サバテサイクル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

サバテサイクル(Sabathe cycle)は、中・高速の圧縮着火機関ディーゼルエンジン焼玉エンジン)の理論サイクル(空気標準サイクル)であり、 複合サイクルとよばれることもある [1] [2]。 実際のディーゼルエンジンでは燃料噴射後、着火するまでに着火遅れがあり、 この間に噴射された燃料はシリンダー内に燃料・空気の混合気を形成する。 これに着火すると短期間で燃焼し(予混合燃焼)、等積に近い燃焼となり、 低速機関でない限り、これを無視することはできない。 その後、続いて噴射される燃料が空気と混合しつつ順次燃焼し(拡散燃焼)、 等圧に近い燃焼となる。 この等積燃焼と等圧燃焼の双方を考慮したものが、サバテサイクルである。

サイクル[編集]

サバテサイクルは、圧縮着火機関の実際のサイクルを、 下表 1 のような比熱一定の理想気体(空気)の可逆なクローズドサイクル (空気標準サイクル)で置き換えたものと考えることができる [1] [2]

表 1 サイクルの置き換え
実機関の状態変化 置換後の状態変化 備考
1 → 2 空気の圧縮 断熱(等エントロピー)圧縮
2 → 3 予混合燃焼 等積加熱 この間のピストン移動を無視
3 → 4 拡散燃焼 等圧加熱膨張 噴射の間もピストンは移動
4 → 5 噴射締切・燃焼ガスの膨張 断熱(等エントロピー)膨張
5 → 1 排気・吸気(または掃気) 等積冷却 この間のピストン移動を無視

サバテサイクルのp-V 線図および T-S 線図を図 1、2 に示す。 また、吸気状態を V1、p1、T1、S1 としたときの、 サイクル上の各点の状態量を下表 2 に示す。

表 2 サイクル各点の状態量
体積 圧力 絶対温度 エントロピー
1 V_1 p_1 T_1 S_1
1→2 p = p_1 \left(\frac{V_1}{V}\right)^{\kappa} T = T_1 \left(\frac{V_1}{V}\right)^{\kappa-1} S = S_1
2 V_2 = V_1/\epsilon p_2 = p_1 \epsilon^{\kappa} T_2 = T_1 \epsilon^{\kappa-1} S_2 = S_1
2→3 V = V_2 T = T_2 \frac{p}{p_2} S = S_2 + m c_v \ln\frac{T}{T_2}
3  V_3 = V_1/\epsilon  p_3 = p_1 \alpha \epsilon^{\kappa}  T_3 = T_1 \alpha \epsilon^{\kappa-1}  S_3 = S_1 + m c_v \ln \alpha
3→4  p = p_3 T = T_3 \frac{V}{V_3} S = S_3 + m c_p \ln\frac{T}{T_3}
4  V_4 = V_1 \sigma/\epsilon  p_4 = p_1 \alpha \epsilon^{\kappa}  T_4 = T_1 \alpha \sigma \epsilon^{\kappa-1}  S_4 = S_1+m c_v\ln \alpha+m c_p \ln \sigma
4→5 p = p_4 \left(\frac{V_4}{V}\right)^{\kappa} T = T_4 \left(\frac{V_4}{V}\right)^{\kappa-1} S = S_4
5  V_5 = V_1  p_5 = p_1 \alpha \sigma^\kappa  T_5 = T_1 \alpha \sigma^\kappa  S_5 = S_1+m c_v\ln \alpha+m c_p \ln \sigma
5→1  V = V_5 T = T_5 \frac{p}{p_5} S = S_5 + m c_v \ln\frac{T}{T_5}
\epsilon=\frac{V_1}{V_2}圧縮比、   \alpha = \frac{p_3}{p_2}:圧力(上昇)比、   \sigma = \frac{V_4}{V_2}:噴射締切比、

\kappa=\frac{c_p}{c_v}=1.40比熱比、    m :質量、    c_p :定圧比熱、    c_v :定積比熱

熱量、仕事、熱効率[編集]

上で求めた各点の状態量を用いて、1 サイクルあたりの加熱量、冷却量、仕事、 および熱効率平均有効圧力は下記のように求まる。

  • シリンダー内空気質量:  m = \frac{P_1 V_1}{R T_1} , \quad R = c_p - c_v = 287.2 {~\rm J/(kg K)}
  • 加熱量: Q_1 = m c_v (T_3 - T_2) + m c_p (T_4 - T_3)
 = m c_v T_1 [\alpha-1 + \kappa\alpha(\sigma-1)]\epsilon^{\kappa-1}
  • 冷却量: Q_2 = m c_v (T_5 - T_1) = m c_v T_1(\alpha \sigma^\kappa - 1)
  • 仕事: W = Q_1 - Q_2
 = m c_v T_1\{[\alpha-1+\kappa\alpha(\sigma-1)]\epsilon^{\kappa-1}
  - (\alpha\sigma^\kappa - 1)\}
  • 熱効率: \eta = 1 - \frac{Q_2}{Q_1}
 = 1 - \frac{1}{\epsilon^{\kappa-1}}\frac{(\alpha\sigma^\kappa - 1)}{[\alpha-1+\kappa\alpha(\sigma - 1)]}
  • 平均有効圧力: p_m = \frac{W}{V_1 - V_2}
 = p_1 \frac{[\alpha-1+\kappa\alpha(\sigma-1)]\epsilon^\kappa - (\alpha\sigma^\kappa - 1)\epsilon}
            {(\kappa - 1)(\epsilon - 1)}

この結果より、以下のことがわかる。

  1. 圧縮比 ε を大きく(高く)すれば熱効率が大きく向上する。
  2. このサイクルは、噴射締切比 σ が小さくなれば (1 に近づけば) オットーサイクルに近づき、圧力比 α が小さくなれば (1 に近づけば) ディーゼルサイクルに近づく。
  3. オットーサイクル(σ=1)とディーゼルサイクル(α=1)を比較すると、圧縮比 ε が等しければ、オットーサイクルの方が熱効率が良いが、最高温度 T4 が等しければ、(図 2 で点 3 が左方へ移動する方が平均加熱温度が高くなるので、)ディーゼルサイクルの方が熱効率が良い。実際はディーゼルエンジンの方が圧縮比が格段に高く、最高温度も高いので、理論サイクルの面でもディーゼルエンジンの方が熱効率が良い。

参考文献[編集]

  1. ^ a b 柘植盛男、『機械熱力学』、朝倉書店(1967)、ISBN 3053-230304-0032
  2. ^ a b 谷下市松、『工学基礎熱力学』、裳華房(1971)、ISBN 4-7853-6008-9.

関連項目[編集]