ジンベエザメ

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ジンベエザメ
生息年代: 60.0–0 Ma
Whale shark Georgia aquarium.jpg
ジンベエザメ
Rhincodon typus
保全状況評価[1]
VULNERABLE
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 VU.svg
地質時代
約6,000万年前-現世
新生代古第三紀暁新世セランディアン
-第四紀完新世
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
: 軟骨魚綱 Chondrichthyes
: テンジクザメ目 Orectolobiformes
: ジンベエザメ科 Rhincodontidae
: ジンベエザメ属 Rhincodon
: ジンベエザメ R. typus
学名
Rhincodon typus
Smith, 1828
英名
Whale Shark
Rhincodon typus distmap.png
生息域
ジンベエザメとダイバー

ジンベエザメ(甚平鮫、英: Whale shark、 学名: Rhincodon typus)は、テンジクザメ目ジンベエザメ科に属する唯一のサメジンベイザメとも。サメとして軟骨魚類として現生最大であり、そして、現生最大のとして知られている(「生物に関する世界一の一覧#魚類」「1 E1 m」も参照)。

世界中の熱帯亜熱帯温帯の表層海域に広く分布する。動きは緩慢であり、基本的には人にとって危険性の低いサメである。

呼称[編集]

属名ギリシア語の「rhincos (snout、muzzle、鼻づら、口吻)」と「odous (tooth、歯)」を語源とするラテン語による合成語

和名(標準和名)「ジンベエザメ」は、体にある模様が着物の甚兵衛(じんべえ、甚平〈じんべい〉)[2] に似ていることから名づけられたとされる。

日本各地の方言による呼称は「いびすさが」(茨城県)、「じんべ」(茨城県)、「えびすざめ」(千葉県、神奈川県、静岡県)、「じんべえ」(千葉県)、「じんべい」(福井県)、「さめ」(高知県)、「くじらぶか」(鹿児島県)、「みずさば」(沖縄県) などがある。

英語 whale shark (ホエール・シャーク)を始め、 ドイツ語 Walhai (ヴァールハイ; Wal) + Hai (鮫))、 フランス語 requin baleine (ルカン・バレーヌ; requin (鮫) + baleine (鯨))、 イタリア語 squalo balena (スクアーロ・バレーナ; squalo (鮫) + balena (鯨))、 中国語では「」など、多くの言語で「鯨鮫」を意味する名を持つ。 台湾語では、その肉の味から「豆腐」の異名がある。

ベトナムではジンベエザメやクジラ類のことを cá ông (カー・オン)と呼んで古くから信仰対象としてきた。「魚」を意味する cá に「おじいさん」を意味する ông (漢語「翁」に由来し、年長男性への尊称としても使われる)を修飾語として添えており、言わば「Sir fish[3]」「魚じい」とでもいうべき語感のある言葉である。

分類・進化[編集]

ジンベエザメとヒトの大きさ比較

本種は1828年4月、南アフリカケープタウンのテーブルベイ(en)にて捕獲された約4.6mの標本をもって、英国人生物学者アンドリュー・スミスにより、分類・記載された。本種が属するジンベエザメ科はジンベエザメの1属1種のみで構成される。

ジンベエザメ(種)は、約6,000万年前(新生代古第三紀暁新世中期〈セランディアン〉)に登場したと考えられている[4]K-T境界で絶滅した大型の海棲爬虫類のニッチを埋める形で進化したものと思われる。

特徴[編集]

分布[編集]

世界中の熱帯・亜熱帯・温帯(緯度±30°以内)、その表層海域に生息し回遊するが、ラグーン珊瑚環礁、湾内にも入り込む。河口付近で見られることもある。また、水深約700mでも確認されている[5]。特定の海域に留まる傾向の見えるメスに対し、オスは広い海域を回遊する。彼らは基本的に単独性であり、餌が豊富な海域でない限り集団を形成しない。現在の生息数の実際については必ずしも明確ではない。

形態[編集]

模様は格子に点の組み合わせという独特のもの

現在知られている個体記録の信頼に足る最大値は体長約13.7mである。以前に21mのものが報告されたが、これは正確な計測による数値ではない。体形は紡錘形。体の幅は頭部で最も大きく、通常1.5m程度である。扁平な形の頭部を持ち、その正面の両端(口の端の近く)に小さな眼がある。横幅が最大で1.5mほどにもなる大きな口の中には、細かな歯が300-350本、列をなしている。5対の鰓裂(さいれつ)は胸鰭原基(胸鰭の始まり)の上前方にある。体色は、腹部は白に近い灰色であるが、それ以外の全ての部分は色合いが濃く灰青色であり、頭部・胸鰭・尾鰭には淡黄色の斑点を、胴部には白い格子の中に淡黄色の斑点が配された独特の模様[6] を持っている。さらにこの模様には個体ごとに個性が見られる(これは、観察するにあたっての個体識別にも大いに役立っている)。皮膚組織は分厚く、その厚みは最大値でおよそ10cmにもなる。成体の尾鰭は普通は半ば三日月形(下部がやや小さい)、ときに三日月形であるが、若い個体のそれは下部が目立たず、上部だけが大きいという特徴を持つ。

生態[編集]

プランクトンオキアミを含む小型甲殻類やその幼生頭足類の幼生など)のほか、小魚、海藻などを摂食する。海水と一緒にそれらの生物を口腔内に吸い込み、鰓耙[7]濾し取り、鰓裂から水だけを排出し、残った生物を呑み込むという摂食方法である。プランクトンは海面付近に多いため、ジンベイザメも海面近くでほとんどの時間をすごす。サンゴの産卵期にはその卵を食す。海面付近に漂う餌を効率よく口内に吸い込むために、体を垂直近くにまで傾ける習性が見られる。このため、大きな個体を飼育する沖縄美ら海水族館では、ジンベエザメの成熟した個体がそのような姿勢をとるに十分な大水槽の水深を10mとしている。

本種とイワシ等の小魚はともにプランクトンを主食としており、したがって両者は同じ海域に餌を求めることが多い。小魚やその小魚を餌とする中型の魚はカツオマグロ[8] といった大型回遊魚の餌であるから、本種のいる海域には大型回遊魚の群れがいる可能性も高くなる。なお、これに関連する民俗的事象については「民俗」の項を参照のこと。

動きは緩慢で、遊泳速度は平均4km/h[9]、最大でも13km/h程度である[10]

性格はいたっておとなしく、人が接近しても危険はない。ただし、非常に臆病で、環境の変化に弱いため、飼育は難しいとされる。しかし、大阪市海遊館沖縄県の国営沖縄水族館(現・沖縄美ら海水族館)などで長期の飼育記録がある。

繁殖についてはあまり分かっていないものの、数年に一回の割合でしか出産しない繁殖力の低い動物であることは知られている。かつては卵生であると信じられていたが、1995年に妊娠中のメスが捕獲され、胎生であることが判明した。卵は長径30cm、短径9cmに達するものもあり、メスの胎内で孵化した後、40cmから60cmに達した状態で出産される。約30年で成熟し、60年から70年ほどを生きる。なかには150年を生きるとの説もある。

濾過摂食[編集]

回遊しながらプランクトンを摂食するジンベエザメ(周辺の小魚はコバンザメ

濾過摂食動物は生態ピラミッドの最低位にあるプランクトンを主食とする低次消費者ニッチ(生態的地位)である。しかし、動物史上では、この地位にこそ最大級の種が含まれていることが多い[11]軟骨魚類としてはジンベエザメやウバザメオニイトマキエイなどがその好例であり、海生動物全体ではヒゲクジラ類を筆頭に挙げるべきであろう。また、過去の時代では中生代の一時期を生きた硬骨魚類リードシクティスが、シロナガスクジラに迫る史上最大級の動物として知られている。最も生物総量に優れた最小の消費者(実際は生産者も含む)を優先的に大量に摂ることは生物的強者でなければ許されない特権とも言える。彼らは低次消費者ではあるが、その意味で「勝利者」なのである。このニッチの占有者(その祖先動物)は競合力の高さによってその地位を獲得していったのであろう。

人間との関係[編集]

オニイトマキエイと共に展示されているジンベエザメ(沖縄美ら海水族館

民俗[編集]

前述のように、ジンベエザメの周囲には常にイワシやカツオ等の大小の魚類が群れている。この関係は経験的に古くから漁師に知られ、本種は地域によっては大漁の吉兆とされ、福の神のように考えられてきた。「えびすざめ」[12] という関東方言による呼称などはまさにこのことを表すものであるし、その他の各地でも「えびす」「えべっさん」などと呼ばれて崇められてきた漁業神には、クジラ類だけでなくジンベエザメもその正体に含まれているという(「生態」の項、および、「えびす」の「クジラ(海神・漁業神)としての変遷」の項も参照)。そして、この信仰は現在も活き続けているのであり、祠(ほこら)は大切に守られている。

宮城県金華山沖に出現するという伝承が残る海の怪「ジンベイサマ」は、その正体がジンベエザメではないかと言われている[13]。船の下へ入って船を支えていることがあり、首尾がつかめないほど巨大なものとされる[14]。これが出たときにはカツオが大漁になると言われる[14]

乱獲[編集]

生息数は減少しており、IUCN危急種と評価しているほか[1]ワシントン条約の附属書IIにも入れられている[15]

日本を初めとした先進国で、肉に限っては特に食さない。しかし、中国や日本の中華料理店でフカヒレが好まれていることが、発展途上国の漁師によるサメ全体の乱獲に繋がっている。数が減った直接的原因は発展途上国での乱獲によるかもしれないが、その本当の原因は、消費する我々にもあることを自覚する必要がある。

特に、ジンベエザメのフカヒレは全てのフカヒレの中でも最高級のものとされ、天頂翅と呼ばれ珍重される。

飼育[編集]

沖縄本島読谷村沖の海中生簀内で飼育されている。生簀内外でのスキューバダイビングおよびスノーケリングが可能。

水族館では、2009年7月現在、海遊館美ら海水族館で複数飼育を行っている他、いおワールドかごしま水族館のとじま水族館でも幼少個体の飼育の試みを続けている。 海外では米国のジョージア水族館で、台湾で捕獲されたジンベエザメの飼育が行われている。

憧れ[編集]

スキューバダイビングの世界では「ダイバーの憧れ」とされる。モルディブガラパゴス諸島ココ島、および、スミラン諸島en)などで目撃例が多い。回遊しているため、沖縄四国伊豆などでも稀に見られる。 千葉県館山市の波左間漁港で2010年7月下旬、金庫網にジンベエザメがかかった。ジンベエザメはいけすに放され、夏休みと言うこともありダイバーだけでなく非ダイバー(海底透視船を利用した船上見学)からの人気を集めている。

ちなんだ名称[編集]

脚注[編集]

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  1. ^ a b Norman, B. (2005年), Rhincodon typus, IUCN Red List of Threatened Species. Version 2013.2. (International Union for Conservation of Nature), http://www.iucnredlist.org/details/19488 2014年4月15日閲覧。 
  2. ^ 文字面にこだわれば、「ジンベエザメ」は「甚兵衛鮫」、「ジンベイザメ」は「甚平鮫」となる。
  3. ^ 英語版による。
  4. ^ Jurassic Shark (2000) documentary by Jacinth O'Donnell; broadcast on Discovery Channel(ディスカバリーチャンネル), August 5, 2006
  5. ^ Ed. Ranier Froese and Daniel Pauly.[1] Rhincodon typus - FishBase. Retrieved on 17 September 2006.
  6. ^ 西欧ではチェス盤の模様に喩えられる。格子の部分に交互の塗り分けは無いので、格子模様のほうがより正確な喩えではある。
  7. ^ さいは。吸い込んだ水の中から微細な生物だけを濾し取り食べるための(くし)状の器官。イワシやアユ、ジンベエザメなど、プランクトン食性の魚はこの器官が発達している。
  8. ^ ただし、マグロがジンベエザメに付くのは常のことではない。
  9. ^ Motta, Philip J and Maslanka, Michael and Hueter, Robert E and Davis, Ray L and De la Parra, Rafael and Mulvany, Samantha L and Habegger, Maria Laura and Strother, James A and Mara, Kyle R and Gardiner, Jayne M and others (2010). “Feeding anatomy, filter-feeding rate, and diet of whale sharks< i> Rhincodon typus during surface ram filter feeding off the Yucatan Peninsula, Mexico”. Zoology 113 (4): 199-212. 
  10. ^ Hsu, Hua-Hsun and Joung, Shoou-Jeng and Liao, Yih-Yia and Liu, Kwang-Ming (2007). “Satellite tracking of juvenile whale sharks, Rhincodon typus, in the Northwestern Pacific”. Fisheries Research 84 (1): 25-31. 
  11. ^ 濾過摂食性のニッチの占有者は生態系の中で常に存在していたはずであるが、ときに上述のような注目すべき最大級の種の存在が確かめられる。
  12. ^ 生物学上実在するエビスザメとは無関係。
  13. ^ 村上健司編著 『日本妖怪大事典』 角川書店〈Kwai books〉、2005年、182頁。ISBN 978-4-04-883926-6
  14. ^ a b 大藤時彦他 『綜合日本民俗語彙』第2巻、民俗学研究所編、柳田國男監修、平凡社1955年、763頁。
  15. ^ ワシントン条約の対象種(附属書)一覧表 (2013/6/12 現在)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]