コハク酸デヒドロゲナーゼ (ユビキノン)

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コハク酸デヒドロゲナーゼ
Succinate Dehydrogenase.jpg
サブユニット: SdhA, SdhB, SdhC, SdhD
識別子
EC番号 1.3.5.1
CAS登録番号 9028-11-9
データベース
IntEnz IntEnz view
BRENDA BRENDA entry
ExPASy NiceZyme view
KEGG KEGG entry
MetaCyc metabolic pathway
PRIAM profile
PDB構造 RCSB PDB PDBe PDBsum
遺伝子オントロジー AmiGO / EGO

コハク酸デヒドロゲナーゼ (succinate dehydrogenase)は、哺乳類ミトコンドリア膜内部に固定されている酵素複合体である。細菌細胞にも存在する。コハク酸CoQレダクターゼ(succinate-coenzyme Q reductase, SQR)、複合体II(Complex II)とも呼ばれ、クエン酸回路電子伝達系の両方を構成する唯一の酵素である[1]

クエン酸回路の8段階目の反応では、SQRはコハク酸フマル酸へ酸化させ、ユビキノンユビキノールへ還元させる。この反応は膜において同時に起こる。

構造[編集]

Image 3: リン脂質膜でのSQRの構造SdhA, SdhB, SdhC and SdhD
Image 4: ユビキノンの結合部位[2]
Image 5: コハク酸の酸化

サブユニット:哺乳類のミトコンドリアおよび、多くの菌類のSQRは2個の親水性の部分と2個の疎水性の部分の合計4個のサブユニットから構成される。2個の親水性サブユニットはフラボタンパク質(SdhA)と鉄硫黄タンパク質(SdhB)である。SdhAにはフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)補因子とコハク酸結合部位共有結合しており、SdhBには[2Fe-2S], [4Fe-4S], および[3Fe-4S]の3種の鉄硫黄クラスターが含まれている。残りの2個のサブユニットは疎水性膜アンカーサブユニットで、それぞれSdhCとSdhDである。ヒトのミトコンドリアは2種の異なるイソ型Fpサブユニット(FpI, FpII)から構成され、複合体IIのFpのイソ型は豚回虫およびシノラブディス・エレガンス(線虫の一種)でも見られる[3]。サブニットはヘムbとユビキノン結合部位を含む6個の膜貫通ヘリックスと膜結合性シトクロムbで構成されている(Image 4)。2個のリン脂質分子はカルジオリピンホスファチジルエタノールアミンで、SdhCおよびSdhDで見られる。これらはヘムbのもとで疎水性領域を占有するのに役立っている。これらのサブユニットをimage 3で表す。SdhAは緑、SdhBは水色、SdhCは紫、SdhDは黄色である。SdhCとSdhDの周りはリン脂質膜で、図の上部の膜間部分である[4]

ユビキノン結合部位:ユビキノンの結合部位はimage 4の通りで、SdhB, SdhC, およびSdhDで構成される間隙に位置している。ユビキノンはサブユニットBのHis207、サブユニットCのSer27とArg31、そしてサブユニットDのTyr83のそれぞれの側鎖で安定化されている。キノン環はサブユニットCのIle28とサブユニットBのPro160に取り囲まれている。これらの残基はサブユニットBのIle209, Trp163およびTrp164と、サブユニットCのSer27(炭素原子)と共にキノン結合ポケットの疎水性環境を形成している[5]

コハク酸結合部位:SdhAはコハク酸の酸化のための結合部位を与えている。サブユニットAの側鎖Thr254, His354, およびArg399は、FADの酸化および鉄硫黄クラスター[2Fe-2S]の最初の電子伝達の間、分子を安定化する[6]。これらをimage 5に表す。

酸化還元中心コハク酸結合部位とユビキノン結合部位は、FADと鉄硫黄クラスターを含む酸化還元中心の鎖によって繋がれている。この鎖は酵素モノマーを通して40 Åまで伸長する。すべての中心間の距離は生理的電子移動の限界として提案されている14 Åよりも短い[4]。この電子移動はimage 8に表す。

反応機構[編集]

コハク酸酸化:正確なコハク酸の酸化機構はほとんど分かっていない。しかし、結晶構造からサブユニットAのFAD, Glu255, Arg286, およびHis242が最初の脱プロトン過程の候補として挙がっている。したがって、E2もしくはE1cbの2種の可能な脱離機構が考えられる。E2脱離では、塩基性残基または補因子によるα炭素からの脱プロトンが起こり、FADがβ炭素からのヒドリドの受容体として作用することによりコハク酸がフマル酸に酸化される(image 6)。E1cbではFADがヒドリドを受ける前にエノラート中間体が形成する(image 7)。

Image 6: E2コハク酸酸化機構
Image 7: E1cbコハク酸酸化機構

電子トンネル効果:電子はFADを経由してコハク酸から派生したのち、トンネル効果によって[Fe-S]から[3Fe-4S]クラスターに中継される。この電子はその後、活性部位のユビキノン分子まで移動する。鉄硫黄電子トンネル系はimage 9の通り。

ユビキノンの還元:ユビキノンのO1カルボニル酸素は、サブユニットDのTyr83との水素結合相互作用によって活性部位において正しい位置に置かれる。さらに[3Fe-4S]鉄硫黄クラスター中の電子の存在により、ユビキノンは2番目の位置に動く。これはユビキノンのO4カルボニル酸素とサブユニットCのSer27との間の2番目の水素結合相互作用により容易となる。まず、一個の電子を受けセミキノンラジカルが形成され、二個目の電子を[3Fe-4S]クラスターから受けることによりユビキノールに完全に還元される(image 8)。

Image 8: ユビキノン還元機構
Image 9: SQR複合体の電子伝達. FADH2, 鉄硫黄クラスター, ヘムb, ユビキノン

ヘムの機能:コハク酸デヒドロゲナーゼにおけるヘムの機能はまだ研究段階である。いくつかの研究では、最初に[3Fe-4S]を用いて電子をユビキノンへ伝える逆のトンネル効果が主張されている。この経路ではヘムは電子を受容する補因子として作用する。これは反応中間体として酸素分子からできる活性酸素(ROS)との相互作用を防ぐ効果がある。ヘムはimage 4のようにユビキノンと関連している。

また、電子が[3Fe-4S]クラスターからヘムへ直接トンネリングするのを防ぐ開閉機構も提唱されている。電位の候補はHis207残基で、ヘムとクラスターの間に位置している。サブユニットBのHis207は[3Fe-4S]クラスターに近く、ユビキノンおよびヘムに結合しており、酸化還元中心として電子の流れを調節することが可能である[7]

プロトン移動:SQRでキノンを完全に還元するには2個の電子と2個のプロトンが必要である。水分子(HOH39)が活性部位に付き、それがサブユニットBのHis207、サブユニットCのArg31、そしてサブユニットDのAsp82に配位されると主張されている。セミキノンはHOH39から誘導されたプロトンによりプロトン化され、ユビキノールへの還元が完了する。おそらく、His207とAsp82がこの機構を容易にしていると考えられる。他の研究では、サブユニットDのTyr83が隣のヒスチジンとユビキノンのO1カルボニル酸素に配位していると提唱されている。これは、ヒスチジン残基はチロシンのpKaを減少させ、そのプロトンをユビキノン中間体に提供するというものである。


クエン酸回路反応図。コハク酸デヒドロゲナーゼ (ユビキノン)は図中の反応を触媒する。


脚注[編集]

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  1. ^ Oyedotun KS, Lemire BD (March 2004). “The quaternary structure of the Saccharomyces cerevisiae succinate dehydrogenase. Homology modeling, cofactor docking, and molecular dynamics simulation studies”. J. Biol. Chem. 279 (10): 9424–31. doi:10.1074/jbc.M311876200. PMID 14672929. http://www.jbc.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=14672929. 
  2. ^ Pettersen EF, Goddard TD, Huang CC, et al. (October 2004). “UCSF Chimera--a visualization system for exploratory research and analysis”. J Comput Chem 25 (13): 1605–12. doi:10.1002/jcc.2008410.1002/jcc.20084. PMID 15264254. 
  3. ^ Tomitsuka E, Hirawake H, Goto Y, Taiwaki M, Harada S, Kita K (2003). “Direct evidence for two distinct forms of the flavoprotein subunit of human mitochondrial complex II (succinate-ubiquinone reductase)”. J. Biochem 134 (2): 191–5. doi:10.1093/jb/mvg144. 
  4. ^ a b Yankovskaya V, Horsefield R, Törnroth S, et al. (January 2003). “Architecture of succinate dehydrogenase and reactive oxygen species generation”. Science 299 (5607): 700–4. doi:10.1126/science.1079605. PMID 12560550. http://www.sciencemag.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=12560550. 
  5. ^ Horsefield R, Yankovskaya V, Sexton G, et al. (March 2006). “Structural and computational analysis of the quinone-binding site of complex II (succinate-ubiquinone oxidoreductase): a mechanism of electron transfer and proton conduction during ubiquinone reduction”. J. Biol. Chem. 281 (11): 7309–16. doi:10.1074/jbc.M508173200. PMID 16407191. http://www.jbc.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=16407191. 
  6. ^ Kenney WC (April 1975). “The reaction of N-ethylmaleimide at the active site of succinate dehydrogenase”. J. Biol. Chem. 250 (8): 3089–94. PMID 235539. http://www.jbc.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=235539. 
  7. ^ Tran QM, Rothery RA, Maklashina E, Cecchini G, Weiner JH (October 2006). “The quinone binding site in Escherichia coli succinate dehydrogenase is required for electron transfer to the heme b”. J. Biol. Chem. 281 (43): 32310–7. doi:10.1074/jbc.M607476200. PMID 16950775. http://www.jbc.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=16950775. 

参考文献[編集]

  • Molecular graphics images were produced using the UCSF Chimera package from the Resource for Biocomputing, Visualization, and Informatics at the University of California, San Francisco (supported by NIH P41 RR-01081).