ソーシャルインパクトボンド

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ソーシャルインパクトボンド:Social Impact Bond、SIB)とは、官民連携の仕組みの一つで、行政民間事業者及び資金提供者等が連携して、社会問題の解決を目指す成果志向の取組である。

手法[編集]

官民連携の手法の一つである。行政サービスを民間のNPOや企業に委託し、民間の資金提供者から調達した資金を基に事業を行い、事業が予め合意した成果を達成した場合にのみ行政から資金提供者に報酬が支払われる。民間資金によって社会的コストを削減する事業が実施できれば、行政コストも削減されるうえ、資金提供者がリターンを受けることができるという仕組みであり、事前に設定された目標が達成されない場合、行政から資金提供者への支払いは発生しない。対象とする社会課題の性質、施策を行う事業者、目標の設定、評価機関、そしてそれらを管理する中間支援組織のいずれもが重要な要素となる。SIBは、行政と事業者による成果連動型支払と民間資金活用を組み合わせたスキームであり、民間資金活用を除いた成果連動型支払と合わせて成果連動型委託契約の手法の一つである。

動向[編集]

日本国外[編集]

2010年に大幅な公費削減や業務見直しを迫られたイギリスで始まり[1]、現在は欧米を中心に世界20か国で80案件300億円以上の規模で実施されている。

日本国内[編集]

日本でのソーシャルインパクトボンドのパイロット事業第1号として、日本財団の助成によって2015年4月より横須賀市特別養子縁組の推進支援を行なうパイロット事業が始まった[2][3]。パイロット事業とは、本来、成果目標を達成した場合は行政が成功報酬を支払うが、パイロット事業では、成果目標の達成有無に関わらず行政からの支払いはない。また、パイロット事業第2号として、経済産業省委託で日本公文教育研究会がサービス事業者となり、福岡市松本市をはじめとした複数の自治体でパイロット事業が実施された[4][5][6]。同年7月22日には、第3弾のパイロット事業として日本財団の助成によりNPO法人育て上げネットが事業者となり、尼崎市で若者就労支援事業が実施されることが発表された[7][8]

2015年12月21日放送のNHKニュース番組「おはよう日本」に取り上げられた[9]

2016年3月には、ソーシャルインパクトボンドを含む社会的インパクト投資および社会的インパクト評価に特化したコンサルティングサービスを提供する会社としては日本初となるケイスリー株式会社が設立された[10]

経済産業省では、ヘルスケア分野におけるソーシャルインパクトボンドの導入を推進しており、2017年度委託事業として、八王子市及び神戸市のSIB導入を支援し、成果連動型かつ複数年度契約による日本初の本格的なSIB導入モデル報告会を2017年2月13日に開催した[11][12]

2017年3月、八王子市及び神戸市にて、複数年かつ成果連動型の本格的なSIB関連予算が日本で初めて成立した。平成29年度より、神戸市では糖尿病性腎症重症化予防事業において、八王子市では大腸がん検診受診事業において、SIBを活用した事業を実施することになる。案件形成は中間支援組織であるケイスリー株式会社及び公益財団法人日本財団が関わった。[13]

2017年7月20日、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」にて、日本初のソーシャル・インパクト・ボンド導入事例として八王子市大腸がん検診受診率向上SIBが紹介された[14]。同日、神戸市でも糖尿病性腎症重症化予防SIBの導入が発表された[15]

2017年8月14日、八王子市大腸がん検診受診率向上SIBにおいて、日本初のSIB出資契約を締結された[16]

2017年8月より、日本初のSIB案件形成手法を実践的に学ぶ全8回の公開講座「社会的インパクト投資基礎概論」が国立大学法人琉球大学及びケイスリー株式会社の共催により開催される[17]。SIBの推進に重要な「マルチセクターの連携」、「社会課題の分析」、「社会的インパクト評価」及び「ファイナンススキーム」等の要素を学ぶことで、複雑な社会課題の解決に貢献できる人材の育成を目指す。

2018年5月、経済産業省がSIB関連ページ「ヘルスケア分野におけるソーシャルインパクトボンド」を公開した[18]

2018年6月、ケイスリー株式会社がSIBを含む成果連動型委託契約導入に向けて検討が必要な事項を整理したチェックリストを公開した[19]

2018年10月、ケイスリー株式会社が、英国でブロックチェーン技術を用いて社会・環境問題に取り組んでいるAlice社と業務提携し、ブロックチェーン技術を活用したスマート・インパクト・ボンド等の開発を推進することを発表した[20]

2018年11月、広島県と県域6自治体による国内初の広域連携型ソーシャル・インパクト・ボンドが組成された。クラウドファンディングを活用し一般の個人投資家も投資が可能となっている[21]

脚注[編集]

  1. ^ Social Impact Investment Taskforce
  2. ^ 日本初“ソーシャル・インパクト・ボンド”パイロット事業』(プレスリリース)日本財団、2015年4月14日http://www.nippon-foundation.or.jp/news/pr/2015/40.html2015年6月20日閲覧 
  3. ^ 吉田雄人 (2015年4月17日). “日本初!「ソーシャル・インパクト・ボンド」パイロット事業をスタートします!”. 吉田雄人オフィシャルサイト. 2015年6月20日閲覧。
  4. ^ SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)調査事業が経産省委託事業として採択』(プレスリリース)日本公文教育研究会、2015年6月9日http://www.kumon.ne.jp/press/Pp6226.html2015年6月20日閲覧 
  5. ^ “ソーシャル・インパクト・ボンド”パイロット事業第2弾』(プレスリリース)日本財団、2015年6月9日http://www.nippon-foundation.or.jp/news/pr/2015/61.html2015年6月20日閲覧 
  6. ^ ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)実証事業が、経産省委託事業として採択----国がSIBの実証事業を行うのは日本初』(プレスリリース)福岡地域戦略推進協議会、2015年6月9日http://www.fukuoka-dc.jpn.com/?p=114802015年6月20日閲覧 
  7. ^ 毎日新聞社 (2015年7月17日). “尼崎市:生活保護の若者就労へ SIB試験導入、民間と支援事業 /兵庫”. 毎日新聞. 2015年7月20日閲覧。
  8. ^ “ソーシャル・インパクト・ボンド”パイロット事業第3弾 日本財団×尼崎市 協働で若者就労支援事業を実施』(プレスリリース)日本財団、2015年7月22日http://www.nippon-foundation.or.jp/news/pr/2015/69.html2015年8月1日閲覧 
  9. ^ NHKニュース おはよう日本(2015年12月21日)
  10. ^ ケイスリー株式会社「会社設立のお知らせ」
  11. ^ 経済産業省「平成28年度健康寿命延伸産業創出推進事業「ソーシャル・インパクト・ボンド導入モデル事業報告会」を開催します
  12. ^ イベントレポート(配付資料付)経済産業省主催「ソーシャル・インパクト・ボンド導入モデル事業報告会」
  13. ^ 神戸市・八王子市において、日本初となるヘルスケア領域におけるソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)導入を前提とした予算が成立しました。
  14. ^ テレビ東京「Newsモーニングサテライト 【ワードバンク】ソーシャル・インパクト・ボンド」
  15. ^ 神戸市プレスリリース
  16. ^ プレスリリース「日本初「ソーシャル・インパクト・ボンド」出資契約締結」
  17. ^ 琉球大学公開講座「社会的インパクト投資基礎概論」
  18. ^ ヘルスケア分野におけるソーシャル・インパクト・ボンド(METI/経済産業省)”. www.meti.go.jp. 2018年6月13日閲覧。
  19. ^ 成果連動型委託契約導入のためのチェックリスト”. ソーシャル・インパクト・ボンド総合サイト. 2018年6月13日閲覧。
  20. ^ ケイスリー、英国アリス社と業務提携、スマート・インパクト・ボンド開発等を推進”. ケイスリー、英国アリス社と業務提携、スマート・インパクト・ボンド開発等を推進. 2018年10月22日閲覧。
  21. ^ 国内初の広域連携型「ソーシャル・インパクト・ボンド」を組成”. 2018年11月30日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]