ケン・トンプソン

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ケネス・レイン・トンプソン
トンプソン(左)とデニス・リッチー
人物情報
生誕 1943年2月4日(71歳)
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 ルイジアナ州ニューオーリンズ
国籍 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
出身校 カリフォルニア大学バークレー校
学問
研究分野 計算機科学
研究機関 ベル研究所
Entrisphere, Inc
Google Inc.
主な業績 UNIX
B言語
Belle
UTF-8
終盤テーブルベース英語版
主な受賞歴 チューリング賞
アメリカ国家技術賞
IEEE Tsutomu Kanai Award
プロジェクト:人物伝
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ケネス・レイン・トンプソン(Kenneth Lane Thompson、1943年2月4日 - )は、アメリカの計算機科学者。ハッカー仲間からはケン・トンプソン (Ken Thompson) と呼ばれている[1]。長くベル研究所に勤め、B言語Multicsプロジェクトに関わっていたころ、UNIX開発に使ったBCPLをベースとしている)とC言語の開発で知られ、UNIXのオリジナル開発者の一人である。

他にも、正規表現、初期のテキストエディタQEDedの開発、コンピュータチェスGoといった業績がある

来歴[編集]

アメリカ合衆国ルイジアナ州ニューオーリンズで生まれる。15人の有名プログラマのインタビューをまとめた Coders at Work で、インタビュアーの Peter Seibel の「どうやってプログラムを学んだのですか?」という質問に対し、「私はいつも論理に魅了されていて、小学生のころ既に二進法などの算数問題を解いていた。それは単に私が魅了されていたからだ」と答えている[2]

カリフォルニア大学バークレー校電子工学および計算機科学の学士号 (1965) と修士号 (1966) を取得する。修士課程の指導教官はエルウィン・バールカンプ英語版[3]

1960年代、デニス・リッチーと共にMultics開発に参加。そのころ Bon というプログラミング言語を開発した。ベル研究所がMultcisプロジェクトから離脱したため、2人はプロジェクトから離れたが、貴重な経験となった。1969年にはベル研究所にて、デニス・リッチーとともに、UNIXオペレーティングシステムを作成。このときトンプソンがシステム言語として開発したのがB言語であり、それを元にしてリッチーがC言語を開発することになった[4]

CTSS上でテキストエディタQEDを開発している。これは文字列検索に正規表現を使える機能を備えていた。このQEDと後にトンプソンが開発した初期のUNIXの標準エディタ ed が、それまで単なる形式言語の記法に過ぎなかった正規表現を広めることに大いに貢献した。UNIXのテキスト処理関係のプログラム(例えばgrep)で正規表現がよく使われるようになり、最近の言語ではPerlも使っている。ロブ・パイクのテキストエディタ sam英語版 でも正規表現が中心的概念となっている。正規表現の記法には厳密なきまりはないが、現代の正規表現を採用したプログラムの多くがトンプソンの記法に影響を受けている。

1995年に発表されたオープンソース版の分散システム用オペレーティングシステムであるPlan 9に携わっており、この開発においてはロブ・パイクと共に UTF-8 文字コードの開発を行った[5]

J・H・コンドンと共に、Belleというチェス・コンピュータの開発に携わり、コンピュータチェスの世界チャンピオンとなった。また 4 - 5(現在6)駒のエンドゲーム(終盤)の終盤テーブルベース英語版を開発。このテーブルベースを使うことで、チェスのプログラムは、一度テーブルベースに保存された局面に到達すれば、完璧にゲームを進めることができた。後に終盤に強いチェスプレーヤーの John Roycroft の助力を得て、終盤テーブルベースをCD-ROM化して配布したことがある。

2000年12月1日にベル研究所を去り、2006年までは Entrisphere, Inc でフェローを務め、現在はGoogleに Distinguished Engineer として所属。Goなどの開発に携わっている。

受賞歴[編集]

ビル・クリントン大統領からアメリカ国家技術賞を授与されるトンプソン(左)とリッチー(右)
  • 1980年 - 全米技術アカデミーフェロー[6]
  • 1983年 - チューリング賞。リッチーと共同受賞。「汎用オペレーティングシステム理論の発展への貢献と、特にUNIXオペレーティングシステムの実装に対して」。この時の受賞記念講演で述べたのが "Reflections on Trusting Trust"[7]、後に Thompson hack と呼ばれるようになる、loginプログラムにバックドアを仕組むようなコンパイラを作るようコンパイラのバイナリを仕組み、その痕跡をコンパイラのソースからは消す、という驚異的な技巧の解説で、しかも実際にいくつかのシステムに仕込まれていたとする衝撃的なものであった。この講演だけで独立したコンピュータセキュリティに対する重要な指摘(仮にコンパイラの全ソースをチェックしても、それだけでは安全ではないかもしれない)とされている[8]。また、講演の本題に入る前に、自分が書いたプログラムの話をする枕として「私はプログラマです。フォーム1040(米国の税金の書類、en:IRS tax forms#1040)に私の職業としてそう書いています。」(I am a programmer. On my 1040 form, that is what I put down as my occupation.)と話している。
  • 1990年 - IEEEハミングメダル。リッチーと共同受賞。「UNIXオペレーティングシステムとCプログラミング言語の開発に対して」[9]
  • 1997年 - コンピュータ歴史博物館フェロー
  • 1999年 - 98年度のアメリカ国家技術賞をリッチーと共同受賞。「情報技術の発展に多大な影響を与えたUNIXオペレーティングシステムとC言語の発明に対して。また、情報化時代におけるアメリカのリーダーシップを強固なものにした産業全体の成長をもたらした」[10][11]
  • 1999年 - IEEE Tsutomu Kanai Award。「過去数十年に渡って分散システムの重要な基盤となったUNIXオペレーティングの開発に果たした役割に対して」[12]
  • 2011年 - 日本国際賞。リッチーと共同受賞。「UNIXオペレーティングシステム開発における貢献に対して」[13][14]

出典・脚注[編集]

  1. ^ ken”. The Jargon File (version 4.4.7). 2012年8月19日閲覧。
  2. ^ Peter Seibel, 2009, Coders at Work, ISBN 978-1-4302-1948-4
  3. ^ Thesis Students”. Elwyn Berlekamp's Home Page. University of California, Berkeley Department of Mathematics. 2012年8月19日閲覧。
  4. ^ Dennis M. Ritchie. “The Development of the C Language”. Bell Labs/Lucent Technologies. 2012年8月19日閲覧。
  5. ^ Pike, Rob (2003年4月30日). “UTF-8 history”. 2012年8月19日閲覧。
  6. ^ Dr. Ken Thompson”. National Academy of Engineering. 2012年8月19日閲覧。
  7. ^ Thompson, Ken. “Reflections on Trusting Trust”. 2012年8月19日閲覧。
  8. ^ 直接の主題ではないが、最後に警鐘として、講演した内容が示すように、原理的に、コンピュータのセキュリティには根源的な所に「信用を信用する」しかないという危うさがあるのだから、(こんにちで言うスクリプトキディに相当するような)セキュリティを脅かしている子供たちを、「天才ハッカー少年」などとマスコミがそやすことは、将来の禍いの元である、といったことも述べている。これは技術的な本筋とはあまり関係ないのだが、映画『ウォー・ゲーム』の公開などでコンピュータの一般への爆発的普及とセキュリティについて関心が高まっていた時期であったため、学会誌上でリチャード・ストールマンらと議論になった。
  9. ^ IEEE Richard W. Hamming Medal Recipients”. IEEE. 2011年5月29日閲覧。
  10. ^ Ritchie and Thompson Get National Medal of Technology”. Bell Labs (1998年12月8日). 2012年8月19日閲覧。
  11. ^ Ritchie and Thompson Receive National Medal of Technology from President Clinton”. Bell Labs (1999年4月27日). 2012年8月19日閲覧。
  12. ^ Ken Thompson Receives Kanai Award for Impact of UNIX System”. Bell Labs (1999年3月25日). 2012年8月19日閲覧。
  13. ^ 2011年(第27回)日本国際賞受賞者決まる”. 国際科学技術財団. 2011年1月25日閲覧。
  14. ^ Evangelista, Benny (2011年1月25日). “Ken Thompson, Dennis Ritchie win Japan Prize”. The San Francisco Chronicle. http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/c/a/2011/01/24/BUTI1HDJSA.DTL#ixzz1C5LtXdf3 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]