コンピュータグラフィックス

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コンピュータグラフィックスで描写された画像

コンピュータグラフィックス: computer graphics、略称: CG)は、コンピュータを用いて画像を生成する科学技術、及びその技術によって生成される画像のことである。

表現手段としてのCGは、鮮やかな色彩、編集の容易さ、非現実的な映像などを提供することができる。映画アニメテレビコマーシャルイラストレーション漫画などの画像・映像コンテンツ制作や、ゲームバーチャル・リアリティなどのインタラクティブコンテンツ制作に用いられる一般的な手段として定着している。実写による映像表現においても、CGを合成することによる効果(VFX)を加えることがある。

また医療、建築、プロダクトデザイン、可視化などの分野でもCGは要素技術として用いられている。

作成プロセスによる分類[編集]

CGの作成プロセスは、主に3D CG(3次元コンピュータグラフィックス2D CG(2次元コンピュータグラフィックスに大別される。

3Dにおいては、視点の変更の容易さ、滑らかなアニメーションなどを特徴とする。3DCGの制作プロセスは、形状データを定義・作成するモデリングと、形状データから最終的な画像を出力するレンダリングに大別され、レンダリング技術にはスキャンラインレイ・トレーシングラジオシティなどがある。

英語圏でCGと言えば、3DCGを指し、2Dのイラストはドローイングと呼ばれ区別されている[要出典]。一方、日本では2DCGも3DCGと同様にCGと呼ばれるため、区別するためにCGイラストなどといった用語が定着している。そのため英語圏において2DCGを指して「CG」「コンピュータグラフィックス」などと言うと訝しがられることもあり注意が必要である。

2D、3Dの区分は方法論としての区分(作成のプロセスによる区別)で、作品としてのCGは2D、3Dのどちらかで創られたと単純に大別はできず、3Dの手法で創られた画像を2Dの手法で加工したり、2Dで描いた絵の上に3Dで作った画像を合成するといったことは頻繁に行われている。

写実性による分類[編集]

またCGはフォトリアリスティックノンフォトリアリスティックに分かれる。前者は限りなく精密で写真と見紛うようなリアルなものを追求し、後者は逆に鉛筆や絵具で描いたような画像を作る。ノンフォトリアリスティックな画像生成は1998年頃からSIGGRAPH(シーグラフ)で流行りだした。一方、従来から研究されているフォトリアリスティックな画像生成では、近年は実写と上手に合成するイメージベースドレンダリング、レイ・トレーシング法を改良したフォトンマッピングなどがさらに研究が進められている。

立体的な表現であっても、ドローイングの編集ソフト(Corel PainterAdobe Photoshop等)で制作した画像はドローイングとされるが、3DCGとして制作し出力された画像を上記ソフトウェア等で編集することもよく行われる。

CGの種類[編集]

ドローイング[編集]

ドローイング(drawing)は「単純にコンピュータを使って描く絵」で、主に「ペイント系」、「ドロー系」の二つに分類される。ペイント系ソフトはフリーハンド描画や写真修整に適した画素ベースのラスタ形式とも呼ばれ、ドロー系ソフトはロゴデザインや設計・製図などに適したベクタ形式とも呼ばれる。

アプリケーションの中で二つの表現形式が混在しているケースもあり、さらにペイント系アプリケーションは、伝統的な筆や画材をコンピューター上で再現したように手で描くペイントグラフィックと、従来暗室などで行っていたような写真の修整や合成を主とするフォトレタッチの二つに大別される。ドローイングで扱われる技術は、イラストレータや漫画家の効率化と表現の拡大に貢献している。

詳細は2次元コンピュータグラフィックスの記事を参照。

3DCG[編集]

3DCGはコンピュータに物体の形状、カメラの向きと画角と位置、光源の強度と位置などの情報を入力して、コンピュータ自身にプログラムで画像を計算・生成させる手法を言う。人間が手で描く必要がなく、カメラの位置を少しずつ変えたり、物体の位置を変えたりするだけで、いったん作った情報から異なる画像を大量に作り出すことが出来るため動画制作に向いており、近年の映画のリアリティ向上に多大な貢献をしている。またゲームなどでは主人公に360度の視界を持たせることができるなど利点が多いため多用されている。3DCGの最終的な出力先であるディスプレイやスクリーンなどは二次元(2D)だが、3DCGは作成時に持っている情報が三次元(3D)である。

詳細は3次元コンピュータグラフィックスの記事を参照。

CAD[編集]

CAD(Computer-aided design)はコンピュータを用いて設計をすること。あるいはコンピュータによる設計支援ツールおよびそれらを統合したシステムのこと。建築物や工業デザインなどの分野でそれぞれに専門化したソフトウェアが使用される。二次元CADと三次元CADに大別されるが、設計図を作成する目的に特化しているので、設計の技術や知識を持っていることが使用の前提となる。レンダリング等のいわゆる3DCGとしての出力には別のソフトの支援を要する場合が多い。

ムービー[編集]

ムービー(movie)とは動画のことである。Adobe社のプレミア、Corel社のビデオスタジオなどの動画を扱う専用ソフトで編集する。特殊効果には同じAdobe社のアフターエフェクトなどがよく使用される。

映画とCG[編集]

本格的にCGが映画に採用されたのは、1982年の『トロン』からだと言われている[1]が、技術的・予算的な制約により、実際には大半のシーンではCGに似せた手描きのアニメーションや光学合成を使用していた。日本でも1980年代始めに大阪大学工学部大村皓一助教授(当時)の研究する並列処理コンピュータ「LINKS-1」を使ったメタボールによるモデリングを利用した『ゴルゴ13』などで比較的古くから活用されていた。『オレたちひょうきん族』のオープニングやアニメ・『タイムボカン』のタイムスリップのシーン[注釈 1]なども有名である。1985年に開催された科学万博では各パビリオンで多くのCGが使用され、世界初の全天周立体映画『ザ・ユニバース』が上映された。1990年に開催された花の万博では液晶シャッター式のカラーの全天周立体映画『ザ・ユニバース2』が上映され、幕張では2000年代初頭には『エンカウンター』が上映された。

初期には制作コストが高かったために、CG風の斬新なイメージを求めて実写合成などを行ったものも多く存在した。例として1981年の『ニューヨーク1997』では、グライダーが夜間飛行をするシーンのモニタ映像は3DCG風ではあるが、実はリスフィルムによる撮影と光学合成を駆使した実写合成である。この手法はテレビコマーシャルなどでも多用された。黎明期ならではのできごとである。

映画におけるCGは1990年代前半に飛躍的な進歩を遂げた。まず、1991年の『ターミネーター2』におけるVFXで注目を集める。続いて1993年の『ジュラシック・パーク』では、CGが従来のストップモーション・アニメーションに全面的に取って代わった。そして、1995年の『トイ・ストーリー』はフル3DCGで作成された初の劇場用長編と銘打って公開された。2000年代に入ると、多かれ少なかれほとんどの映画で使われるようになる。現在では、時間とお金さえかければ作れないシーンはないとまで言われている。

かつてはSGIなどの高性能ワークステーションや専用のレンダリングサーバ、時としてスーパーコンピュータなどを用いてレンダリング処理を行っており、大変コストがかかるものであった。その後パソコンの高性能化に伴い、安価で高性能なパソコンを使って分散レンダリングを行う方法が主流となってきている。安価なパソコンをレンダリング専用にクラスター化したものをレンダーファームと呼び、大手プロダクションでは数百台規模のパソコンをクラスター化する例が多くなっている。普段はレンダリング以外の業務用に使われるパソコンを就業時間後にレンダーファームに組み込んでレンダリングに転用することで効率化を図っている例も有る(例えば「タイタニック」や「ジュラシック・パーク」など)。

レンダリングによりあらかじめ一枚一枚の画像を作り、それらを繋げて映像化したものをプリレンダリング映像という。現在の映画はすべてこの方法によるものであるが、ゲーム機ではリアルタイムのレンダリングによる映像の提供も進んでいる。

一枚ずつセルに絵具(アニメカラー)で彩色する工程を踏んでいたアニメーション制作にもコンピュータ彩色(閉じたエリアに色を流し込む)を導入することで効率化が図られているが、日本では1983年のNHKアニメーション「子鹿物語」が最初とされる。

特殊効果(VFX)にCGを使用することは一般的に行われており、以前は専用の機材を用いて主にCGは特撮、SF映画で使用されていたが、汎用で安価なPCの発達により、現在では一般の映画(または、映画並みの特殊効果が要求される連続ドラマ)でも多用されており、街全体を仮想的なセットとして作るような目的では、一見しただけではCGであることを意識させない作品も多い。

デザインとCG[編集]

日本でパソコンCGが一般化する契機となったのは、1985年に発売されたNECのPC-9801VM(PC-9800シリーズ)あたりからで、640×400画素ながら4,096色中の16色をインデックスカラーで表示できるというスペックで、特にコンピュータゲームの表現力の向上に貢献した。

日本国内のパソコンはまだグラフィックデザインの分野で実用するには貧弱なものであったが、1987年に最初のカラー仕様のMacintosh II(640×480画素、ソフトウェアによるインデックスカラーでの256色同時表示)が登場してからは、次第にグラフィックデザインの分野でMacintoshが浸透していった。本格的な普及はその数年後、カラーイメージスキャナやカラープリンタなどの周辺機器が充実し始めた頃からである。Macintoshは早い時期からWYSIWYGの考え方を導入していた点も、グラフィックデザインにCGを導入するには重要な点であった。

1980年代は様々な企業がデザインへの応用を目的としたCGシステムを発表している。服飾メーカーのJUN4D-BOX(512×512画素、16,777,216色中256色同時表示)を開発、今ではパソコン周辺機器メーカーとして知られるアイ・オー・データ機器も、ほぼ同様なスペックの西陣織デザインシステムを開発した。また日本ビクターではCGアニメーション専用システムを発売、ヤマハYISシリーズがデザイナーから注目を浴びた。

アニメとCG[編集]

アニメにおいては、1983年公開の映画『ゴルゴ13[2]や、1983年NHK総合テレビ放送の『子鹿物語 THE YEARLING』、1984年公開の映画『ドラえもん のび太の魔界大冒険』以降にCGが使用された。その後、1993年からNHK教育テレビの『天才てれびくん』内で放送されたバーチャル3部作において、アニメや実写と共にCGが使われている。アルファブレンディングなどを使った光線や爆発の表現を得意とする一方、手を抜くと容易に質感や量感の乏しいまるでプラモが飛び回っているような絵になってしまう。重厚感を出す部分は、CGを下地にしていても、未だ手作業に頼る部分が多い。

その他、ゲームにおいて、OPやイベント等にCGアニメが使われている。

ゲームとCG[編集]

1973年にワイアーフレーム表示の3D迷路を使ったMaze Warが、その翌年には宇宙を舞台にしたSpasimが登場している。アーケードにおいてExidyが1978年にSTAR FIREを、アタリが1980年にワイアーフレーム表示のバトルゾーン、1983年にI, RobotやSTAR WARS、セガが1982年に擬似3Dシューティングのズーム909や潜水艦ゲームのサブロック3Dを出している。Apple IIにおいて、Sirius Softwareが1981年に擬似3DシューティングのEPOCHやHADRONを出している。PC-6001において、アスキー出版が1982年にOLIONを出している。Atari 8ビット・コンピュータにおいて、1984年にBallblazer、1985年にRescue on Fractalus等の擬似3D処理を使ったソフトが登場している。ファミリーコンピュータにおいて、1987年に3D迷路を使ったデジタル・デビル物語 女神転生が出ている。1988年にはAtari 7800においてF-18 Hornet等のソフトが出ている。スーパーファミコンにおいては、1991年のパイロットウイングス等に使われたDSP-1による擬似3D処理や、1993年のスターフォックス等に使われた3DアクセラレータのスーパーFXチップが存在した。1992年アーケードゲームの基板においてセガが3D描画機能のあるMODEL1を開発、翌1993年に初の3D格闘ゲームバーチャファイターが登場する。その後、1994年にスーパー32Xセガサターン、プレイステーションが出て以降、3Dのゲームが増えることとなった。ファイナルファンタジーにおいては、1997年のFF7以降3Dに、ドラゴンクエストにおいてはDQ7以降3Dになっている。

CGを主軸に置いたゲームとしてはせがれいじり(1999年)や半熟英雄 対 3D(2003年)等が存在する。

水口哲也はクリエイターとしてのキャリア初期である1989年の段階からバーチャルリアリティ推しであったと伝わり、セガの採用面接でも「ゲームではなく未来のエンターテインメントというか、もっとすごいものを作りたい」とこれについて表現したという[3]

国内CGプロダクション[編集]

黎明期(1980年代)において、CGは主にアニメの一部やCM、ニュースのOP等に使われた。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 『タイムボカン』では「スキャニメイト」という技術で作られたアナログCGが用いられた。

出典[編集]

参考資料[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]