スポンジケーキ

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スポンジケーキの断面

スポンジケーキ、あるいはスポンジ生地とはフランス菓子に代表される洋菓子において、小麦粉をベースとしたパティスリと呼ばれる分野の菓子の基本的な生地のひとつ。溶いた鶏卵の起泡性を利用し、オーブンで弾力に富んだ軽いスポンジ海綿)状に焼き上げるケーキ生地で、製菓関係の文脈では略して単にスポンジと称することもある。日本ではショートケーキチョコレートケーキロールケーキの土台として使われることでなじみぶかく、またこの生地を使用した一群のケーキの総称としてもスポンジケーキの呼称を使うこともある。

作り方・生地について[編集]

スポンジ生地の基本的な組成は、鶏卵、砂糖、小麦粉である。鶏卵は製菓材料の中でもっとも多量の空気を含む性質を持っており、溶いて強くかき混ぜると気泡を形成する。これを卵の起泡性といい、さらにこれを加熱すると気泡の空気が熱で膨張して生地が膨れ、さらにタンパク質の熱変性によって空気を含んだまま熱凝固することによって生地の基本的な骨格を形成する。さらに、これに小麦粉を加えることで、生地の中で形成されたグルテンと、焼き上げたときに糊化したデンプンとが生地の骨格をより強化させている。泡立てた卵に小麦粉を加えて混和すると気泡がつぶれてしまうので、砂糖を加えることであらかじめ卵の気泡を安定化させる。砂糖にはメイラード反応でおいしそうな焼き色を生成し、また鶏卵と混ぜるとわずかながら粘性を示すので生地の弾力を強化し、しっとり感を増す効果もある。最も基本的な組成は3つの基本材料の等量配合であるが、泡立てた鶏卵に加える砂糖と小麦粉の分量を減らすことで焼き上がりの質感を軽くすることができる。

スポンジ生地には、起泡性の根幹となる卵の泡立て方で、卵白卵黄を分けてあわ立てる別立法と同時に泡立てる共立法のふたつの製法があり、前者で作る生地をビスキュイ生地(パータ・ビスキュイ pâte à biscuit )、後者で作る生地をジェノワーズ生地(パータ・ジェノワーズ pâte à génoise )という。

ビスキュイとは「2度(bis)焼く(cuit)」に由来し、元来はいったん焼いたパンを薄切りにしてもう一度カリカリになるまで焼いて保存性を増し、遠洋航海のための保存食軍隊糧とした乾パンのことで、転じてフランス語ではスポンジ生地のことを、英語ではビスケットを指すようになった。別立法のパータ・ビスキュイは卵白を全卵から分けて泡立てメレンゲをつくると卵黄の脂質で泡の組織が破壊されるのを防ぐことができるので、全卵をあわ立てるよりはるかに多量の空気を含ませることができ、これがスポンジ生地の基本製法となる。生地の基本構造は、卵黄と砂糖が練り合わさったものの中に小麦粉が分散し、そこに卵白によるメレンゲの気泡が保持されている形となる。卵白に砂糖を加えながらしっかりと角が立つまで泡立てたメレンゲと、砂糖を加えて白っぽくなるまで撹拌した卵黄を気泡を壊さないようにあわせ、そこに小麦粉を混ぜ込んで焼き上げる。焼く前の生地は流動性に乏しいため、絞り袋でクッキングペーパーなどの上に絞り出して焼くことが多い。

パータ・ビスキュイの呼称は広義にはスポンジ生地全体の総称でもあるため、共立法で作った生地もビスキュイの名で呼ばれることもあり、その場合パータ・ジェノワーズはパータ・ビスキュイ・ジェノワーズ pâte à biscuit génoise となり、「ジェノヴァ風のビスキュイ生地」を意味する。全卵と砂糖の合わさった生地の中に小麦粉が分散し、その内部に直接細かい気泡が形成されている。全卵を溶いたものに砂糖を加えたものをリュバン状と呼ばれる白くふんわりとした状態まで泡立てて、これに小麦粉を加えて焼き上げる。別立法の単なるビスキュイ生地と比べると、強力な起泡力を持つ卵白でメレンゲを作らないので生地に含まれる気泡の量は少なく、また別立法で作るよりも力と時間を要するが、生地の肌理は細かく、しっとりとした仕上がりが得られる。焼く前にはやわらかく流動性が高いので、絞り出しではなく型などに流し込んで焼く。全卵を泡立てたものより油脂によって不安定になる傾向が強い、メレンゲを使わないので、バターを添加してこくのある風味を出しやすく、通常生地の調整の最後に溶かしバターを混ぜ込み、泡立てた全卵の気泡が壊れる前にすばやく焼き上げる。バターを加えた生地は厳密にはビスキュイ・オ・ブールと呼ぶが、先述のとおり通常共立法のパータ・ジェノワーズで作るため、単にパータ・ジェノワーズといえばバターを加えた共立法スポンジ生地を指すのが通例である。

こうした基本的なスポンジ生地のバリエーションとして、パータ・ジェノワーズにココアパウダーを加えたパータ・ジェノワーズ・ショコラ、コーヒーを加えたパータ・ジェノワーズ・オ・カフェ、別立法の要素も加味してメレンゲも加えた上で小麦粉の一部をアーモンドの粉末に置き換えたパータ・ビスキュイ・ジョコンド、さらに小麦粉をアーモンドの粉末とコーンスターチを混ぜたものに完全に置き換えパータ・パン・ド・ジェンヌといったものがある。

スポンジ生地はバターの添加量を増やしていくと卵の起泡性が維持できなくなって生地が成り立たなくなる。バターの比率を高くしてそのこくや深い味わいをより強く出すには卵の起泡性に依存しない方法で生地に空気を取り込まなければならない。逆転の発想で、卵の起泡性に依存せず、バターそのものに撹拌するとバターのエマルション構造が空気を取り込み、微細な気泡を内部に形成する性質があることを使って生地を膨らませるのが、バター生地(パータ・ケック pâte à cake )である。

歴史[編集]

カスティーリャ王国で生まれた「カスティーリャ・ボーロ」が始まりとする説があり、南蛮船によって日本に伝来後、カスティーリャはカステラに、ボーロはそばぼうろにアレンジされたとされる[1]

脚注[編集]

  1. ^ 猫井登『お菓子の由来物語』幻冬舎ルネッサンス