エンベデッドシステムスペシャリスト試験

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エンベデッドシステムスペシャリスト試験
英名 Embedded Systems Specialist Examination
実施国 日本の旗 日本
資格種類 国家資格
分野 コンピュータ・情報処理
試験形式 筆記
認定団体 経済産業省
認定開始年月日 2009年(平成21年)
根拠法令 情報処理の促進に関する法律
公式サイト https://www.ipa.go.jp/shiken/kubun/es.html
特記事項 実施はIT人材育成センター国家資格・試験部が担当
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エンベデッドシステムスペシャリスト試験(エンベデッドシステムスペシャリストしけん、Embedded Systems Specialist Examination、略号ES)は、情報処理技術者試験の一区分である。試験制度のスキルレベル4(スキルレベルは1~4が設定されている。)に相当し、高度情報処理技術者試験に含まれる。対象者像は「IoTを含む組込みシステムの開発に関係する広い知識や技能を活用し、最適な組込みシステム開発基盤の構築や組込みシステムの設計・構築・製造を主導的に行う者」。

概要[編集]

システムエンジニアの中で、IoTを含む組み込み(エンベデッド)システム開発基盤の構築、設計・製造を主導的に行う者を対象としている。

本試験の基となったのは、日本情報処理開発協会(現 日本情報経済社会推進協会)が実施していたマイクロコンピュータ応用システム開発技術者(初級・中級)である。この試験は廃止されるまで上級試験が実施されることはなく、エンベデッドシステムスペシャリスト試験の前身である、マイコン応用システムエンジニア試験が事実上の上級試験として位置づけられていたと考えられる。

特殊な領域を扱うためか、本試験は情報処理技術者試験の各区分のなかで年間の受験者数が最も少なくなっている。

試験の難易度[編集]

本試験の合格率は例年10%台であるが、受験者の大部分は既に下位区分の応用情報技術者試験(スキルレベル3)や基本情報技術者試験(スキルレベル2)に合格できる実力を有している場合が多いため、難易度は相対的に高くなっている。試験の水準は非常に高く、日本国内で実施される組み込み(エンベデッド)システムに関する試験としては最難関であるといわれている。出題される開発対象システムが幅広いため、受験者自身が開発に携わった又は利用した経験のあるシステムが出題される可能性は低く、実務経験者であってもしっかり対策しなければ合格するのは難しいとされる。

本試験は情報処理技術者試験の一区分として実施されているものの、電子回路電気に関する知識も要求される問題がある。計算問題のパターン(種類)が多いため(例えば、モーター回転数を制御する、時間を計算で求める、など)、数学の能力も重要である。

本試験の特徴としては、出題される開発対象システムが幅広いことが挙げられる。以下は午後試験での出題例である。

ソフト&ハード ポータブル心電計カーオーディオシステム、観光案内用ロボット、ドローン気象観測・予測システム
ソフトウェア 自動競りシステム、土砂災害予知システム、ペット医療用シリンジポンプ生産ライン可視化システム
ハードウェア LEDイルミネーションシステム、無人自動運転車バッティング評価システム、案内・警備ロボット

2020年度(令和2年度)の試験以降は、第四次産業革命関連の新技術(AIビッグデータIoTなど)の活用についての内容の出題が強化されている[1]。以下は午後試験でのIoT関連の出題例である。

ハードウェア IoTアミューズメント遊具スマートホーム、スマート畜産
ソフトウェア 所有者追尾スーツケース、スマートバスDXレストラン

また、上記の出題範囲の広さや受験者数の少なさから試験対策用の参考書が少ないことも特徴である。そのため参考書や問題集は、数学は大学受験用、各専門分野は類似した問題が出題される他の資格[注釈 1]のものを揃える必要がある。なお、組み込みシステムに関する参考書は実務者向けの専門書以外にはほぼ無いため、受験者が自ら調査する必要がある。また、警備ロボットの運用に関する問題など、複合的な知識と思考力が問われる問題もある。

2023年春期までは、エンベデッドシステムスペシャリスト試験だけでなく、ITストラテジスト試験システムアーキテクト試験でも組み込みシステムに関する内容が出題されていた。設計者(上流工程)や経営者の立場から見た組み込みシステムに関する内容であった。2023年秋期からは、これらもエンベデッドシステムスペシャリスト試験の出題範囲へ組み込まれた[2]

沿革[編集]

  • 1996年(平成8年)マイコン応用システムエンジニア試験新設、春期から年1回実施。
  • 2001年(平成13年)制度改正によりテクニカルエンジニア(エンベデッドシステム)試験と改称および形式変更。
  • 2005年(平成17年)午前の試験時間延長および出題数増加。
  • 2009年(平成21年)制度改正によりエンベデッドシステムスペシャリスト試験と改称および形式変更。
  • 2020年(令和2年)シラバス改訂。情報セキュリティ分野や第四次産業革命関連の新技術(AIビッグデータIoTなど)の活用についての内容の出題が強化される[1]。また、日本における2019年コロナウイルス感染症による社会・経済的影響の影響により、2020年4月に予定されていた春期試験が中止となり、同年10月に「令和2年度10月試験」として実施[3]。翌年以降も、秋期に時期を変更して実施[4]
  • 2023年(令和5年)出題形式およびシラバス改訂。午後IIが事例解析から論述式へ変更。午前IIの出題分野に「システム企画」「経営戦略マネジメント」「技術戦略マネジメント」が追加[2]。ITストラテジスト試験とシステムアーキテクト試験で、組み込みシステム分野の出題が除外。
  • 2024年(令和6年)シラバス改訂。午前IIの出題分野に「ユーザーインタフェース」が追加[5]

試験の形式[編集]

午前I[編集]

試験時間50分。四肢択一式(マークシート使用)で30問出題され全問解答。他の高度情報処理技術者試験と共通のスキルレベル3相当の問題が出題される。満点の60%を基準点とし、基準点以上で午前I試験通過となる。基準点に達しなかった場合は不合格で、午前II・午後I・午後IIは採点されない。

午前II[編集]

試験時間40分。四肢択一式(マークシート使用)で25問出題され全問解答。スキルレベル4かつ重点分野は「コンピュータ構成要素」「ハードウェア」「ソフトウェア」「システム開発技術」であり、コンピュータシステム系統の問題は殆どが重点分野である。スキルレベル3の中で対象は、「システム構成要素」「ネットワーク」「情報セキュリティ」「ソフトウェア開発管理技術」である。満点の60%を基準点とし、基準点以上で午前II試験通過となる。基準点に達しなかった場合は不合格で、午後I・午後IIは採点されない。

情報セキュリティ」は制御システムのセキュリティ評価や、IoTシステムの設計・開発におけるセキュリティに関する内容を中心に出題される[6]2020年度(令和2年度)の試験より、「情報セキュリティ」がスキルレベル4かつ重点分野に引き上げられたほか、「ビジネスインダストリ」がスキルレベル3として出題範囲に追加された[1][7]。「ビジネスインダストリ」は、民生機器・産業機器などIoT関連知識を含む領域である。2023年より「システム企画」「経営戦略マネジメント」「技術戦略マネジメント」が追加[2]。2024年より「ユーザーインタフェース」が追加[5]

エンベデッドシステムスペシャリスト試験の午前I試験および午前II試験の出題範囲
分類 午前Iと午前IIの両方で出題される領域
特に午前IIではスキルレベル4かつ重点分野
午前Iと午前IIの両方で出題される領域
スキルレベル3
午前Iでのみ出題される領域(午前IIでは対象外)
スキルレベル3
テクノロジ系
マネジメント系
ストラテジ系
  • ビジネスインダストリ(IoT関連領域):2020年度(令和2年度)より午前IIの出題対象に追加[1]
  • システム企画(2023年から午前IIの出題対象に追加)[2]
  • 経営戦略マネジメント、技術戦略マネジメント(2023年から午前IIの出題対象に追加)[2]

午後I[編集]

試験時間90分。エンベデッドシステム製品の設計開発に関する文章問題が2問出題される。2023年度(令和5年度)の試験以降は、2問中1問を選択して解答[2]。満点(100点)の60%を基準点とし、基準点以上で午後I試験通過となる。基準点に達しなかった場合は不合格で、午後IIは採点されない。

  • 2020年度(令和2年度)から2022年度(令和4年度)までの試験は、3問中2問を選択して解答(各50点)[1]
    • 問1~2:ソフトウェア中心の問題
    • 問3:ハードウェア中心の問題
  • 2019年度(平成31年度)の試験までは、問1必須(40点)、問2~3から1問を選択(各60点)、計2問解答。また、問1はソフトウェアとハードウェアの融合問題であった。

午後II[編集]

試験時間120分。企画・要件定義分野及び設計・開発分野が3問出題され、いずれか1問を選択して解答。論述式。評価ランクA、B、C、DのうちA評価のみ合格となる[2]

  • 問1:製品企画中心の問題
  • 問2:ハードウェア中心の問題
  • 問3:ソフトウェア中心の問題

2022年秋期まで[編集]

試験時間120分。エンベデッドシステム製品の設計開発に関する大規模の事例解析問題が2問出題され、いずれか1問を選択して解答。満点(100点)の60%を基準点とし、基準点以上で合格となる。

  • 問1:ハードウェア中心の問題
  • 問2:ソフトウェア中心の問題

科目免除[編集]

下記の試験に合格または基準点を得れば2年間、午前Iの科目免除が受けられる。

  • 応用情報技術者試験に合格すること。
  • いずれかの高度情報処理技術者試験に合格すること。
  • 情報処理安全確保支援士試験に合格すること。
  • いずれかの高度情報処理技術者試験の午前Iに基準点以上を得ること。
  • 情報処理安全確保支援士試験の午前Iに基準点以上を得ること。

合格者の特典[編集]

他資格の受験資格等[編集]

合格者が他の資格等を受験する場合の科目免除または任用資格(従前のマイコン応用システムエンジニア、テクニカルエンジニア(エンベデッドシステム)を含む)。

その他[編集]

区分 受験者数(人) 合格者数(人) 合格率(%)
マイコン応用システムエンジニア 8,696 1,130 13.0
テクニカルエンジニア(エンベデッドシステム) 23,682 2,948 12.4

統計資料の応募者・受験者・合格者の推移表[9]において、上記の数値は本試験に計上されている。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 工事担任者(通信関連)、電気主任技術者(電気関連)など類似した問題が出題され、参考書や問題集も多数販売されている。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e 情報セキュリティマネジメント試験・高度試験・情報処理安全確保支援士試験における人材像・出題範囲・シラバス等の改訂について(新技術への対応、セキュリティ強化など)”. IPA 独立行政法人 情報処理推進機構 (2019年11月5日). 2021年1月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月8日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g 情報処理安全確保支援士試験及び情報処理技術者試験(高度試験の組込み分野)における出題構成等の変更について | 試験情報”. IPA 独立行政法人 情報処理推進機構. www.ipa.go.jp (2022年12月20日). 2024年1月8日閲覧。
  3. ^ 代替試験、秋期試験、一部免除延長について”. www.jitec.ipa.go.jp. IPA 独立行政法人 情報処理推進機構. 2020年7月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月8日閲覧。
  4. ^ 令和3年度春期試験の実施予定について”. www.jitec.ipa.go.jp. IPA 独立行政法人 情報処理推進機構. 2021年1月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月8日閲覧。
  5. ^ a b c 情報処理技術者試験及び情報処理安全確保支援士試験における出題範囲・シラバスの一部改訂について(近年の技術動向・環境変化などを踏まえた改訂) | 試験情報”. www.ipa.go.jp. IPA 独立行政法人 情報処理推進機構 (2023年12月25日). 2024年1月8日閲覧。
  6. ^ 高度午前II試験(DB,ES,AU)セキュリティレベル 4 補足資料 2019,12,20(株)アイテック IT 人材教育研究部
  7. ^ 情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験「試験要綱」Ver.4.4(変更箇所表示版)
  8. ^ 平成31年度技術士試験の試験方法の改正についてのQ&A|公益社団法人 日本技術士会
  9. ^ 情報処理技術者試験 推移表 (PDF) (IT人材育成センター国家資格・試験部)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]