グレズリー式連動弁装置

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

グレズリー式連動弁装置 (Gresley conjugated valve gear) は蒸気機関車弁装置の一つであり、ロンドン・アンド・ノース・イースタン鉄道 (LNER) の主任機械技師ナイジェル・グレズリー (Nigel Gresley) によりハロルド・ホルクロフト (Harold Holcroft) の協力を得て設計された。これにより、三気筒蒸気機関車の中央シリンダーの弁装置を、外側二気筒の弁装置からの連動梃によって駆動できる様になった[1]。開発にはホルクロフトの貢献が大であったことを示すため、「グレズリー-ホルクロフト弁装置」と呼ばれることもある。

原理[編集]

グレズリー式連動弁装置は実質上は付加装置であって、外側二気筒の弁装置の位置を逆向きに合成して中央シリンダーの弁位置を決めている。四気筒蒸気機関車によくみられる外側弁装置と中央弁装置とをつなぐ梃の一種で、軸位置が外側弁装置からの梃によって動くものとも考えられる。

構造[編集]

構成要素しては、2:1のレバー比を持ち、台枠等車体フレームに設けられた支点に支持され、長辺側に第一気筒(右先行の場合は右気筒)を接続された「2to1 lever(別名 : 連動大テコ)」と、1:1のレバー比を持ち「2to1 lever」の短辺に設けられた支点に支持され、両端を第2(右先行の場合は左気筒)・第3気筒に接続された「equal lever(別名 : 連動小テコ)」の僅か2本のテコとそれと弁装置をつなぐリンクとで構成された非常に簡潔かつ巧妙な構造である反面、連動タイミングの狂いを自動で補正する機構を一切持たないため正常作動のために精密な初期調整と頻繁な補正調整を要するという非常にデリケートな側面をあわせ持つ。

クランク位相角[編集]

グレズリー式弁装置を装備した蒸気機関車では、レバーを使って中央シリンダーのバルブ作動角を合成する関係上、三つのピストンの位相は正確に 120 度でなければならない。クランク軸よりも前にある車軸を避けるため、中央シリンダを外側シリンダよりも上に、やや下向きに傾けて取り付ける配置が典型的である[2]。そこで、クランク位相角を(たとえば 120/113/127 度といった具合に)120度からずらすことで内側シリンダーの傾斜分を補正し、トルクが回転角によらず一定となる様にした。これにより、三気筒機関車でも等間隔の排気音が等間隔となる様なシリンダーからの排気ブラストタイミングとなっている。

問題点[編集]

平時、十分な検査と整備調整が行われる分には連動設計はよく機能したが、第二次世界大戦時の、不十分な整備下での苛酷な運用条件には向かないことが明らかとなった。もともとこの機構には、特に高速時にバルブや連動テコの慣性によるオーバートラベルによって中央シリンダのカットオフの遅れが発生、この過剰吸気によって中央シリンダー圧力が異常に増加し全駆動力に対する中央シリンダーの負担率が異常上昇する傾向があることが LNERでの試験の結果などから知られていたが、整備不良によってリンクの支点や結合部に遊びが発生するとバルブの位置決めが不確実になることによってこの傾向がより顕著となる問題で、これは高速蒸機として有名なクラスA4流線形パシフィック型蒸気機関車の中央シリンダ連結棒のビッグエンドの発熱及びメタル焼きつき問題として生じ、応急処置としてピストン径を小径化するとともに、テコのレバー比を変更するなどして、中央シリンダーの出力を下げる調整が行われたがそれでもこの高速時の中央シリンダの過剰出力傾向はあまり改善されず。A4マラード号が最高速記録達成直後に中央シリンダメインロッドのビックエンドメタルを焼損破損する一因ともなった(破損事故時、総牽引力に対しての中央シリンダの負担率は50%を超えていたとされオーバーロードが主原因であった)。そのため、当初は構造の単純さが買われ多くの国や鉄道会社で採用されたもののデリケートすぎる点が影響し第2次大戦中の混乱期に稼働率を大きく落とし戦後搭載機の多くが淘汰されることになった。また、グレズリーの後継者であるエドワード・トンプソンはこの弁装置に特に批判的で[3]、新設計の二気筒蒸気機関車を導入するとともに、グレズリーの設計した蒸気機関車を三気筒ともワルシャート式弁装置とする様改造しようと計画した[4]

アメリカ合衆国およびオーストラリア[編集]

この4-12-2機関車では中央シリンダーとグレズリー弁装置が煙室の下に露出している

アメリカン・ロコモティヴ (American Locomotive Company) はグレズリー式連動弁装置のライセンスを取得し、ユニオン・パシフィック鉄道向け4-12-2蒸気機関車に用いた。これはグレズリー式弁装置を用いた最大の機関車である。また、オーストラリアのヴィクトリア鉄道向けen:Victorian Railways S classクラスS4-6-2蒸気機関車[5]ニューサウスウェールズ鉄道クラスD57 4-8-2 蒸気機関車にも用いられた[6]

日本[編集]

アメリカから試験的に輸入された旅客用蒸気機関車C52形(炭水車は日本製)ならびにC52形を参考とし日本で設計製造されたC53形に使用された。このほか、日本の勢力下にあった満鉄向けの貨物用蒸気機関車としてアメリカから輸入、後に日本の車両メーカーと満鉄自社の工場で追加製造されたミカニ形にも使用された。

参照[編集]

  1. ^ Restoration of Gresley A4 #60019 Bittern LNERクラスA4蒸気機関車のグレズリーおよびワルシャート式弁装置の模式図 - 2006年10月4日確認
  2. ^ Public Record Office Victoria photograph of cylinder castings for VR S class -2006年10月4日確認。中央シリンダの傾斜に注目。
  3. ^ (LNER) Encyclopedia Edward Thompson page 2006年10月1日確認
  4. ^ (LNER) Encyclopedia A1/1 page2006年10月1日確認
  5. ^ AHRS Railway Museum History: 1900 - 1950 2006年10月1日確認
  6. ^ australiansteam.com NSW page 2006年10月1日確認

外部リンク[編集]

Southern California Chapter of the Railway and Locomotive Historical Society ALCo製ユニオン・パシフィック鉄道 UP9000 三気筒蒸気機関車に関する情報、録音と写真あり。