コンニャク版

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
19世紀のヘクトグラフの広告

コンニャク版(こんにゃくばん)は、平版印刷の一種である。少数(数十枚)の印刷や陶器、焼き物の絵付けに使用された。西欧ではヘクトグラフHektograph)と呼ばれる。

概要[編集]

1870年代に西欧のヘクトグラフが日本に導入された際、版にコンニャクのようなもの(実際はゼラチンや寒天など)が利用されたのでその名がある。濃いインクで書かれた紙をコンニャクの上に被せると、紙のインクがコンニャクの上に転写される。そのコンニャクの上に別の紙を被せると、今度はコンニャクから紙に再度インクが転写されるという原理である。

実際にコンニャクを利用した場合は数枚から20枚程度が限界だが、下記のように専用の版とインクを利用した場合は20枚から80枚程度の複写が可能である。ヘクトグラフの原版を描く際に利用されるヘクトグラフペーパーやヘクトグラフペンシルも開発された。技法的には単純、能率的であったがガリ版の発明とともに姿を消した。

コンニャク版は版が柔らかいため、立体物への印刷にも使えるという利点がある。これを利用し、現在では刺青(タトゥー)の下書きを人体に転写する際に使われているのが主な用途である。

後に発明されたパット印刷(タンポ印刷)もコンニャク版と同様の原理であり、ゼラチンの版を立体物への印刷に用いていた。こちらは1970年代になってゼラチンの代わりにシリコンを使用する技術が開発され、耐久性や印刷性が大きく向上し、現在も工業用途で使われている。

骨董の分野では、コンニャクで判子を押したように滲んだ低質な図柄のことを「コンニャク判」と言う。江戸時代後半に実際にコンニャクで作ったコンニャク版が陶器の絵付けに使われていたという説があるが、疑問説もあり、単なる柔らかい判子だったという説もある。

製法 [編集]

ゼラチンまたは寒天を水でやわらかくしてあたためて溶解したものにグリセリンを加えてかき混ぜる。これをに通して浅いバットに流し込み、静置し凝固させ、版とする。

調合の例をいくつか挙げると、

  1. ゼラチン100、グリセリン(ボーメ比重で28)500
  2. ゼラチン100、グリセリン500、硫酸バリウム25、水375

上記いずれの場合であれ、グリセリンは季節、気温などで適宜増減調節する。

印刷は緻密な西洋紙に間接複写版インキ(メタルバイオレット、マゼンタなどの水溶液にグリセリンを加える)で原稿を書き、乾燥したのち、筆記面を下にして版面に載せ、圧し擦り、ひきはがすと書画は版に移る。 この原版に紙を載せ、裏面から圧し擦り複写する。

印刷使用後は、水中で版面のインキをスポンジでぬぐえば、繰り返し使うことができる。

夏目漱石の『坊つちやん』では、中学校の職員会議で「蒟蒻版」が配布されている。