ダゲレオタイプの女

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ダゲレオタイプの女
La Femme de la plaque argentique
監督 黒沢清
脚本 黒沢清
製作 吉武美知子
ジェローム・ドプフェール
出演者 タハール・ラヒム
コンスタンス・ルソー
オリヴィエ・グルメ
マチュー・アマルリック
マリク・ジディ
音楽 グレゴワール・エッツェル
撮影 アレクシ・カヴィルシーヌ
編集 ヴェロニク・ランジュ
配給 日本の旗 ビターズ・エンド
公開 カナダの旗 2016年9月11日(トロント国際映画祭
日本の旗 2016年10月15日
上映時間 131分
製作国 フランスの旗 フランス
ベルギーの旗 ベルギー
日本の旗 日本
言語 フランス語
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ダゲレオタイプの女』(ダゲレオタイプのおんな、原題: La Femme de la plaque argentique)は、2016年フランスベルギー日本合作の恋愛ホラー映画。監督は黒沢清、主演はタハール・ラヒムコンスタンス・ルソーオリヴィエ・グルメマチュー・アマルリックマリク・ジディが務めている。

あらすじ[編集]

青年ジャン(タハール・ラヒム)は、パリ郊外の古屋敷に住まう写真家ステファン(オリヴィエ・グルメ)の助手になる。ステファンは、娘であるマリー(コンスタンス・ルソー)をモデルに、170年前に開発された写真撮影技術ダゲレオタイプの再現にいそしんでいる。マリーは長時間の拘束を要するこの撮影方法を受け入れつつも、自立した人生を送りたいと思っている。そして、ジャンはそんなマリーに惹かれていく。

植物を愛し、植物園で働きたいと望むマリーのもとに、トゥールーズの植物園から手紙が届く。マリーは面接を受けることが決まったとジャンに伝えて、喜びを分かち合う。

ステファンの亡き妻ドゥーニーズ(ヴァレリ・シビラ)は、かつてダゲレオタイプのモデルを務めていたが、屋敷に隣接する温室で首吊り自殺を遂げた。以後、ドゥーニーズの幽霊がステファンの前に現れて、彼の心を苛んでいる。

バーに立ち寄ったジャンは、ステファンの旧友ヴァンサン(マチュー・アマルリック)と偶然に出会う。そこにはヴァンサンの従弟トマ(マリク・ジディ)が同席していた。土地開発業者であるトマは、ステファンの屋敷の土地が500万ユーロか600万ユーロの高値で売れることをジャンに告げる。後日、トマがステファンの屋敷を訪ねてくるが、ステファンは怒り、トマを追い返す。

ある夜、マリーは屋敷の階段から転落する。ジャンは彼女を車に乗せて、急いで病院へと向かう。道中、2人が乗った車は湖畔でスピンする。運転席に座ったジャンが後ろを振り返ると、後部座席に横たわっていたはずのマリーの姿が忽然と消えている。訝しみながら自宅のアパートメントに帰り着いたジャンは、マリーに迎えられる。一方、ステファンはマリーが死んだと思い、絶望に打ひしがれる。

ジャンとマリーは、ステファンにはマリーが死んだと思わせておき、屋敷の土地を手放させようとする。ジャンはステファンの署名を真似て、土地の売却のための書類を提出する。しかし、署名の偽造に気づいたトマは書類の受け取りを拒否する。

ジャンはステファンの屋敷を訪れて、マリーが実は生きているのだと告げる。それを聞いたステファンは、拳銃で自らの頭部を打って自殺する。その直後、トマが屋敷を訪ねてくる。ステファンの手から滑り落ちた拳銃を拾い上げたジャンは、トマを射殺する。

ジャンとマリーは車に乗り、田舎へと向かう。ジャンは、路上に落ちていた針金を拾い上げて、即席の結婚指輪をこしらえる。無人の教会に忍び込んだ2人は祭壇で愛を誓い合い、ジャンはマリーの薬指に指輪をはめる。そこへ神父が入ってきて、すぐに退出するよう告げる。振り返ったジャンは隣に視線を戻すが、マリーの姿が見当たらなくなっている。ジャンは教会を立ち去り、車を走らせる。

ジャンを乗せた車が田舎道で停まる。ハンドルを握ったジャンの両手が震えている。助手席に向かって会話を交わした後、ジャンは家に帰ることを決心する。彼は「良い旅だった」と微笑み、車のエンジンをかけるのであった。

キャスト[編集]

上映[編集]

2016年9月11日、第41回トロント国際映画祭のプラットフォーム部門にて、本作のワールド・プレミア上映が行われた[1]日本では、9月15日にヒューマントラストシネマ渋谷でプレミア上映が行われて[2]、10月15日に一般公開された[3]。9月24日から10月28日までのあいだ、本作の公開を記念した「フランス幻想怪奇映画特集」がアンスティチュ・フランセ東京にて開催された[4]。10月8日、第21回釜山国際映画祭のガラプレゼンテーション部門にて上映された[5]。同映画祭では、黒沢清のハンドプリンティング(手形取り)も行われており、これは日本人の映画監督としては北野武今村昌平鈴木清順若松孝二に続く5人目のことである[6]。10月27日、第29回東京国際映画祭のJapan Now部門にて上映された[7]

評価[編集]

本作に5点満点の3点を与えている宇田川幸洋は、「写真と死の関連をめぐる展開は、幽霊もからみ、ぞくっとさせる怪奇味がせまる」と評価したが、「後半、それまで視点人物に徹していたジャンが、下世話な犯罪者に転じると、まるで陳腐になる」と批判した[8]川口敦子は、コンスタンス・ルソーの「この世ばなれした存在感、遠慮がちに佇む様子、ちろちろと蝋燭の灯が揺れるように震える瞳」を称賛し、また、「死者との恋に孤独を癒す青年の切なさ」が本作の中心にあると指摘した[9]

出典[編集]

  1. ^ 黒沢清監督、トロント映画祭「ダゲレオタイプの女」プレミア満席&サイン攻めに感無量!”. 映画.com (2016年9月13日). 2016年11月16日閲覧。
  2. ^ 「ダゲレオタイプの女」黒沢清監督、主演俳優タハール・ラヒムの演技力にぞっこん”. 映画.com (2016年9月16日). 2016年11月16日閲覧。
  3. ^ 黒沢清監督の世界デビューを盟友・西島秀俊が祝福「傑作。非常にしっとした」”. 映画.com (2016年10月15日). 2016年11月16日閲覧。
  4. ^ フランス幻想怪奇映画特集開催 「ダゲレオタイプの女」公開記念し黒沢清監督トークも”. 映画.com (2016年8月6日). 2016年11月16日閲覧。
  5. ^ 黒沢清「新しい一章の始まり」、釜山映画祭で「ダゲレオタイプの女」の意義語る”. 映画ナタリー (2016年10月9日). 2016年12月12日閲覧。
  6. ^ 黒沢清、釜山映画祭で日本人監督5人目となる手形の栄誉!「自分にとっての新しい一歩」”. 映画.com (2016年10月11日). 2016年12月12日閲覧。
  7. ^ 黒沢清監督、TIFF上映の『ダゲレオタイプの女』のQ&Aで感無量”. ニュースウォーカー (2016年10月27日). 2016年12月12日閲覧。
  8. ^ 宇田川幸洋 (2016年10月14日). “映画『ダゲレオタイプの女』 写真と死、怪奇せまる”. 日本経済新聞. 2016年12月12日閲覧。
  9. ^ 川口敦子 (2016年10月11日). “女優の資質をあっけなく自作の支柱にし得る監督の繊細な力業”. 映画.com. 2016年12月12日閲覧。

外部リンク[編集]