チューバッカ弁論
チューバッカ弁論(チューバッカべんろん、英語: Chewbacca defense) は、1998年10月7日に放送されたアニメ『サウスパーク』第27話(第2シーズン第14話)「シェフ救済ライブ (Chef Aid)」に登場した架空の法廷戦略。弁論の目的は、いわゆる「燻製ニシンの虚偽」として知られる論点のすり替えによって誤謬に陥れ、陪審員を意図的に混乱させることにある。弁論は、(映画『スター・ウォーズ』シリーズに登場する)チューバッカが惑星エンドア[1]に住んでいるという話からはじまり、一連のナンセンスな結論を引き出していく。このコンセプトは、O・J・シンプソンに嫌疑がかけられた殺人事件で、シンプソンの弁護人として活躍したジョニー・コクラン (Johnnie Cochran) の刑事裁判における最終弁論を風刺したものである。AP通信は、大衆文化におけるコクランの位置づけの一例として言及した。このコンセプトは、小規模ながらインターネット現象となり、インターネット上の風刺サイトや修辞学に関するフォーラムなどにおける軽いギャグとして頻繁に使われている。
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起源 [編集]
「シェフ救済ライブ」の話は、シェフが「大手レコード会社」の役員に、「Stinky Britches」という曲の作曲者として、自分の名をクレジットするよう求めることが発端になる。シェフの主張の裏付けは、21歳のときにこの歌を演奏した自分の録音が残されていたことだった。
レコード会社側は、シェフの要求を拒んだ上で、ジョニー・コクランを雇い入れ、嫌がらせ行為をしたとしてシェフを提訴する。法廷でコクランは、ジェラルド・ブロフロフスキーによれば「シンプソン裁判でも用いた」という、「有名な」チューバッカ弁論を展開する。
- コクラン
- ...この「仮想」陪審団の皆さんに、最後に考えていただきたいことがひとつあります。みなさん、これがチューバッカです。チューバッカは惑星キャッシーク出身のウーキーです。しかし、チューバッカが住んでいるのは惑星エンドアです。さあ、考えてみてください。これは何とも理屈に合わないことではありませんか!
- ジェラルド・ブロフロフスキー
- クソっ! ... チューバッカ弁論を使ってるぞ!
- コクラン
- 何でまた、8フィートもあるウーキーが、2フィートしかないイウォークがうじゃうじゃしているエンドアに住みたがったりするんでしょう? これはまったく理屈に合いません。しかし、もっと重要で、皆さん自身が問うべきなのは、このことが本件裁判に何の関係があるのか?ということです。何もありません。皆さん、これは本件に何も関係がありません! まったく理屈に合いません! 私を見てください。私は、大手レコード会社を弁護する弁護士ですが、話しているのはチューバッカのことです! これは理屈に合っていますか? 皆さん、私は理屈に合う話なんか何もしていないのです。何も理屈なんか通っていません! ですから皆さんには、思い出していただかなければなりません。皆さんが陪審員室で審議したり、奴隷解放宣言を文法的に活用させたりすることは、理屈に合っているのでしょうか? ノー! この仮想陪審団の皆さん、そんなことは何も理屈に合いません! チューバッカがエンドアに住んでいるのなら、皆さんは無罪放免にすべきです! 弁護側の弁論を終わります。
この最後の部分は、ジョニー・コクランによる、O・J・シンプソン事件の最終弁論のパロディになっている。コクランは陪審員たちに、「手袋が入らなかったのなら、皆さんは無罪放免にすべきです!」と、裁判の過程で、殺人現場で発見された血の付いた手袋をはめてみるよう検察官クリストファー・ダーデン (Christopher Darden) が被告O・J・シンプソンに促し、結局その手袋が小さすぎてシンプソンがはめるのは容易ではないことが明らかになったことに言及した[2]。
同様に「シェフ救済ライブ」のエピソードでも、コクランの弁論は成功し、陪審団はシェフが「大手レコード会社に嫌がらせをした」と認定して、24時間以内に2億ドルを罰金として支払うか、それができなければ4年の懲役とすると決める(判事による当初の判決では8億年の懲役だった)。
結局、「シェフ・エイド」と題した慈善コンサート (Benefit concert) が組織されてシェフのために資金を集め、ジョニー・コクランが今度はシェフに雇われてレコード会社を訴える。コンサート会場でコクランは改心し、シェフの弁護を引き受けたのである。法廷でコクランは再びチューバッカ弁論を展開し、今度はレコード会社の主張を崩して、シェフの著作権を認めさせた。この2回目のチューバッカ弁論では、コクランは猿のパペットを取り出し、「ほら、サルを見て。このおバカなサルを見て!」と叫び、陪審員のひとりの頭を爆発させた。
用例 [編集]
AP通信は、コクランの訃報記事で、コクランの存在がポップカルチャーの一部になっていたひとつの例として、チューバッカ弁論のパロディに言及した[3]。
犯罪学者トマス・オコナー博士 (Dr. Thomas O'Connor) は、DNA型鑑定で「一致」とされて被疑者への嫌疑が晴らせなくなると、弁護人にできることは、鑑定自体がずさんなものであると攻撃するか、「チューバッカ弁論」を使って...鑑定による証拠の根拠や確率論的推定の手続きが、いかに複雑で込み入った危ういものであるのか、陪審員をごちゃごちゃと混乱させることしかない、と述べている[4]。法科学者エリン・ケニアリー (Erin Kenneally) によると、法廷では電磁的記録などのデジタル証拠 (digital evidence) に対抗して、しばしばチューバッカ弁論が用いられ、コンピュータやインターネット・プロバイダーから得られた法科学的証拠について様々な異なる解釈の可能性を提示して、陪審員が理解できる合理的な疑いを形成しようとする、と指摘している。ケニアリーはまた、チューバッカ弁論に反論する手法についても論じている[5][6]。ケニアリーとその同僚のアンジャリ・スウィーントン (Anjali Swienton) は、この論題についてフロリダ州裁判所や、2005年のアメリカ法科学会 (American Academy of Forensic Sciences) の年次大会で、報告している[7]。
「チューバッカ弁論」は政治評論にも使われる表現である。ユーモア作家エリス・ワイナー (Ellis Weiner) は、ウェブサイト「The Huffington Post」に寄せた記事で、ディネシュ・ドゥスーザ (Dinesh D'Souza) が2007年に合衆国下院の新たな議長となったナンシー・ペロシを批判するのにチューバッカ弁論を用いたと述べ、「誰かが自分の言い分を、聴き手の脳がまったく麻痺してしまうほど明らかにナンセンスなことを並べて主張すること」とチューバッカ弁論を定義した[8]。
ジェイ・へインリックス (Jay Heinrichs) は、2007年の著書『Thank You for Arguing』で、「チューバッカ弁論」が、論理学的誤謬のひとつである燻製ニシンの虚偽と同義の表現として「用語辞典に忍び込もうとしている」と述べている[9]。
出典・脚注 [編集]
- ^ この記事で「惑星エンドア」として言及されているのは、厳密には、ガス状巨星である惑星エンドアの衛星のひとつで、「森の月」「聖なる月」と称される衛星のことである。
- ^ “CNN Interactive: Video Almanac - 1995”. 2011年1月20日閲覧。
- ^ “Cochran was rare attorney turned pop culture figure”. Associated Press. (2005年3月30日) 2007年1月27日閲覧。
- ^ Thomas O'Connor, Ph.D., Austin Peay State University Center at Ft. Campbell and North Carolina Wesleyan College. “<! -- Bot retrieved archive --> DNA Typing and Identification”. 2006年10月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年1月27日閲覧。
- ^ Erin Kenneally, M.F.S., J.D.. “Applying Admissibility, Reliability to Technology”. Florida State Courts. 2006年12月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年1月27日閲覧。
- ^ Anjali R. Swienton, M.F.S., J.D. Erin Kenneally, M.F.S., J.D.. “Poking the Wookie: the Chewbacca Defense in Digital Evidence Cases”. SciLaw Forensics, Ltd.. 2007年1月27日閲覧。
- ^ “Upcoming AAFS Annual Meeting”. CERIAS, Purdue University. 2007年1月27日閲覧。
- ^ Ellis Weiner (2007年1月24日). “D is for Diabolical”. The Huffington Post 2007年1月27日閲覧。
- ^ Heinrichs, Jay (2007). Thank You for Arguing: What Aristotle, Lincoln, and Homer Simpson Can Teach Us About the Art of Persuasion. New York: Three Rivers Press. pp. 148–49. ISBN 9780307341440.
参考文献 [編集]
- Arp, Robert (December 2006). “The Chewbacca Defense: A South Park Logic Lesson”. In Arp, Robert. South Park and Philosophy: You Know, I Learned Something Today. Blackwell Publishing. ISBN 978-1405161602.
関連項目 [編集]
- en:Chef Aid
- en:Idiot defense
- en:The Pirate Bay trial#"King Kong" defense
- FUD -「恐怖、不安、疑念」
- en:Big Lie -「大きな嘘」はプロパガンダ戦術のひとつで、馬鹿げた話を確信をもって語ることで、聞き手に、普通の人間なら真実でもないのに畏れもなく堂々とこんなことは言わないだろうという直感的判断を引き起こさせ、それを真実として受け入れさせること。
- en:Non sequitur (logic) - 論理学的誤謬のひとつ
- 背理法 - 馬鹿げた結論から、前提の誤りを証明する方法
- 燻製ニシンの虚偽 - 論点のすり替えのひとつ
- 省略三段論法 - コクランの論法を分析する参考になる
- en:Price of eggs - 話題と無関係な事柄を持ち込む際の常套句
- en:Reverse psychology
外部リンク [編集]
- Audio recording of the Chewbacca Defense - southparkstudios.com
- Chewbacca defense on tvtropes - tvtropes.org
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