コロンビア号空中分解事故

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

コロンビア号空中分解事故( - くうちゅうぶんかいじこ)は、スペースシャトルコロンビア号が2003年2月1日の帰還飛行中にテキサス州上空で空中分解し、搭乗員7名全員が死亡した事故である。

目次

[編集] パイロット

STS-107の宇宙飛行士
前列左から
リック・ハズバンド(船長
1957年7月12日生まれ。テキサス州出身。1994年12月に、宇宙飛行士として選抜される。1999年にSTS-96で初飛行。アメリカ空軍大佐、機械工学修士。
カルパナ・チャウラミッション・スペシャリスト
1961年7月1日生まれ。インドカナール出身。1994年12月に、宇宙飛行士候補生として選ばれる。1995年3月、ジョンソン宇宙センターで訓練を開始し、1年後にミッション・スペシャリストに認定される。STS-87で、プライム・ロボットアーム・オペレーターとして初飛行。
ウィリアム・マッコール(パイロット
1961年9月23日生まれ。カリフォルニア州出身。1996年、宇宙飛行士候補生として選ばれる。スペースシャトル搭乗員の資格を2年後に得た。アメリカ海軍中佐、コンピュータサイエンス修士。
後列左から
デイビッド・ブラウン(ミッション・スペシャリスト)
1956年4月16日生まれ。バージニア州出身。1996年4月に、宇宙飛行士候補生として選ばれ、8月にジョンソン宇宙センター訓練を開始。2年間の訓練を修了し、ミッション・スペシャリストに認定される。アメリカ空軍大佐。
ローレル・クラーク(ミッション・スペシャリスト)
1961年3月10日生まれ。アイオワ州出身。1996年4月に、宇宙飛行士候補生として選ばれる。2年後、ジョンソン宇宙センターの訓練を修了し、ミッション・スペシャリストに認定される。アメリカ空軍中佐。
マイケル・アンダーソン(ペイロード・コマンダー
1959年12月25日生まれ。ニューヨーク州出身。1994年12月に宇宙飛行士候補生として選ばれる。ジョンソン宇宙センターでの訓練を開始して1年後、ミッション・スペシャリストに認定される。アメリカ空軍中佐。
イラン・ラモーン(ペイロード・スペシャリスト
1954年6月20日生まれ。イスラエルテルアビブ出身。1981年にF-16のパイロットとしてイラク原子炉を爆撃するバビロン作戦に参加。1997年、ペイロード・スペシャリストに選定され、イスラエル人初の宇宙飛行士となる。イスラエル空軍大佐。

[編集] 空中分解までの経緯

  • 8時44分09秒 - 大気圏へ突入を開始[1]
  • 8時49分00秒 - 左翼RCCパネル裏側及び前縁部桁後ろの温度上昇が開始した。これは8時44分09秒~8時49分00秒に高温ガスが、左翼のRCCパネルに進入したことを示している[1]
  • 8時52分00秒 - 温度及び歪みデータから、高温ガスが前縁部桁隙間から翼内部に進入。その直後、高温ガスにより、リアルタイムテレメトリ及びデータレコーダデータの配線の加熱が始まった[1]
  • 8時52分16秒 - 1番目のセンサー故障が発生。(データレコーダ左翼上部圧力センサ)次の4分間で、164個のセンサが故障(大部分は最初の2分で故障)。最後に確認されたセンサ故障は8時56分24秒[1]
  • 8時52分05秒 - フライトコントロールシステムが左翼抵抗増加を検知し対応[1]
  • 8時53分46秒 - カルフォルニア海岸横断20秒後、地上から目撃された1番目の破片が脱落。破片は翼上面または熱防護システムの一部と思われる、厳密には判明しない可能性もある。- この時間帯に、(1)内部アルミ構造体損傷の可能性、(2)アルミのデブリの影響と思われる通信途絶が13回あった[1]
  • 8時54分20秒 - 機体空力の大きな変化を観測。これは左翼が損傷したことを示し、地上からも複数の破片脱落を観測[1]
  • 8時56分16秒 - 油圧ライン温度が異常上昇、この時点までに高温ガスが左主脚格納庫に侵入したことが判明[1]
  • 8時58分09秒 - 破片脱落を伴う機体空力の大きな変化を観測。これに対応して、補助翼の角度の急激な変化が起こっている[1]
  • 8時58分56秒 - この時点で、全ての左主脚タイヤ圧力及び温度データが喪失。格納庫内の損傷の急激な進行を示す[1]
  • 8時59分29秒 - 引き続き、進行した左翼損傷により、機体空力の大きな変化があった。これに対応し、コロンビア号は、右ヨージェットを4基全て噴射[1]
  • 8時59分32秒 - ミッションコントロールセンター(MCC)において、全てのテレメトリデータの受信が不能となる[1]
  • 9時00分14秒 - データレコーダのデータ喪失[1]
  • 9時00分23秒 - ビデオ画像により確認された機体の破壊[1]

[編集] 事故原因

打ち上げ時に、外部燃料タンクから剥がれ落ちた断熱材の破片が衝突したことで開いたと推定される左翼前縁の穴に大気圏再突入時、高温の空気が流れ込み、左翼から破壊が始まり空中分解したと考えられている。

この外部燃料タンクの断熱材の破片が左翼に衝突したことは、打ち上げ翌日に映像をチェックした際に確認されていた。しかし、NASAは断熱材のような比重の軽い物体が大きな損傷を与えると判断していなかった[2]

破損は、外部燃料タンクのバイポッド・ランプ部(2脚で構成されるオービタ機首部と外部燃料タンクの接続部)から剥がれ落ちた断熱材の破片が、打ち上げの81.9秒後に左翼前縁部の強化炭素複合材(RCC)パネル6~8番付近に衝突することによって始まった。

大気圏再突入時、この熱防護システムの亀裂を通って超高熱の大気が徐々に左翼の構造材を溶かした。その結果、構造が脆弱になり、最終的に増大した空力に耐えきれなくなった翼が脱落したことで機体はコントロールを失い、オービタの崩壊を引き起こしたとされる[3]

また、コロンビア号はスペースシャトルの機体の中で最も古い機体であり、間接的な事故原因として老朽化の可能性も指摘された[4]

[編集] 破片の回収

2月1日午前8時過ぎ、破片の回収が始まった。事故発生の数時間後、ブッシュ大統領は、テキサス州東部を「連邦災害地域」として、アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)と環境保護局(EPA)のチームを派遣、更に地元の警察官、ボランティア、地元の住民なども捜索に参加した。

テレメトリ、レーダ、写真、ビデオ、気象データだけでなく、一般から寄せられた報告などをもとに、テキサス州東部の山林を探索した。

航空捜索チームは、ヘリコプターや航空機で地上での探索チームの支援を行った。また、破片が多く散乱している地域にあるナコドチェス湖とトレド・ベンド貯水池の調査を行うため潜水チームが編成された。

5月6日、回収作業による最後の破片がケネディ宇宙センターに運ばれた。合計で83,743個、重量は38,460kgとなり、帰還時のコロンビア号の乾燥重量101,010kgの約38%に達した[5]

また、事故の数日後、コロンビア号のビデオカメラから宇宙飛行士らが空中分解の直前に機内で撮影したと思われる録画テープが発見された。

2008年には、データ復旧会社が回収されたハードディスク内の実験データを取り出すことに成功、記録されていた無重量状態におけるキセノン粘性に関する研究論文が出版された [6]

[編集] 各国の反応

アメリカ合衆国
コロンビア号の事故はアメリカ国民に強いショックを与えた[7][8][9]ブッシュ大統領は、事故直後の緊急テレビの演説で、悲劇の日だが、これからも宇宙開発は続けていくと語った[10]
イスラエル
イラン・ラモーンの死はイスラエル国内に大きなショックを与えた[11]
インド
インド出身の宇宙飛行士、カルパナ・チャウラの死もインド国内に大きなショックを与えた。
イラク
イラク国内では「天罰だ」などの声も上がった。死亡したイラン・ラモーンがイラクの原子力発電所を空爆したためである。この事故によってイラクへの攻撃が遅れる、もしくは逆に早まるなどといった憶測が広がった。
日本
日本人宇宙飛行士を扱った朝のNHK連続テレビ小説まんてん』で「ご冥福をお祈りします」のテロップを挿入した。

[編集] メディアの対応

CNNは、事故発生後すぐに特別番組でコロンビア号が空中分解する映像を繰り返し放映した。他の各メディアも特別番組で事故を報道している[12][13]

日本や海外のニュースでも事故について連日大きく報道された。

[編集] 事故の影響

STS-114による打ち上げ再開まで2年半近くかかり、以後のミッションではランデブー・ピッチ・マニューバセンサ付き検査用延長ブームによる軌道上でのタイル損傷検査が行われるようになった。

スペースシャトルの老朽化、高コスト、信頼性の低さを問う意見は事故以前から存在したが、この事故によりシャトルの引退、後継機に従来のカプセル型宇宙船オリオンが開発される流れが決定付けられた。

[編集] 脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n スペースシャトル「コロンビア号」の事故調査状況について
  2. ^ このために衛星を使った損傷調査は見送られたが、仮に損傷が見つかっても宇宙で修理することは不可能だったので機体は放棄するしかなかった。また、STS-107ミッションにおいては高度が違うために国際宇宙ステーションへの避難も不可能であり、新たにシャトルを打ち上げるしかなく、乗組員の救助も当時の体制では間に合ったかどうかは不明である
  3. ^ 事故調査と原因究明
  4. ^ シャトル、2度目の事故 老朽化に問題も
  5. ^ コロンビア号事故の状況
  6. ^ R. F. Berg et al., Phys. Rev. E 77, 041116 (2008)
  7. ^ テロ並み衝撃、国民を襲う 米シャトル空中分解
  8. ^ 全米、同時テロ以来の衝撃 シャトル空中分解
  9. ^ 「力」の象徴墜落、米国に衝撃 威信傷つく
  10. ^ 米大統領「悲劇の日だ。だが、宇宙への旅は続くだろう」
  11. ^ イスラエル人初の宇宙飛行士も搭乗 国民に衝撃
  12. ^ 白い塊が数個に分裂、轟音も 米テレビが特番
  13. ^ 米テレビ、緊急ニュース放映 シャトル事故

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク