タイフーン型原子力潜水艦

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Typhoon class
タイフーン型潜水艦
艦級概観
名前: Akula (Акула) (NATO: タイフーン)
建造: ルビーン設計局
運用:  ソビエト連邦海軍
 ロシア海軍
前級 : デルタ型原子力潜水艦
次級: ボレイ型原子力潜水艦
所属期間: 1981年12月12日
完工: 6隻
現役: 1隻
解体: 3隻
仕様諸元
艦種: 弾道ミサイル潜水艦
排水量 浮上時:23,200–24,500 t (22,830–24,110 long tons)
潜航時:33,800–48,000 t (33,270–47,240 long tons)
全長: 175 m (574 ft 2 in)
全幅: 23 m (75 ft 6 in)
喫水: 12 m (39 ft 4 in)
機関: 2 × OK-650 加圧水型原子炉, それぞれ190 MW (254,800 hp)
2 × VV-型蒸気タービン, それぞれ37 MW (49,600 hp)
2軸推進
7枚羽根スクリュー
速力: 浮上時:22.22ノット (41.15 km/h; 25.57 mph)
潜航時:27ノット (50 km/h; 31 mph)
航海日数: 180日間潜航
試験深度: 400 m (1,300 ft)
総員: 163人
兵装: 1 × 9K38 イグラ SAM
2 × 650 mm (26 in) 魚雷発射管
RPK-7 Vodopad AShM
65K型 魚雷
4 × 533 mm (21 in)魚雷発射管
RPK-2 Viyuga巡航ミサイル
53型魚雷[1]
D-19発射装置
• 20 × RSM-52 SLBM

タイフーン型原子力潜水艦(タイフーンがたげんしりょくせんすいかん)は、ソビエト連邦で開発された原子力潜水艦に対し北大西洋条約機構(NATO)が付けたNATOコードネームである。ソ連およびソ連崩壊後にこのシリーズを継承したロシア連邦では専ら 941 「アクーラ」設計戦略任務重ミサイル潜水巡洋艦(941 「アクーラ」せっけいせんりゃくにんむじゅうミサイルせんすいじゅんようかん;ロシア語: Тяжёлые раке́тные подво́дные крейсера́ стратеги́ческого назначе́ния прое́кта 941 «Аку́ла»)と呼ばれ、戦略任務重ミサイル潜水巡洋艦ロシア語版тяжёлые раке́тные подво́дные крейсера́ стратеги́ческого назначе́ния, ТРПКСН)の代表的なシリーズであった。

ソ連海軍での正式分類は、当初は巡洋潜水艦1977年7月25日以降は重ミサイル潜水巡洋艦であった。ロシア連邦海軍でも当初は重ミサイル潜水巡洋艦であったが、1992年6月3日付けの分類法改正でこの分類は廃止され、かわって新設された戦略任務重原子力潜水巡洋艦へ編入された。すなわち、日本の報道メディアで普通「ミサイル潜水巡洋艦」と呼ばれている艦種に当たる。

概要[編集]

проект941(タイフーン)型原子力潜水艦 後方より

941 設計は、ソ連ではロシア語で「」を意味する「アクーラ」という設計暗号で呼ばれた。これは、別の原子力潜水艦に NATO が Akula class というコードネームを付けていたことに関連し、混乱を狙ってわざと付けられた名称である。設計は、「ルビーン」海洋工学中央設計局、主任設計師I.スパスキーが担当した。

ソ連海軍の戦略原潜に搭載される弾道ミサイルは、液体燃料主体であり、固体燃料ロケットは、ヤンキーII型で試作されたR-31(SS-N-17)のみであった。本型は、新型の固体燃料弾道ミサイルR-39(SS-N-20)を搭載するために計画された艦である。R-39は、約9,000kmの射程距離を持つ長射程ミサイルで、それ以前のR-31に比べると性能は大幅に向上したが、重量が100t近くなったため、それまでの667B 設計(デルタ級)シリーズには搭載できない「マンモス」ミサイルになってしまった。そこで、同ミサイルを搭載するために、新たに大型の原潜を設計する事になり、建造されたのが941 設計であった。このためもあってか、941 設計は、水中排水量が48,000tに達する空前絶後の超巨大潜水艦となった。タイフーンは、これまでの潜水艦とは異なる革新的なデザインで当時の西側諸国を驚かせた。

建造[編集]

本型は、セヴェロドヴィンスク市の第402造船所(現セヴマシュ・プレドプリャーチェ、北方機械建造会社)で6隻が建造された。むろんこれは、同造船所で「竣工」した最大の艦船であった。同造船所で「起工」された最大の艦船は、1938年に起工された6万トン級戦艦ソビエツキー・ソユーズ級戦艦であったが、独ソ戦勃発により建造中止となっている。それまでの667B 設計シリーズよりも遥かに大きい941型は、既存の港湾設備での運用は無理が有り、1980年代、原潜基地ザーパドナヤ・リーツァのニェールピチャ湾に本型専用埠頭が建設された。

「タイフーン」の由来[編集]

本型に対し、NATOは当初、「S(シエラ)型」のコードネームを割り当てる予定であったが、当時(1980年)のソビエト連邦軍参謀総長ニコライ・オガルコフソ連邦元帥が「この度、我が海軍に、新型原潜"タイフーン"が就航した」と発表したため、「タイフーン」型というコード名で呼ばれる事になった。

だが上記のように、本型のソ連海軍での設計暗号は「アクーラ」であり、「タイフーン」とは呼ばれていない。「タイフーン」は潜水艦ではなくそれに搭載されるミサイル、R-39のニックネームであった模様である。オガルコフ元帥は「この度、"タイフーン(ミサイル)"を搭載した新型原潜が就航した」と言ったのが、「原潜"タイフーン"」と誤解されて伝わったのか、あるいは陸軍出身のオガルコフ元帥が、艦とミサイル名を勘違いして発表してしまったのかのいずれかと思われる。

履歴と現状[編集]

一番艦TK-208は、後にロシアの英雄ドミートリー・ドンスコイに因みドミートリー・ドンスコイと命名されている。941 設計は6隻建造され、R-39(SS-N-20 Sturgeon)潜水艦発射弾道ミサイルを20基備える世界最大の潜水艦であったが、財政難によりすでに3隻が退役し、TK-208は、1992年以降改装工事に入り、新型潜水艦発射弾道ミサイル3M14ブラヴァー(Bulava)(SS-NX-30)のテストプラットフォームとなるための改造を施され、2003年に工事を完了し、2005年9月、ブラヴァーの発射テストに成功した。なお、ブラヴァー試験艦に改造されて以降は941U 設計、941UM 設計と呼ばれる。

ソ連崩壊後も、ロシア海軍は本型と667BDRM 設計(デルタIV級)を維持する方針であったが、極度の財政難により、維持運用に多大な費用が掛かる本型のようなマンモス原潜は、ロシア海軍の手に余る存在となった。

加えて、主要コンポーネントである第1段ロケットをウクライナで生産していた搭載ミサイルのR-39は、ソ連崩壊で製造が途絶え、1990年代以降、寿命が尽きる事が予測された。代替となるR-39UTTkhバルクの開発も1998年には中止され、941 設計は搭載ミサイルの供給を絶たれる事になった。

1990年代末期以降、3隻の941 設計が除籍された。残る3隻も現役を退くのは時間の問題と見られていたが、元首相のセルゲイ・ステパーシンは、残る3隻を現役に留める為、率先して活動を行ない、3隻の除籍を食い止めた。

現役にあるのはTK-208、TK-17、TK-20の3隻のみであるが、上記のようにTK-208は新型ミサイルの実験艦に改装され、TK-17とTK-20は予備役になっている為、もはや海洋核抑止戦力としては機能していない。TK-17アルハンゲリスクは、2004年初頭に行われた戦略原潜のミサイル発射演習においてプーチン大統領が乗艦し、演習を視察した(この時のミサイル発射は、全て失敗した)。

退役艦は、衛星打ち上げロケットの洋上プラットフォームや運送船への転用がルビーン設計局より提案されたが、結局解体された。解体工事の資金は米国から援助された。

2008年12月、ロシア海軍総司令部は、予備役のTK-17、TK-20の2隻を巡航ミサイル搭載艦あるいは機雷敷設艦、もしくは特殊作戦用に改装する構想が有る事を明らかにした。

2009年6月26日、ロシア海軍総司令官ウラジーミル・ヴィソツキーは、3隻の941 設計が、今後もロシア海軍の編制に留まり続けると記者団に伝えた。

2011年12月、ルビーン設計局取締役アンドレイ・ジャチコフは、TK-208をブラヴァー試験管からボレイ級の試験艦として運用すると明らかにした。

2013年6月、ボレイ級及びヤーセン級の試験のため、TK-208が出航した。

現役と予備役にある3隻の941 設計は、書類上はザーパドナヤ・リーツァの第18潜水艦師団に所属しているが、実際には、3隻ともセヴェロドヴィンスクに回航されており、TK-17、TK-20の2隻は同市の白海海軍基地に係留され、TK-208は、セヴマシュ造船所の係留所に居る。

後継艦として955 設計(ボレイ型)重ミサイル潜水巡洋艦が建造中。

要目[編集]

941 設計型原子力潜水艦 冬季の撮影
  • 水中排水量48,000t
  • 全長172.8m
  • 全幅23.3m
  • 水上速力15kt
  • 水中速力27kt
  • 潜航深度500m
  • 乗員160名
  • 兵装
  • 電子装備
    • 「トーボル」航法システム
    • 「アルバトロス」レーダー
    • 「ナカート-M」レーダー
    • 「スカート」ソナー
    • 「シンフォーニヤ」衛星航法システム
    • 「ツナミ」宇宙通信システム
    • 「モルニヤ」無線通信システム

同型艦[編集]

艦番号 名称 起工年 進水年 竣役年 建造所 所属
TK-208 ドミートリー・ドンスコイ 1977年3月3日 1980年9月23日 1981年12月12日 北洋艦隊
TK-202 1980年10月1日 1982年4月26日 1983年12月28日 除籍
TK-12 シンビルスク 1982年4月27日 1986年12月17日 1984年12月27日 除籍
TK-13 1984年1月5日 1985年4月30日 1985年12月30日 除籍
TK-17 アルハンゲリスク 1985年2月24日 1986年8月 1987年11月6日 北洋艦隊
TK-20 セヴェルスターリ 1986年1月6日 1988年7月 1989年9月 北洋艦隊

登場作品[編集]

映画・テレビドラマ[編集]

元は冷戦期に旧ソ連がカムチャッカ半島の海底に建設した潜水艦基地を、冷戦後にアンブレラ社がバイオハザードの実験施設として買収したことから施設の潜水艦ドッグにアンブレラ社の潜水艦として複数が停泊しており、船体には旧ソ連時代の名残である赤い星のマークと、アンブレラ社のマークが印されている。劇中の言によると「アンブレラ社の生物兵器運搬船」とのこと。劇中後半、時限爆弾によって崩壊した施設から脱出に成功したジル・バレンタインとレイン・オカンポが2人だけで操艦していたことから、潜水航行と浮上しか劇中ではやっていないとはいえ、原型に比べてアンブレラ社の手で改良が加えられ、大幅な自動化や省力化が成された模様。
本作の鍵である原子力潜水艦「レッド・オクトーバー」はタイフーン型7番艦という設定。

漫画・アニメ[編集]

OVA版に於いて放棄された当艦を無人化して青の0号ブティクが登場。
やまと」が北極海にて、米ソ間の合意による戦略原潜の一時凍結に伴い、ムルマンスクへ向かう途中のタイフーン級の1隻と遭遇。「やまと」の存在を感知するが、一時凍結が決まった状況下においては回避運動すら「自国の核のみを凍結せず温存」と受け取られかねないものであるため、互いに何もせぬまま交錯した。

ゲーム[編集]

最終ミッションで登場する。
ロシアの基本ユニットとして登場。
SОlENの鋼の乙女「シエラ」のモデルになっている。また、一部ステージで敵ユニットとしても登場。

脚注[編集]

  1. ^ 20本のみ魚雷もしくはAShMが搭載可能

外部リンク[編集]