サウジアラビアにおける死刑

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

サウジアラビアにおける死刑ではサウジアラビアにおける死刑について解説する。

2013年現在において最も厳しい死刑制度を維持している国であり、人口当たりの死刑執行数は世界最多である。

概要[編集]

サウジアラビアは厳重な報道管制を敷いており、内政に関しサウジアラビア国外によるマスメディアの取材を一切許さない。このため、詳細については不明な部分が多い。正確な死刑囚の人数は非公開であり、アムネスティ・インターナショナルなどの国外の組織が公開処刑の情報などから推測しているだけである。現代において最も死刑になる罪状が多い国である。サウジアラビアは児童の権利条約に加盟しており、同条約で18歳未満への死刑の適用は禁止されるはずだが、国内法では死刑を適用できる年齢の下限はなく、未成年者に死刑が執行された事例も多い。

サウジアラビアでは、そもそも戸籍生年月日を記録する習慣がなく、現在でも自分の生年月日や正確な年齢を知らないまま育つ人が多い。このため、容疑者の年齢についての扱いはいい加減で、「就労している人間を無条件に成人」とみなされたり、または見た目だけで年齢を判断したりしている。

また、外国人の労働者については男性では20歳以上、女性は22歳以上でなければ国内での就労を認めていないため、未成年の出稼ぎ労働者は年齢を詐称している。

リザナ・ナシカの事件のように年齢詐称が問題になった事例もあるが、パスポートビザなどの公文書で「成人とみなす生年月日」が記載されていれば、(たとえ当人の詐称であっても)一律に成人として扱われている。このような事情から公式の立場(建前)として「18歳未満へ死刑を適用していない」ことになっている。

死刑囚の大半は外国人労働者であるともいわれており、死刑囚の出身国との間で外交問題に発展することは日常茶飯事であるが、サウジアラビア側は多くの場合に死刑を執行している。サウジアラビア国外で騒ぎが大きくなったときは、一度死刑の執行を停止し、その後、ほとぼりが冷めたころに死刑を執行する方法も行われている。

また、名誉殺人は罰せられないため、私刑による死刑が横行しているともいわれている。「神に対する冒涜を行った異教徒を殺すことは名誉殺人である」との判例が出ており、テロリスト輸出国になってしまった原因だと指摘する意見もある。

サウジアラビアでの死刑に対して、諸外国からは人権侵害であると非難されているが、運用を改める動きはない。現在の死刑執行のペースは年に100回以上が執行されているという。死刑執行の人口比では、世界3位(135人~)にはいる。

サウジアラビアの王族といえど、死刑の対象外ではなくファイサル・ビン・ムサーイド王子が叔父にあたるファイサル・ビン・アブドゥルアズィーズ・アール・サウード国王を射殺し、大逆罪で処刑された事例がある。

死刑が適用される犯罪[編集]

サウジアラビアでは、中国の死刑と同様、生命を奪わない犯罪に対しても死刑が適用されるのが多い。

  • 殺人
    • サウジアラビアにはディーヤと呼ばれる制度があり、被害者の法定相続人が加害者を免責した場合は減刑される。これは金銭によって示談が成立した場合にも適用される。
    • 名誉殺人の場合は罪に問われない。
  • 窃盗[要出典]
  • 麻薬の密売
  • 同性愛
    • 建前上では重罪としているが、実運用においては罰金刑や鞭打ち刑が科されるだけで処刑されることは稀である。
    • サウジにおける同性愛についてはen:LGBT rights in Saudi Arabiaを参照
  • 不倫と婚前性交渉(ジナの罪)
    • ただし、通常、男性は「女が誘惑した」などと言い逃れをし、司法部も多くの場合それを認めるので、実際には、男性は死刑にならず、女性のみが死刑になることも少なくない。
  • 強姦
    • ただし、相手の女性が異教徒であれば、刑罰は減免される。また、婚外セックス(ジナ)同様、『女が誘惑した』と言い逃れることで、死刑を逃れる事例が少なくない。また、女性が証人の用意ができず、逆に、偽証罪で罰せられることもある。また、夫婦の間でのレイプは合法とされている。
  • 売春
  • 国王に対する冒涜
  • イスラム教ワッハーブ派に対する冒涜
    • 神や預言者ムハンマドを冒涜するような言論、出版物の作成、所持
    • 他の宗教を信仰すること(1993年の基本統治法施行以降は緩和された)
    • ワッハーブ派の信者を他の宗派や宗教へ勧誘する行為
    • 魔術を使うこと
    • 偶像崇拝と見なされる収集物の購入

サウジアラビアでの判例[編集]

  • 1980年1月9日 - アル=ハラム・モスク占拠事件の首謀者であるジュハイマーン・アル=ウタイビー(en:Juhayman al-Otaibi)と67人の仲間が同日中に4ヶ所の処刑場で公開処刑された。
  • 1992年 - イスラム教シーア派の信者であったサディク・アブド・アルカリム・マル・アラーはシーア派の経典をサウジアラビアに密輸し、改宗を拒否したために死刑を宣告され、1992年9月3日にアルカティーフで公開処刑された。
  • 1997年5月 - 窃盗罪でフィリピン人のルエル・ジャンダが斬首刑になる。[要出典]
  • 1999年 - 妹を他の宗教に改宗させようとした外国人と妹を射殺した男性が名誉殺人として無罪となった。
  • 2002年 - 姦通罪で裁かれた外国人労働者は、強姦であったと訴えたが採用されず、死刑とされた。一方、相手方には鞭打ち刑の判決が出された。
  • 2005年5月 - 魔術を使用したとされる霊媒師の女性が死刑となった。
  • 2008年6月 - 2005年5月、スリランカ人のメイドリザナ・ナシカ(事件当時17歳。事件時は22歳と詐称[1])が赤ん坊にミルクを与えた際に気管に詰まらせ、死亡する事件が発生。ナシカは救命措置を取ったが死亡した。この事件は過失致死ではなく殺人とされたことや、ナシカの年齢が「22歳」であったとみなされ、死刑判決が下りることとなった。いったん死刑の執行は停止されたが、2013年1月9日に斬首刑が執行されたと発表した[2]

執行方法[編集]

リヤドにある公開処刑が行われる広場

公開処刑と非公開処刑が行われており、非公開の死刑数を知る手段がないため、統計に表れているのは公開処刑された人数のみといわれている。公開処刑されるのは主に「不道徳な行為を行った者」とされているが、その基準についてははっきりしていない。

死刑執行はモスクの近くにある首切り広場と呼ばれる白いタイルが敷き詰められた場所で金曜日の礼拝の後で執行される。殺人など被害者遺族がいる場合には遺族が処刑場へ呼ばれる。ディーヤと呼ばれるイスラーム法の制度に基づき、最後の最後まで死刑囚を許すかどうか死刑執行人が遺族に問い続ける、このときに遺族が許した場合は減刑され、死刑執行が中止される。 サウジアラビアにおいて死刑執行人が神聖な職業であると考えられる理由には最後の減刑特権を有する存在であることも大きく、実際に公開処刑が中止され、減刑された事例も多い。

インドネシア人家政婦死刑執行問題[編集]

前述のように、外国人労働者に対する死刑判決が多く出されている。そのうち、インドネシアは80万人を超すインドネシア人女性労働者がサウジアラビアで働いているが、彼女らに対する性的虐待や賃金不払いなどの問題も生じている。なおサウジアラビアと同様にイスラム教徒が多数を占めるうえに死刑存置国である。

2010年1月に、メッカで働いていた家政婦が雇用主の暴行に反撃し刺殺した事件では、5月にサウジアラビア当局が家政婦に対し死刑判決を言い渡し、6月18日に斬首刑が執行されたが、インドネシアの家族には執行後に通知したことから、インドネシア国内では反サウジアラビア感情が生じ抗議デモが発生した。

この死刑執行に対し、ユドヨノ大統領はサウジアラビア当局が事前通告なしに斬首刑が執行したことは「国際関係上の規範と礼儀を破った」とし「厳重に抗議する」と国民向けのテレビ演説で発言した。また同国内で死刑が確定している26人のインドネシア人労働者について、事件や裁判の経緯などを調べる「タスクフォース」を新設する方針を明らかにしているうえ、サウジアラビア政府がインドネシア人労働者の人権保護に関する覚書に署名するまで、労働者派遣を一時中止する措置を発表している。

なお、2007年に雇用主から性的暴行を受けそうになり殺害した別のインドネシア家政婦の死刑囚の場合、雇用主の遺族が賠償金(ディーヤ)で減刑に応じるとしていることから、インドネシア外務省が支払いに向けた手続きに入っているという。

死刑執行人[編集]

脚注[編集]

  1. ^ パスポートに「1983年生まれ」である旨が記載され、5歳多く詐称されていた。
  2. ^ Sri Lankan maid Rizana Nafeek beheaded in Saudi Arabia BBC News 2013年1月10日閲覧

関連項目[編集]