ステアリン酸アスコルビル

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ステアリン酸アスコルビル
識別情報
CAS登録番号 10605-09-1 チェック
PubChem 10343784
ChemSpider 18619275
EC番号 234-231-5
E番号 E305 (酸化防止剤およびpH調整剤)
ChEMBL CHEMBL218804
特性
化学式 C24H42O7
モル質量 442.586 g/mol
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ステアリン酸アスコルビル(ascorbyl stearate)は、ステアリン酸アスコルビン酸とのエステルである。L-アスコルビン酸ステアリン酸エステルビタミンCステアレートなどの別名が存在する。

構造と性質[編集]

ステアリン酸アスコルビルの化学式はC24H42O7であり、したがって分子量は442.6 (g/mol)である。常温常圧では、白色から、やや黄色味を帯びた白色の固体として存在する[1]。ステアリン酸とはオクタデカン酸の事であり、つまり、カルボキシ基ヘプタデカンが結合した構造をしている。カルボキシ基は水溶性だが、比較的長い炭化水素鎖であるヘプタデカンは脂溶性であり、分子全体で見るとステアリン酸は脂溶性を示す。もう一方のアスコルビン酸は水溶性だが、アスコルビン酸が持つ水酸基の1つに、ステアリン酸が持つカルボキシ基がエステル結合した構造をしているため、ステアリン酸アスコルビルは脂溶性を示し、ほとんど水には溶解しない。しかし、エタノールには溶解し易く、また、ピーナッツ油には0.09パーセントの濃度で、綿実油には0.05パーセントの濃度で溶解させられる[1]

食品添加物[編集]

アスコルビン酸には水溶性の酸化防止剤としての用途もあるわけだが[注釈 1]、ステアリン酸アスコルビルは、脂溶性の酸化防止剤の1種として食品添加物として用いられる。これはステアリン酸がエステル結合しているアスコルビン酸の水酸基が、アスコルビン酸の酸化され易い箇所との関係性が薄いため[注釈 2]、エステルの加水分解を受けずにステアリン酸アスコルビルのままで酸化防止剤として作用できるためである。ただし、アスコルビン酸と比べると、ステアリン酸アスコルビルは酸素に対して安定である[1]。これは、酸化防止剤としての能力で見ると、アスコルビン酸には劣る事を意味する。しかしながら、アスコルビン酸と比べると、ステアリン酸アスコルビルは光に対しても安定であるなど[1]、利点も有する。E番号305を持ち、EUやアメリカ合衆国や日本などでは、食品添加物としての利用が認められている。例えば、マーガリン、チーズ、アイスクリーム、食肉加工製品、魚肉加工製品、ピーナッツバターなど、油分を含む食品の酸化防止剤として添加される[1]。ただし、アメリカ合衆国農務省は、その使用濃度を0.02パーセント以下に制限するなど、規制が存在する場合も有る。なお、単に栄養強化剤として、ビタミンC源として用いる場合も有る。

毒性[編集]

ステアリン酸アスコルビルの毒性は極めて低く、マウスに対して経口投与した場合のLD50は、25 (g/kg)である[1]。さらに、マウスに対して6ヶ月間にわたって1日当たり2 (g/kg)を経口投与し続けても、マウスに悪影響は出なかった[1]

関連項目[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 例えば、日本では緑茶飲料の酸化防止剤として、アスコルビン酸が添加されている例が散見される。
  2. ^ アスコルビン酸は酸化され易い物質の1つであり、自らが酸化される事によって、他の物質の酸化を妨げる。アスコルビン酸が酸化される際の分子内の電子を動きを考えれば、ステアリン酸アスコルビルのステアリン酸がエステル結合している部分は、アスコルビン酸の酸化防止剤としての機能に関連性が薄い事を理解できるだろう。詳細は、有機化学などの分野を広く参照し、化学反応の際の分子内の電子の動きを学ぶ事。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g 谷村 顕雄 『食品添加物の実際知識(第4版)』 p.127 東洋経済新報社 1992年4月16日発行 ISBN 4-492-08349-9

参考文献[編集]

  • Burdock, George A (1996). Encyclopedia of Food & Color Additives. CRC Press. p. 213. ISBN 0-8493-9412-0 
  • Lewis, Richard J (1989). Food Additives Handbook. Springer. p. 70. ISBN 0-442-20508-2