清孝『華厳経をよむ』NHKライブラリー、1997年、279頁
  3. ^ 木村清孝『華厳経をよむ』NHKライブラリー、1997年、322頁、なお同タイトルの経典は少なくとも大正新脩大蔵経には収められていない。
  4. ^ M. Alejandro Chaoul-Reich (2000). "Bön Monasticism". Cited in: William M. Johnston (author, editor) (2000). Encyclopedia of monasticism, Volume 1. Taylor & Francis. ISBN 1579580904, 9781579580902. Source: [1] (accessed: Saturday April 24, 2010), p.171
  5. ^ M. Alejandro Chaoul-Reich (2000). "Bön Monasticism". Cited in: William M. Johnston (author, editor) (2000). Encyclopedia of monasticism, Volume 1. Taylor & Francis. ISBN 1579580904, 9781579580902. Source: [2] (accessed: Saturday April 24, 2010), p.171
  6. ^ Martin, Dan (n.d.). "Comparing Treasuries: Mental states and other mdzod phug lists and passages with parallels in Abhidharma works of Vasubandhu and Asanga, or in Prajnaparamita Sutras: A progess report." University of Jerusalem. Source: [3] (accessed: Monday March 1, 2010)

参考文献[編集]

  • 中沢新一『三万年の死の教え』角川文庫ソフィア、1996年
  • 川崎信定訳『原典訳 チベットの死者の書』ちくま学芸文庫、1993年
  • 平岡宏一訳『ゲルク派版 チベットの死者の書』学研M文庫、2001年

関連項目[編集]