スローロリス

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スローロリス、スンダスローロリス[1]
Nycticebus coucang 004.jpg
保全状況評価[2]
VULNERABLE
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 VU.svg
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: サル目 Primate
亜目 : 曲鼻猿亜目 Strepsirrhini
下目 : ロリス下目 Loroidea
: ロリス科 Lorisidae
: スローロリス属 Nycticebus
: スンダスローロリス N. coucang
学名
Nycticebus coucang (Boddaert, 1785)
シノニム

Lemur tardigradus Raffles, 1821 Nycticebus coucang brachycephalus Sody, 1949
Nycticebus coucang buku Robinson, 1917[Note 1]
Nycticebus coucang hilleri Stone and Rehn, 1902
Nycticebus coucang insularis Robinson, 1917
Nycticebus coucang natunae Stone and Rehn, 1902
Nycticebus Sumatrensis Ludeking, 1867
Nycticebus tardigradus var malaiana Anderson, 1881
Tardigradus coucang Boddaert, 1785

和名
スローロリス
Sunda Loris area.png
スローロリスの生息域

スローロリス (Nycticebus coucang ) はサル目曲鼻猿亜目の1種である。バングラデシュアッサムからベトナムマレー半島ジャワ島ボルネオ島などに分布[5]。他のスローロリス属の種と同様に、丸い頭で、鼻は濡れており(rhinarium) 、耳は小さく厚い毛に覆われ、顔は平たく、大きな目を持つ。尻尾は退化している。夜行性で樹上生活をする。一般的に常緑樹林に生息しており、密な林冠の連続した熱帯多雨林に好んで生息する。同サイズの哺乳類と比べて、スローロリスの代謝は極めて遅い。樹液、花蜜、果物、虫を食料とする。

スローロリスは絶滅の危機に晒されており、レッドリストによって危急種に指定されている。

名称[編集]

英語一般名である「スンダスローロリス(Sunda slow loris)」は、この種が発見されたマレー諸島西部のスンダ列島に由来する[6]。グレータースローロリス (Greater Slow Loris) と呼ばれることもある。種小名のcoucang は、本種のインドネシアでの一般名であるkukangに由来する[6]。インドネシア語で「内気な」を意味するmalu-maluと呼ばれることもある。他にも本種を指す呼称としてbukangKalamasanがある[6][7]クスクスと混同されKuskusと呼ばれることもある[7]マレーシアではkongkangkera duku (keraはマレー語でサルという意味で、dukuはセンダン科Lansium domesticumを指す) と呼ばれることがある[7]。タイではling lom (ลิงลม)と呼ばれる。この言葉は英語で表現すると"wind monkey" となる[7]

分類と系統[編集]

スローロリスは1785年にオランダの医師であり博物学者のPieter BoddaertによってTardigradus coucangという学名で初めて記載された[8][9]。しかし遡る1770年にオランダ人 Arnout Vosmaer (1720–1799) によって、この種はナマケモノの一種として記述されていた。Vosmaerはスローロリスに"le paresseuz pentadactyle du Bengale" (ベンガルの五本指のナマケモノ) という仏語名をつけた。しかしBoddaertは後に、この種はロリスに分類されるべき種であると論じた[10]

1800年から1907年までに本種以外のスローロリス属の種がいくつか報告された。スローロリス属は博物学者のエティエンヌ・ジョフロワ・サンティレールによって1812年に定められた分類である[11]。霊長類学者のWilliam Charles Osman Hillは、彼の著作Primates: Comparative Anatomy and Taxonomyにおいて、それまで発見されていた全てのスローロリスを1つの種N. coucangに統合した[12]。1971年にColin Grovesは別種であるピグミースローロリス (N. pygmaeus) の存在を認め、N. coucangを4つの亜種に分けた[13]。さらに2001年に、Grovesはスローロリス属を3つの種 (スローロリス N. coucang、 ピグミースローロリス N. pygmaeusベンガルスローロリス N. bengalensis) に分類し、さらにスローロリス N. coucangに3つの亜種 (Nycticebus coucang coucang, N. c. menagensis, N. c. javanicus) を設定した。[14]。2010年に2亜種は種に昇格し、ジャワスローロリス (N. javanicus)とボルネオスローロリス (N. menagensis) となった[15]。種の分類は、体の大きさ、毛色、頭の模様といった形態的な違いを 基にしている[16]

サンティレールは1812年にスローロリス属Nycticebusを定義し、スンダスローロリスを基準種にした[11]。イギリス人動物学者のOldfield Thomasは、基準標本として使った個体にはいくつか不明瞭な点が存在すると指摘して基準種の設定に疑問を呈し、代わりにベンガルスローロリスを基準種にすることを提案している[8][17][18]

この種は2n = 50の染色体を持ち、ゲノムサイズは3.58 ピコグラムである[19]X染色体Y染色体以外の染色体のうち22はメタセントリック染色体で、26はサブメタセントリック染色体。アクロセントリック染色体は無い。X染色体はサブメタセントリック染色体で、Y染色体はメタセントリック染色体である[20]。スローロリス属の系統学的関係は、ミトコンドリア遺伝子マーカーであるD-loopやシトクロムb遺伝子から導き出したDNAの配列を元に調査されている。同時にそれまでの形態学的分類は、分子生物学的手法によって得られた進化的な関係と一致しているのかどうか確かめられている。

分子生物学的な調査の結果より、それまでに確認されていたスローロリス属の系統 (ピグミースローロリス、ボルネオスローロリス、ジャワスローロリス)は遺伝学的に異なっていた。しかし、スンダスローロリスとベンガルスローロリスの遺伝子は、比較する個体によっては同じ種の個体よりもスンダスローロリスとベンガルスローロリス同士の方が遺伝学的に明らかに近いことがあった。この現象については、2種間に遺伝子移入が起こったのではないかという仮説が立てられた[21]。遺伝子の比較に使用したそれぞれのタクソン の個体の出所が、地域同所性のある同じタイ王国南部なのがその根拠である[21]。そして、2007年に発表されたスンダスローロリスとベンガルスローロリスのミトコンドリアDNAの変化を比較した研究で、2種の間に遺伝子流動があったことが分かり、この仮説は裏付けられた[22]

形態[編集]

頭胴長は約26.5 - 38 cm、体重は約0.4 - 2 kgである。尻尾は無く、体の背面は淡い灰褐色から暗い赤褐色、腹面は白色から灰色である。首から背中にかけて黒い線が走る[5]。目が大きく、その周りには暗色のリングがある[23]。鼻から額にかけては白く、後頭から背筋にそって暗色の縞がある[24][25]。ベンガルスローロリスの灰色っぽい毛皮に比べて、スローロリスの毛皮は茶色みを帯びている[26]。ピグミースローロリスに比べて顔の白い部分が少ない[26]。ただし生息する地方によって形態の変動がある[6]

A Sunda slow loris climbs, upside down, along a tree branch
スローロリスは大抵、手足を3本以上使って枝に掴まっている

ベンガルスローロリスと異なり、スンダスローロリスの雌雄の体格差はあまりない[27]。尻尾はずんぐりとした 痕跡器官に退化しており、毛の下に覆い隠されている[28]。下顎からは前向きに6本の櫛歯が並ぶ。この歯に犬歯切歯が含まれている。スローロリスはこの歯をグルーミングや、食事の時に物をこすり落とすのに使う[29]。中指が短く、握力が強い[28]。他のロリス類と同様に、スローロリスは腕の下のから強い臭いのする液体を分泌し、他の個体とのコミュニケーションに使用している[30]

生態[編集]

スローロリスが木々を移動する動きはゆっくりで、肢を動かしている際は支えとして残りの3本の肢を木につけていることが多い[31][32]。その動きはとても特徴的で、枝から枝に移動する時、方向転換する時なども殆ど音を立てず、ゆっくりしたスピードを維持したまま行う[33]。1、2本の肢でかなり長い時間枝にぶら下がっていられる[34]。他のロリスと同じようにスローロリスは樹上生活者で、夜行性である。昼間は枝分かれした木の間や、枝葉の密集した所で休眠をとる。夜になると果物や、昆虫を食べる。他のロリスと違うのは、生涯の大半を木の上で過ごすことである。例えばベンガルスローロリスは地面の上で睡眠をとることがよくある[24]。スローロリスは単独で眠ることが殆どだが、大人の個体を含む何体かが集まって眠っているところも観察されている[32]

スローロリスはその遅い代謝速度にもかかわらず、高エネルギーの食事を摂る。彼らのゆっくりした生活スタイルは、彼らの食べる植物に含まれるある種の化合物の解毒にエネルギーを使用しているためである。彼らが最もよく食べているのは樹液(34.9%)で、その次は、花蜜や その蜜の生産部分(31.7%)、果物 (22.5%) である[32]。その他にも昆虫クモなどの節足動物アフリカマイマイを含む軟体動物[35]、鳥の卵を食べることが知られている[36]

全てのスローロリス属の種は、肘の内側の腺でを生産する。彼らはそれを舐めて唾液に毒を含ませ、グルーミングによって全身に広げる。親は子供の体にもグルーミングを通して毒を分け与える[37]。外敵に襲われた時は、体を丸くして唾液を塗布した毛皮をむき出しにする、噛み付く、丸まって木から落ちて逃げる、といった行動で身を守る[38]。しかしスローロリスが外敵から身を守る最も一次的な方法は、保護色によって隠れることである[39][40]アミメニシキヘビ Python reticulatusカワリクマタカ Spizaetus cirrhatusボルネオオランウータン Pongo pygmaeus などがスローロリスを捕食する生物として報告されている[30][40][41]

繁殖特性[編集]

乱獲と保護[編集]

スローロリスは、異国の珍しいペット (exotic pet) としての需要があり、その売買(pet trade)のため絶滅の危機に晒されている[42][43]。保護されている霊長類の中では、東南アジアにおいて最もよく取引されている種である[26][43]。ペットとして売られる時は、飼い主を傷つけないように歯を抜かれてしまうことが多い[6]。抜歯は歯牙感染を引き起こすおそれがある。しかも感染による致死率は90%以上と非常に高い[44]。歯を失ったスローロリスが野生に帰ることは不可能である[2]。捕えられることのストレスや、不適切な栄養状態、感染症などのために、捕獲されたスローロリスの死亡率はとても高く、代替を確保するために多くのスローロリスが捕えられる[6][44]

加えて、非合法な伝統医療に利用するためにスローロリスは乱獲されている。その毛皮は創傷を癒すのに使われ、その肉体はてんかんの治療に使用され、目は惚れ薬に使われ、肉は喘息の疾患の治療に使われる[6]。作物を荒らす害獣として駆除されることもある[2]。生息域の減少によっても個体数を大きく減らしている[6]

2008年版IUCNレッドリストでは、スローロリスは危急種に位置づけられている[2]。2007年6月にCITESの附属書 IIから附属書Iに転記された[44]。スローロリスはインドネシアの法律でも保護されているが、そこまで厳格な取締はされていないようである[45]

脚注[編集]

  1. ^ In 1917, Robinson used the name buku, introduced by Martin in 1838, for a form of slow loris;[3] however, the name buku as originally applied did not refer to a slow loris.[4]

参考文献[編集]

  1. ^ Groves 2005, p. 122.
  2. ^ a b c d Nekaris, A. & Streicher, U. (2008年), Nycticebus coucang, IUCN Red List of Threatened Species. Version 2010.4 (International Union for Conservation of Nature), http://www.iucnredlist.org/details/39759 2011年1月30日閲覧。 
  3. ^ Robinson, H.C. (1917), “On three new races of Malayan mammals” (PDF), Journal of the Federated Malay States Museums 7: 101–105, http://www.sabrizain.org/malaya/library/fmsjournal07.pdf 
  4. ^ Groves 1971, p. 50.
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引用文献[編集]

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