ソーラーポンド

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アタカマ砂漠にあるソーラー(蒸発)ポンド

ソーラーポンド (太陽池とも言う、英:Solar Pond )は、昼間太陽光で塩水を含む池を温め蓄熱し、その熱を夜間や冬季に使用する太陽熱コレクター装置である。

広い池に比重の大きい食塩水(塩化ナトリウム)を入れその上に塩を含まない水を入れる、すると食塩水と水の間に熱伝導率が小さい層が形成される。この池の底を黒くするなど太陽光エネルギーが吸収しやすくし、太陽光を当てると池底の食塩水の温度が最大100℃位まで上昇するが、熱伝導率が小さい層で保温され温度が下がりにくい。この効果を利用して昼間蓄熱したエネルギーを夜間や冬季に使用する。温水温度の日間変動が少ない、構造が単純で保守性が高く維持費用が小さい等の特徴があり、発電機用熱源、温室養魚場の補助熱源等に利用される。

歴史[編集]

[1]
ソーラーポンドは1902年ハンガリーのカレシンスキーが[2]ハンガリーのソバタにある天然塩湖Medve湖(英語で熊の意味)で深さ1.3mの水中で温度が約70℃の温水を発見、それが太陽熱で温まった塩水が塩の濃度勾配によって対流が抑制されて冷却されないためであることを見出したのに始まる。その後、1948年イスラエルのタボールら[3]が,始めて人工のソーラーポンドを提案した。その後第一次オイルショックの後、世界各国で活発に研究が進められた。また1971年には南極の年平均温度が-20℃の場所で深さ60mの位置に25℃の塩水層が発見された[4]。日本では1975年 - 1977年の3年間にわたり北海道網走で実証試験が行われた[1]


原理とポンドの構造[編集]

英語版ソーラポンド参照

原理[編集]

[1] ソーラーポンドは大きく分けて、

  • 太陽光のエネルギーで池(ポンド)の下層の水を温める。
  • 温まった水の上に熱伝導率の低い低熱伝導層を作り熱の放出を防止する。

の2つの機構で構成される。

下層の加熱[編集]

太陽光は塵や不純物を含まない水を透過する。池の底を太陽光のエネルギーを吸収するように黒く塗り、そこに不純物などを含まないきれいな水を入れると太陽光は水を透過して黒い底を温める、底に近い下層の水はこの底の熱で温められ、下部に温度の高い層が生じる。

水層下部の温度が高いと対流が生じ下部の熱が失われて速やかに冷える

低熱伝導層[編集]

水槽で下部の温度が上部より高いと温かい水は冷たい水より軽い(4℃以上の場合)ため下部の水は上昇し水槽表面に至り、そこで熱を放出して冷やされて重くなり水槽下部に下降する対流が起る。水の場合この対流が熱を放出する最も大きいメカニズムであるため、これを抑制できれば水が冷える事を抑えられる

今食塩濃度が薄い食塩水と濃い食塩水があると、濃度が薄い物は濃い物より軽いため濃い食塩水の上に薄い食塩水が乗った二層に分離する。ここで濃い食塩水の温度が上がると、濃い食塩水は上がる前より軽くなるが、もしそれでも薄い食塩水より重ければこの濃い食塩水は二層の下側に留まり続け対流は起らない。

ソーラーポンドでは上層ほど食塩濃度が下がる食塩水層を作って対流が起らないようにすることで水の冷却を防止する。

ポンドの構造[編集]

ポンド(池)は底を粘土や防水処理したコンクリート等で固めその上面を黒色に塗るなどして太陽光エネルギーを吸収しやすくする。この池の下部に高濃度の食塩水を入れる(下部対流層)。この層の上に上部の方が食塩濃度が薄くなる層(非対流層)。更にその上に水だけの層(上部対流層)の3つの層を作る。

  • 下部対流層 (蓄熱層, Lower Convective Layer) は太陽で温められた池底の熱を保持するための層で蓄熱層とも呼ばれる。この層は濃度20%程度の食塩水を用いるが、層内で組成が等しく対流が起こるため温度は均一で、夏期には70 - 80℃に達する。蓄熱量を増やすためこの層は厚い方が好ましい。網走の実証実験では1.5mとした[1]
  • 非対流層 (Non-Convective Layer) は塩濃度が下部は下部対流層と等しく、上部濃度が零の層でこの内部では対流は起らない。しかしこの層を通して熱伝導により熱が失われるため、この層も厚いことが望まれる。網走の実証実験では1.3mとしたが、この層は経時的に変化し最終的に約0.6 - 0.7mとなった[1]。またこの層は太陽光が池底部まで到達できる様に塵や不純物が入らないことが重要である。
  • 上部対流層 (上部混合槽, Upper Convective Layer) は池の表面に当たる塩分を含まない層である。この層の最も重要な機能は非対流層を維持することでこの層が無いと下部対流層と非対流層は徐々に混ざり合い最後は一つの層となってしまう。それ以外に池の外部から入り込む塵埃などを取り除くため、また内部に発生する藻等を除くため定期的に水を流す。また、雨水を除くための排水口も設けられる等が行われている。この層は太陽光を吸収しないように薄いことが望ましい。網走の実証実験では0.23mとした[1]

建設費[編集]

建設費に関する情報は少ないがイスラエルが 1984年に建築した210,000 m2のソーラーポンドで 1m2当たり30$であった[5]

実現可能性[編集]

ソーラーポンドは塩が安価に入手でき、平坦な土地があり、容易に水が得られなければ 経済的に構築することは難しい。また池からの塩水漏えいによる土壌汚染等の環境要因も重要である。米国でのソーラーポンドの最大の潜在市場は工業用加熱工程での利用と考えられるが化石燃料が安価な現状では米国での用途は限られる[6]。 また、構造・用途が類似する太陽熱温水器に対する優位性は不明である。

温室効果ガス排出量とエネルギー収支[編集]

温室効果ガス排出量[編集]

2012年段階でソーラーポンドの温室効果ガス(GHG)排出量に関するデータは見られない。建築材料や建築工事時に温室効果ガスの排出を伴うが、運転中の排出は少ない。

エネルギー収支[編集]

2012年段階でソーラーポンドのエネルギーペイバックタイム(EPT)やエネルギー収支比(EPR)の見積に必要な実測データは得られていない。


用途[編集]

用途として網走の実証実験を主導した金山らはソーラーポンドが有効に適用できる条件として[7]

  • 大量、かつ長期間の低温レベルの熱需要があること
  • 日照条件はよいが、他のソーラーエネルギー利用機器の適用が難しい場合
  • 土地が安価に確保でき、塩が入手しやすいところ(天然の塩湖は最適)

とし、実際の用途として

  • 農業分野:温室の加湿(ママ、加熱か)、農作物の乾燥、土壌の加熱、利用水の加熱
  • 林業分野:木材の前処理、乾燥、曲げ加工
  • 食品加工:給湯、洗浄、乾燥、発酵、廃棄物処理
  • 畜産・酪農:畜舎の暖房、殺菌・洗浄、メタン発酵
  • 居住設備:冷暖房、給湯、温水プールの加熱
  • 組立産業:洗浄、給湯、乾燥、予備加熱、暖房
  • 発電・動力:低沸点熱媒体の蒸発熱源
  • 工 業 :ヒートポンプの低熱源、ボイラー水の予熱
  • 海水淡水化:蒸留用熱源

をあげている。
一方、太陽池の設置には安価で広い土地があり、かつ日射量の多いことが必要条件となるが、この条件が当てはまる現実的な場所は砂漠のような不毛地帯である。このような場所には上記の様な農業・林業や工業は存在しないし、そこまで温水を運ぶのも現実的ではない。また住宅地まで送電線を引くのもコストがかかりすぎる[8]。海水の淡水化については、米国政府の資金提供で海水を淡水化するためにソーラーポンドを使用する研究を行ったが、このプロセスからの飲料水のコストは非常に高く実用化しなかった[8]

実例[編集]

イスラエル[編集]

イスラエルではアラブ諸国が主要生産国である石油にエネルギーを依存できないという国防上の理由から建国以来ソーラーポンドの研究を推進してきた。1983年には占領下のヨルダン川西岸地区 ベイト・ハアラブに1983年、発電目的で面積210,000 m2ソーラーポンドを建設し、発電出力5MWを得た。この施設はオルマット社により建築され1988年まで運営された[9]

インド[編集]

インドでは1987年に非従来型エネルギー源省の国立太陽池プログラムの奨励の下 エネルギー資源研究所(TERI)の研究・開発・技術の指導とグジャラート州エネルギー開発局およびグジャラート州酪農振興公社(GDDC)の共同によりグジャラート州ブージに広さ6000m2のソーラーポンドの建設を開始した。この施設は1993年に完成し、最高70℃のお湯を1日あたり80m3農場に供給する事で技術の有効性を実証した。TREIはこの施設を1996年迄運営した後GDDCに引き渡した[10][5]。その後この施設は2000年まで稼働したが、2001年1月26日に発生したインド西部大地震[11]により倒壊した。

アメリカ[編集]

[6][12]
アメリカでは1974年頃からアメリカ合衆国エネルギー省の支援の下ソーラーポンドの研究が行われロスアラモス国立研究所テネシー川流域開発公社などにソーラーボンドが建築された[13]。またソーラーポンド技術のリーダーであるイスラエルの指導の下、テキサスエルパソの食品缶詰工場に3200m2のソーラーポンドを建設し1986年夏から缶詰製造工程の熱源として86℃、300kWの熱エネルギーの供給を開始した。1986年7月にランキンサイクルの発電機を追加し9月から米国で初めてとなるソーラーポンドによる70kWの発電を開始した。また1987年5月に低温脱塩装置を追加し6月には、1日あたり16m3の脱塩水の生産を開始した。その後1992年に施設は停止したが1995年の春に再開した。その他の施設としてオハイオ州マイアミズバーグにはレクリエーションセンターの建物と水泳プールの熱源としてソーラーポンドを建設している。 しかしながらエネルギー省は1983年に研究開発の資金を提供を終了した[13]

オーストラリア[編集]

[14]。ロイヤルメルボルン工科大学(RTIM)、オーストラリア地質工学社とピラミッドソルト社の3者は、ソーラーポンドを用い再生可能エネルギーで産業用の熱を生産する新しいシステムを実証試験のためオーストラリア温室効果オフィス(AGO)から2000年2月55万ドルの助成金を受けた。ビクトリア州北中部ピラミッドヒルにあるピラミッドソルト社[15]の敷地内で3,000m2のソーラーポンド試験設備が建設が始まり2001年6月に塩の精製工程および養殖用の熱エネルギー源供給用に運転開始され、その経済性データが収集された。それによると北ビクトリアと気候が類似する地域ではソーラーポンドで40 - 80℃の熱を供給でき平均的コストは1GJ当たり約10 - 15$になると推定された。これは当時の農村地帯で1GJ当たり20$以上となるLPGや電力ピーク時に1GJ当たり45$(オフピーク時は9$)の電力使用に対して競争力があると推定される。しかし1GJ当たり4 - 5$の天然ガスが利用できる地域ではコスト的に競合が困難である。

日本[編集]

日本では1975年に北見工業大学、北海道開発局、北見市などの共同研究として北海道網走市の能取湖畔に面積1509m2、深さ3mの円形ソーラーポンドを建設し1977年までの3年間にわたって実証試験が行われた[7]。その結果初年度夏には約70℃の高温が得られ冬季で上部対流層が凍結する中でも20℃を温度を維持した。18ヶ月の計測では合計日射量は8240GJで抽出熱量495GJ、抽出割合は6%であった。集熱効率は春から夏は30%以上と高いが秋から冬は負の値であった。また、氷が張ると集熱しない[7]。 また、時間と共に上部は風による攪拌と対流の影響、下部は対流の影響で非対流層が侵食され厚さが薄くなり[7]、また上部対流層での藻の発生、塵による汚れで等で下部対流層まで到達する太陽光量が減少し3年目には夏でも最高温度が約50℃に止まった[1]。この研究を主導した金山は結論として次のように述べている[7]

  • 塩水の透明度維持、濃度勾配の維持が重要
  • 日本では空気中の水蒸気影響で日射量が少ないうえ、天候の変動や台風などが影響するため日本には不向きな技術で、日射量の大きい大陸内部の砂漠周辺や天然塩湖が利用できる所に向いた技術である。

その他の例[編集]

ソーラーポンドで蓄熱されたエネルギーをソーラー アップドラフト タワーの熱源とするアイデアが提案されている[16]

次世代型ソーラーポンド[編集]

食塩の濃度差を利用するソーラーポンド は雨水などによる濃度変動、非対流層の厚さの変動等に対する塩水濃度勾配維持や上部対流層の汚れや藻の発生防止等の保守が必要なこと。保熱容量を増やす為には深い池が必要となるがこれは建設コストを増大させる。高濃度食塩水が漏水事故を起こした場合の塩害の大きい等から食塩水を用いない各種の無塩型ソーラーポンドが提案されている。

考え方[編集]

ソーラーポンドで食塩を使う理由は非対流層で塩の濃度差を利用して対流を防止するためである。非対流層は他の機能は太陽光を透過する事である。即ち透明で対流防止が可能な他の方法があれば、食塩を使う非対流層を置き換えられ、同時に上部対流層も不要になる。更に下部対流層も食塩水である必要はなくなる。

保熱容量を増加させるためには温まった下部対流層を別途貯槽する蓄熱装置が利用される。

粘性ソーラーポンド[編集]

粘度が高い物質は対流が起りにくい性質を利用しシャーハー,ウイルキンスらは非対流層に透明で粘度の高い高分子の水溶液を持ちいた粘性ソーラーポンドを提案した[17]

メンブレンソーラーポンド[編集]

建物の窓の断熱に使う(複層ガラス)や窓に貼る(断熱フィルム)のように二枚のガラス等に挟まれた薄い空気層では対流が起りにくいため断熱特性が高い。ハルは非対流層の代わりに空気層をはさんだ透明薄膜を多数積層したメンブレンソーラーポンドを提案した[18]

粘性膜型ソーラーポンド[編集]

多賀らによりメンブレンソーラーポンドの空気の代わりに透明で粘度の高い高分子の水溶液はさんだ粘性膜型ソーラーポンドが提案されている[19]

その他のソーラーポンド[編集]

保熱容量を増すために別途蓄熱装置を敷設したもの。夜間のみ池の表面を断熱材でカバーする等が検討されている。

なお、池の上に黒色板を置きそれを太陽光で温めた後、この熱を水に移す「表面集熱型」と呼ぶソーラーポンドがあるが、これは太陽熱で下層の液体を温め、その上に対流が起らない層で熱エネルギーを逃さないと言うソーラーポンドの考えより、貯湯槽と集熱器を分離したソーラーシステム型太陽熱温水器に近いものである。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g 稲葉, 英男 (1990). “寒冷地における塩水太陽池の熱特性評価”. 日本機械学会論文集(B編) 56-523: 788. 
  2. ^ Kalecsinsky, A. (1902). Annalen der Physik 7-4: 408. 
  3. ^ Tabor, H. (1963). “ ”. Solar Energy 7-4: 189. 
  4. ^ Nielsen, C.E. (1976). “ ”. Proc. of Int. Solar Energy Conf.(Canada) 5: 169. 
  5. ^ a b Clouds gather over solar pond technology”. 2012年8月4日閲覧。(当時のレート1$=250円で7500円)
  6. ^ a b Solar Ponds”. 2012年8月4日閲覧。
  7. ^ a b c d e 金山公夫、馬場弘 『ソーラーエネルギー利用技術』 森北出版株式会社、2004年5月。ISBN 4-627-94661-9
  8. ^ a b Solar Ponds”. 2012年9月3日閲覧。
  9. ^ C, Nielsen; A, Akbarzadeh; J, Andrews; HRL, Becerra; P, Golding (2005), “The History of Solar Pond Science and Technology”, Proceedings of the 2005 Solar World Conference, Orlando, FL 
  10. ^ Salt-gradient solar ponds Salt of the earth”. エネルギー資源研究所. 2012年8月4日閲覧。
  11. ^ 緊急報告!インド西部大地震”. 日本地震学会. 2012年8月4日閲覧。
  12. ^ Salinity-Gradient Solar Technology Page”. The University of Texas at El Paso College of Engineeraing. 2012年8月4日閲覧。
  13. ^ a b SALT-GRADIENT SOLAR PONDS”. United States Department of Energy. 2012年9月3日閲覧。
  14. ^ Solara Pond Project”. RMIT Unibersity. 2012年8月4日閲覧。
  15. ^ Company Profile”. Pyramid Salt. 2012年8月4日閲覧。
  16. ^ Salt-gradient solar ponds Salt of the earth”. Energy and Resources Institute. 2012年8月4日閲覧。
  17. ^ Shaffer, L.H. (1987). “ ”. Proc.,Solar Energy Soc. 1: 1171. 
  18. ^ Hull, J.R. (1980). “ ”. Solar Energy 25-4: 317. 
  19. ^ 多賀, 正夫 (1991). “膜型粘性ソーラーポンドの性能”. 太陽エネルギー 17-1: 23-30. 

外部リンク[編集]

関連項目[編集]