ダヘーズ

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ダヘーズヒンディー語:दहेज़、ウルドゥー語:دہیز、英語:ダウリー)とは、インドに於ける結婚の慣習の一種で、結婚の際に女性側が男性側に支払う持参金や価値の高い物品(貴金属類、宝石、家電製品など)の事である。日本では結納と意訳される事があるが、神道キリスト教などに於ける他宗教の結納とは根本を異にする。語源はアラビア語のジャヒーズ(جهيز)。

ダヘーズの成立[編集]

ダヘーズがどのようにして成立したかについては、はっきりとはわかっていない。おそらく、その起源はヒンドゥー教寺院に対してのお布施ではないか、と言われているが、そのお布施が結婚とどのように結びついていったかは全く解明されていない。ただ、ヒンドゥー教徒同士の結婚にのみ見られることから、ヒンドゥー教の慣習に由来していることだけはわかっている。

ダヘーズの問題点[編集]

インドでは、「女子の誕生は悪業の結果」と言う考えがいまだに根強く残っており、「娘が何百人いようとも一人息子にはかなわない」「ダヘーズで潰されるくらいなら女は産まない方が良い」とも言われているほど、ダヘーズに伴う問題が深刻化している。これには男尊女卑の思想が根本にある事は言うまでもない。

まず、ダヘーズのインフレーションが挙げられる。ダヘーズは近年高額化しており、ダヘーズの金額が少なかったがために嫁いだ女性が殺害されるケース、すなわちダヘーズ殺人も激増している。ダヘーズ殺人は告訴例が非常に少ない事でも知られる。なぜなら、インドの一般的家庭では男児を多く産み、女児はおまけ程度とみなされがちで、女性の実家側もダヘーズの恩恵に与っている事が非常に多いからである。さらに、ヒンドゥー教では離婚が認められておらず、「女性は結婚したその瞬間から実家とは縁も所縁も無くなる」という考えが広く浸透している。このため、ダヘーズを結婚後もさらに強要され、実家に逃げ帰った途端に実父に殺害された、という女性も後を絶たなくなっている。このような殺人も名誉の殺人として穏便に処理され、事件としては扱われない事が多い。一方で、男性側には「嫁が死んでも再婚してダヘーズを手に入れればよい」と考える者も少なくなく、このような思想もダヘーズ殺人の増加につながっている。インドで経済発展が進むにつれインフレーションも進行し、それがダヘーズの高額化やダヘーズ殺人の増加に拍車をかける、と懸念する声はインド国内外から上がっている。

さらにダヘーズの高額化は男女の産み分けにも影響を及ぼしている。インドでは近年、女児中絶や女児堕胎が急増している。性別が判明し次第、出産は男児のみにとどめ、女児の場合は中絶ならびに堕胎する、という夫婦が少からず存在するからである。事実インドでは人口に於ける女性の割合が激減しており、インド政府は危機感を募らせているが、これに対して何の手も打てずにいるのが実情のようである。

1961年、「ダヘーズ禁止法(Dowry Prohibition Act)」が制定・施行され、ダヘーズは名目上は禁止されたが、この法律の施行に対して反対するデモや暴動がインド国内各地にて多発した。今日でもなおダヘーズは存在し続けており、ダヘーズ贈与なしでのヒンドゥー教徒同士の結婚はいまだにごく一部の大都市でしか見る事ができない。ヒンドゥー教徒の結婚は現在も見合い結婚、それも同一カースト内での結婚が大原則となっており、子達を親が勝手に結婚させる事が圧倒的に多い。それゆえ、配偶者の顔を結婚式前日や当日になって初めて見た、という事も多い。恋愛結婚・異カースト同士の結婚は増えつつあるとは言え、まだまだ数えるほど少ない、と言うのが実情であり、それがダヘーズそのものを悪しきヒンドゥー教の慣習として残す要因にもなっているのである。

関連項目[編集]

参考文献[編集]