スマイリーキクチ中傷被害事件

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スマイリーキクチ中傷被害事件(スマイリーキクチちゅうしょうひがいじけん)とは、お笑いタレントスマイリーキクチが、日本を震撼させた凶悪殺人事件の実行犯である等とする、いわれなき誹謗中傷被害を長期間にわたって受けていた事件である。

ネットにおいて1人の人間に対して誹謗・中傷をした複数の加害者が一斉摘発された日本で初めての事件であると同時に[1]、被害者が一般人ではなくタレントであったことなどから全国紙テレビニュースでも大きく扱われた[1][2][3][4]

概要[編集]

事件の始まり[編集]

お笑いタレントスマイリーキクチ1999年から、彼が女子高生コンクリート詰め殺人事件(以下、コンクリ事件)で殺人に関与した犯人である(以下、コンクリ事件キクチ犯人説)と信じている者たちからネット上の匿名掲示板などで中傷されるようになった[5][6]1989年に発覚したコンクリ事件は犯行形態から世間を震撼させた凶悪事件でありながら、犯人たちが未成年であったために少年法の規定により犯人の実名が匿名報道となって世間に広く知られることはなかった。ネット上では、「殺人事件の犯人を憎む者」「犯行に興味のある者」が、様々な手法で調べた犯人のプロフィール(実名、職業、友人)を載せて世間に広めるなど、犯人を糾弾し続ける活動が存在した[7]

しかし、コンクリ事件の犯人に対する糾弾が繰り返されるうちに、「犯人を仕立て上げたい者」によってネット上で「出身地が犯行現場である足立区」「犯人グループと同世代」「10代の時にグレていた」芸能人であるキクチがコンクリ事件の犯人として扱われるようになっていた(キクチは「事件現場の地域は自分の生まれ育った地域からかなり離れており、成人式の時に1度行ったきりで土地勘が全くない。1991年1月1日付けで東京都足立区民で成人を迎えた男子は6,334人で、足立区内の同世代なんてごまんといる」と語っている[8])。なお読売新聞は、所属先事務所がキクチを「足立区出身の元不良」なる謳い文句で売り出していたのが中傷のきっかけであるとし[1]毎日新聞では十数年前から仲間に「足立区出身の元不良」と冷やかされていたと書いている[9]。しかし、キクチはバラエティ番組への出演で元ヤンキーだったことが紹介される機会が2度あった際に「中学時代のヤンキー姿の写真」を出したことがあるものの、所属事務所が元不良として売り出したことについては否定している[10]

さらに「キクチはコンクリ事件のことをお笑いのネタにした」という事実無根の書き込みがあり、それを信じた者たちがネット上で「キクチはコンクリ事件に関与したにもかかわらず、反省もせずに芸能人として堂々とテレビに出続けている」「それだけでなく、キクチはコンクリ事件のことをお笑いのネタにした」とキクチを中傷していた[11][6]。ネットでの中傷は匿名掲示板の2ちゃんねるのほか、キクチの所属事務所の電子掲示板にまで及ぶ。

警察への相談[編集]

マネージャーからコンクリ事件犯人説を知らされたキクチは「あまりにもくだらない」として当初取り合わないつもりだったものの、2002年に念のため所属事務所のHP上で「コンクリ事件への関与」と「コンクリ事件をお笑いのネタにした噂」を否定した[12][9]が、ネット上では逆に「やってない証拠を出せ」「火のない所に煙は立たない」と反論されるなど中傷は収まらなかった[13][9]。2000年6月にキクチから相談を受けた四谷警察署は脅迫罪の恐れがある書き込みを捜査して、管理者にログを開示させるなどして中傷書き込みをした場所を5つ特定した[14][15]。しかし、1つは国立大学のキャンパス内のパソコンだったが、パスワード入力が不要のため学生か職員なのかわからず、大学外部の人間が書き込んだ可能性も否定できなかった[14]。もう1つは発信元が特定されないように日本国内から日本国外の回線を経由した書き込みの手口が利用されており、ネットの中傷程度では国際刑事警察機構を動かすことは不可能に限りなく近く困難であった。この2つについては書き込んだ人間を個人名で特定することは断念されることになった[14]。残り3つについては個人名を特定することができたが、それらはキクチが今までに聞いたこともない名前であった[14]。当時はインターネットのセキュリティがかなり甘い時代であったため、実生活における人間関係の悪化などといった中傷する動機など、書き込み元以外の証拠がない限り立件できず、これ以上の捜査は断念されることとなった[16][15]。キクチの所属事務所は中傷コメントで荒らされたために自社の電子掲示板を閉鎖したが、2ちゃんねるなど他のサイトで書かれた中傷記載についての削除依頼は管理人に断られた[17]。この中傷により、コンクリ事件キクチ犯人説を信じた視聴者から業界関係団体(テレビ局や番組スポンサーやCMスポンサー)に「殺人犯をテレビに出すな」との抗議が増えるようになり[18]、キクチが舞台に上がると観客がヒソヒソ話やざわつくようになる異様な空気になった[19]

ブログの開設[編集]

2008年1月にキクチはブログを開設した[20]。開設理由は「ネットでさんざん嫌な思いをしたが、ふとブログで自分の言葉を発信すれば、『殺人犯スマイリーキクチ』の汚名を晴らせると思った」ためであった[21]。しかし、ブログ開設直後からブログのコメント欄にキクチをコンクリ事件の犯人扱いする中傷書き込みが殺到する[22]。キクチは当初は自分で中傷コメントを削除していたが、後にコメントを承認制に変更。コメント承認制にしたため、中傷コメントはブログに掲載されなくなり不特定多数に読まれることは無くなったが、ハンドルネームをコンクリ事件関係者にしたり、コメントを当て字で書いたり、縦読みするとキクチを中傷する言葉になるようにコメント投稿したりする者[23]や、キクチに好意的なコメントをした女性が運営するブログのコメント欄にコンクリ事件キクチ犯人説を書き込む者[24]、会員制交流サイト「mixi」やネット百科事典「Wikipedia」にコンクリ事件キクチ犯人説を書き込む者[25]、事件と関係のない内容のサイト(例の一部として盲導犬、大学のサークル、ピアノの発表会)の掲示板でコンクリ事件キクチ犯人説を書き込む者[25]が現れるようになった。見えない相手からの中傷に不安を感じたキクチはブログで翌日にライブ出演する会場と出演時間を告知した上で「ブログの内容と関係のない質問がある方は、ライブ終了後に会場正面口で声をかけていただいたら、どんな質問でも必ず承ります」と面と向かって質問を受け付ける場を設けたが、結局誰も質問に来ず、身元不明の中傷集団に一層ストレスを感じることになる[26]。また他の芸能人が番組収録中の話や出演番組の放送日時告知などをブログに書き芸能活動の宣伝に使っている中で、キクチはブログでは芸能活動の告知が行えず、芸能生活と関係のない私生活についてのブログ更新しかできない日々が後述の2008年8月の中傷書き込みに対する刑事告訴の警告をする日まで続いた(これは前述のようにテレビ局や番組スポンサーやCMスポンサーに「殺人犯をテレビに出すな」旨の抗議が殺到し、業界関係者等に迷惑をかけることを懸念したためであった)[27]

北芝健による著述[編集]

元警視庁刑事としてテレビコメンテイターなどとして活動していた北芝健2005年に出版した著書『治安崩壊』の中に[28]、コンクリ事件の犯人について「少年グループの一人は刑期を終えた後、2004年7月、再び、恐喝事件を起こして逮捕された。もちろん社会に出てきたのはこの一人だけではない。一足早く出てきた別の男は、お笑い系のコンビを組んで芸能界でデビューしたという」という記述があった[21][15]。北芝の本では情報源が全く明記されず、「お笑い系のコンビを組んで芸能界でデビューした犯人」について実名などの個人を特定する詳細なプロフィールは書かれなかったが、この記述はお笑いコンビとして芸能界デビューしたキクチを連想させる表現だったため、ネット上ではコンクリ事件キクチ犯人説の根拠とされた。これによりネット上でのキクチへの中傷が過熱し、コンクリ事件キクチ犯人説を信じた視聴者から業界関係者への抗議が増えるようになった[29][15]。2008年4月4日に『治安崩壊』を読んだキクチは、中傷犯たちがコンクリ事件キクチ犯人説を本気で信じていることに気付き[30]、彼らに襲撃されることを懸念し、仕事仲間や知人と酒を飲むなどの付き合いを減らし、仕事が終わればすぐに帰宅したり恋人と頻繁に連絡を取り合って一緒に帰宅したりと身辺の安全を確認するようになった[31]

警察への再相談[編集]

キクチは再び警察に相談することを決意[32]。2008年4月からキクチは警視庁のハイテク犯罪対策捜査センターや中野署の生活安全課に相談したが、「(キクチさんを)本気でコンクリ事件の犯人と信じている人はいない」「削除依頼をして様子を見ましょう」「様子を見ればネット誹謗中傷は落ち着く」「(芸能人だから)有名税みたいなもの」「(中傷コメントは)遊びだと思う」「(キクチさんは)インターネットなんてやらなければいい」「殺されそうになったとか、誰かが殺されたとかがないなら刑事事件にできない」「殺されたら捜査しますよ」と言われ相手にされなかった[33][15]。キクチは知人に弁護士を紹介されるが、その弁護士から「中傷書き込みをした者を特定するために掲示板管理者から発信者のログを開示してもらい、接続業者が発信者の個人情報を開示する必要がある」「掲示板管理者と接続業者が開示を拒否した場合は訴訟になるが、裁判所が開示命令を出すとは限らない」など相当の根気と労力が必要と説明され、ネットを相手にする前に「身の潔白を証明しようとしていることを世間から注目される」ために北芝の本と出版社を相手に自分が風評被害に遭っていることを訴えることを検討し始めた[34]

4カ月後の2008年8月にキクチは中野署の刑事課に相談[35][15]。担当のO警部補はネット犯罪に詳しく、真摯に対応するとともに、所轄に連絡してキクチが犯人グループにいなかったことも証明した[15]。警察のアドバイスを受けてキクチは8月15日付のブログで「自分はコンクリ事件とは無関係。今後誹謗中傷の書き込みをしたら刑事告訴する」と警告する文章を提示し[36][15]、それでもキクチに対して誹謗中傷の書き込みをする者に対して強制捜査権を持つ警察がネットの発信記録から発信者を特定して検挙することとなった[37]。この際、担当刑事がコンクリ事件に関する資料を取り寄せ、犯人及びその仲間に「きくち(菊池・菊地)」という名前がないこと[38]出所後に芸能界入りした者が犯人にいなかったこと[39]が確認された。

警察が動いたことにより、キクチは北芝の本と出版社を相手に訴訟を起こすことを止める代わりに、北芝の事務所と出版社に対してコンクリ事件犯人説の風評被害を受けたことを理由に出版差し止めと謝罪広告を求める内容証明を2008年8月27日に送付した[40]。2008年9月に北芝の事務所と出版社から「記載された文章から一般読者がキクチ氏をコンクリ事件の犯人と認識することはないため、出版差し止めと謝罪広告を拒否する」旨の回答を得た[41]。キクチ側は当初から、『治安崩壊』にキクチの実名が挙がっていない以上北芝側から謝罪を得る事は不可能と考えており、この内容証明送付は中傷犯が北芝と同書に責任転嫁できなくするよう、北芝側から言質を得るための方策であった[40]

一方、北芝はキクチからの内容証明について、中傷被害事件の収束後にブログでコメントしている。当時はキクチのことを知らず弁護士を通じて回答しただけであり、キクチ側は著書などで『治安崩壊』の内容が事実無根であるばかりか北芝が経歴詐称をしているかの様な誹謗中傷までしていると反論している[42][注釈 1]。なお、北芝は「(自分も)インターネットの匿名書き込みをした者達から悪口を書かれて多大なる迷惑、残酷で卑劣な匿名書き込み、そこから発生した被害など同じ目に5年以上あっており、同情もすれば同じ憤りを共有する」「パソコンをやらないし、匿名書き込みの低劣さ、卑怯さ、品格の無さ、愚昧さ、が怒りを覚えるほどに嫌い」とインターネットの匿名書き込みを本の情報源にしていないとするかのような主張をしていたが、「お笑い系のコンビを組んで芸能界でデビューした元犯人」という部分についてどのような取材や根拠に基づいて記述したのかについては言及しなかった[42]

中傷犯[編集]

キクチはネットで一連の中傷被害を受け続けていた間、中傷犯たちを「キクチを本気で殺人犯、強姦の共犯者と思い込んでいる者」「どうにかして殺人犯、強姦犯の共犯者に仕立て上げたい者」「犯行に異常な興味を抱く者」と考えていたが、中傷集団が姿を見せないことにストレスを感じていた[43]。しかし、警察が動いたことで状況は大きく動いた。

警察が最初に身元をつきとめた中傷犯は、最初は「二度としません」と反省したが、その3時間後にはまたネットで中傷を書き込むなどした[44]。当初警察は、ネットの中傷は注意をすれば収まると考えていたが、その後ネット中傷依存が深刻ととらえ「悪質性の高い書き込みを厳選して、該当する者は一斉摘発する」方針に変えた[45]

一斉検挙[編集]

2008年9月から2009年1月までにキクチに対する中傷犯19人が検挙された[46]。中傷犯たちは関東だけでなく宮城県滋賀県大阪府にもおり、北は北海道から南は大分県まで全国に幅広く存在し、警視庁の刑事が実際に出向いて摘発した[47]。年齢は半数近くが30代後半だったが、上は47歳[46]から下は17歳[注釈 2]までいた[48]。男性だけでなく女性も含まれており、女性の中には妊娠している者もいた[48]。精神の病にかかっている可能性のある者が4分の1近くいたが、それ以外には仕事や家庭を持つ社会人がおり、大手企業のサラリーマン・コンピュータプログラマー・会社セキュリティ部門の責任者・会社の通信機を利用して中傷コメントを書き込んだ者・年頃の娘がいる父親もいた[48]。また、国立大学職員が検挙されたが、8年前の2000年の捜査で書き込み場所として特定された国立大学と同じ大学であった[49]

取り調べをした刑事は中傷犯たちについて「どこにでもいる、おとなしそうな感じだった」、キクチは警察から見せられた中傷犯たちの顔写真について「怪しい目つきの2人を除き、どこにでもいる普通の人」という印象を持った[50]

中傷犯たちは実際に起きた殺人事件とは何の関係もなく、互いの中傷犯同士や被害者のキクチとも実生活で一切面識がなかった[48]

中傷犯たちは警察に問い詰められると最初は「やっていない」とシラを切った[51]。警察から契約しているプロバイダ名やブログに投稿した時刻、コメント内容などの証拠を突きつけられると自分がやったと認めたが、中には友人や同僚・知人のせいにして辻褄が合わなくなった挙句、ようやく認める者もいた[51]

犯人の動機など[編集]

コンクリ事件キクチ犯人説を信じてはいないが面白半分で中傷コメントを書いた、という1人を除き、中傷犯たちはネット上で流布されていたキクチ犯人説を信じていた(前述の北芝の本を根拠としていたのは8人)。警察は彼らに対し「キクチ氏とコンクリ事件は無関係で、ネット上のキクチ犯人説は事実無根」と知らせた上で、北芝の所属事務所と本を出版した河出書房新社からの「キクチ氏とコンクリ事件は無関係」とする内容証明を見せた[52]。すると、中傷犯たちは「ネットに騙された」「本に騙された」と責任をなすりつけ、「仕事、人間関係など私生活で辛いことがありムシャクシャしていた」「離婚して辛かった。キクチはただ中傷されただけで、自分のほうが辛い」「他の人は何度もやっているのに、なぜ一度しかやっていない自分が捕まるのか」と被害者意識をあらわにした[51][53]。「言論の自由」を主張した中傷犯は刑事から「表現の自由なら自分の名前が書かれてもよいのか」と問われると「キクチは芸能人だから書かれてもよいが、自分は一般人で将来もあるから嫌だ」という無責任な発言をした[51]

中傷犯への取り調べの様子を刑事から聞かされたキクチは、彼らについて「『情報の仕分け』『考える力』『情報発信者を疑う能力』の3つが欠如している」「他人の言葉に責任を押し付ける」「自分の言葉には責任を持たない」という共通点があるという感想を持った[54]。なお、警察から取り調べを受ける中で自分が起こした中傷や脅迫を反省して「本人に謝罪したい」と言う中傷犯が数人いたが[55]、実際にキクチの所属事務所へ本人宛ての謝罪文を送った者はいなかった[56]。キクチは謝罪意思について「その場しのぎの反省」であり、中傷犯は「匿名でさんざん中傷や脅迫をしておきながら、刑罰を逃れるために『謝罪する』と平然と嘘をつく人間」であるという印象を持った[57]

2009年2月5日にテレビ、新聞、スポーツ紙などの複数のメディアでキクチ中傷被害事件が大々的に報道された[2]。ブログ「炎上」で一斉摘発するのは、警察庁によると「聞いたことがない」事案であった[3]。キクチ中傷被害事件の報道の少し前に、韓国の芸能人が相次いで自殺していたこと(2007年1月のチェ・ユニ、同年2月のチョン・ダビン、2008年9月のアン・ジェファン、同年10月のチェ・ジンシル)が注目されていたが、自殺した理由の1つにネットにおける中傷があると報じられていた[58]。ネットの中傷によって韓国の芸能人が相次いで自殺した問題は報道機関では「日本でも起こりうる深刻な問題」と考えられており、ネット中傷という点で類似していたキクチ中傷被害事件が報道機関で大きく取り上げられる要因となった[59]

書類送検[編集]

この報道で警察が「キクチはコンクリ事件と無関係」であることを発表したため、ネットではコンクリ事件キクチ犯人説は事実無根の中傷であるという認識が広まり、キクチへの中傷書き込みは激減することになった[60]

2009年3月27日までに、起訴できる見込みがあると警察が判断した7人の中傷犯が検察に書類送検された[4]。名誉毀損容疑で書類送検された4人の中には、キクチを中傷しただけでなく、殺人事件を茶化し、被害者を冒涜した者も含まれていた[61]

さらに、2009年4月下旬、新聞報道直後の同年2月10日に2ちゃんねる上でキクチの殺害予告を書き込んだ人物が、東北地方在住の女性であることが判明した。事件担当の刑事がこの女性の自宅を直接訪問すると、この女性は意味不明な言動をした後、包丁を持ちだして暴れ出し、止めに入った父親を切りつけた。父親に生命の別状はなかったが、女性が精神病を患っており、心神耗弱状態にあることが認められたため、摘発は見送られた[64][65]

事件の終結に向けて[編集]

その後、事件に進展はほとんどなく、検察からの連絡もない状態が続いた。この間、キクチは民事訴訟を起こすことも検討したが、中傷犯の居住地が北海道から大分県までの広範囲に及んでいることや、19人全員に対して訴訟を起こすと大変な手間と多額の費用を要すること、摘発者の中に大手企業に勤務し、会社の機器を使用して中傷を行った者が複数居たため、会社が弁護団を結成して反訴に持ち込んできた場合、泥仕合になるおそれがあること、民事訴訟では中傷犯本人が法廷に現れない可能性があることなどから、キクチはこの案を諦め、検察の判断を待つ意向を固めた[66]

2009年11月、東京地方検察庁に事件の進展を確認する電話を入れたキクチは、事件を担当する検事から「全員不起訴処分する予定である」と説明を受けた。検事は「全員が反省しており、キクチに謝罪したため」であるとしたが、実際には中傷犯の誰ひとりとしてキクチに謝罪していなかったため、検事が供述調書に書かれた「すぐに謝罪する」という言葉を何の確認もせずに鵜呑みにしていたことが判明した[67]

そのため、後日改めて東京地検においてこの検事に直接面談したところ、キクチは検事から「本人たちは悪気が無かったと言っているので、キクチが否定すればやらなかったと思う」「こうした噂があるのを知りながらブログを始めたキクチにも問題がある」「(キクチが)ブログをやめ、インターネットを見なければ問題は起きない」「(キクチが)事件があったことを知りながら、犯人として疑われることを予測せず、足立区出身と公表したことにも問題がある」などといった説明を受けた[68]。キクチはこの検事の受け答えから、検事がインターネットに関して無知らしいこと、中傷犯の供述調書と北芝の著書『治安崩壊』には目を通しているものの、キクチの提出した被害届や告訴状の内容に目を通していないらしいことに気付いた。キクチはこの検事と度々やり取りを続けたが、ついに納得のいく説明を得ることはできず、キクチは検察に対する信頼を無くしていった[68]

2010年1月21日に検察から「キクチに対する誹謗中傷や脅迫の書き込みをした人たちは他にもおり、一部の人だけを起訴すれば不公平」として3人の中傷犯に起訴猶予処分(名誉棄損容疑2人・脅迫容疑1人)、4人の中傷犯に嫌疑不十分の不起訴処分(名誉棄損容疑2人・脅迫容疑2人)が下された。キクチは当初から不起訴処分に対して納得してはいなかったが、「嫌疑なし」(=犯罪が成立していない)と判断された中傷犯がいないことや、「やれることは精一杯やった」という考えがあったことなどから、検察の決定を受け入れることとした[51][69]

その他[編集]

  • タレントの飯島愛もネット上で「出身地の江東区が犯行現場の足立区に近い」「犯行グループと年齢が近い」「10代にグレていた」ことを理由にコンクリ事件犯人グループの仲間やコンクリ事件犯人の元恋人として扱われ、ネット上でキクチ同様に事実無根の中傷を受けていた[70]。飯島はブログで犯罪関与を否定していた[71]。キクチと飯島は何回か仕事の番組収録中に話をした程度でありプライベートの交流はゼロで連絡先も知らなかったが、ネット上では事実無根の中傷をする者たちによって「キクチと飯島はかつては犯人グループの仲間同士だった」と扱われていた[72]。飯島の急死が2008年12月24日に突然発表されたことを受けてインターネットの検索サイトで「飯島愛」を検索する者が増えたが、その際に同時に検索されることが多い関連キーワードとして「スマイリーキクチ」があり、ネット検索で「飯島愛」と「スマイリーキクチ」を結びつけたのが「2人がコンクリ事件に関与した」旨の事実無根の内容であった[73]。飯島の急死が報道されたことをきっかけに、「飯島愛」でネット検索をしてネット上のコンクリ事件キクチ犯人説を目にする者が多くなり、その時にキクチ犯人説を初めて目にして信じた者が匿名掲示板でキクチへの脅迫書き込みをして警察に摘発される事例もあった[74]
  • 事件の内容は2012年12月19日に放送された『ザ!世界仰天ニュース 3時間20分スペシャル』で放送された[75]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 『突然、僕は殺人犯にされた』の中で、キクチは警察関係者に対し、A(北芝健のこと)とは誰なのか、本当に警察の人間だったのかと質問している。それに対し、警察関係者が「Aは確かに警察の人間であったが、『お巡りさん(巡査)』だったらしい。何らかの事件の捜査に関わっている間は『刑事』として扱われるから、応援などで捜査に少し関わった経歴があれば、『元刑事』と名乗ることは必ずしも間違いとはいえない」と回答するくだりがあり、北芝の称する『元刑事』という経歴に暗に疑問を投げ掛ける内容になっている。
  2. ^ コンクリ事件当時はまだ生まれていなかった。

出典[編集]

  1. ^ a b c 「男性タレントに「人殺し」ブログ炎上、初の摘発」、読売新聞 東京朝刊、2009年2月5日、1頁。
  2. ^ a b ブログ「炎上」で立件 お笑いタレント中傷容疑 共同通信 2009年2月5日
  3. ^ a b “スマイリーキクチのブログ「炎上」で立件”. サンケイスポーツ. (2009年2月5日). オリジナル2009年5月4日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20090504074222/http://www.sanspo.com/geino/news/090205/gnj0902052217017-n1.htm 2009年2月8日閲覧。 
  4. ^ a b c d “「ブログ炎上」で6人を書類送検 お笑いタレント中傷容疑”. 共同通信. (2009年3月27日). http://www.47news.jp/CN/200903/CN2009032701000373.html 
  5. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 8-9
  6. ^ a b 「(時時刻刻)インターネット中傷、摘発で警告 デマ信じ「炎上」加担」、朝日新聞 東京朝刊、2009年2月6日、2頁。
  7. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 46, 48
  8. ^ スマイリーキクチ 2011, p. 10
  9. ^ a b c 「名誉棄損:タレントのブログに「人殺し」 容疑などで、悪質19人立件へ」、毎日新聞 東京夕刊、2009年2月5日、11頁。
  10. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 163-164
  11. ^ スマイリーキクチ 2011, p. 17
  12. ^ スマイリーキクチ 2011, p. 9
  13. ^ スマイリーキクチ 2011, p. 11
  14. ^ a b c d スマイリーキクチ 2011, pp. 15, 21-23
  15. ^ a b c d e f g h 「スマイリーキクチ、ネットで「殺人犯」に仕立てられた10年間の苦悩」、週刊朝日2011年4月1日号、120頁。
  16. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 23-24
  17. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 11-12
  18. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 12, 27, 30-31
  19. ^ スマイリーキクチ 2011, p. 13
  20. ^ スマイリーキクチ 2011, p. 34
  21. ^ a b スマイリーキクチ 2011, p. 33
  22. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 34-37
  23. ^ スマイリーキクチ 2011, p. 37
  24. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 37-43
  25. ^ a b スマイリーキクチ 2011, p. 77
  26. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 42-44
  27. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 100-101
  28. ^ 北芝健 『治安崩壊』 河出書房新社2005年ISBN 4309243290
  29. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 30-31
  30. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 43-45
  31. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 47-48
  32. ^ スマイリーキクチ 2011, p. 50
  33. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 50-60
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  35. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 84-89
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  58. ^ チェ・ジンシル「ネット中傷自殺」が契機 韓国で「サイバー侮辱罪」導入 J-CAST 2008年10月6日
  59. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 236-237
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  63. ^ a b c d e f スマイリーキクチ 2011, p. 190
  64. ^ スマイリーキクチ 2011, p. 177
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  69. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 234-236
  70. ^ 飯島愛、スマイリーキクチも“共犯者”に巻き込まれた 日刊ゲンダイ2009年2月13日
  71. ^ Wikipediaiai !? 飯島愛 ブログ 2006年10月23日
  72. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 136-138
  73. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 138-139
  74. ^ スマイリーキクチ 2011, pp. 149-150
  75. ^ 「ザ!世界仰天ニュース 【年またぎ年末年始2連発 奇跡は起きた!3時間20分SP】」の番組概要ページ - TVトピック検索

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]