タンディ・ワルノ

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Tandy Warnow
タンディ・ワルノ
2018年
生誕 Tandy Jo Warnow
国籍 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
研究分野 計算機科学
計算生物学
系統学
メタゲノミクス
多重整列アラインメント[1]
研究機関 イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校
ペンシルベニア大学
テキサス大学オースティン校
出身校 カリフォルニア大学バークレー校 (BS, PhD)
論文 Combinatorial algorithms for constructing phylogenetic trees (1991)
博士課程
指導教員
Eugene Lawler[2]
他の指導教員 Michael Waterman
Simon Tavaré[要出典]
博士課程
指導学生
Luay Nakhleh[3]
主な受賞歴
  • David and Lucile Packard Foundation Fellow (1996)
  • Radcliffe Institute for Advanced Study Fellow (2003)
  • John Simon Guggenheim Foundation Fellow (2010)
  • ACM Fellow (2015)
  • ISCB Fellow (2017)
配偶者 George Chacko [4]
公式サイト
tandy.cs.illinois.edu
プロジェクト:人物伝
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タンディ・ワルノ (Tandy Warnow1955年9月28日 - ) は米国コンピュータ科学者であり、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の工学・コンピュータ科学の創設者教授 (Founder Professor) を務めている[5][6]。彼女は生物学と歴史言語学の両方で系統樹の再構築を行なった研究で知られており、また多重配列アラインメントの解析の研究でも知られる[7]

生い立ち[編集]

ワルノはカリフォルニア大学バークレー校において、学部学生および大学院生として数学を学び、1984年に学士号を得、ユージーン・ローラーの下で1991年に博士号を得た[2]。彼女の博士論文を審査したのは他に、リチャード・カープマヌエル・ブラムダン・ガスフィールド英語版デイヴィッド・ゲールがいた[2]

研究歴[編集]

1991年から1992年まで南カリフォルニア大学にてマイケル・ウォーターマン英語版の下で、1992年から1993年までアルバカーキサンディア国立研究所でそれぞれ博士研究員となった後、ペンシルベニア大学で教授となり、そこで1999年まで務めてテキサス大学へ移った。2014年にイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の教授となり、工学の創設者教授およびコンピュータ・サイエンス学部の副学部長となった。ワルノは、動物生物学、生物工学、電気・コンピュータ工学、昆虫学、数学、植物生物学、統計学の各学部の協力教員 (courtesy appointment) でもある[6][8]

1995年、ペンシルベニア大学でのワルノ、ドナルド・リンジ英語版、アン・テイラーの、完全系統樹英語版解析に基づいた研究は、インド・ヨーロッパ語族における初期の分化の時期に関する包括的な理論を導いた。彼らの解析結果は、インド・ヨーロッパ語族から最初に分岐したのはアナトリア語派だったとするインド・ヒッタイト仮説英語版に支持を与えるものだった。また、アルメニア語ギリシャ語はインド・ヨーロッパ語族の亜族を構成するというグレコ・アルメニアン仮説 (Graeco-Armenian hypothesis) も支持するものだった。さらに、ゲルマン祖語バルト・スラヴ語派と近しい関係にあったがゲルマン民族が西方へ移住しイタリック語派ケルト語派の話者らと接触したため変化が起こったという仮説ゆえに取り扱いが難しかったゲルマン語派を、彼らはインド・ヨーロッパ語族の系統樹へはめこんだ[9]。この完全系統樹のアプローチはワルノと共同研究者らによって、言語間の未検知の借用を見越せるようさらに発展し、言語の進化は樹型というよりネットワーク型にモデル化された[10]

2009年にワルノと共同研究者らは、生物学的な多重配列アラインメントと進化系統樹を同時に推定する SATé ソフトウェアを発表した[11]。このソフトウェアは、それ以前の BAli-Phy[12] 等のような手法に比べると厳格な数学的原理にあまり固執しない分、極めて処理が早く、何千という種の非常に正確な系統樹とアラインメントを短時間で導き出すことができる。それに比べて、先行手法の処理の重さは一度に数十程度の種の比較しか許さなかった[13][14]

2014年から2018年にかけての彼女の研究は、3つのテーマにわたっている。それは、多重配列アラインメントを超巨大データセットへと拡張すること、多数の遺伝子を用いた進化系統樹の推定(および不完全遺伝子系統仕分け (incomplete lineage sorting) による遺伝子系統樹での異種混交の分析)、メタゲノミクスである。それらのテーマにおける彼女の主な成果としては、アラインメントと系統樹を同時推定する PASTA 手法があり、これはSATé を改良したもので、100万シーケンスにものぼる極めて正確なアラインメントを取り出せる[15]。彼女は種の系統樹を推定する ASTRAL 手法も開発し、これは不完全血縁関係分類を使って種系統樹を作成する統計的に首尾一貫した手法である[16]

受賞[編集]

ワルノは2014年にイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の工学部の創設者教授に任命された。2010年にはテキサス大学オースティン校でコンピュータ・サイエンスのデイビット・ブルートンJr.100周年記念教授となっている[6]

ワルノは、2011年にジョン・サイモン・グッゲンハイム財団の特別研究員の地位を、2003年にラドクリフ研究所の特別研究員の地位を、1996年にデイヴィッド・アンド・ルシール・パッカード財団の特別研究員の地位を、1994年にアメリカ国立科学財団の若手研究者賞を受けている[6]

2015年に彼女は、「大規模な分子系統学研究および歴史的言語研究における数学的理論、アルゴリズム、ソフトウェアへの寄与」を理由として計算機械学会 (Association for Computing Machinery) のフェローとなった[17]。2017年には国際計算生物学会 (International Society for Computational Biology, ISCB) のフェローとなった[18]

私生活[編集]

ワルノの母は著名なアーキビストであるジョアン・ワルノ・ブレウェットで、父のモートン・ワルノはオーケストラ指揮者マーク・ワルノ英語版の息子で作曲家レイモンド・スコット英語版の甥である。双子の姉妹にあたる Kimmen Sjölander は生命情報科学(バイオインフォマティクス)の研究者でカリフォルニア大学の教授である。ワルノの夫はジョージ・チャコである[4]

脚注[編集]

  1. ^ Tandy Warnow”. Google Scholoar. 2019年12月29日閲覧。
  2. ^ a b c Warnow, Tandy Jo (1991). Combinatorial algorithms for constructing phylogenetic trees (PhD thesis). University of California, Berkeley. OCLC 25765772
  3. ^ Nakhleh, Luay (2004). Phylogenetic networks (PhD thesis). University of Texas at Austin. hdl.handle.net/2152/2126
  4. ^ a b http://tandy.cs.illinois.edu/family.html
  5. ^ Tandy Warnow's 公式ウェブサイト
  6. ^ a b c d Tandy Warnow Curriculum vitae” (PDF). 2019年12月29日閲覧。
  7. ^ Warnow, Tandy (2017), Computational Phylogenetics: An Introduction to Designing Methods for Phylogeny Estimation, Cambridge University Press, ISBN 9781107184718 
  8. ^ Tandy Jo Warnow - Mathematics Genealogy Project
  9. ^ Johnson, George (1996-01-02), “New Family Tree Is Constructed For Indo-European”, New York Times, https://www.nytimes.com/1996/01/02/science/new-family-tree-is-constructed-for-indo-european.html?pagewanted=all&src=pm .
  10. ^ Nakhleh, Luay; Ringe, Donald A.; Warnow, Tandy (2005). “Perfect Phylogenetic Networks: A New Methodology for Reconstructing the Evolutionary History of Natural Languages”. Language 81 (2): 382–420. doi:10.1353/lan.2005.0078. 
  11. ^ Liu, K.; Raghavan, S.; Nelesen, S.; Linder, C. R.; Warnow, T. (2009-06-18). “Rapid and Accurate Large-Scale Coestimation of Sequence Alignments and Phylogenetic Trees”. Science 324 (5934): 1561–1564. Bibcode2009Sci...324.1561L. doi:10.1126/science.1171243. 
  12. ^ Suchard, Marc; Redelings, Ben (2006). “BAli-Phy: simultaneous Bayesian inference of alignment and phylogeny”. Bioinformatics 22 (16): 2047–2048. doi:10.1093/bioinformatics/btl175. PMID 16679334. 
  13. ^ “Method For Computing Evolutionary Trees Could Revolutionize Evolutionary Biology”, ScienceDaily, (2009-06-18), https://www.sciencedaily.com/releases/2009/06/090618143952.htm .
  14. ^ Kloc, Joe (2009-07-01), “How to build a better tree of life: An unconventional approach to analyzing molecular sequences allows researchers to construct larger evolutionary trees”, Seed, http://seedmagazine.com/content/article/how_to_build_a_better_tree_of_life/ .
  15. ^ Mirarab, S.; Nguyen, N.; Guo, S.; Wang, L.-S.; Kim, J.; Warnow, T. (2014). “PASTA: Ultra-Large Multiple Sequence Alignment for Nucleotide and Amino-Acid Sequences”. Journal of Computational Biology 22 (5): 377–386. doi:10.1089/cmb.2014.0156. PMC 4424971. PMID 25549288. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4424971/. 
  16. ^ Mirarab, S.; Warnow, T. (2015). “ASTRAL-II: coalescent-based species tree estimation with many hundreds of taxa and thousands of genes”. Bioinformatics 31 (12): i44–i52. doi:10.1093/bioinformatics/btv234. PMC 4765870. PMID 26072508. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4765870/. 
  17. ^ ACM Fellows Named for Computing Innovations that Are Advancing Technology in the Digital Age”. ACM (2015年12月8日). 2015年12月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年12月9日閲覧。
  18. ^ February 13, 2017: The International Society for Computational Biology Names Seven Members as the ISCB Fellows Class of 2017”. www.iscb.org. 2017年2月13日閲覧。

外部リンク[編集]