ケントゥム語派
*青: ケントゥム語派の諸語(ケルト語派、ギリシャ語派、イタリック語派、および東方のトカラ語派、など)
*赤: サテム語派の諸語(バルト語派、スラヴ語派、イラン語派、アルメニア語派、インド語派、など)
*オレンジ: 接頭母音字を用いる諸語(ギリシャ語派、イラン語派、アルメニア語派、インド語派、など)
*緑: インド・ヨーロッパ語族のうち*-tt- > -ss-の転訛をした諸語(ケルト語派、イタリック語派、ゲルマン語派)
*黄褐色: インド・ヨーロッパ語族のうち*-tt- > -st-の転訛をした諸語(ギリシャ語派、イラン語派、スラヴ語派、バルト語派、アルメニア語派)
*ピンク: 助格、与格および奪格の複数形、さらに単数形と双数形のいくつかにおいて、*-bh-でなく-m-で始まる語尾を用いる諸語(ゲルマン語派、スラヴ語派、バルト語派)
ケントゥム語派(ケントゥムごは)はインド・ヨーロッパ語族に属する言語の、音声学上の分類のひとつ。印欧祖語における *kʲ (硬口蓋化した軟口蓋破裂音)が硬口蓋破裂音 k と合流したものをケントゥム語派と呼び、一方、*kʲ の部分が口蓋化によって、早い段階で、ʧ -> s などに変化したものがサテム語派である。
これは、インド・ヨーロッパ語族が、「百」を表す語彙がどのような語であるかによって大きく二つに分かれることに由来している。「百」は祖語の段階では *kʲmtom であったと考えられているが、ケントゥム語派に属するラテン語ではこれが centum /kentum/ となっている(これがケントゥム語派の名前の由来である)。それに対して、サテム語派に属するイランのアヴェスタ語では、satem という形を取る。
ケントゥム語派は印欧祖語に見られた *kʷ と *k の区別を保っていることが多い。例えば、ラテン語ではそれぞれ qu /kw/, c /k/ としてそのまま保存されており、ギリシャ語では /p/ /k/、ゴート語では /hʷ/ /h/ として区別されている。
ケントゥム語派に属するのはイタリック語派、ケルト語派、ゲルマン語派、ギリシャ語、アルバニア語のみで、インド・ヨーロッパ語族の分布の中で西側に位置しているとされ、ケントゥム語派とサテム語派の間には断絶があるとされてきた。ところが20世紀に入って新たに発見された死語であるアナトリア語派とトカラ語派は、インド・ヨーロッパ語族の分布の中で東に位置していた。とくにトカラ語派は間にサテム語派の分布域を挟んではるかかなたの東方に位置している。外部リンクによれば、印欧語族はもとはケントゥム語派の発音を用いており後の時代にその分布の中央部(おそらくコーカサス地方)で現在のサテム語派が用いる発音の流行が発生し、その新しい音声の流行が周囲の各言語集団へと次々に伝播していった。この発音上の流行を「サテム化(satemization)」という。このためケントゥム語派の用いる古い発音が印欧語族の分布の東と西にそれぞれまとまって残ったとされる。
とくにスラヴ語派とバルト語派はどちらもサテム語派に属するものの、同時にケントゥム語派の音声的特徴も残しており(スラヴ語派はバルト語派よりもケントゥム語群の名残が強い)、またこのスラヴ語派とバルト語派は文法的にはゲルマン語派(ケントゥム語派に属する)との間で明確な共通性があるため、スラヴ語派、バルト語派、ゲルマン語派の3つの言語の共通祖語(インド・ヨーロッパ祖語の北西語群)を想定する学説も有力となってきている。[1][2]
[編集] 脚注
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- [1]前史時代のインド・ヨーロッパ語族の変遷