グイン・サーガの登場人物一覧

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グイン・サーガの登場人物一覧(グイン・サーガのとうじょうじんぶついちらん)では、栗本薫によるヒロイック・ファンタジー小説『グイン・サーガ』に登場する主要な登場人物の一覧を示す。

本作のテレビアニメ版の登場人物および担当声優についてはグイン・サーガ (テレビアニメ)を参照。

概要[編集]

本作は主人公のグインを含めた群像劇の要素が強く、それゆえ常にグインを中心に語られるわけではない。したがって、20巻以上にわたってグインが不在のままに物語が進行する場合もあり、その時には、他に主役級とされる登場人物や、中原の三大国をはじめとした諸国の宮廷、ときには庶民や脇役の視点までをも交えながら物語が展開することになる。

物語中、歴史はよく運命神ヤーンの織るタペストリーに例えられる。ヤーンは、物語のカギを握る人物を糸とし、彼らをたぐり寄せ、絡ませあうことによって、愛憎や因縁を生みながら、大きな運命の模様を描いていくのである。

以下に、その運命神ヤーンの糸たる人々について記す。文中、人物の肩書などは、特に注釈のないかぎり、正伝115巻現在(故人については物故時)のものとする。

主役級[編集]

解説本『グイン・サーガ・ハンドブック』には、「グイン・サーガ人物名鑑」として、以下に挙げる8人についての作者による解説が掲載されている。そのことから、この8人がグイン・サーガにおける主役級の人物として位置づけられることが多い。

グイン[編集]

本作の主人公[1]。初代ノスフェラス王にしてケイロニア王。妻はケイロニア皇女シルヴィア。後の愛妾に踊り子ヴァルーサ(外伝『鏡の国の戦士』参照)。頭人身で、身長2タール、体重100スコーンを越える、鍛え上げられた肉体を誇る巨漢。その身のこなしは巨躯と怪力に似合わず敏捷で、まさしく豹のようにしなやかでもある。怪我からの回復力にも驚異的なものがあり、北方の邪神ローキとの闘いで右腕をへし折られた際も、簡単に吊るしただけで旅を続けながら治癒させてしまった。無尽蔵の体力と、抜群の知能の持ち主で、一人の戦士としても、軍を率いる指揮官としても最強を誇り、未だかつて、どのような不利な状況にあっても敗れたことはない。施政者としても優秀で、性格は謹厳実直、冷静沈着、信義に篤く、ケイロニア臣民を始めとする多くの人々の多大な信頼を集めている[2]。ノスフェラスでの愛称はリアード(セム語で豹の意)。

正体不明の怪人として突然ルードの森に現れた時には、己の名である「グイン」、そして「アウラ」「ランドック」という謎の言葉を除いて、ほとんどの記憶を失っていた。だが、元々あらゆる分野に精通する知識を持っていたらしく、刻々と変化する状況に応じて湧き出てくる知識に従い、瞬時に適切に対応する能力に極めて秀でている。また、一般人であれば使いこなせないようなセム語、ラゴン語、ルーン語など、あらゆる言語にも精通している。ルードの森出現時の豹頭は仮面であったが、後に肉体の一部として生身化していった。

物語当初は全く不明であった彼の出自も、物語が進むにつれて次第に明らかになってきた。どうやら彼は、ノスフェラスの星船やパロの古代機械に通ずる惑星外文明の中心地のひとつ、惑星ランドックの皇帝であったが、ある罪を犯し、彼の妻でもあるランドックの女神アウラ・カー[3]によって追放され、ある使命を与えられてこの地へと送られてきた者であるらしい。つまり“ランドック”は故国の名、“アウラ”は妻の名だった(外伝「ヒプノスの回廊」など参照)。そのため、星船や古代機械から彼はマスターとして認識されており、この地の人間ではごく限られた何人かによってごく一部の機能しか使用することのできなかった、それら機械のほぼすべての機能を、自由に使用することが可能であるとされる。

グインの肉体と精神に漲るエネルギーは、星から無尽蔵に送られてくるとも云われる。その膨大な生体エネルギーは、そのエネルギーを自らの技の源とする魔道師たちにとっては垂涎の的であり、そのため、グラチウスやヤンダル・ゾッグを始めとする魔道師や魔物達が、グインを自らのエネルギー源としようと、グインに対して様々な罠を仕掛けてくる。そのことが、後にケイロニアの首都サイロンに破滅的な災厄をもたらすことにもつながった(詳細は外伝『七人の魔道師』を参照)。だが、グインのエネルギーとそこから引き出されるパワーは、魔道師の力をも上回っているようで、グインを我が物にしようとする試みは、ことごとく失敗に終っている。

グインの名が歴史に登場するのは、黒竜戦役の際、古代機械によってモンゴールの辺境へ飛ばされた、パロ王太子(当時)レムスとその姉リンダを助けてからのことである。セム族、ラゴン族を率いてモンゴール軍の侵攻を退け、その功績をもって両種族からノスフェラスの王として崇められるようになる。レムスとリンダを、当時は流浪の傭兵だったイシュトヴァーンと共にパロの友邦アルゴスへ届けた後、自らの出自の謎を探るために単身で放浪の旅に出る。その旅の途中でマリウスと出会い、イシュトヴァーンと再会した後、やがてケイロニアに入ったグインは、夢に登場したヤーンのお告げに従って、当時の黒竜将軍ダルシウスの傭兵となる。

その折に起こった皇帝アキレウス暗殺未遂事件が、彼の名声を中原に轟かせるきっかけとなった。自らの策略により皇帝の暗殺を未遂に防いで事件を解決し、事件の背後にユラニアの存在があることを明らかにした彼は、千竜長としてダルシウスに従い、ユラニアとの戦いに赴く。膠着状態に陥った状況を打破するため、グインは一時的に軍を離脱し、勅命に背いて1万の兵を率い、ユラニアの首都アルセイスを急襲する。結果、ユラニアとの間に講和を成し遂げ、帰国したグインは勅命に背いたとして拘束されるが、その直前に急逝していたダルシウスの遺志による進言もあって罪を許され、逆にダルシウスの後を継いで黒竜将軍に任命される。

やがて、追放された皇弟ダリウスによる皇女シルヴィア誘拐事件が起こると、ダリウスと組んだユラニアに大軍を率いて攻撃、瞬く間にアルセイスを陥落させる。その際、救出した魔道師イェライシャから、シルヴィア誘拐の真の黒幕であるグラチウスの所在を聞いたグインは、単身軍を離れ、シルヴィアを求めてゾルーディア、さらにはキタイへと長い探索行に赴くことになる。

キタイの魔道竜王ヤンダル・ゾッグにより魔都と化した首都ホータンでの過酷な冒険の結果、シルヴィアと、ともに幽閉されていたマリウスを救ったグインはケイロニアへ帰還し、その直後にシルヴィアと結婚、皇帝のもとで治政を行うケイロニア王に即位する。

それから間もなく勃発したパロ内乱に際し、その影にヤンダル・ゾッグの野望があり、この内乱がやがては中原全体の危機になると察知したグインは、長年のケイロニアの国是であった他国内政不干渉を破り、自ら大軍を率いて出兵する。ヤンダル・ゾッグの傀儡と化したパロ国王レムス率いる竜騎兵と戦ったグインは、ヤンダル・ゾッグらの強力な魔道に苦しめられながらも、これを撃破して首都クリスタルを陥落させる。その時、パロを事実上牛耳っていた精神生命体アモンとの対決において、アモンをパロから撤退させるために策略を弄し、アモンとともに古代機械によってノスフェラスへと飛ぶ。

続くグル・ヌーの地下に眠る星船を舞台としたアモンとの戦いの際、自ら星船を起動させて離昇させ、アモンとともに宇宙空間へと飛び出していく。その際にも策略を弄したグインは、星船を操る人工知能にアモンを幽閉したままの自爆を指示、自らはカイザー転送機にてノスフェラスへと帰還する。だがその代償は大きく、グインは再びすべての記憶を失ってしまう。

セム族、ラゴン族に助けられた彼は、徐々に体力を取り戻し、記憶が戻らないままに再び中原へと戻っていく。ルードの森にてモンゴール反乱軍討伐のためにゴーラ軍を率いて赴いていたゴーラ王イシュトヴァーンと出会い、その際に記憶喪失を悟られることなく一時拘束されるものの辛うじて脱出、流浪の旅を続けるアルゴスの黒太子スカールによって救出される。さらに、執拗に彼を狙うグラチウスの手からも、イェライシャの手を借りて逃れた彼は、記憶を取り戻すきっかけを得るために、パロの女王リンダと会うことを決意、イェライシャの助けにより再会したマリウスとともにパロへと向かう。

パロへの途上、偶然出会ったイシュトヴァーンの知られざる息子スーティとその母フロリー、元パロ聖騎士伯リギアらと道連れとなり、豹頭人身の巨躯という目立つ外見を誤魔化すために旅芸人の一座を装う。この一座の公演が思いがけず評判を取り、「快楽の都」タイスの支配者タイ・ソン伯爵の目に留まる事となる。グンドという偽名を名乗ったグインは、タイ・ソン子飼いの剣闘士として戦うことを余儀なくされる。実力の違いを見せつけて、またたく間に頭角を現したグインは、クムの不敗の大闘王ガンダルに挑戦させられる。 激闘の末、グインは辛うじてガンダルを倒す。しかし、彼もまた重傷を負い、タイスからの脱出は至難の業と思われた。窮地に陥る一行の前に現れたのはパロの魔道師宰相ヴァレリウスであった。彼の助けで危地を脱した一行は、様々な思いを秘めつつ再びパロへと向かう。

到着したパロでグインはリンダと再会するが、その記憶は戻らなかった。記憶喪失と肩の傷の治療を受けている最中に、ヨナの勧めで古代機械に接触した際、古代機械が自動的に作動してグインの記憶を不完全な形で修正してしまう。それと同時に、ガンダルとの戦いで負傷した肩の傷も完治していた。この結果、グインは、ルードの森に出現した時からケイロニア軍を率いてパロ内乱に介入するべく出発するまでの記憶を思い出したものの、それ以降の記憶は戻らず、アモンとの戦いから帰還した後の記憶も失ってしまった。その後、パロ王宮の庭でフロリーとスーティに出会っても何も思い出さなかったが、スーティには何かを感じ取ったようだった。その後、迎えに来たハゾスと共にケイロニアに戻る。

ケイロニアに戻ったグインは、自身が不在の間にシルヴィアが行った乱交を知り苦悩する。それでもシルヴィアとの関係を修復しようと努力するが、シルヴィアの心はすでにグインから離れていた。悩みぬいた末、グインはシルヴィアとの決別を決意し、それをシルヴィアに告げる。その後、義父であるアキレウス帝にそのことを曖昧に告げたところ、アキレウスはケイロニア皇帝位はそのままにケイロニアの統治権をグインに移行して自身は隠居することを決断し、グインはケイロニアの実質上の最高統治者として政務に励むこととなった。

しかしそのしばらく後、サイロンに黒死病が大流行し、グインとハゾスはその対応に追われることになる。その最中に怪異が発生し、グインは単身サイロンに飛び出していった。そしてサイロンの裏で暗躍する魔道師たちと対決することになり、その戦いの最中にクムの踊り子ヴァルーサと、ヤンダル・ゾッグに関する記憶が欠落した状態でサイロンの怪異の黒幕であるヤンダル・ゾッグと出会い、激闘の末に魔道師たちとヤンダル・ゾッグを撃退して怪異を鎮めた。そして、この戦いを経て心を通わせたヴァルーサを自身の愛妾にした(詳細は外伝『七人の魔道師』を参照)。間もなくして、ヴァルーサがグインの子を妊娠していることが明らかになった。

レムス・アル・ジェヌス・アルドロス[編集]

パロの前聖王。レムス一世。妻はアグラーヤ王女アルミナ。長男はアモン。双児の姉にパロ現聖女王リンダ・アルディア・ジェイナ。父はパロ前々聖王アルドロス三世。母はアルドロス三世の妃ターニア。

プラチナブロンドの髪、紫色の瞳の持ち主の美少年であったが、成長につれて髪の色はより薄く、瞳の色はより濃くなり、痩せ細って狷介な印象が強くなってきた。幼少時は双児の姉リンダと瓜二つで、「パロの二粒の真珠」などと呼ばれたが、性格的には正反対で、勝ち気な姉の影に隠れてしまうような、内気な目立たない少年であった。そのため、リンダや従兄のアルド・ナリスに対し、強い劣等感を抱いていた。

その劣等感がレムスに、そしてパロに大きな災厄を招くきっかけとなる。黒竜戦役の際、リンダとともにリヤ大臣に操作された古代機械によって飛ばされた辺境の地・ルードの森からグインによって救い出された彼は、パロへ向けてノスフェラスを出発する際に、その劣等感につけこまれ、キタイの魔道師カル=モルの怨霊に憑依されることとなる。もっともその憑依は、ごく初期には彼にむしろ良い影響を与えたようにも見られ、以後、彼の内気な性格はしばらく影を潜め、冷静な知性と判断力を発揮して、アグラーヤ王ボルゴ・ヴァレンを感服させ、その娘アルミナとの婚約を求められるまでになる。

だが、それも長くは続かなかった。リンダとともにアルゴス入りしたレムスは、アルゴス軍を率いてパロ奪還の兵を起こすが、モンゴールに味方するカウロス公国軍との戦いに手間取り、パロ奪還に当たってさしたる功を挙げることなく、パロはナリスを中心とする人々の活躍により奪還されてしまう。そのことが、ナリスに対する劣等感をさらに強める結果となり、その直後に即位して聖王となったレムスと、摂政宰相として彼を補佐することとなったナリスとの間に、大きな亀裂を生んでいく原因となる。

その劣等感と、早く人々に認められたいという焦りからか、王としてのレムスの施政は苛烈なものとなる。それが却って人々の反感を招き、民の人気はますますナリスへと傾いていく。アルミナが婚約者としてそばにやってきてからは、その苛立ちも少し落ち着きを取り戻したように見えたが、ナリスとリンダの結婚によって、再び人々の人気がナリスとリンダに集中し始めると、彼は一層ナリスを疎んじはじめる。

やがて人々の間に起こったナリスの即位を求める声に、一部国王派が暴走し、ナリスを拉致監禁、拷問するという事件が起こる。実はその事件の背後には、レムスに憑依したカル=モルの亡霊を通じて彼を操るキタイの意図があった。間もなくその陰謀が明るみに出て、その首謀者であったカルファンことキタイ出身の学者カル・ファンが死亡すると、カル=モルの影はレムスから消滅し、彼は正気を取り戻したかに思えた。

ところが、キタイによるレムスの洗脳は終っていたわけではなかった。カル=モルを通じてではなく、自らレムスを操るようになった魔道竜王ヤンダル・ゾッグによって、次第に首都クリスタルは魔都へと変貌していく。それに気づいたナリスは、宰相ヴァレリウスとともに反乱を起こし、神聖パロ王国の設立を宣言する。それに対してレムスは、ヤンダル・ゾッグの魔道である「魔の胞子」によって洗脳された武将たちを率いて対抗し、ここにパロを二分する内乱が起こることとなる。

その頃、レムスとアルミナとの間に誕生した長男アモンは、実はヤンダル・ゾッグがレムスを通してアルミナの胎内に送り込んだ、強力な魔力を持つ精神生命体であった。ヤンダル・ゾッグとアモンとに操られたレムスには、もはや自我と呼べるものも乏しくなり、完全にキタイの傀儡となってしまう。

内乱は、キタイの竜騎兵、ヤンダル・ゾッグやアモンの強力な魔道により、レムス側優位に推移するが、やがて参戦したグイン率いるケイロニア軍の活躍によって形勢は逆転、クリスタルは陥落し、キタイ勢力はパロから撤退するに至る。

レムスはようやくキタイによる洗脳や憑依から解放されるが、神聖パロ側に捕らえられ、王位及び王位継承権を剥奪される。現在は王宮クリスタル・パレス内にて監禁生活を余儀なくされているが、彼の将来的な復位をほのめかすかのようなリンダの予言もあり、今後の彼の運命がどのようなものとなるかは、未だ予断を許さない状態である。[4]

リンダ・アルディア・ジェイナ[編集]

パロ聖女王。夫はクリスタル大公・神聖パロ前国王アルド・ナリス。双児の弟にパロ前聖王レムス・アル・ジェヌス・アルドロス。父はパロ前々聖王アルドロス三世。母はアルドロス三世妃ターニア。

プラチナブロンドの髪、紫色の瞳の持ち主の、中原一とも云われる絶世の美女。幼少時は双児の弟レムスと瓜二つで、「パロの二粒の真珠」などと呼ばれた。少女時代は勝ち気な、少年のような性格の持ち主として知られたが、成長とともに勝ち気なところは影を潜め、誰もが認める淑女へと変貌した。

極めて優れた予言者で、その能力は、多くの魔道師や予言者を輩出したパロ聖王家にあっても特に強力なものであり、パロ建国王アルカンドロスの娘で伝説の予言者「リンダ処女姫」に匹敵すると云われる。リンダ自ら占いなどによる予知を行うこともあるが、その能力が最も発揮されるのは、彼女の意志とは無関係に訪れる予知の際である。そのような予知が彼女を訪れる場合、彼女はほとんど意識を失っており、意識を回復した後も、自分がどのような予言を行ったのか憶えていない場合が多い。その中には、たとえばレムスが即位した際に訪れた予知のように、彼女に意識があれば口にするのをはばかったであろう不吉な予言もあり、彼女に不運や不幸を招くきっかけとなることもある。

その美貌ゆえ、リンダの崇拝者となる男性は多い。レムスとともに飛ばされたノスフェラスからの帰途、グインとともに彼女達を守護した傭兵イシュトヴァーンもそのひとりである。リンダとイシュトヴァーンは恋に落ち、アルゴスで別れる際に、3年後までに王になって迎えに行くという約束を交わしたが、この恋はほどなくして破れ、実ることはなかった。

パロへ帰還した後に、このイシュトヴァーンとの恋が、リンダに哀しみをもたらすことになる。彼女を密かに自分好みの女性に育てようとしていたナリスは、その思惑など知らぬリンダがイシュトヴァーンへの恋心を無邪気に告白したことに腹を立て、以後、リンダに冷たくあたるようになる。そのナリスの行動は、リンダの崇拝者の1人であるアウレリアス伯爵の怒りを買い、ついにはナリスとアウレリアスの決闘へと発展してしまう。

自分を争って2人の男性が決闘にまで至ったこと、そしてその決闘でナリスが重傷を負ったことに衝撃を受けたリンダを予知が襲い、彼女は人事不省に陥る。だが、そこから目覚めた時、彼女は自らがナリスとの婚姻を宿命づけられていたことを知る。ナリスのもとを訪れてそのことを告げたリンダは、間もなくナリスと結婚することになる。その結婚生活は幸福ではあったが、実は夫と肉体的に結ばれることはなかった。それは、彼女が持つ予知能力は、処女性を失うと著しく減退すると云われていたため、ナリスがそれを避けようとしたことによる。

そして、新婚生活の幸福は長くは続かなかった。結婚から半年ほどした頃、国王レムス派と宰相ナリス派との対立が深刻化し、その煽りを受けてナリスが国王派に拉致監禁され、手足が不自由になるほどの重傷を負ってしまったのだ。それからというもの、彼女は、宰相職を退いてマルガで隠遁生活を送ることとなったナリスを介護する日々を送ることとなる。

その彼女を再び激震が襲ったのは、キタイの傀儡と化したレムスに対してナリスが起こした反乱だった。その反乱の動きをいち早く察したレムスによって身柄を拘束されたリンダは、ヤンダル・ゾッグの魔道によって夫の死を目撃させられ(実際にはナリスの計略による佯死であった)、その後、長らく意識不明状態に陥ることとなる。

その彼女を救ったのは、単身クリスタル・パレスに乗り込んできたグインであった。グインの不思議なパワーによって目覚めた彼女は、やはり彼女の崇拝者であるアドリアン子爵の手助けもあって脱出に成功する。

グインとともに急いで夫ナリスのもとへ向かったリンダだったが、そこに待っていたのは、夫との永遠の別れであった。病身を押しての反乱がナリスから最後の体力を奪ってしまったのだ。夫の死を受けて、リンダは神聖パロ王国の解散を宣言したものの、夫の遺志を継ぎ、パロをキタイの手から解放すべく戦い続けることを決意する。

グインの活躍によってキタイの手から解放されたクリスタルへ入ったリンダは、レムスを聖王位から退位させ、自ら聖女王として即位する。女王としての彼女の最初の仕事は、内乱で疲弊し、多くの人材も失われたパロの再建であった。そして、ケイロニアからの援助と、宰相ヴァレリウス、宰相代理ヨナの補助を受けつつ、パロ再建という難しい課題へ挑むこととなった。

その後、パロを訪れて記憶の一部を取り戻したグインがケイロニアに帰還し、次いでヨナがヤガへ旅立った後に、イシュトヴァーンが一千のゴーラ兵を率いてクリスタルへの入城を望んでいるとの知らせが入り、リンダはその対応に追われる。そしてクリスタルへ入城したイシュトヴァーンを歓迎する宴の最中にリンダはイシュトヴァーンに求婚されるが、リンダは極秘裏にナリスの弟王子アル・ディーンと婚約しているという嘘をついて求婚を断る。その後、マルガにあるナリスの墓標への参拝を望むイシュトヴァーンやヴァレリウスと共に、マルガへ向かうことになる。

そしてマルガでの参拝を終えて、クリスタル・パレスでのイシュトヴァーンとの宴の最中に、グインがサイロンでの黒死病の大流行を鎮めた後に愛妾を作り、しかもその愛妾がグインの子を身籠ったことをイシュトヴァーンから聞かされた時には、動揺を露わにした。

イシュトヴァーン[編集]

ゴーラ王。妻はモンゴール前大公アムネリス。長男はドリアン。またイシュトヴァーン自身もカメロンに告げられるまで知らなかった、ドリアンより年長の息子として、アムネリスの侍女であったフロリーとの間に生まれたスーティ(小イシュトヴァーン)がいる。母はヴァラキアの娼婦イーヴァ。父は不明。

黒髪、黒い瞳、浅黒い肌、すらりとした長身の美青年。傭兵時代は極めて陽気な楽天家にして自信家で、自らを「災いを呼ぶ男」「紅の傭兵」などと呼び、すべての災いは自分を避けるとして、運の良さを誇っていた。が、モンゴールの将軍となった頃から、その陽気さに陰がさし始め、短気で衝動的な一面ばかりが目立つようになってきた。モンゴール将軍からゴーラ王へと至ったイシュトヴァーンの道程は、多くの戦いと殺戮、裏切りに満ちて血塗られており、残虐王、殺人王と呼ばれる所以となった。

沿海州ヴァラキアの娼婦の子として生まれて間もなく孤児となり、伝説の賭博師コルドに育てられたイシュトヴァーンは、幼少時から将来は一国の王になることを公言してはばからなかった。その根拠は、彼が誕生した時の予言にある。彼が生まれた時、掌中に白い玉石を握っていた。それを見た産婆の老予言者は、彼が将来〈光の公女〉の手によって王座に就くことになるであろうと述べたのだ。事実、彼の才気とカリスマ性は幼少時から際立っており、その出自にもかかわらず、ヴァラキア提督カメロンから後継者に切望されていたほどである。

伝説の海賊クルドの財宝を巡る冒険に失敗した後、中原へ向かい、モンゴールの傭兵となった彼は、配属された先で城主の勘気を被って投獄されるが、その牢獄でグイン、リンダ、レムスと出会う。彼ら一行に加わり、セム族、ラゴン族とともにモンゴールと戦ったノスフェラス戦役では、モンゴール軍に間諜として潜入し、モンゴールの伯爵マルス率いる一隊を全滅させる。だがこの行為に対する罪悪感が、彼を長く苦しめることとなる。

レムスとリンダをアルゴスに届けた後、北方での冒険で資金を得た彼は、サイロン郊外で醜い占い師アリストートスと出会う。王となる器の持ち主を探していたというアリストートスの言葉に興味を引かれた彼は、モンゴールを足がかりにゴーラの王座を手に入れるというアリストートスの策を聞き、彼を軍師として以後行動をともにすることとなる。

その後、赤い街道の盗賊の首領となった彼は、ノスフェラスからの帰途にあったアルゴスの黒太子スカールの一行を襲撃して返り討ちに遭い、瀕死の重傷を負う。その際、スカールの妻リー・ファを殺害したため、スカールから生涯の仇敵として狙われるようになる。

どうにか一命を取り留めた彼は、再び盗賊を率い、クムに幽閉されていたモンゴール公女アムネリスに接近する。首尾よくアムネリスを救出した彼は、彼女のもとに集まってきたモンゴールの残党とともに戦い、首都トーラスの奪還に成功する。

モンゴール救国の英雄として将軍となったイシュトヴァーンだったが、その地位は却って自由を愛していた彼の心を鬱屈させることとなった。彼を探し求めてモンゴールを訪れてきたカメロンとの再会によって、彼の心は少なからず癒されるが、それがイシュトヴァーンに執着するアリストートスの嫉妬心を招く原因ともなってしまう。そしてその嫉妬心は、第二次ケイロニア-ユラニア戦役に参戦した際に、イシュトヴァーンがアルセイスで出会い、弟のように思い始めていた少年リーロの暗殺を引き起こすなど、イシュトヴァーンの心に深い闇をもたらしていくことになる。

やがてアムネリスと結婚した彼は、間もなくしてアルセイスで起こった、ユラニア三公女とクム三公子との合同結婚式のクーデターに遭遇する。それをきっかけとして起こったゴーラ三公国による三つ巴の戦いでは、途中でユラニア側からクム側に寝返るという変わり身を見せ、当時のクム大公タリオを討ち取ってクムを弱体化させるとともに、ユラニアを滅亡に至らせる。また、アリストートスが嫉妬心からこれまで密かに行ってきた様々な悪行を知り、激怒して自らアリストートスを殺害する。

その後、ゴーラ最後の皇帝サウルからの啓示を受けたとして、イシュトヴァーンは旧ユラニアを版図とするゴーラ王国の建国を宣言、自ら初代ゴーラ王を名乗る。だがその直後、ノスフェラス戦役での彼の間諜行為がモンゴール首脳の知るところとなる。トーラスで裁判にかけられた彼は、その証人に憑依したアリストートスの亡霊による告発に恐怖し、自ら罪を認めてしまう。辛くもその場を脱出したイシュトヴァーンは、予め伏せておいたゴーラ軍によってトーラスを制圧、妻であるモンゴール大公アムネリスを新生ゴーラの首都イシュタールに連行し、幽閉する。臨月だったアムネリスは夫への憎悪を抱きながら男子ドリアンを産み落とし、自害する。

やがて勃発したパロ内乱に際し、密約を結んでいたナリス側に味方するべく、イシュトヴァーンは自ら軍を率いて参戦する。だがその中途、彼を仇敵と狙うスカールの奇襲を受けて孤立した彼の前に、レムスに憑依したヤンダル・ゾッグが現れて後催眠の暗示をかけられる。[5]そしてヤンダル・ゾッグの催眠術にかかった彼は、突如ナリス軍を攻撃、その拠点であるマルガを瞬く間に陥落させ、ナリスを捕虜とする。続くグインとの戦いに敗れ、ヴァレリウスによって催眠術を解かれたイシュトヴァーンは続いてのナリスの死に動揺し、ほとんど何も得られないままパロ内乱は終結し、イシュトヴァーンはゴーラへ帰国する。

帰国したイシュトヴァーンは、モンゴールで勃発した反乱の鎮圧に自ら乗り出す。その際、ルードの森で偶然グインと出会い、一時的に捕虜とする。だが、スカールの助けを得て逃亡したグインを追う際に、グインとの一騎討ちに敗れて重傷を負い、生死の境を彷徨うこととなる。その後、辛くもイシュタールへ帰還し、しばらく療養と内政に専念していたが、それでも新たな戦場と野望を模索しているようであった。

ブランがイシュタールに帰還する直前に、カメロンからフロリーとその息子(スーティ)のことを聞き、二人がパロに向かったことを聞かされる。イシュトヴァーンはそれに興味を抱き、リンダと結婚してパロを併合したいという野望も併せて、カメロンに独断で一千のゴーラ兵を率いてパロへと向かう。そして国境でのヴァレリウスとの協議の末に、二百の手勢だけでクリスタルへと入城し、リンダと面会する。そして開催された宴の最中、二人きりになった時にリンダに求婚するが、リンダはナリスの異母弟アル・ディーンと内々で婚約していると告げ、求婚を断わられる。それでも諦めずにクリスタルに滞在し続け、ヴァレリウスと二人きりで話している時にフロリーとその息子(スーティ)の話題を出し、二人に会わせろと要求する。

しかし、ヴァレリウスはフロリー親子はパロを離れたとだけ告げて面会は叶わなかった。また、この時にイシュトヴァーンはフロリーとの間に出来た息子の名前が自分と同じイシュトヴァーンであることを知った。その後、イシュトヴァーンはフロリー親子とヨナがミロク教の聖地ヤガへ向かっていると推測し、かねてより申し入れていたマルガにあるナリスの墓標への参拝をした後は、そのままヤガへ向かう意向であることをヴァレリウスに告げる。

そしてマルガでの参拝を終えた後、クリスタル・パレスでの別れの宴でリンダにグインの近況を告げた後でゴーラ軍を率いてクリスタルを出発した。そのままヤガに向かうかと思われたが、途中で針路変更して北上を開始した。

アルド・ナリス[編集]

神聖パロ王国聖王にして、パロのクリスタル大公。妻はリンダ・アルディア・ジェイナ。異母弟にパロ王子アル・ディーン(吟遊詩人マリウス)。父はパロ王子・ヤヌス大祭司長アルシス。母はアルシスの妻ラーナ大公妃。

黒髪、黒い瞳、痩身の絶世の美青年で、男女を含めて最も美しい人物であるとまで讚えられた。その美は外見ばかりではなく、彼のあらゆる立ち居振る舞いや趣味にまで及んでおり、極めて洗練されたセンスによって「典雅の裁決者」との異名を得るにも至った。キタラ(ギターリュートに似た弦楽器。古代ギリシャの弦楽器キタラとは形状が異なる)などの楽器、歌、舞踊の名手としても知られ、また武器を取ってはレイピアの達人でもあり、パロの文武両面の頂点に立つクリスタル公爵の地位に就く者として、正にふさわしい人物であった。

その能力は魔道や学問にも及んでいる。自らも初級の魔道師資格を持つ彼は、魔道に対する造詣が深く、自ら直属の魔道士部隊を指揮して、戦時や平時の情報収集などに大いに活用していた。またあらゆる学問に対して深い興味を抱き、未知なるものに対する強い憧憬を抱いていた。中でも、彼が唯一の〈マスター〉として操作を許されていた古代機械に対する関心は極めて高く、カラヴィアのラン、ヨナ・ハンゼと云った若い優秀な学者とともに、その研究に熱心に取り組んでいた。

その端正にして優雅な姿や挙措、それに似付かわしい能力の高さから、パロ宮廷内や国内における人気は極めて高かったが、その反面、密かに周囲の人々を見下し、侮蔑するようなところもあった。その侮蔑は、とりわけ彼を熱狂的に支持するような人々に対して向けられることが多かった。また、自分自身や他者の生に対する執着が希薄で、それぞれの命を弄んで見せるような一面もあった。

彼の性格に、そのような小昏い一面が加わることとなった理由は、彼の生い立ちにある。父アルシスは弟アル・リース(後のアルドロス三世。リンダとレムスの父)と王位を激しく争い、内乱の末に敗れたという経緯があったため、ナリスは生まれた当時から謀反の旗頭となりうるとして王から警戒され、地方都市マルガにてほぼ軟禁状態におかれたまま成長したという経緯があった。またその父母は、純血の掟に従った愛なき結婚であったがために、ナリスは父からも母からも愛されることはなかったのである。

異母弟アル・ディーン(後のマリウス)と、守り役である聖騎士侯ルナンの長女リギアの2人だけを友として育ったナリスは、病弱を押して努力を重ねて知識と教養、そしてレイピアの腕を身につけていく。そして、成人となった18歳の誕生日に見事な宮廷デビューを果たし、パロの文武の長たるクリスタル公の大任に任ぜられる。だがその代償として、宮廷生活に馴染めなかった弟の出奔を招き、そのことがナリスの内面に大きな影を落とすこととなる。

クリスタル公に任ぜられた当初は一部から大きな反発も招いたが、その才能とカリスマ性は宮廷内に次第に確固たる地位を築いていった。しかし、モンゴール軍によりパロの首都クリスタルが急襲された黒竜戦役の緒戦において重傷を負い、戦線からの離脱を余儀なくされる[6]。モンゴール占領下のパロでしばらく潜伏したのち、クリスタルに潜入するもナリスに懸想するサラの密告により捕らえられ、モンゴール公女アムネリスとの政略結婚を強制されることとなる。

だが、それを逆に好機と捕らえた彼は、恋の達人としての手管を弄してアムネリスを籠絡する。そしてアムネリスとの婚礼の際、彼を暗殺する動きを利用して自らの死を装い、再び潜伏に成功する。やがてパロの下町アムブラで起こった暴動を利して反乱を起こした彼は、パロ各地の武将とも呼応してモンゴール軍を撃破し、クリスタルの解放に成功する。続く第二次黒竜戦役で、アルゴスの黒太子スカールらとの連合軍により、モンゴールを滅亡させたナリスは、帰国後、従弟レムスの聖王即位に伴い、摂政宰相に任ぜられる。だが、パロ解放の最大の立役者として国民からの熱狂的な支持を受けるようになったナリスの絶大な人気が、レムスの悋気を誘い、後に国内が国王派と宰相派とに二分されていく一因となっていく。

やがて従妹リンダと結婚したナリスは、しばし幸福な結婚生活を味わう。だが、その結婚によってもたらされた彼のさらなる人気が、彼の聖王即位を求める動きを呼び、一部国王派の暴走をも招くこととなる。ナリスは拉致監禁の上に暴行を受け、右脚を切断、残る手足の自由をもほとんど失ってしまう。それをきっかけとして、ナリスは宰相の座を辞し、後任に魔道師ヴァレリウスを指名して、故郷とも云うべきマルガにて妻リンダと隠遁生活を送ることとなる。

その彼に再び転機をもたらしたのは、当時復活したモンゴールの将軍であったイシュトヴァーンによる極秘の訪問であった。彼との会談により心動かされたナリスは、今や無二の側近ともなったヴァレリウスに、レムスに対する反乱の決意を告げる。それは、彼の生い立ちによって宿命づけられていたと云っても過言ではない決意ではあったが、その決意に至るにはもうひとつの理由もあった。それは、聖王レムスの背後に彼が見ていた、キタイによる侵略の影だった。

奇禍による重傷を装い、その治療のためとして再びクリスタルへ戻ったナリスは、病身に鞭打って密かに賛同者を募り、反乱への準備を固めていく。だが、その動きはすべて、レムス側の知るところとなっていた。反乱を起こそうとした矢先にレムス側に機先を制されたナリス側は常に後手に回ることとなり、非常な苦戦を強いられる。クリスタルからの敗走の途中、全滅の危機こそスカール率いる援軍によって免れたが、その直前、全軍にナリスの死が伝えられる。

だが、それはヴァレリウスが助けを求めた大魔道師イェライシャの秘薬を用いた佯死であった。その策略を持ってレムス側との停戦にこぎ着け、ナリスは軍とともにマルガへと帰還することに成功する。しかし、その味方をも欺いた策略を卑劣としてスカールは怒り、ナリスと袂を分かつこととなる。マルガへ到着したナリスは、マルガを中心とした地域を領域とする神聖パロ王国の独立を宣言し、その初代国王に即位する。

なおも内乱における苦戦は続いたが、イシュトヴァーン率いるゴーラ軍の参戦により、一旦は戦況は好転したかに思えた。だが、そのイシュトヴァーンをキタイの魔道竜王ヤンダル・ゾッグの魔の手が襲う。ヤンダル・ゾッグの催眠術にかかったイシュトヴァーンは、自軍に対してマルガ攻撃を指示、圧倒的な兵力を誇るゴーラ軍にマルガは瞬く間に陥落し、ナリスはイシュトヴァーンの捕虜となってしまう。

その後、ヴァレリウスとグインの活躍により、イシュトヴァーンの後催眠は解かれ、ゴーラ軍との間に改めて同盟が結ばれることとなる。が、その捕虜生活は、長引く戦いの中で悪化していたナリスの病状をさらに悪化させることとなってしまった。もはや自らの命が旦夕に迫ったことを悟ったナリスは、グインとの会談を切望する。その席でナリスは、グインに自らが知る古代機械の秘密を託し、その直後、股肱の臣ヴァレリウスの腕の中で静かに息を引き取った。

マリウス(アル・ディーン)[編集]

吟遊詩人。異母兄に神聖パロ前国王アルド・ナリス。妻はケイロニア皇女オクタヴィアだが、事実上離婚状態にある。娘にケイロニア皇孫マリニア。父はパロ王子・ヤヌス大祭司長アルシス。母はアルシスの愛妾エリサ。

栗色の巻き毛と黒褐色の瞳の、愛嬌あふれる美青年。自由と平和、音楽と旅をこよなく愛し、戦いを忌み嫌っている。この上ない美声の持ち主で、またキタラの名手でもあり、旅先のあちらこちらで歌や音楽を披露しては、たちまち喝采を集め、人々に褒め称えられる「カルラア(音楽の神)の申し子」である。その声の美しさは人間以外のものも魅了するほどで、北方の国ヨツンヘイムを守る怪物ガルムを、その歌声で眠らせたこともある(外伝『氷雪の女王』)。

吟遊詩人らしく性格は夢見がちで、何かを思いつくや否や行動に移してしまう無鉄砲なところもある。反面、他から責任を課せられることを極端に嫌い、何かというと理由を見つけては責任を放棄して旅に出てしまうため、憎めない性格ながらも周囲にとっては悩みの種となることも多い。

今でこそ止まらぬおしゃべりと朗らかさが代名詞のようなマリウスであるが、その影には、幼少時に抱いていた異母兄アルド・ナリスへの憧憬とコンプレックスのないまぜになった葛藤があった。5歳の時、母とともに父のもとに引き取られたディーンは、それからというもの、兄とは異なり、2人の愛情を存分に注がれて暮らしていた。だが、彼が8歳の時に父が事故死し、母もその後を追って自殺してしまったため、彼は孤児となり、ナリスのもとに引き取られてマルガで暮らすようになる。

幸いナリスとの仲はよく、守り役ルナンの娘リギアと3人で、実の姉弟のように穏やかに成長していくこととなる。だが、流浪の一族ヨウィスの民の血を引くともいわれる母の血がなせる業なのか、王族としての義務を伴った生活にはなかなか馴染むことができず、また優秀な兄に対するコンプレックスもあって、次第に彼は無口でおどおどとした少年になっていった。

ディーンが16歳になったとき、兄ナリスがクリスタル公に任ぜられる。それを機に、ナリスはディーンに、今後はより一層の勉学を重ね、いずれはナリスのもとで一軍を率いて補佐して欲しい、と告げる。だが、それはディーンにとって、心が欲してやまない音楽と、そして自由な生活からの完全な決別を意味していた。その未来図に絶望した彼は、ついに兄と決別してパロを出奔し、吟遊詩人マリウスとしての生活をはじめることとなる。

やがて黒竜戦役が勃発し、パロが滅亡の危機を迎えると、マリウスは魔道士を通じてナリスと接触し、間諜をつとめるようになる。パロに潜入しようとしていたアストリアスを眠らせてヴァレリウスに引き渡した後、敵であるモンゴールの首都トーラスへもぐり込んだ彼は、ひょんなことからモンゴールの公子ミアイルの側付として雇われる。姉アムネリスへの憧憬とコンプレックスを持つ、心優しいミアイルに、かつての自分の姿を見たマリウスは、ミアイルに対して強い愛情を注ぐようになる。

だがそこへ、ミアイルを暗殺せよとのナリスからの非情な命令が届く。マリウスはそれを拒否するが、ミアイルはナリスが派遣した魔道士ロルカによって暗殺され、マリウスはその犯人に仕立て上げられてしまい、逆上して襲い掛かってきたユナスを心ならずもその手にかけてしまう。魔道士ロルカの力によりその場は逃れたマリウスだったが、ミアイルを失ったことと咄嗟とはいえユナスを殺害してしまった衝撃は大きく、ナリスとの永遠の決別を決意して、トーラスを旅立っていく。

その後グインやイシュトヴァーンと出会い、いくつかの冒険をともにした後、ケイロニアの首都サイロンに入る。そこでもキタラと歌と美貌と愛嬌で瞬く間に人気者となった彼は、美青年イリスと出会う。折しも起こっていたアキレウス帝の後継者を巡る陰謀に、知らず知らずのうちに関わることとなったマリウスは、その陰謀の鍵を握る人物であったイリスと何度か言葉を交わす内に、次第に彼に魅かれていくものを感じ始める。実はイリスは、アキレウス帝の愛妾ユリア・ユーフェミアの娘オクタヴィアが男装した姿だったのだ。やがて恋に落ちたマリウスとオクタヴィアは結ばれ、ともにサイロンを旅立っていく。

間もなく、旅の途中でオクタヴィアが妊娠する。当面の落ち着き先をトーラスに決めたマリウスは、滞在先の〈煙とパイプ亭〉で厄介な相談を受ける。亭の若主人ダンの友人が、モンゴールの英雄となったイシュトヴァーンによるものと思しき非道を目撃したというのだ。そのことをどこに訴えるべきか、という相談にマリウスは悩んだあげく、グインの助力を求めることを思い立ち、サイロンへと旅立つ。だが、その中途、魔道師グラチウスの罠にかかり、彼はキタイへと拉致されてしまう。

やがて、同様にグラチウスに拉致されていたケイロニア皇女シルヴィア共々グインによって救出されたマリウスは、トーラスへと戻り、オクタヴィアと、生まれていた娘マリニアとの対面を果たす。その際、2人の素性を知るグインの「このままトーラスにいては危険だ」という助言に従い、一家はケイロニア皇帝アキレウスのもとで暮らすことを決意する。だがそれは、自由を奪われ、義務を課されることを忌み嫌うマリウスにとっては耐えようもない日々だった。鬱屈する日々を送っていたマリウスは、パロの内乱でナリスが死亡したという報(実は佯死)に対する動揺もあって、サイロンを飛び出してパロへと向かう。魔道師イェライシャの助けもあって、ナリスの死の直前にマルガへ到着したマリウスだったが、ほんのわずかなためらいによって、ナリスと再び会う機会を永遠に失ってしまった。

内乱が終結した後、疲弊した祖国パロの様子を目の当たりにして、マリウスも一旦はパロに留まり、リンダを助けていこうと決意を固める。だが、その決意もやはり長くは続かなかった。再び宮廷での生活に倦み、自由を欲しはじめた彼は、行方不明となったグインの捜索隊が派遣されるのを機にパロを出て、捜索隊に同行してサイロンへと向かう。そこで再会した妻オクタヴィアとの話し合いの結果、もはや宮廷での生活には戻れないとして離婚を決めた彼は、そのまま捜索隊とともにゴーラの辺境へと向かう。そしてマリウスは、イェライシャの助けを借りてユラ山中でグインと再会し、自らの記憶を求めて密かにパロへと向かうというグインに同行する。

グインたちと共にタイスに立ち寄った際、タイス伯爵タイ・ソンに気に入られて愛人にされる。やがて、タイ・ソンの残虐さが自分たちに及ぶのを恐れて、武闘大会の会場に詰めかけた大衆の前でマーロールがタイ・ソンを告発した際に、タイ・ソンの残忍さを示す証人として名乗り出た。この証言が決定打となり、タイ・ソンはタイス伯爵位を剥奪された。その後、マーロールによって救出され、グインたちと合流した後にパロへと向かう。

パロに到着した後、しばらくはリンダたちを助けるためにクリスタルに滞在していたが、イシュトヴァーンが一千のゴーラ兵を率いてクリスタルへの入城を求めていると聞き、イシュトヴァーンと顔を合わせたくないマリウスはリンダやヴァレリウスとの協議の末に、イシュトヴァーンがクリスタルに滞在している間は、マルガのベック公の別邸へと避難することになった。しかしイシュトヴァーンがナリスの墓標のあるマルガに参拝しに来た時には、いち早くマール公爵領の中心都市マリアへと避難し、マール公の許に滞在している。

アムネリス・ヴラド・モンゴール[編集]

ゴーラ王妃にしてモンゴール大公。夫はゴーラ王イシュトヴァーン。長男はドリアン。父はモンゴール前大公ヴラド・モンゴール。母はヴラド大公妃アンナ。弟にモンゴール公子ミアイル。

豊かな金髪と美しい緑色の瞳、大柄でグラマラスな美女。男勝りの性格で、10代の頃から父ヴラドの右腕として一軍を率い、公女将軍と称された。物語の開幕当初は、その苛烈で冷徹な性格を評して〈氷の公女〉などとも呼ばれたが、その性格は父ヴラドの期待に応えるために無理をして装っていた部分もあったようで、物語が進むにつれ、恋に情熱を燃やす感情的な性格が表に出てくるようになった。アルド・ナリス、イシュトヴァーンの2人と激しい恋に落ちたものの、どちらも彼女が真実の愛を得るに至るものとはならず、却って彼女を不幸な運命へと導く結果となった。

アムネリスが物語に登場したのは、物語が開幕して直後のことであった。モンゴールによるパロ奇襲に端を発した黒竜戦役と時を同じくして、彼女は辺境ノスフェラスへの侵攻を命ぜられる。それはキタイの魔道師カル=モルがもたらした、恐るべきグル・ヌーの秘密を手中にし、モンゴールによる世界征服の野望の足がかりとするためのものであった。

だが、その侵攻の前に立ちはだかったのが、グイン率いるセム族であった。ノスフェラスの怪物イドを用いた奇策や、イシュトヴァーンを間諜とした奸計、そして幻の民ラゴン族の参戦により、アムネリスは守り役でもあるマルス伯を失うなど予想外の惨敗を喫し、ノスフェラスからの撤退を余儀なくされる。

トーラスへ戻った彼女に、父ヴラドはパロの王族、クリスタル公アルド・ナリスとの結婚を命ずる。それが彼女にパロの王位継承権を与えるための政略結婚であると理解したアムネリスは、モンゴール占領下のパロの首都クリスタルへと向かい、ナリスと対面する。その対面が彼女の運命を大きく変えていくことになる。

ナリスの美貌と洗練された挙措に、アムネリスはたちまち恋に落ちてしまう。ナリスもまた、アムネリスを〈光の公女〉と呼んで愛をささやき、政略結婚であったはずの2人は真実の愛で結ばれたかのように思えた。だが、それはナリスの策略であった。2人の婚礼の日、ナリスは巧みに身代わりをたて、暗殺されたように装って姿を隠す。その真相に気づかず、ナリスが殺されたものと信じたアムネリスは悲嘆にくれ、トーラスへと戻っていく。

だがしばらくして、身を潜めていたナリスが軍を率いて反乱を起こし、クリスタルを奪還したとの報がトーラスに届く。初めてナリスに騙されていたことに気づいたアムネリスは激怒し、自ら軍を率いて再びパロへと向かう。だが、黒太子スカール率いるアルゴス軍、沿海州海軍の参戦、さらには父ヴラドの急死、そしてゴーラの友邦であるはずのクムまでもが敵方として参戦したことで、彼女はなすすべもなく敗れ、モンゴールは滅亡、アムネリスはクムにて幽閉されることになる。

クムの首都ルーアン近くの都市バイアに幽閉されたアムネリスは、ナリスを真似てクム大公タリオを籠絡し、その愛妾となって油断させ、機を窺いつつ日々を送る。その彼女にチャンスをもたらしたのは、当時、盗賊の首領となっていたイシュトヴァーンであった。イシュトヴァーンの助力によってクムを脱出した彼女は、旧モンゴール勢力と合流し、モンゴール奪還の兵を起こす。イシュトヴァーンらの活躍により見事、トーラスを占領していたクム軍に勝利した彼女は、モンゴールの復活を宣言、亡き父を継いでモンゴール大公の地位に就く。

やがて、イシュトヴァーンとの恋に落ちたアムネリスは、戦功を重ねてモンゴールの右府将軍となったイシュトヴァーンと結婚、妊娠し、幸福の絶頂を迎えたかに思えた。が、その幸福感が彼女を盲目にしていたのか、イシュトヴァーンが次第に彼女を疎んじ始めていることに気づくことはなかった。

ユラニアの首都アルセイスを舞台としたクーデターと、それに続く戦役によるユラニア滅亡を経て、ユラニアに留まったイシュトヴァーンが自らゴーラの王位に就くことを宣言すると、彼のもとを訪れていたアムネリスはモンゴール大公としてそれを承認し、自らもゴーラ王妃となる。だが、そのことをモンゴール政府に認めさせるために戻ったトーラスで、思いもよらぬ事態が起こる。かつてのノスフェラス戦役で彼女が率いた軍が敗れたのは、当時傭兵であったイシュトヴァーンの裏切り行為があったからだとして、イシュトヴァーンが告発されたのだ。

半信半疑のまま、イシュトヴァーンをトーラスに迎えたアムネリスは、イシュトヴァーンの何気ない一言から、その告発が真実であることを知る。その後、トーラスの金蠍宮で行われた裁判で、イシュトヴァーンの自白を耳にし、彼女は茫然自失の状態に陥る。その時、イシュトヴァーンが密かに伏せておいたゴーラ軍が金蠍宮を急襲してこれを制圧、モンゴールはあっけなく敗れ、再び滅亡の憂き目を見ることになる。

なすすべもなくイシュトヴァーンに投降したアムネリスは、彼への激しい憎悪を抱いたまま、ゴーラの新首都となったイシュタールの塔に幽閉されることとなる。そして、その獄中で彼女はイシュトヴァーンの息子を産み落とす。夫への憎悪を込めて、その子に悪魔神ドールの子を意味するドリアンの名を与えた彼女は、息子をゴーラ宰相カメロンに託し、隠し持っていたナイフを自らの胸に突き刺して自害を果たした。

死の間際、アムネリスは、自分がイシュトヴァーンを許せずに憎んでいたのは、イシュトヴァーンがモンゴールを再度滅亡させたからではなく、自分の侍女であったフロリーを抱いたからであったことをカメロンに告げた。

スカール[編集]

アルゴスの前王太子。内縁の妻にグル族長グル・シンの娘リー・ファ。異母兄にアルゴス王スタック。父はアルゴス前王スタイン。母はスタインの愛妾リー・オウ。恋人にパロ聖騎士伯リギア。

黒髪、黒髭、黒く太い眉の精悍な顔つきの逞しい男。常に黒を基調とした衣服を身にまとっており、〈黒太子〉と呼ばれている。兄スタックに男児が誕生したことと、自らの病を機に王太子の座からは退いたが、〈黒太子〉という呼び名そのものは彼一代限りの通称として使用が認められている。信義に厚く、義理堅いが、草原の独特の価値観がその行動原理の根本にあり、しばしば中原の価値観を持つ人々とのあいだに軋轢を生じる原因ともなっている。

パロの王女を母に持つ兄とは違い、騎馬民族グル族出身の母を持つこと、そして彼自身、宮廷での生活は好まずに、主にグル族とともに草原での遊牧生活を好んで送っていることから、アルゴスの人民の中心をなす騎馬民族からの人気は非常に高いものがある。そのため彼の率いる軍は、アルゴス正規軍とは別に、騎馬民族によって構成される遊軍としての性格が強い。その騎馬民族特有の勇敢さと、常識に囚われない神出鬼没ぶりで、小規模ながらも世界最強の軍の1つとして怖れられている。

王太子時代は兄との仲も極めて良かったが、兄に男児が誕生してからは、アルゴス国民の間での彼の人気を兄が疎んでか、兄から猜疑の目を向けられるようになった。もっとも、スカール自身にはいまだ兄への悪感情もさほどなく、しばしば兄から暗殺者を送られることもやむなしとして受け入れている節もある。

スカールが物語に登場するのは、黒竜戦役勃発からしばらく経った頃のことである。騎馬民族軍を率いた彼は、黒竜戦役時にたまたまアルゴスを訪れていたパロの王族・ベック公ファーンを助け、パロ奪還へ向けての戦いを開始する。中原との間にそびえる、踏破不可能と云われたウィレン山脈越えによる奇襲を成功させた彼は、クリスタル公アルド・ナリスが起こした反乱鎮圧のためにクリスタルへ向かっていたアムネリス軍を急襲し、これを打ち破る。さらにナリス軍と合流してモンゴールの首都トーラスへと攻め入り、これを陥落させ、モンゴールの滅亡に大きな役割を果たすこととなる。

このトーラスの金蠍宮で偶然手にした文書が、彼の運命を大きく変えることとなる。そこには、失敗に終わったモンゴールのノスフェラス侵攻の動機となった、グル・ヌーについて記されていた。そのグル・ヌーの秘密を探るべく、彼は数千人のグル族のみを率いてトーラスを密かに脱出し、ケス河を渡ってノスフェラスへと入る。

そこで出会ったセム族の助力を得て、グル・ヌーを目指したスカールだったが、ノスフェラスの苛酷な気候と、そこに住まう怪物たちが彼ら一行を苦しめる。そしてついに、志半ばで倒れるか、という寸前に、彼の前に世界三大魔道師のひとり、賢者ロカンドラスが現れる。ロカンドラスに誘われ、彼はグル族と別れてグル・ヌーへと向かう。そして、そこで彼は、グル・ヌーの地下に眠る星船の秘密を目の当たりにする。このことにより、彼は世界に対して野望を燃やす様々な人物や魔道師の興味の対象の中心人物の1人となっていく。

ロカンドラスのバリヤーの効果で、生身の人間としては初めて、スカールはグル・ヌーからの生還を果たす。だが、おそらくは放射線と思われるグル・ヌーの瘴気は、ロカンドラスの力でも完全に防ぐことができず、それによってスカールの健康は著しく蝕まれてしまう。

わずかな部下に守られながら、スカールは病身をおして故国を目指す。だが、その途上、イシュトヴァーン率いる赤い街道の盗賊たちに襲われる。その戦いの中で、リー・ファがスカールの身代わりとなって命を落とす。スカールは最後の力を振り絞ってイシュトヴァーンに重傷を負わせ、かけつけたパロの国境警備隊によって保護される。

警備隊の手によってパロの首都クリスタルへと連れてこられたスカールは、そこで手厚い介護を受ける。この時、リギアと恋仲となる。パロの優れた医学によって、やや健康を持ち直したスカールだったが、ノスフェラスで得たスカールの知識を狙う魔道師カル=モルの亡霊や、ナリスの手から秘密を守るため、病身を押してクリスタルを脱出し、アルゴスへの帰国を果たす。

兄スタックに男児が誕生していたこともあり、スカールは王太子の座を退いて、グル族のもとで療養生活を送る。もはや彼の命もこれまで、と思われたが、彼の前に現れた魔道師グラチウスの黒魔道による治療により、彼は奇跡的に健康を回復し、再び以前の逞しさを取り戻すに至る。

やがて、マルガで隠遁生活を送っていたナリスの要請を受け、スカールは彼のもとを密かに訪れる。そこでスカールは、キタイによる中原侵略の危機と、それを防ぐべく反乱を起こさんとするナリスの決意を知る。その決意に心動かされた彼は、ナリスにノスフェラスで彼が知った秘密を告げる。ナリスがリー・ファの仇であるイシュトヴァーンと意を通じていることを知り、いったんは激怒したスカールだったが、最後にはナリスへの助力を約してマルガを後にする。

パロ内乱が勃発すると、スカールは約束通りに騎馬民族軍を率いて、危機に陥ったナリスの援軍に現れる。だが、その際にナリスが行った佯死による奸計に、味方までをもあざむくものとして激怒したスカールは、そのまま自軍をまとめて去っていく。

それ以後のスカールは、妻の仇であるイシュトヴァーンをひたすらつけ狙うようになる。パロ内乱に参戦したイシュトヴァーン率いるゴーラ軍を急襲した彼は、イシュトヴァーンとの一騎討ちで勝利するが、あと一歩のところで討ち果たすことができずに逃してしまう。そして、この頃から再び病魔がぶり返し、彼の体調は急速に悪化していく。

それでも執念を見せ、イシュトヴァーンをつけ狙う彼は、ルードの森でイシュトヴァーンのもとから逃げ出してきたグインを救出する。実はそれは、グル・ヌーの秘密を知るスカールと、世界の謎の中心であるグインとが出会えば、世界の秘密の鍵の一端が明らかになると考えたグラチウスの策謀によるものでもあった。だが、グインが記憶を失っていたためか、その時には何も特別なことは起こらなかった。

なおも執拗にスカールとグインとを手中に収めようとするグラチウスの手から、魔道師イェライシャらの助力もあって、2人は逃れることに成功する。スカールは、彼の病の治療を行おうというイェライシャの申し出を受け入れる。 やがてイェライシャの治療が功を奏し、体調もある程度回復して草原地方に戻ったスカールは、あるとき盗賊に襲われていたヨナを救う。ヨナからヤガに向かっていることと、グインが自分と会ったことを忘れてしまったことを聞かされたスカールは、以前から戦うミロク教徒の出現に危機感を抱いていたこともあり、ミロク教の聖地ヤガの実情を調査するために、部下と共にヨナに同行してヤガへと向かう。

そして部下をヤガ郊外に待機させ、ヨナと二人だけでヤガに潜入したスカールはヨナの勧めで「エルシュ・ハウ」という偽名を名乗ることになる。そしてヤガで宿を探している最中に、ヤガの商人であるイオ・ハイオンと出会い、イオの勧めで彼の屋敷に泊まることになる。しかし、イオの屋敷の使用人であるエルランという子供から「一日でも早くこの屋敷から立ち去ったほうがいい」と忠告され、イオに不信感を抱く。また、スカールはエルランが男装した女の子ではないかと疑う。そしてスカールの予感は的中し、宿を見つけてイオの屋敷から立ち去ろうと部屋で荷物を制している最中にイオが現れ、ミロク教の教えを理由にヨナと共にイオの屋敷の「虜囚」にされてしまう。

しかし、行き先を告げれば外出は許可されたので、スカールたちはヤガの探索を続行していたが、突然ヴァレリウスの命令で派遣されてきた一級魔道師バランと遭遇し、クリスタルの現状を知る。そして、イオがヨナを探していた知人に会わせる為にとある礼拝所に連れて行ったので、スカールは密かに後をつけ近くに潜伏していたら、ヨナが必死で逃げてきたのですぐに合流し、二人でヤガからの脱出を図る。

そしてヨナと共にヤガ郊外に脱出し、ヨナを部下に託すとスカールはフロリー親子を次に脱出させる為にヤガに戻る。そしてフロリーの借家でフロリー親子と対面すると、事情を説明して共に脱出を図る。しかし、途中で同行していた下級魔道師サリウからヨナが突然現れた謎の大女に攫われ、しかもヨナに同行させていた部下たちを皆殺しにされたと聞かされた直後に、部下を率いたイオに遭遇してしまい、イオを隙を見て胴を両断したものの、イオは死なずになおもスカールたちに追いすがってくる。やがてフロリーが地中から現れた苔だらけの怪物に捕まってしまい、足止めされているところに突然ブランが現れて共にその場を離脱したが、フロリーを助け出すことはできずにブランやスーティと共にヤガ郊外に脱出する。

そこで今後のことをブランと話していると、突然グラチウスが現れて《新しきミロク》の背後にはキタイの竜王ヤンダル・ゾッグがいることを告げ、スカールに助力を申し出る。しかし以前からグラチウスに不信感を抱いていたスカールはその申し出を断る。その後、またもイェライシャが現れてグラチウスを追い払う。そしてスカールとブランは、イェライシャからある提案を持ちかけられる。

その他の人物[編集]

パロの人物[編集]

ヴァレリウス
パロ宰相、パロ魔道師ギルドの上級魔道師。背は低く、黒髪、灰色の目。飄々とした皮肉屋である反面、意外と世話好きで、次第に苦労性の一面が表に出てくるようになった。なぜか大魔道師に気に入られる傾向があり、《ドールに追われる男》イェライシャを師と仰ぐほか、〈闇の司祭〉グラチウスや大導師アグリッパとも知己を得た数少ない人物でもある。感情を表に出さない魔道師としては異例なほどに感情的な面があり、不犯の掟を持つ白魔道師でありながら、リギアに対して恋心を抱いていたこともある。解説本『グイン・サーガ・オフィシャル・ナビゲーションブック』の企画で実施されたキャラクター人気投票では4位となるなど、主役級の人物に匹敵するほどの人気を読者から集めており、実際、その存在感は現在では彼らと遜色ない。
魔道師ギルドの序列としては上級魔道師(当初は一級魔道師だったが、のちに昇格)に過ぎないが、最終巻にて「カロン大導師は入寂してしまい、導師になれる実力を持つ者はもはやヴァレリウスしかいない」、とパロ魔導師ギルドで事実上最強であると明言された。事実、その魔力は下級魔道師をあっさりと消滅させ、グラチウスとイェライシャの魔力の衝突から五人の部下を守るほどの水準に達している。また正伝103巻ではイェライシャからグラチウスの、あるいはイェライシャ(イェライシャ自身はグラチウスの七割)[7]の三割の魔力を持っており、これは同じ年齢だった時の自分やグラチウスより上とまで言われている。魔道師の魔力は魔道師同士なら数字で比較できる、という言はたびたびあったが、はっきり数値の比較が行われたのは全体通じて異例である。また、当人は結界など防御的な魔術が得意だと認識していたようだが、イェライシャからどちらかといえば攻撃型であると助言されている。
サラエム出身の孤児、アムブラで当時のパロ宰相リヤの息子リーナスに声をかけられる。ルールドの森に住む魔道師ロー・ダンに拾われて名を与えられ、その後に出会った魔道師メイ・ファンの助けと助言により魔道師になることを志す。16歳の時にリヤの援助を受けて魔道師としての修業を始める。修行を始める年齢としては極めて遅い部類に入る。祖国パロとリーナスをこよなく愛し、リーナスの忠実な家臣として彼を補佐するかたわら、ナリスが秘める野心を敏感に察知して、王族の臣下としての忠義は守りながらも、彼に対する警戒心を常に抱いていた。が、拷問によりナリスが手足の自由を失った際に、その救出が遅れたことに自責の念を抱き、以後、次第にナリスの忠実な側近となっていく。
このころまでは身分は準貴族・ヴァレリウス卿でしかなかったが、ナリスの後を継いでパロ宰相となるに際して伯爵に上げられる(当初は公爵も示された)。国王の側近として働く一方で、ナリスの反乱を密かに主導し、ナリスが神聖パロ王国の独立を宣言した際には神聖パロ王国宰相となる。反乱終結後は、リンダ聖女王のもとで再びパロ宰相に就任し、疲弊しきったパロの再建に取り組むとともに、パロを救って行方不明になったケイロニア王グインの捜索にもあたっていた。グイン一行のタイス脱出を援助した彼は、一行をパロへと案内する。
ヨナがヤガに旅立って少したった頃、イシュトヴァーンが一千のゴーラ兵を率いてクリスタルへの入城を求めた際、ヴァレリウスはリンダとマリウスと協議し、自ら国境に赴きイシュトヴァーンと会談し、二百の兵のみを連れてクリスタルに入城することを認めた。その後、イシュトヴァーンとの会談の際に、フロリーとスーティの話題を持ち出され、二人に合わせて欲しいと告げられる。しかしヴァレリウスは、フロリー親子はクリスタルから旅立ったとだけ告げて、その行き先までは明かさなかった。その後、マルガにあるナリスの墓標に参拝したいというイシュトヴァーンの要望を断りきれずに、イシュトヴァーンやリンダと共にマルガへ向かうことになり、その準備に多忙となる。
そしてマルガでの参拝を終えた後、ヤガに派遣したバランとサリウ率いる二十名もの魔道師部隊が全滅したのを感知して驚愕し、その対応に苦慮している所にさらにクリスタルでのイシュトヴァーンとの別れの宴の最中に、イシュトヴァーンが話したグインの最近の近況の情報を自分がまったく掴んでいなかったことに衝撃を受ける。
リギア・レリウス・アルリウス
パロの聖騎士伯。黒髪、長身、引き締まった豊満な体つき。父は聖騎士侯ルナン、母はエレナ。愛馬は牝馬マリンカ。武人らしくさっぱりした性格の持ち主で、女性でありながら聖騎士となった。アルド・ナリスとアル・ディーンの乳兄弟で、幼少時は彼らとともに実の姉弟のようにマルガ湖畔の離宮で育った。
病に冒されたスカールが一時クリスタルに滞在した際に、彼と恋仲になった。恋多き奔放な女性としても知られるが、それらの恋はスカールとのもののように真剣なものではなかったようである。
ナリスに対して絶対の忠誠を誓っており、黒竜戦役後のモンゴール占領時には、その体を兵に与えてナリスをクリスタルに潜入させたり、モンゴールの隊長カースロンを籠絡して裏切らせるなど、ナリスのためであればその身を投げ出すことも厭わない。だが、自分がナリスを信頼するほど、ナリスが自分を信頼していないことを自覚してもおり、そのことでセンチメンタルな絶望感にしばしば捕らわれるような一面もある。
パロ内乱においては、ナリス側の武将の一人として参戦し、活躍したが、ナリスの佯死の計画を知らされていなかったことに衝撃を受け、一時的に軍を離脱する。イシュトヴァーンによるマルガ攻撃の直前に軍に復帰したものの、ナリスの死をきっかけとして再び軍を離れ、放浪生活を送るスカールを求め、自らも放浪生活に入る。その後、グイン、マリウスと再会したことをきっかけとして、彼らとともにパロへ向かう。
グインらと行を共にする間、リナという偽名を名乗って旅芸人に扮することとなった。クムの「快楽の都」タイスでは女剣闘士として闘技への出場を余儀なくされたものの、見事優勝して女闘王の称号を得た。そしてグインたちと共にタイスを脱出し、パロへ向かった。
グインがケイロニアへの帰還の途に付いた頃に、愛するスカールを探すために再びパロを離れて旅立った。
ヨナ・ハンゼ
パロ宰相代理。ヴァラキア、カルア出身。父は石屋のハンゼ、母はイリシア、姉はルキア。黒髪、灰色の目、痩身。敬虔なミロク教徒。幼いころから学問に対して天才的な才能を発揮し、12歳の時、知り合いになったイシュトヴァーンの助力もあってリヤ大臣に拾われ、パロへ移住した(外伝『ヴァラキアの少年』)。ヴァレリウスの弟分ともいえる存在であり、現在ではその右腕としても活躍している。オー・タン・フェイ私塾、王立学問所で学び、のちに王立学問所史上最年少の助教授となった。
20歳の時、カラヴィアのランの紹介によりアルド・ナリスと出会い、その才能を認められて、ナリスとともに古代機械の研究を行うようになる。パロ内乱にあたってはナリスと行動をともにし、神聖パロ王国設立後は、その参謀長となる。内乱の終結に際しては、グインの命により古代機械を操作して、その機能を停止させた。その後、パロ宰相代理としてリンダ聖女王を補佐していたが、本人は学問に身を捧げる生活を望んでいた。
記憶を失ったグインがパロを訪れた際には、その治療の中心的な役割を果たした。グインがケイロニアへと帰還した後、フロリー親子の動向を探ることも含めて、以前から深い関心を抱いていたミロク教の聖地ヤガに向かう。しかし、草原地方で盗賊たちに襲われ窮地に陥るが、通りかかったスカールたちによって救われる。そして以前から戦うミロク教徒の出現に危機感を抱いていたスカールの提案で、ヨナはスカールたちと共にヤガへの旅を続ける。
そしてついにスカールと二人でヤガに到着するが、自分の知識とヤガの実情のあまりの違いに衝撃を受ける。そして宿を探していたところで出会ったイオ・ハイオンの屋敷に滞在するが、イオによってスカールと共にイオの屋敷の「虜囚」にされてしまう。それでも屋敷から外出することは許されたので、ヤガの実情を探っているうちに偶然にもフロリー親子と再会し、フロリーたちの現状を聞いた。その後、ヨナをクリスタルに連れ戻す為にヤガに派遣された一級魔道師バランからクリスタルの現状を聞き、バランの手引きで探していた知人のヨブ・サンとその娘マリエと再会したが、二人は既に《新しきミロク》というミロク教の新勢力によって洗脳されて操り人形と化していた。そこにイオ・ハイオンが現れて、ヨナをミロク大神殿に連れ去ろうとしてバランを魔道で焼き殺したのを目撃して嘔吐する。そのまま連れ去られるかにみえたが、一瞬の機転でイオの元から脱出し、近くで様子を窺っていたスカールと合流する。そしてヤガ郊外に出たところでフロリー親子をヤガから脱出させる為にヤガに戻ったスカールと別れ、スカールの部下たちに守られてヤガから離れようとしていたところを、突然現れた『ミロクの聖姫』と名乗るジャミーラによってスカールの部下たちを皆殺しにされ、そのままジャミーラによってミロク大神殿に連れ去られた。
アモン
パロ王子。父はパロ前聖王レムス。母はレムス妃アルミナ。実はグル・ヌーに巣食っていた邪悪な宇宙精神生命体で、キタイの魔道竜王ヤンダル・ゾッグの手によって母アルミナの胎内に植え付けられ、パロ内乱勃発前夜に誕生した。生誕時は、中心に一つ目を持つ渦のような存在だったが、まもなくして人型を取るようになり、色合いをさまざまに変化させる髪や瞳を持つ美少年へと、わずか数ヶ月の間に成長した。強力な魔力の持ち主であり、ヤンダル・ゾッグとともに父レムスを傀儡として、クリスタルを魔都と化した張本人でもある。
パロ内乱終結時には、グインの奸計にはまり、グインとともに古代機械でノスフェラスへ飛ばされる。続いてグル・ヌーから飛び立った星船《ランドシア》での戦いで再びグインの奸計にはまり、自爆を命ぜられた《ランドシア》に閉じこめられたまま、宇宙空間を漂流しているものと思われる。
アルミナ・アル・ジェヌス・アルドロス・ヴァレン
パロ前聖王妃。金髪、青い瞳。夫はパロ聖王レムス一世。父はアグラーヤ王ボルゴ・ヴァレン。母はアグラーヤ王妃デュアナ。息子にアモン。妹にエリス、ロザリア、ヤスミナ。
ノスフェラスからアルゴスへ帰還途中のグイン一行を、彼女の御座船が救出したことがきっかけでレムスと知りあい、まもなく婚約した。パロの首都クリスタルでの準備期間を経た後にレムスと結婚。まもなくして長男アモンを出産するが、実はヤンダル・ゾッグが植え付けた精神生命体であったアモンに妊娠中から精神を操られ、精神と身体の双方の健康を著しく損ねてしまう。パロ内乱終結後は夫レムスとともに軟禁状態にあったが、母デュアナによる看病のかいもあって、次第に身体の健康は取り戻しつつあるようであるが、心は正気には戻ってはいない。現在は軟禁を解かれ、母と共にアグラーヤへと戻り療養生活を送っている。
ファーン
パロの公爵。ベック公。妻はマール公爵妹フィリス。息子にルチウス。父はパロ前聖王アルドロス三世弟アルディス王子[8]。弟にアラン(夭逝)。パロ聖騎士団総司令官にして大元帥。謹厳実直にして正義感が強く、人に対する思いやりにあふれ、人々からの信頼は厚い。
黒竜戦役時にはアルゴスを訪問中で難を逃れ、アルゴス黒太子スカールとともにアルゴス軍を率いてパロ奪還戦に参戦し、功を上げた。パロ内乱時には、レムスとナリスが従兄弟同士で争うことを憂慮し、両者の和解のために動いたが、レムスを訪問した際にヤンダル・ゾッグの魔道である《魔の胞子》を植え付けられて精神を操られ、レムス側総司令官として戦うこととなった。その魔道の影響によって精神を著しく病んでしまい、内乱終結後は意識不明のまま療養生活を送っている。
リーナス
パロの副宰相、官房長官。聖騎士伯。父はパロ元宰相リヤ公爵。妻はオヴィディウス聖騎士侯妹ミネア。2人の娘。金髪、青い目。王族の血を引く名家の出身らしく、性格はおっとりとして、極めて気楽なお人好し。
幼少時は利発な少年であり、また若いころは切れ者とも呼ばれ、ナリスのパロ帰還に際して一役買うなどモンゴール占領下からのパロ奪還戦においても功績を挙げたが、その名声は忠臣であったヴァレリウスの能力に負うところが多く、本人の能力としては平凡なものに留まっていた。パロ内乱が勃発する直前に、国王派への支持を明らかにしたことからヴァレリウスに毒殺されかかり、それに便乗した何者かによって本当に毒殺されてしまうが、ヤンダル・ゾッグの魔道によりゾンビーとなって復活、レムス側の武将として一軍を率いて内乱に参戦した。その戦いの最中に、グインの持つスナフキンの魔剣によって切られ、崩壊した。
フェリシア
パロの貴婦人。弟にサラミス公ボース、伯爵ルハス、子爵ラウス。傾国の美女として知られ、かつてアル・リース王子(のちのパロ前聖王アルドロス三世)と、その兄アルシス王子とが、彼女の愛と王位を巡って争い、内乱を引き起こしたことがある。その際には、彼女がケイロニアの大使と結婚することを宣言したことが、内乱が終結するきっかけともなった。恋多き女としても知られ、十数回の離婚と結婚を繰り返したが、それでも容色は衰えることなく、長期にわたってパロ宮廷一の美女の名をほしいままにした。アルド・ナリスとは一時、恋仲となり、彼の初体験の相手ともなった。ナリスに対する思い入れは強く、ナリス逝去の際には、未亡人の衣装でナリスの妻リンダの前に現れるという、挑発めいた行動をとったこともある。
アドリアン
パロの聖騎士侯。父はカラヴィア公アドロン。金髪、青い目の美青年。年若ゆえ未熟なところはあるが、正義感にあふれる好青年。長らくリンダとの結婚を夢見ていた彼女の崇拝者であり、その崇拝はリンダがナリスと結婚した後も変わることはなかった。パロ内乱の際には、パロ国内で強大な軍事力を持つカラヴィアに対する人質としてレムスに捕らえられ、長く厳しい幽閉生活を送る羽目となった。グインによってリンダが救出された際にも、リンダの無二の親友でもあるセム族の娘スニを救うために、自らは再び捕らわれの身になるなど、リンダに対する献身ぶりは際立っている。内乱終結後は、精神的に大きく成長したたくましさも見せ始めており、それまでの子爵の地位から聖騎士侯に抜擢されて、パロの軍事の中心人物となっている。131巻「パロの暗黒」にて竜頭兵に殺される。
ルナン
パロの聖騎士侯。娘に聖騎士伯リギア。妻はエレナ。古風な武人であり、性格は謹厳にして頑固一徹。アルド・ナリスの父アルシスの忠実な部下であり、アルシスと弟アル・リース(のちのパロ前聖王アルドロス三世)が争った際には、聖騎士侯の中でただひとり、アルシスに付き従った。その後もその忠誠は変わることなく、ナリスの守り役として、彼に持てる愛情と忠誠のすべてを注ぎ、黒竜戦役時にもつねにナリスの傍らにあって、パロ奪還に大きな功績をあげた。パロ内乱時にもナリス側の有力な武将としてよく戦ったが、ナリスの死後は痴呆の症状を示し、まもなく彼に殉じて自ら命を絶った。
リヤ
パロの公爵。元宰相。息子に聖騎士伯リーナス。パロ前聖王アルドロス三世の股肱の臣であり、長く彼のもとでパロの内政・外政両面の中心となっていた。若者の養育にも熱心で、ヴァレリウスやヨナ・ハンゼを引き取り、優れた教育を施した。
黒竜戦役の際、古代機械を用いて、レムスとリンダを盟邦アルゴスへ転送しようとしたが、操作を誤って座標を狂わせ、モンゴール辺境のルードの森へと転送してしまい、その直後にモンゴール兵によって殺害された。
だが、のちにヤンダル・ゾッグから聞いた話としてレムスが述べたところによれば、リヤは外交使節としてキタイに赴いた際に、ヤンダル・ゾッグによって《魔の胞子》の種を植え付けられており、黒竜戦役時にはキタイの傀儡となっていた。座標の狂いは、アルゴスに設定した座標の狂いではなく、レムスとリンダをキタイへと転送しようとした座標の狂いであったというのが真相。息子のリーナスも操作されていた可能性が指摘されている。
ラン
神聖パロ王国クリスタル義勇軍司令官。オー・タン・フェイ私塾塾頭。カラヴィア出身。妻はレティシア。一子あり。ヨナ・ハンゼとは親友。右手の指が2本欠けている。若いころからクリスタルの下町アムブラ地区の学生組織のリーダー的存在であり、黒竜戦役後のナリスの反乱の際には、学生組織を率いてモンゴール軍に対抗し、反乱の成功に貢献した。それを機にナリスと知己を得て、彼を助けて古代機械の研究を行うようになる。パロ内乱に際しては、アムブラの市民や学生有志によって結成されたクリスタル義勇軍の司令官となってこれを率い、ナリス側として参戦したが、イシュトヴァーン軍によるマルガ攻撃の際に戦死した。
ギース
パロのヤヌス神殿の先々代祭司長兼神殿長。宗教侯。サラの父親でもあるが、黒竜戦役にてクリスタルのギースの家に潜伏していたアルド・ナリスを、サラがモンゴールに密告して捕まった事で、サラを自殺に見せかけて殺害した。その後、第二次黒竜戦役終結後にパロに帰還したレムスの戴冠式を取り仕切った。
ヤルー
ヤヌスの塔の祭司で魔道士。アルド・ナリスの密命を受け、アルゴス王スタックのもとへ向かう。スカールと対面した際、スカールにナリスの戦略を告げ、その直後に不興を買ったスカールに腹を殴られるが呻き声一つ上げなかった。
シモン
アルド・ナリス付きの小姓で、ナリスがモンゴールの虜囚としてクリスタル・パレスに軟禁されていた時に側に仕えていた。
テルシデス
パロの伯爵にして、聖騎士。ベック公ファーンの右腕を務めており、黒竜戦役の際もファーンに同行してアルゴスに滞在していた。以降もファーンやスカールに同行してウィレン山脈越えも成し遂げ、パロに帰還した。
ヤーナ・デビ
パロ王家の出身にして、パロのサリア神殿の祭司長兼尼僧長。
ディラン
アルド・ナリス配下の一級魔道師。後にパロ魔道師ギルドの上級魔道師となる。
スニ
パロ聖女王リンダの侍女。ノスフェラスの矮人族セム族の娘で、大族長ロトーの孫娘。ノスフェラスから対岸のルードの森に渡り、薬草を採取しているところをモンゴール兵に捕らわれ、その獄中でリンダと出会う。以後、リンダとつねに行動をともにし、故郷を離れてパロへ赴き、そのままリンダ付の忠実な侍女となった。セム族であるゆえ、知能はやや劣ってはいるものの、その性格は忠義と優しさにあふれており、リンダの孤独を癒す最大の友となっている。パロ宮廷にあっては異色の存在だが、その忠誠ぶりや愛らしさで「さしもすれっからしの」パロ宮廷人の心をも打たずにはいられない存在ともなっている。
パロ内乱の際にリンダと共に幽閉され、魔道をかけられて昏睡状態に陥っていたが、グインによってリンダと共にクリスタルを脱出した後に、ヴァレリウスの魔道で意識を取り戻した。
王立学問所の学生
主にタンゲリヌス・ヌヌス・ビウィス・モーリス。このほかにレティシア、バン・ホーなど。黒竜戦役後のナリスの反乱の際には、ランと共にアムブラの暴動を煽動した。アムブラ弾圧後、ランとヨナを除いて全員学生を辞めてバラバラになった。
アッシャ
パロの下町の宿屋の娘。鮮やかな赤毛を持つ。パロにおける竜頭兵の侵略により両親が虐殺されていたところをヴァレリウスたちに助け出される。竜頭兵らへ復讐する力を得るためヴァレリウスに魔道を師事する。魔道について有り余る才能を持ち、一時は力を暴走させて山奥の村を壊滅させてしまう失敗を犯すも全ての過去を背負ったうえで魔道師として生きていくことを決める。

ゴーラの人物[編集]

ゴーラ王国の人物[編集]

カメロン・バルザディ
ゴーラ王国宰相。ヴァラキア出身。黒髪、黒い瞳。鍛え上げた長身に口髭を蓄えた、剛毅にして瀟洒な男。独身。祖国ヴァラキアでは海軍提督にして、主力船オルニウス号の船長をつとめていた。領主であるヴァラキア公ロータス・トレヴァーンや部下たちからの信頼は極めて篤く、部下たちからは「おやっさん」として親しまれていた。冷静沈着だが、自ら間諜めいた行動を起こすような無鉄砲な一面もある。
まだ幼かったイシュトヴァーンと出会って、その才気にほれ込み、息子のように可愛がって、いずれは自分の後継者にと考えていた。長い別離の後でイシュトヴァーンがモンゴールの将軍となったことを知るや、自らイシュトヴァーンのもとを訪れ、その後ヴァラキアを出てモンゴールに伺候するようになった。その際、オルニウス号の乗組員の多数が、カメロンとともにモンゴールへやって来て私設軍隊ドライドン騎士団を結成したことも、彼の人望の厚さを物語るエピソードとなっている。
武人としては海戦が専門ながら、陸戦もそつなくこなし、ゴーラの動乱の際には陸軍を率いてクム大公タリオを討ち取ったこともある。知性豊かで弁舌もたち、イシュトヴァーンが反逆の容疑で告発され、トーラスで裁判を受けたときには、その弁護人として強力な論陣を張ってみせた。しかし、その弁護もサイデンに憑依したアリストートスの亡霊によってイシュトヴァーンが狂乱したために無意味となり、カメロンはイシュトヴァーンを救うためにサイデンを斬り殺す。それが発端となりトーラス動乱が勃発し、モンゴールは再度滅亡した。
イシュトヴァーンに対する愛情は今も変わらないようだが、イシュトヴァーンが時折見せる冷酷を苦々しく思ってもおり、それが彼の最大の悩みとなっている。現在は宰相として、イシュトヴァーンに代わる実質上の施政者となり、内政・外政に忙しい日々を送っている。
イシュトヴァーンの息子スーティと、その母フロリーの存在が明らかになった際には、ブランにフロリーとスーティを探しだし、イシュタールに連れてくるように命令した。ブランはそれを果たせずに帰還したが、その直前にイシュトヴァーンにフロリーとスーティのことを話し、二人がパロに向かったことを告げる。やがてパロに送り込んだ間者から、フロリーとスーティがヤガに向かったことを知り、ブランに再度フロリーとスーティを連れてくるように命令し、ブランをヤガへ向かわせた。その直後、イシュトヴァーンが密かにパロに向けてイシュタールを出発した際には、イシュトヴァーンからゴーラを捨てて一緒に来ないかと誘われ、少なからず心を動かされた。しかしその時、ケイロニアからの特使の一団がやって来るという知らせが届き、苦悩の末イシュタールに残ることとなった。
イシュトヴァーンがパロを占領し、クリスタルパレスに居座り続けると、これを諫めるためにクリスタルへやって来るが、蘇ったナリスに傾倒し覇道を行くイシュトヴァーンはカメロンの言を耳に入れず、逆にイシュトヴァーンによって刺殺される(135巻『紅の凶星』)。
アリストートス
モンゴール軍師、参謀長。パロの寒村モルダニアの出身。片目がつぶれ、背骨が曲った、矮躯の醜い男。独身。
サイロンの郊外で占い師を営んでいた際に、そばを通りかかったイシュトヴァーンに声をかけ、彼にモンゴールを足がかりにゴーラを手中にするよう献策する。それをきっかけに彼の軍師となり、モンゴール復活後は、モンゴールの軍師として戦いのみならず、さまざまな策謀、陰謀を巡らせるようになった。
性格は極めて陰険かつサディスティックであり、トーラス郊外のミダの森での盗賊仲間の惨殺事件や、ユラニアの首都アルセイスの紅玉宮での凄惨なクーデターの首謀者でもある。イシュトヴァーンに心底惚れ込んでいたが、それが次第に彼に対する執着心へと変わっていったことが、アリストートスの歪んだ性格をさらに助長することとなった。それがイシュトヴァーンの周囲の人々への嫉妬心ともなり、イシュトヴァーンが可愛がっていた少年リーロの暗殺事件を引き起こすことともなる。
それらの悪行は、ゴーラの動乱のさなかについにイシュトヴァーンの知るところとなり、開催された秘密裁判の場で、イシュトヴァーンによって斬殺された。が、その後も、イシュトヴァーンが反逆の容疑で告発された際に、亡霊として証人サイデンに取り憑いてイシュトヴァーンを狂乱させ、彼の弁護をしていたカメロンを激昂させるなど、イシュトヴァーンを苦しめ続ける存在となっている。
マルコ
ゴーラの准将。イシュトヴァーンの第一の側近にして近衛長官。ヴァラキア出身。独身。ヴァラキアではカメロンの部下としてオルニウス号に乗り組んでおり、カメロンがモンゴールへ伺候したのに伴い、モンゴールへ移住した。移住当時はカメロンの私設軍隊ドライドン騎士団の副団長でもあった。その後、カメロンの命によりドライドン騎士団の籍を抜けてイシュトヴァーンの親衛隊に入り、イシュトヴァーンの側近として、マルガでのイシュトヴァーンとナリスの秘密会談の際にもただひとり同行した。ゴーラ建国後も、遠征には常にイシュトヴァーンの副官として従軍するが、王や若い武将たちの行動に心労が絶えない。
イシュトヴァーンによるカメロン殺害の場面を見たこともあり、ドライドン騎士団ゆかりで家族のいない者たちとカメロンの遺体と共にイシュトヴァーンと袂を分かち、復讐を誓う。
ブラン・クィーグ
ゴーラの准将。カメロン率いるドライドン騎士団の現副団長。ヴァラキア出身で、以前はカメロンが船長を務めていたヴァラキアの軍船《オルニウス号》で水夫長を務めていた。ブランは通称で、フルネームはブラン・クィーグ。ヴァラキア時代からのカメロンの右腕であり、カメロンがモンゴールへ伺候したのに伴い、モンゴールへ移住した。ゴーラ建国後、正式に武将となりカメロンの補佐を務めていたが、イシュトヴァーンの息子スーティとその母フロリーを保護する特命を受け、パロに向かうグイン一行に傭兵スイランとして加わる。グインも認めるほどの剣の使い手であり、タイスで活躍する。パロ到着前に任務遂行を諦め、グインに別れを告げてゴーラに帰還する。カメロンに事の次第を報告した後はしばらく休息していたが、やがてカメロンからフロリーとスーティがヤガに向かったことを聞かされ、再度フロリーとスーティをイシュタールに連れてくるよう命令を受け、百名の部下と共にヤガへと旅立った。
そしてヤガに到着して、ヤガの実情の調査とフロリー親子の所在を探っている内に、遂にフロリー親子の居場所を突き止める。しかし事態は急変し、ヤガから脱出しようとしていたスカールとフロリー親子が《新しきミロク》の手先である泥の怪物によって足止めされ、泥の怪物の手がフロリーの足を捕まえたのを見かねて助けに入る。そしてフロリーの必死の懇願でスーティをスカールと共に託され、フロリーの身柄を《新しきミロク》から奪還することも叶わずにヤガから脱出する。そしてヤガ郊外で、スカールと共にヨナとフロリーの奪還とスーティの今後について話し合っているところに突然グラチウスが現れ、スーティの身柄をグラチウスに預けろという取引を持ちかけられる。だが直後にイェライシャが現れてグラチウスを追い払った後、今度はイェライシャからの提案に耳を傾ける。
ワン・エン
ドライドン騎士団の切れ者、薄い眉を持つ。ゴーラ王の神託を受けたイシュトヴァーンに、傭兵時代の裏切りがモンゴールで露見した事実を告げる。
アストルフォ
ドライドン騎士団の老騎士。「髭の騎士」、知的で篤実な性格で若者達の監督者。ヴァラキア海軍時代は「竜巻」の異名を持つ英雄として知られていた。
アルマンド
ドライドン騎士団員。「楽器の騎士」、肩に届く金髪の巻き毛の美青年。生真面目な性格で弦楽器を愛する。
ヴィットリオ
ドライドン騎士団員。「巻き毛の騎士」、アルマンドの同期。黒髪の巻き毛の伊達男。要領がよく女好き。
デイミアン
ドライドン騎士団員。「大剣の騎士」、ノルン海の沿岸の生まれで元海賊。銀髪白皙。
ミアルディ
ドライドン騎士団員。「斧の騎士」、デイミアンと同じく北方人の元海賊。長くもつれた火のような赤髪。デイミアンと共にカメロンに惹かれ部下となる。
シヴ
ドライドン騎士団員。「黒い騎士」、南方クシュ出身の寡黙な青年。黒檀のような漆黒の肌を持つ。元奴隷でカメロンに助けられた。高い戦闘能力を持つ。
アリサ・フェルドリック
モンゴールの貴族の娘。黒髪、青い瞳。父は元アムネリス旗本隊隊長フェルドリック・ソロン。敬虔なミロク教徒。イシュトヴァーンが反逆の容疑でトーラスで裁判にかけられた際、証人として出廷した父の付き添いとして物語に登場した。その直後、父を目の前でイシュトヴァーンに斬殺された。それからまもなくして、父の仇としてイシュトヴァーンの命を狙うがあえなく失敗。その時、イシュトヴァーンの内に潜む孤独と絶望に気づき、ミロク教の教えに基づき、彼を救うため、イシュトヴァーンのもとに残って彼に仕えることを決意する。
ドリアン
ゴーラ王国王太子。黒髪、緑の瞳。父はゴーラ王イシュトヴァーン。母はゴーラ王妃アムネリス。異母兄にスーティ(小イシュトヴァーン)。イシュトヴァーンの次男。イシュトヴァーンにより投獄されていたアムネリスが獄中で彼を産み落とした際、夫イシュトヴァーンへの憎悪をこめて、悪魔神ドールの子を意味する名を彼に与えた。その出生の経緯もあってか、父イシュトヴァーンからも激しく疎まれている不憫な幼児である。その一方でモンゴール人からはアムネリスの血筋として忠誠の対象となっており、イシュトヴァーンが彼をモンゴール大公にすると布告した途端、モンゴールの反乱はぴたりと静まった。
サウル・メンデクス・ブロス・モンゴーラ三世
ゴーラ帝国第百三十代皇帝にして、ゴーラ帝国最後の皇帝。先帝の三番目の皇子として生まれ、7歳のときに即位して以来、ユラニアの首都アルセイス郊外の小都市バルヴィナにて軟禁生活を余儀なくされた。十人近くの兄弟がいたものの、いずれも30歳以前に夭折し、また彼自身の四人の子も幼い頃に死亡しており、彼の死とともにゴーラ皇帝家の血筋は途絶え、滅亡することとなった。それら、彼の血縁の死にはユラニア大公オル・カンの意志が働いていたと噂されている。事実上、ユラニア大公の傀儡として不遇の生涯を送ってきたが、第一次ケイロニア-ユラニア戦役の際には、グインの招請に応じてアルセイスへ赴き、ケイロニアとユラニアの和議の成立に大きな役割を担うこととなった。第二次ケイロニア-ユラニア戦役の直前に老衰で死亡した。後にグラチウスがその姿と名を騙って怪異を起こし、イシュトヴァーンをゴーラの王位に就けることとなった。

モンゴール大公国の人物[編集]

ヴラド・モンゴール
モンゴール初代大公。妻はアンナ。長女は第二代モンゴール大公アムネリス。長男は公子ミアイル。きわめて野心的な人物で、15歳でサウル皇帝の騎士となって以来、順調に功績を挙げ、ケス河南西の森林地帯の開拓権を望み呆れられながらもこれを得る。やがてモンゴール伯爵となって、自ら開拓した地を所領とし、のちに強引にサウル皇帝の認可を得て、首都をトーラスとして第3の大公国モンゴールの独立を宣言するにいたる。その後も黒竜戦役でパロを奇襲して一時占領したり、ノスフェラスの秘密を求めて軍を送ったりと、その野心はとどまるところを知らなかった。酒豪であり、これが災いし第二次黒竜戦役が起こってまもなく脳卒中で病死した。
ミアイル
モンゴールの公子。父はモンゴール元大公ヴラド・モンゴール。母はヴラド妃アンナ。姉にモンゴール前大公アムネリス。守役は叔父のユナス伯爵。金髪、緑の瞳。母親似の極めて内気でおとなしい性格で、果断な姉アムネリスに憧憬とコンプレックスを抱いていた。14歳の時には、ケイロニアのシルヴィア皇女との政略結婚の話が進められていたが、そのさなかにアルド・ナリスの送り込んだ魔道士ロルカによって暗殺された。それまでは、偶然に側付となったマリウスによく懐いており、その死はマリウスにナリスへの決別を決意させる大きなきっかけともなった。
アストリアス
モンゴールの子爵。父はモンゴール伯爵マルクス・アストリアス。黒髪、黒い瞳、長身。独身。アムネリスに心酔していた勇猛な若き騎士で《ゴーラの赤い獅子》などの異名を取った。ノスフェラスでのグインたちとアムネリス軍の戦いでは、グインと一騎討ちを行うがあっけなく敗れ、その屈辱は長くアストリアスの心に残る。その純朴で直情径行な性格を利用され、アルド・ナリスとアムネリスとの婚姻の際には、ヴァレリウスの魔道によって刺客に仕立て上げられ、ナリス(実際には身代わり)にティオベの毒(実際にはダルブラの毒)を塗った剣で切りつけ、これを殺害した。その後、ナリスによって長らく幽閉されていたが、パロ内乱のマルガ攻防戦の混乱に乗じて自由の身となった。しかし、その際に顔に醜い火傷を負ったため、銀の仮面をかぶって顔を隠すようになった。モンゴールへ戻って《風の騎士》を名乗り、イシュトヴァーンに占領されたモンゴールを解放すべく、兵を募って活動を行っている。
ポラック
モンゴールの赤騎士でアストリアスの副官兼友人。マルクス・アストリアス伯爵の部下でノスフェラス侵攻にも同行した。イシュトヴァーンによってモンゴールが再度滅亡した後に、モンゴールに帰還したアストリアスと再会し、彼を匿った。
マルス・オーリウス
モンゴールの伯爵。元青騎士団隊長。元ツーリード城主。第七青騎士大隊長。息子にモンゴール伯爵マリウス・オーリウス。前モンゴール大公アムネリスの幼少時からの守役で、彼女の厚い信頼を受け、ノスフェラス戦役にも彼女とともに出征した。だが、アルゴンのエルを名乗って間諜として潜入したイシュトヴァーンの姦計にはまり、セムのカロイ族の谷で焼死した。その際の裏切り行為と罪悪感とが、後々までイシュトヴァーンを苦しめることになる。彼の悪夢の中では、海のように青い瞳が強調される。
マリウス・オーリウス
モンゴールの伯爵。前青騎士団司令官。父はモンゴール伯爵マルス・オーリウス。物語開幕当初は子爵であり、兵役期間を務めあげて中隊長の旗をもらったばかりであった。アムネリスによるモンゴール奪還戦に加わった際に父の跡を継ぎ、マルス伯を名乗るようになる。イシュトヴァーンの裁判で父がイシュトヴァーンの姦計によって焼き殺されたことを知り激怒するが、その後に起こったトーラス動乱で抵抗むなしくゴーラ軍の捕虜となった。その後はアルセイスにて幽閉されていたが、モンゴール人民の不満を抑えるための釈放が検討され、条件付きで釈放された。
ハラス
モンゴールの大尉。現マルス伯爵のいとこ。アムネリスの死後に勃発したモンゴールでの反乱で、反乱軍の指揮官を務めていた。ゴーラ軍の猛攻によって反乱軍が壊滅に追いやられそうになったところを、突如現れたグインに救われる。その直後、グインと共にゴーラ軍に捕らえられるが、グインによって数名の部下と共に脱出する。しかし、すぐにゴーラ軍に発見されて部下を皆殺しにされたうえに捕らえられて拷問を受ける。その後、イシュトヴァーンがグインによって重傷を負ったことによってイシュタールに帰還した際、共に連行された。
ヴロン
モンゴールの伯爵で、アムネリス親衛隊の小隊長を務めていた巨漢。ヴラド大公の遠い一族。顔は醜い。ノスフェラス侵攻の終盤で、アムネリスをかばい、ラゴン族に棍棒で撲殺された。
リーガン
モンゴールの小伯爵で、赤騎士隊隊長。アルヴォン城元城主リカード伯爵の息子で、アストリアス子爵とは親友同士だった。ノスフェラス侵攻の最中に、イドの大群に飲み込まれて死亡した。
ガランス
モンゴールの少佐で、青騎士隊中隊長。マルス・オーリウスの若いころから仕えており、信頼する副官であり友人でもあった。ノスフェラス侵攻の最中に、アルゴンのエルと名乗っていたイシュトヴァーンの罠にはまってしまい、カロイ族の落とした巨石が頭部を直撃して死亡した。
タンガード
モンゴールの黒騎士隊隊長。ヴラド大公曰く立派な騎士で良い戦士。ノスフェラス侵攻においてタロス城の黒騎士をイルムと共に指揮するが、その終結間際にセムの罠にはまり腸がはみ出すほどの重傷を負ってタロス砦で療養生活を送ることになるが、アムネリスがトーラスに帰還した際もまだ伏せったままであり、本復は難しいとヴラド大公に報告された。
ボーラン
モンゴールの伯爵。元黒騎士団長官にしてタイランの前のパロ占領軍司令官。ヴラド大公からアムネリスとアルド・ナリスの婚礼の後に、ナリスを暗殺するよう命令された。トーラス戦役で死亡した。
タイラン
モンゴールの伯爵で、白騎士隊大隊長。黒竜戦役ではパロ占領軍司令官を務めていた。ナリス曰く大した武将ではないが頭は悪くない(第十巻においては、ナリス暗殺未遂事件の現場の混乱を取り静めるには身分が足りないが、手腕はなくはないという書き方をされた)。トーラス生まれであることを鼻にかけ、気取ってはいるが、自分の根本的な気質はモンゴール人のものであることはよく理解している。部下であるカースロンとは彼我の気質、特にカースロンが反発心を燻ぶらせつつ激発しないことから相性が悪く(むしろはっきりと怒ってくれたほうがいいという趣旨の発言を行っている)、いろいろと嫌がらせを行っていた(死後にはその愚かさを悲しむような発言もした)。一方で同じ白騎士に対してはブルクを優遇したりカースロンを討ったヨーハンの手柄を大いに褒めるなど、親身である。第二次黒竜戦役の最中にいち早くカースロンの叛意に気付き、カースロンを罠に嵌めて誘き出し殺害するが、その数日後にクリスタル郊外で就寝中にパロ魔道士部隊に暗殺された。
ネロン
モンゴールの白騎士で、タイランの副官。
カノース
モンゴールの黒騎士隊小隊長で、カースロンの側近。
レンツ
モンゴールの伯爵で、白騎士団の隊長。アルド・ナリスが自分を騙していたと知って復讐の念を燃やすアムネリスが率いるモンゴール軍に同行したが、敗北し重傷を負い、アムネリスを救うために白旗を上げた。
メンティウス
モンゴールの青騎士団長官。メンティウス司令。モンゴールが敗れた後、重傷を負って降伏。後トーラスのモンゴール兵を束ねる指揮官としてクムに寝返るが、ヤヌスの戦いの終盤でクムのトーラス占領軍司令官とその副将を殺害してモンゴール兵に決起を呼びかける。しかしその直後に、殺された二人が事前に雇っていたキタイの暗殺者に吹き矢で暗殺された。
サイデン
腹に一物を持った男で、モンゴールの文人を気取っている。黒竜戦役ではモンゴールの赤騎士団長官を務めていたが、第二次黒竜戦役後はタリア伯爵領に亡命していた。モンゴール復興戦争ではモンゴールへ援軍を送るようにギイ・ドルフュスに要請するが無視される。しかし、アレンが兄のギイを説得したことで、アレンが指揮官となったタリア海軍と同時に、タリア陸軍を預けられてモンゴールへ出発した。
後にカメロンが祖国を捨ててモンゴールに仕官し、左府将軍の地位を与えられた時にはカメロンに不満を抱くが、アムネリスにより、それまでモンゴールに存在していなかった宰相位に任命されたことで、その不満も和らいだ。後にフェルドリック卿を煽動してイシュトヴァーンの裁判を引き起こさせるが、法廷でカメロンによって煽動の事実を暴露され窮地に陥る。その後、アリストートスの亡霊に憑依されてイシュトヴァーンを狂乱させるが、それに激怒したカメロンによって斬り倒され、最期に正気を取り戻して死亡した。
ランス
ゴーラ王国の将軍、ヤヌス騎士団司令官。元モンゴールのファーレン子爵、黒騎士団准将。父は第二次黒竜戦役で処刑されたモンゴール左府将軍ローザン。15歳でモンゴール奪還戦において初陣を迎え、18歳で正式にモンゴール宮廷にお披露目される。ゴーラの動乱の際には、イシュトヴァーン率いるモンゴール軍の副将として活躍し、実力を認められ、自身もイシュトヴァーンを軍神として崇拝、剣を捧げる。その後、イシュトヴァーンがゴーラ王に即位すると、モンゴールの爵位を捨ててゴーラ軍に身を投じ、その部将となった。
ルシア
フロリーと共にアムネリスに仕えていた元侍女。第二次黒竜戦役終結間際にアムネリスがクム軍に捕縛された際にアムネリスと引き離された。その後、モンゴールが復興すると再びアムネリスに仕えたが、イシュトヴァーンによってモンゴールが再度滅亡すると、侍女を辞めてモンゴールに残った。そしてモンゴールに帰還したアストリアスに、フロリーがイシュトヴァーンに抱かれたという情報を伝えた。
フロリー・ラゲイン
モンゴール前大公アムネリスの元侍女。ミロク教徒。息子にスーティ(小イシュトヴァーン)。13歳で正式にアムネリス付きの女官となってからは、ほぼ常に彼女のそばにあってともに行動し、第二次黒竜戦役後にアムネリスがクムの虜囚となった際にも、ただ一人彼女のそばで仕えていた。アムネリスへの忠誠心は極めて高く、一時は同性愛めいた関係になったこともある。モンゴール復活後は、アムネリスの恋人となったイシュトヴァーンへの恋心に苦しんでいたが、ひょんなことからイシュトヴァーンと一夜をともにし、当時宮廷に嫌気が差していたイシュトヴァーンと駆け落ちする決意を固める。ところが、約束の夜にイシュトヴァーンが約束の場所に現れなかったことに絶望し、またアムネリスを裏切った事への呵責から失踪してしまう。
その後、湖で入水自殺しようとしたが助けられ、その際にイシュトヴァーンの子を身ごもっていることに気づき、密かにその子スーティを出産して、ローラという偽名でモンゴールの山中にある小さなミロク教徒の集落でひっそりと暮らしていた。その後、マリウスとグインに出会い、息子スーティとともにパロへ向かう。
パロへの旅路の途中で立ち寄ったタイスの宮殿で、タリクに一目惚れされたことでタイ・ソン親子の不興をかってしまい、宮殿の一室に監禁される。その後、タイ・ソンとマリウスによって地下水路に突き落とされるが、これはマリウスが事前にグインたちと打ち合わせていたことで、すぐにマーロールによって救助されドーカスの自宅に匿われる。〈水神祭り〉の終了間際にグインたちと合流し、タイスを脱出する。
パロに到着した後は女王リンダに暖かく迎えられ、同じ男を好きになった者同士として仲良くなろうとリンダに言われる。このときフロリーは恐れ多いこととして丁重に辞退したが、ヤガへの出発当日にリンダの銀のペンダントと自身のミロクの首飾りを交換し合った。その後、パロの古代機械によって記憶を修正されたグインと別れ、スーティを連れてミロク教の聖地ヤガへ旅立った。
そして、ヨナたちがヤガに到着する半月ほど前にヤガに到着すると、菓子の屋台を経営して暮らしていたが、ヤガの新興勢力《新しきミロク》とは距離を置いていた。そしてヨナと再会した数日後に、屋台を訪れた下級魔道師サリウからクリスタルとイシュトヴァーンの現状を聞き、事態の急変も相まって迎えに来たスカールたちと共にヤガを脱出しようとするが、途中で《新しきミロク》の泥の怪物に遭遇してしまい、スーティをスカールとブランに託した後、《新しきミロク》に捕らえられた。
スーティ・ラゲイン(小イシュトヴァーン)
2歳半になる男児。父はゴーラ王イシュトヴァーン。母はアムネリスの元侍女フロリー。異母弟にゴーラ王太子ドリアン。イシュトヴァーンと一夜をともにした後にトーラスを出奔したフロリーが、モンゴールの山中にあるミロク教徒の集落で産み落とした。本名は、父の名をもらってイシュトヴァーン。愛称スーティはイシュトヴァーンの幼いころの愛称イシュティが転じた呼び名である。父譲りの黒髪、黒い瞳の持ち主で、なかなかに気が強く、幼児としては抜群の落ち着きと判断力を備えてもおり、将来の大物を予感させる存在である。その性格と運命から、グインに我が子のように愛され、スーティもまたグインを《豹のおいちゃん》として慕っている。母フロリーとともに、偶然出会ったマリウスやグインらとともに、パロへ向かう。その後、フロリーと共にミロク教の聖地ヤガへ旅立った。
そしてヤガに到着すると、母の提案で「ティティ」という愛称で暮らしていたが、事態の急変に伴い母やスカールたちに連れられてヤガを脱出しようとするが、途中で母フロリーが泥の怪物に捕まってしまい、母と引き離されてしまう。そしてスカールと再会したブランと共にヤガ郊外に脱出し、現在は彼らに保護されている。なお、ヤガ脱出後に突如現れたグラチウスによれば、スーティを「恐るべきエネルギーを秘めた運命の子」と評している。
オロ
モンゴールの首都トーラスの居酒屋〈煙とパイプ亭〉を経営するゴダロ、オリー夫婦の長男。弟にダン。徴兵されて軍人となり、辺境のスタフォロス城に配属された。青い目を持つ長身の勇敢な青年で、正義感にあふれ、民間の出である割には、剣の腕前はなかなかのものである。グインがスタフォロス城に囚われた際、城主ヴァーノンの命により素手で大白猿と戦わされた際には、城主の罰をも恐れずに、グインに剣を投げ与えて助けた。その後、スタフォロス城がセムのカロイ族の襲撃を受けた際にも、グインを助けて戦ったものの、カロイ族の斧を背に受けて絶命した。その際、グインに託されたトーラスの父母へあてた遺言を、数年後にグインが〈煙とパイプ亭〉を訪れて伝える[9]
ゴダロ一家
トーラスの下町・アレナ通り十番地の居酒屋〈煙とパイプ亭〉を経営する一家。ゴダロ、オリーの老夫婦と、その次男ダン、ダンの妻アリス、それにダンとアリスの間に誕生した男女の双子からなる。物語当初はゴダロとオリーの夫婦が店を切り盛りしていた。第二次黒竜戦役後、クム兵に暴行を受けてゴダロが失明してからは、やはり第二次黒竜戦役で片足を失ったダンが中心になって店を切り盛りするようになった。店の名は、元気だったころのゴダロが好んでふかしていた大きな水パイプに由来する。名物はオリー特製の肉まんじゅうとパイ包みの壷シチュー。物語における庶民の代表的な存在だが、マリウスとオクタヴィアが義理の息子・娘としてこの店に滞在していたり、カメロンとグインがこの店で初めて対面を果たすなど、中原の施政の中心たる重要人物との関わりも極めて深い一家である。
ルグルス
モンゴールの伝令で、アグラーヤに潜入した間諜。アンダヌスたちの密約が記された重大な密書を持っていたが、アグラーヤ兵に見つかってしまう。逃亡途中にアグラーヤ兵に発見され致命傷を負うが、イシュトヴァーンに助けられ彼が傭兵だと告げられると、ヴラド大公に届けるように頼み込んで密書を託して死亡した。

ユラニア大公国の人物[編集]

オル・カン
ユラニア第五十代大公。妻はルーエラ。娘にエイミア、ネリイ、ルビニア。3人の娘は醜女として有名で、「ユラニアの三醜女」などと揶揄された。なかなかに狡猾な大公として知られ、平時にあってはよく国を治めてもいたが、動乱にあってはやや治世の能力に欠けるところもみられる。首都アルセイスの紅玉宮で催された、クムの三公子とユラニア三公女との合同結婚式の際、次女ネリイと、その婚約者タルーによるクーデターに遭遇し、魔道師オーノの手によって殺害された。
オー・ラン
ユラニアの右大将軍にして、ユラニア禁軍の総司令官。ユラニアの特に軍事面においては、実質的な施政者でもあった。《青髭》の異名で知られ、中原最強の戦士の一人として、かつてはグインの正体の候補として挙げられたこともある。公女ネリイの剣の師であると同時に、愛人でもあった。第一次ケイロニア-ユラニア戦役が終結した際に、アルセイスで行われたグインとの武術試合に敗れて腰に重傷を負い、それをきっかけとして急速に体調を崩してしまう。第二次ケイロニア-ユラニア戦役の際には、祖国の危機を救うために、病身をおして奔走したが、その無理がたたってか、間もなくして病没した。
ネリイ
ユラニア第五十一代大公。ユラニア元大公オル・カンと大公妃ルーエラの次女。姉にエイミア、妹にルビニア。夫はクム公子タルー。女性ながら、愛人であったオー・ランの薫陶もあってか、なかなか武芸に優れている。男勝りで残虐なところも多分にある性格に、大柄で筋肉質な体格で、その風貌は時としてイノシシにたとえられる。もっとも、本人は似合いのパンツスタイルよりもピンクを中心とした少女趣味のドレスを好んでおり、そのお世辞にも似合わぬ風体で周囲を辟易させることも多い。クムの三公子とユラニア三公女との合同結婚式の際のクーデターを、夫タルー、モンゴール軍師アリストートスとともに主導して、父母と姉妹を殺害し、自らユラニア大公として即位した。その後のゴーラ動乱において、イシュトヴァーン軍と戦って敗れ、イシュトヴァーンに斬殺された。
エイミア
ユラニア公女。ユラニア元大公オル・カンと大公妃ルーエラの長女。妹にネリイ、ルビニア。婚約者はクム公子タル・サン。表情はつねに険しく、ひょろ長い体型で、その風貌はよく墓場のイトスギに例えられていた。強欲で吝嗇な金の亡者としても知られ、華美を好まず、その個人資産はユラニア一国の資産をもしのぐとさえ云われた。クムの三公子とユラニア三公女との合同結婚式の際のクーデターで毒殺された。
ルビニア
ユラニア公女。ユラニア元大公オル・カンと大公妃ルーエラの三女。姉にエイミア、ネリイ。婚約者はクム公子(当時)タリク・サン・ドーサン。クジラ(ガトゥー)にもたとえられる巨大な肥満体で、自力では歩く事はおろか、立つ事さえもできない。甘いものに目がなく、砂糖菓子などをひっきりなしに食べており、そのためかひどい虫歯の持ち主である。甘いものを口に運ぶこと以外は、外部の事に一切関心を持つ様子がなく、常人並みの知能があるか否かさえ定かではない。もともとは人並みの知能があったらしく、自分からこのような状態になったとの描写もなされたが、経緯は一切不明。クムの三公子とユラニア三公女との合同結婚式の際のクーデターで毒殺された。
リーロ・ソルガン
ユラニアの男児。麦わら色の髪を持つ利発な少年。大工を営むミロク教徒の一家に生まれ、三人の兄弟とともに育った。第二次ケイロニア-ユラニア戦役の際、アルセイスを襲った大火によって家族とはぐれたところをイシュトヴァーンに救出された。イシュトヴァーンとは兄弟のように親密になり、戦役後はともに家族としてトーラスへ帰ることを約束した。が、彼がイシュトヴァーンの寵愛を受け、稚児となったと誤解したアリストートスの激しい嫉妬をうけ、アリストートスと魔道師オーノにより暗殺された。その死はイシュトヴァーンの精神に暗い影を投げかけることとなった。

クム大公国の人物[編集]

タリオ・サン・ドーサン
元クム大公。妻はユラニア元大公オル・カンの妹デリア。父は先々代クム大公タリム・ヤン。息子にタルー、タル・サン、タリク。異母妹にケイロニア元皇后マライア・タル・クラディン。白髪、肥満体。勇猛で、若いころは自ら陣頭に立つ武将大公として知られていた。第二次黒竜戦役後には、一時、虜囚としたアムネリスを自らの愛妾としていたこともある。3人の息子のうち、末っ子のタリクを溺愛しており、そのことが長男タルーを主導者のひとりとする、クムの三公子とユラニア三公女との合同結婚式の際のクーデターの遠因ともなった。そのクーデター後のゴーラ動乱の際、溺愛するタリクを殺害した(実際にはアリストートスに匿われて存命であった)タルーを討伐するために、久々に自ら兵を率いて出陣したが、イシュトヴァーン率いるモンゴール軍によるゲリラ的な攻撃に苦戦し、まもなくして参戦したカメロンによって斬殺された。
タルー
元クム公子。父は元クム大公タリオ・サン・ドーサン。母はタリオ妃デリア。妻はユラニア大公ネリイ。弟にタル・サン、タリク。勇猛な武将として知られたが、好色な乱暴者でもあり、国内における人望は低かった(だがそれでも大物の支持者がいた)。三男タリクを溺愛する父との仲は年々悪化し、このままでは自らの廃嫡もあると考えたタルーは、ネリイ、アリストートスとともに、クムの三公子とユラニア三公女との合同結婚式の際のクーデターを主導し、弟タル・サンを自ら殺害した。続くゴーラ動乱の際に、弟タリクを擁するクム側に寝返ったイシュトヴァーン率いるモンゴール軍との戦いに敗れて、一時行方不明となる。その後、グラチウスの策略により与えられた兵力を持って、パロ内乱に参戦するためにパロへ向かう途中のイシュトヴァーンを自由国境地帯の山中で襲撃するが、あえなく失敗し、イシュトヴァーンによって斬殺された。
タル・サン
クム公子。父は元クム大公タリオ・サン・ドーサン。母はタリオ妃デリア。婚約者はユラニア公女エイミア。兄にタルー。弟にタリク。吝嗇で打算家の風采のあがらない小男で、ネズミ面と称される。陰謀を好む性格でもある。クムの三公子とユラニア三公女との合同結婚式の際のクーデターの際に、兄タルーに斬殺された。
タリク・サン・ドーサン
クム大公。父はクム前大公タリオ・サン・ドーサン。母はタリオ妃デリア。元婚約者にユラニア公女ルビニア。兄にタルー、タル・サン。父タリオの溺愛を受けたためか、典型的な坊っちゃん気質の持ち主である。クムの三公子とユラニア三公女との合同結婚式の際のクーデターの際に、危うく難を逃れ、アリストートスに匿われた後、イシュトヴァーン軍とクム軍との和平交渉によってクムへ帰国した。その後、イシュトヴァーン軍と同盟して、ともにユラニアを攻め、ユラニアの滅亡に一役買うこととなった。クム大公家唯一の生存者として亡父の後を継ぎ、クム大公となった。
その後、グインたちが立ち寄ったタイスで開催された〈水神祭り〉に、政務の一環として出席するためにエン・シアンとアン・ダン・ファンを連れてタイスを訪れた。その宮殿でタイス伯爵令嬢アン・シア・リンに結婚を迫られ難渋していたが、偶然出会ったローラ(フロリー)に一目惚れする。その翌日、ローラを呼び出し二人で歓談していたところを、アン・シア・リンとその父タイ・ソンに踏み込まれ、ローラを連れて行かれる。その後、大闘王決定戦終結直後のマーロールの告発の中で、ローラがタイ・ソン親子に殺害された[10]と聞かされ、嘆き哀しむ。その直後に開かれた臨時の審問の場において、証人として出廷したマリウスが語ったローラ殺害の状況を聞かされた時には、そのあまりの残虐さに思わずタイ・ソン親子とマリウスを地下水路に放り込んで魚の餌にしろと泣き叫んだが、エン・シアンたちに制止された。その後、マーロールを新たなタイス伯爵に任命しようという提案には、最初自分より容姿に優れたマーロールがタイス伯爵になることに難色を示すが、エン・シアンに説得されて、それを承認した。
アン・ダン・ファン
クムの前宰相。ゴーラの動乱でタリオ大公が戦死した後に、左丞相(当時のクムの文官の最高位)としてイシュトヴァーンと会談した。タリクのじいであり、タリクからは最も頼りにされている。権謀術数に長けたタイ・ソン伯爵も彼にかかればまだまだ小僧っ子である。タリクがクム大公に即位した後に、宰相に任命される。その後、宰相位を年若いエン・シアンに譲ったが、クム国内では未だに大きな発言力を有している。
エン・シアン
クムの現宰相。グインたちがタイスにやって来た後に開催された〈水神祭り〉に、政務の一環として見届けるためにタリクやアン・ダン・ファンと共にタイスにやって来た。後のマーロールの告発では、かねてよりタイ・ソンの専横を苦々しく思っていたこともあり、アン・ダン・ファンとの協議の末、タイ・ソン伯爵親子を失脚させてマーロールを新タイス伯爵に任じた。
ガンダル
クムの首都ルーアンの剣闘士。身長2タールを越える巨人。年に一度、クムの大都市タイスで開催される〈水神祭り〉の大闘技会において、20年間不敗を誇る大闘王として君臨している。その名声は中原中に響いており、かつてグインの正体が取りざたされた際には、その候補として真っ先に名があがったこともある。[11]
グインがグンドという偽名を名乗ってフロリーたちと共にタイスに立ち寄った際、剣闘士としてたちまち頭角を現したグインの前に仮面を付けた全身武装の姿で現れ、グインを挑発して挑みかかった。この時はガンダルが優勢であるように周囲には見えていたが、実はグインがそう見せかけていただけであり、ガンダルもそれに気付いていた。そしてガンダルは〈水神祭り〉の大闘王決定戦で待っているとグインに告げ、その場は引き下がった。
そして〈水神祭り〉の大闘王決定戦でガンダルとグインは対決し、ガンダルは仮面と武装を解いて本来の姿を現す。その姿はグインの予想を越えて老齢であった。ガンダルはこの時既に、グンドが豹頭王グインであると確信して死闘を開始する。死闘は苛烈を極め、ついにガンダルはグインの剣をへし折り止めを刺そうとするが、グインは肩に重傷を負いながらも折れた剣の柄の方に残った刃をガンダルの脇腹に突き刺した。それで一旦は倒れたガンダルは、グンドが豹頭王グインであることを当人の口から聞いた後、最後の力で立ち上がりグインを道連れにしようと襲い掛かるが、グインが折れた剣の刃を拾い上げガンダルの首を目掛けて投げつけ、ガンダルは首を引き裂かれ遂に倒れた。そしてガンダルはグインに見送られて長い戦いの生涯に幕を下ろした。
タイ・ソン
タイス伯爵。残虐で我儘な性格で、気に入らない者は容赦なく処刑する。娘のアン・シア・リンをタリクに嫁がせようと躍起になっている。旅芸人一座としてタイスに招いたグインとマリウスを一目見て気に入り、マリウスを愛人にし、グインに剣闘士として戦うことを強要する。やがて、タリクに気に入られたローラ(フロリー)を邪魔だと思い、ローラをマリウスにタイスの地下水路に突き落とさせる。しかしそれが仇となり、グインがガンダルを倒した直後にマーロールによってその悪行を告発され、ローラを地下水路に突き落とさせたことをマリウスに証言されてタリクの怒りを買ってしまい、タイス伯爵位を剥奪され、ルーアンに護送されて長女もろとも公式の裁判にかけられることになる。
アン・シア・リン
タイス伯爵令嬢。タイ・ソンの長女で、妹はタイ・メイ・リン。妹同様、タイ・ソンにそっくりな不細工な容貌をしている。父親同様、残虐で我儘な性格で、父に吹き込まれてタリクを誘惑するが、拒絶される。やがてタリクがローラ(フロリー)を見初めたことに嫉妬し、タイ・ソンにローラを拷問して処刑するように頼む。このことが仇となり、後のマーロールの告発によって拘束され、臨時の審問に引き出されて自覚がないままローラの殺害教唆を自白してしまう。そして、タイ・ソンと同様にルーアンに護送されて公式の裁判にかけられることになる。
マーロール
タイスの剣闘士で、〈白のマーロール〉と呼ばれている。実はタイス伯爵タイ・ソンとその愛人ルー・エイリンとの間に出来た息子で、マーロールが母のお腹の中にいる時に、母親が嫉妬に狂ったタイス伯爵妃メイ・メイ・ホンによってタイスの地下水路に落とされてしまう。母親は地下水路の中で発狂しながらもマーロールを出産するが、そのすぐ後に死亡する。マーロールは、〈水賊〉と呼ばれる、地下水路に落とされながらも生き残った人たちに育てられ、やがて地下水路の主となる。後に外の出入り口を発見した彼は、外界と地下水路を行き来し、表向きは剣闘士として振舞いながら、密かにタイス伯爵タイ・ソンとその眷属たちへの復讐の機を狙っていた。
そして、グンドと名乗っていたグインと闘技場で対決し、グインを苦戦させるも敗れる。その後、グインがタイスの地下水路に迷い込んだ際にグンドが豹頭王グイン当人であることと、グインが連れている人々の素性を知ることになる。そこでグインに対し、自身の復讐の手助けと引き換えに、タイスからのグインたちの脱出を手助けするという取引を持ちかけ、グインもそれを承諾する。グインがガンダルを倒した直後に、グインたちとの打ち合わせ通り、グンドの代理人としてタリク大公や公衆の面前で自身の素性を明かし、タイス伯爵タイ・ソンとその眷属たちを告発し、それがグンドの願いであったと発言する。またこれもグインたちとの打ち合わせ通り、マリウスがタイス伯爵タイ・ソンの残虐な所業を証言したことで、タイス伯爵タイ・ソンとその眷属たちは地位を剥奪されて公式の裁判にかけられることとなる。ついに自身の復讐を果たしたマーロールは、クムの上層部によってタイス伯爵代理兼新タイス伯爵に任じられ、密かにグインたちのタイス脱出を助けた。
ドーカス・ドルエン
タイスの剣闘士で、〈青のドーカス〉と呼ばれている。実直な性格で、グンドと名乗っていたグインと剣闘場で長槍を武器として最初の対決を行って敗れた後にグインを称賛し、その実直な性格を見抜いたグインから、その正体を告げられ驚愕した。以降はグインに心服し、グインたちがタイスを脱出するための手助けとするために、グインに遺恨試合を申し込み、グインとの二度目の対決を迎える。この時は長剣を武器にして尊敬するグインと打ち合い、これも予想通りに敗れるが、ドーカスの心は爽快であった。この勝利によってグインたちの警備は手薄となり、グインたちは一度目のタイス脱出を図るが、この時はスイラン(ブラン)の行動によって失敗に終わる。後にグインたちが二度目の脱出を行った時も、スーティとフロリーを自宅に匿ってグインたちを助ける。この時グインはドーカスに一緒に来ないかと誘うが、ドーカスはタイスに残って剣闘士として新たな大闘王となるまで挑戦し続けることを選び、タイスを脱出していくグインたちを見送った。

ケイロニアの人物[編集]

アキレウス・ケイロニウス
ケイロニア第六十四代皇帝。父はケイロニア第六十三代皇帝アトレウス。妻はクム元大公タリオ妹マライア・タル・クラディン。愛妾にユラニア貴族ユリア・ユーフェミア。娘にオクタヴィア、シルヴィア。[12]弟に元ケイロニア大公ダリウス・ケイロニウス。鋼鉄色の瞳、白髪まじりの頑健な老人。英名果断な名君として名高く、獅子心皇帝の異名をとり、重臣や国民からの崇拝と信頼を集め、敬愛されている。規律を極めて重んじる反面、その判断を下すに際しては十分に情状を酌量してもおり、慈愛と厳格のバランスに秀でた施政を行っている。
長年にわたるケイロニアの平和を中心となって支えてきた一方で、即位三十周年記念式典の折の、皇后マライアの首謀による自身の暗殺未遂事件や、弟ダリウスが加担した皇女シルヴィアの誘拐事件など、身内絡みの大事件に悩まされてきた。ことに事件を経て精神を病んだ娘シルヴィアの行状は、義理の息子でもあるケイロニア王グインの将来とともに、長年の彼の最大の悩みとなっていた。グインがパロから帰還した後、グインから彼がシルヴィアと決別したこととその事情を聞き、ついにケイロニア皇帝位はそのままにグインにケイロニアの統治権を移行して自身は隠居することを決断し、それを公表した。
そんな彼にとっては、生涯でただひとり愛した相手であるユリアの忘れ形見オクタヴィアと、その娘マリニアとともに過ごす時間がなによりの幸福な時間となっている。とりわけ溺愛する孫娘マリニアに対しては、獅子心皇帝も形無しのめろめろぶりを見せて、周囲の暖かな微笑を誘っている。
134巻「売国妃シルヴィア」において崩御。
シルヴィア・ケイロニアス[13]
ケイロニア王妃。夫はケイロニア王グイン。父はケイロニア皇帝アキレウス・ケイロニウス。母はアキレウス妃マライア・タル・クラディン。異母姉にオクタヴィア・ケイロニアス。金髪、くるみ色の瞳、小柄で痩身。
オクタヴィアが現れるまではケイロニア皇帝家の唯一の後継者であったため、その重圧に耐えかねた部分もあってか、周囲に対して極めて我儘なふるまいを見せ、その評判はあまり芳しいものではなかった。父の即位三十周年記念式典をきっかけとしてグインと親密になり、一時はその我儘ぶりも多少は落ち着いたかに思われた。しかし、魔道師グラチウスの手下ユリウスに誘惑されて拉致され、キタイのさかさまの塔に監禁されて、麻薬と性の快楽に溺れさせられてしまう。その後、グインによって救出されたものの、それによって彼女の精神は完全に病んでしまった。グインとの結婚によって病状も多少は落ち着くかとも思えたが、グインのパロ遠征と、その後の失踪による孤独感が、彼女の病状をさらに悪化させてしまった。
やがてシルヴィアは下町に繰り出して乱交を繰り返し、父親のわからぬ子供を妊娠してしまい、グインがパロから帰還してからまもなく出産する。しかし妊娠・出産の事実はハゾスによって極秘扱いされ、出産した子供も出産直後にハゾスによって引き離される。その数日後にグインが会いに来たが、すでにシルヴィアの心はグインから離れていたため、子供と引き離されたこともあり、グインを口汚く罵る。そしてついに、グインから決別を告げられる。
その後、アキレウスが隠居するに伴い、アキレウスの命令でサイロンの光ヶ丘に新設された療養所に療養という名目で幽閉され、その後に闇ヶ丘の離宮に監禁され狂気のままに泣き叫ぶ毎日が続いていたが、何者かがシルヴィアの元を訪れて彼女を更なる闇へと誘い、ついには失踪してしまう[14]
オクタヴィア・ケイロニアス
ケイロニア皇女。父はケイロニア皇帝アキレウス・ケイロニウス。母はアキレウスの愛妾ユリア・ユーフェミア。娘にマリニア。異母妹にシルヴィア・ケイロニアス。夫はパロ王子アル・ディーン(吟遊詩人マリウス)だが、事実上の離婚状態にある。月の光にもたとえられる美しい銀髪に青い瞳を持つ長身の美女で、女性ながらになかなかの剣の腕前でもある。
嫉妬した皇后マライアの手により誘拐された母ユリア・ユーフェミアから産み落とされた彼女は、その後まもなく母とともに叔父ダリウスに救出される。だが、ダリウスの別荘で母と共に暮らしていた5歳の時、目の前で母が凌辱され、惨殺されるのを目撃してしまう。彼女を助けた森番の老夫婦のもとで10年間成長した彼女は、母を見捨てた父アキレウスへの復讐を心に誓い、叔父ダリウスに接触する。ケイロニアの権力を簒奪するため、ダリウスと手を組んだ彼女は、イリスと名乗り、男に扮して皇太子を僭称し、ケイロニア皇帝位を手中に収める陰謀を企てる。
アキレウス帝即位三十周年記念式典の際に、いよいよその陰謀が実行に移され、彼女の復讐は成就間近にも思えた。だが、その時に出会ったマリウスと、彼女は不覚にも恋に落ちてしまう。マリウスとの恋に次第に心の殻を溶かされていった彼女は、自らがパロ王子であると明かしたマリウスの告白に強く心を動かされる。さらに、グインの働きにより、父が母に寄せていた愛情の深さと、母に横恋慕した叔父ダリウスが母の死を招いたことを知り、彼女はついに復讐心を捨て、マリウスと結ばれてケイロニアを後にする。
マリウスが行方不明となる中、彼女はトーラスの〈煙とパイプ亭〉で娘マリニアを出産する。そして、グインによって救出されたマリウスと再会した際、グインの説得に応じて、夫と娘とともにケイロニアの首都サイロンに帰還する。父の愛情を受けて、父とともに生活を始め、安定した幸福を実感した彼女だったが、一方でその生活は、なによりも自由を愛する夫マリウスの出奔を招いてしまう。のちに一時的に帰還したマリウスと話し合った彼女は、マリウスと事実上離婚することに同意し、娘とともに宮廷で生活していくことを選択した。その後、アキレウスの隠居に伴い、サイロンの光ヶ丘の隠居所でアキレウスと共に、マリニアの養育に当たることになる。
アキレウスの崩御、シルヴィアの失踪の後、ハゾスによるグイン即位工作の失敗もあり、娘のマリニアを皇位に着けるのを好しとせず、138巻「ケイロンの絆」においてケイロニア皇帝に即位する。
マリニア
ケイロニア皇孫。父は吟遊詩人マリウスことパロ王子アル・ディーン。母はケイロニア皇女オクタヴィア。金色の巻き毛と、大きな瞳の愛らしい女児。マリウスの素性が隠されていたゆえ公にはなっていないが、ケイロニア皇帝家とパロ聖王家双方の血を引く、極めて注目されるべき存在でもある。いつでも機嫌よく、にこにことしているが、実は先天性あるいは生後早い時期に重度の聴覚障害児となっていたようである。
マライア・タル・クラディン
ケイロニア皇后。夫はケイロニア皇帝アキレウス・ケイロニウス。娘にケイロニア王妃シルヴィア[12]。父はクム元大公タリム・ヤン。異母兄にクム元大公タリオ・サン・ドーサン。骨太で痩身だが長身。男のようにごつい顔と大きな口の持ち主。美人であるとはお世辞にも云えず、サウル皇帝とその側近にも「クムでまだ良かったがパロなら見世物小屋だ」などと陰口を叩かれたこともある。非常に嫉妬深い性格で、夫の愛妾ユリア・ユーフェミアを拉致監禁した首謀者でもある。かつて義弟ダリウス・ケイロニウスとは不倫関係にあった。アキレウス帝即位三十周年記念式典に際して、ユラニアの軍師ユディトー伯ユディウスと謀り、夫アキレウスの暗殺計画を実行するが、グインらの活躍により計画が露見して失敗。囚われて裁判にかけられた際、服毒して自殺した。
ダリウス・ケイロニウス
ケイロニア元大公。父はケイロニア第六十三代皇帝アトレウス。兄にケイロニア第六十四代皇帝アキレウス・ケイロニウス。妻はユラニア公爵マックス・リン妹アントニア。英明な兄に対して強い嫉妬心を抱き、兄に代わって皇帝位に就く野望を常に抱いていた。兄の妻マライアと不倫し、また兄の愛妾ユリア・ユーフェミアに横恋慕して、結局は死に至らしめたのも、あるいは兄に対するコンプレックスの表れであったのかもしれない。アキレウス帝即位三十周年記念式典の際に、オクタヴィアに皇太子を僭称させて自らの傀儡とする陰謀を企てるが、露見して失敗。大公位を剥奪されて国外へ追放される。妻の血縁を頼ってユラニアに潜伏したのち、魔道師グラチウスが企てたケイロニア皇女シルヴィア誘拐事件に加担する。続いて起こった第二次ケイロニア-ユラニア戦役の際、バルヴィナの城で自ら火の中に身を投じて焼死した。
ダルシウス・アレース
ケイロニアの元黒竜将軍。鉄灰色の髪と鋭い眼を持つ老人。ケイロニアの首都サイロンを訪れたグインを傭兵として迎え入れた。当時、グインの最も良き理解者でもあった。第一次ケイロニア-ユラニア戦役の際には、千竜長となったグインを副官として、黒竜騎士団を率いて国境に出陣した。だが、厳しい冬の最中での出陣に、老齢もあって健康を害してしまう。勅命に背いてのグインのユラニア遠征を黙認して、療養のためにサイロンへ戻り、間もなくして病没した。その後、帰国したグインが、勅命に背いたとして咎められることなく、ダルシウスの後継者として黒竜将軍に任ぜられた背景にも、ダルシウスの遺志があった。
ハゾス・アンタイオス
ケイロニアのランゴバルド選帝侯。ケイロニア宰相。外交担当相を務めたこともある。妻はアトキア選帝侯ギラン息女ネリア。娘にミニア、ほか2人。青灰色の瞳の端正な顔立ち。極めて聡明な人物として知られ、武官の多いケイロニアにあっては数少ない有能な文官であり、まだ若いながらもかなりの人望を集め、皇帝の右腕と称されている。サイロンにやってきて間もない、まだダルシウスの傭兵であったグインと出会ったときから、身分の違いを超えてグインと厚い友誼を結んでいた。その友情はグインがケイロニア王となった現在でも変わることなく、グインが最も信頼する股肱の臣となっている。
パロに迎えに行ったグインと共にケイロニアに帰還した後に、グインからシルヴィアが妊娠しているようだと告げられ、その対処を自ら引き受けた。そしてシルヴィア付きの侍女クララと御者パリスを拘束・尋問して詳細を聞き出し、シルヴィアの妊娠・出産の事実を極秘扱いにし、グインにはシルヴィアが想像妊娠していたと報告した。そして、生まれてきた赤子を誕生直後にシルヴィアから引き離し、密かに抹殺しようとしたが果たせず、考えた末にロベルトに他言無用を前提に事情を説明し、赤子を引き取ってもらった。
アウルス・フェロン
ケイロニアのアンテーヌ選帝侯。息子にケイロニア子爵アウルス・アラン。娘にワルスタット選帝侯ディモス妃アクテ。灰色の瞳、白髪の剛毅な老人。選帝侯の長老格で、事実上、アキレウス帝、グイン王に次ぐケイロニア宮廷における実力者である。アキレウス帝とも気心の知れた仲であり、宮廷の内外からの信頼は極めて高い。
サイロンに黒死病が大流行する(外伝『七人の魔道師』)前後に、ゴーラとの国交を再開するための特別使節団の団長に任命され、イシュタールへと向かった。
ディモス
ケイロニアのワルスタット選帝侯。妻はアンテーヌ選帝侯アウルス・フェロン息女アクテ。息子にマイロン、ラウル、ユーミス。娘にイアラ、サーラ。金髪、青い瞳、長身の、ケイロニア宮廷一の美男子であり、〈太陽侯〉の異名を持つ。[15]かつてはケイロニア皇女シルヴィアに横恋慕され、生真面目で純朴で朴訥で、家庭をなによりも愛する彼は、その我儘な求愛ぶりにおおいに悩まされていた。ランゴバルド選帝侯ハゾス・アンタイオスの親友でもある。
ゼノン
ケイロニアの金犬将軍。北方のタルーアン人の血を引く、赤毛、青い瞳、鍛え上げられた巨躯の持ち主。独身。グインとの対比から、その姿は神話に登場する豹頭の神シレノスの従者バルバスにしばしばたとえられる。剣や戦車競争を始めとする武術の達人で、まだ20代の若年ながら近衛部隊の指揮をまかされており、パロ内乱時にはグインの副官としてパロへの遠征に参加した。性格は純朴にして素直。グインを心から崇拝している。
トール
ケイロニアの黒竜将軍。金髪、青い瞳の武人。アトキア選帝侯領出身。独身。物語に登場したときには、黒竜騎士団に所属する傭兵であったが、まもなくグインの副官となった。副官時代には、自分を将軍などにするな、とグインに懇望していたが、グインの地位が上がるとともに彼の地位も上がっていき、ついには王として即位したグインの後任として黒竜将軍に任ぜられた。性格は陽気で、長い傭兵生活を反映して、世事に長けている。単純な武人のように見えて、なかなかの知性の持ち主でもあり、将軍としてもまずまずの評価を受けている。アキレウスの隠居が公表された直後、新設されたケイロニア王騎士団の指揮官である護王将軍に任命された。
ロベルト
ケイロニアの十二選帝侯の一人であるローデス侯。盲目で明哲な性格をしており、アキレウスたちの良き相談役になっている。グインがパロから帰還した後に、ハゾスから他言無用を前提にシルヴィアの乱交による妊娠・出産の事実を聞き、誕生したばかりのシルヴィアの息子を引き取ることになる。その際、ロベルトは名前のなかった赤子にシリウスと名付け、ローデス領の開拓民の一家に養子に出すつもりであるとハゾスに告げた。
ヴィール・アン・バルドゥール
ケイロニアの子爵。ケイロニア前皇帝アトレウスが、タルーアン人の女性との間になした私生児を父に持っており、それゆえにケイロニアに現れた際に子爵の地位を与えられた。赤毛、青い瞳、色白。タルーアンの血を僻んでか、性格は極めて陰険で嫉妬深く、かつ執念深く、〈ドールの水蛇〉などと呼ばれて、多くの人々から嫌われていた。かつては皇弟ダリウスと手を組んで帝位の簒奪を狙っていたが、その性格が災いしてか、ダリウスからも見放されてしまう。それでもシルヴィアの婿の地位を狙い、何度かシルヴィアを無理やり手篭めにしようとするが、そのたびにイリス(オクタヴィア)やグインに阻止されてしまう。それを逆恨みしてグインを襲い、痺れ薬を使って麻痺させた上で斬りつけて手傷を負わせたが、最後にはグインの剣によって真っ二つにされて死亡した[16]
ガウス
ケイロニアの准将。ケイロニア王グイン直属の特殊親衛隊〈竜の歯部隊〉の隊長。青い瞳を持つ小柄な武人。ケイロニア軍の精鋭中の精鋭として、グイン自らが鍛え上げた千人から構成される部隊の隊長を任されるだけあって、極めて沈着冷静で判断力にも優れた切れ者である。グインに対しては絶対的な忠誠を誓っており、パロ内乱の終結に際してグインが行方不明になった際も、その直前にグインが伝えた命令を忠実に守って、軍をまとめ、パロの首都クリスタルにとどまった。グインがパロに到着した後、グインと再会して喜びを露わにした。そしてグインに同行してケイロニアに帰還した。アキレウスが隠居すると公表した後、〈竜の歯部隊〉は新設されたケイロニア王騎士団の一部隊として組み込まれることになったが、独立部隊としての一面は保たれることとなった。
ヴァルーサ
ケイロニア王グインの愛妾。イェライシャによれば、その名は『黄金の盾』を示しているという。初登場は外伝『七人の魔道師』であり、長らく本伝には登場していなかった。クム出身の踊り子としてテッソスの奴隷市場で売られ、サイロンのまじない小路の魔道師アラクネーのもとで暮らしていたが、サイロンを怪異が襲った際にグインに命を救われ、以後、彼のもとで暮らすようになる。そのころ、すでに関係が冷え切っていた王妃シルヴィアに変わって、グインの寵愛を受けるようになり、やがてグインの初めての子(男女の双子、予言では王子を産むとされていた)を産む。
円城寺忍による外伝26巻「黄金の盾」はヴァルーサを主題としている。タイスの出身で、グンドと偽名を名乗っていたグインと出会った様子が描かれる。
パリス
シルヴィア付きの武官。寡黙だが剣の腕はいい。女官たちからは気味悪がられていたがシルヴィアには忠実で、どんな理不尽な命令でも従う。グインの失踪後はシルヴィアの愛人となった。グインがパロから帰還した後に、ハゾスによって拘束され拷問を受けたが、それでもパリスはシルヴィアを弁護し続けた。
シリウス
シルヴィアの産んだ男児。父親は明確にされていない。
産まれた直後にハデスに取り上げられ、ロベルトに託され、シリウスの名を与えられてローデス領の開拓民の一家に養子となるが、紆余曲折あって、ベルデランド選帝侯ユリアスの下へ引き取られる。
アルリウスとリアーヌ
137巻「イリスの炎」で誕生した、グインとヴァルーサの間に産まれた男女の双子。

草原の人物[編集]

リー・ファ
アルゴスの黒太子スカールの内縁の妻。父は騎馬民族グル族族長グル・シン。長い黒髪、黒い瞳の切れ長の目、すらりとしたしなやかな体つき。14歳の時にスカールに見初められて以来、スカールに一途な愛情を捧げ、戦時でも平時でも常にスカールのそばに付き添っていた。第二次黒竜戦役後のスカールのノスフェラス遠征にも同行し、その帰途には病に冒されたスカールを守ってアルゴスを目指した。その際、イシュトヴァーン率いる赤い街道の盗賊団の襲撃を受け、スカールを庇ってイシュトヴァーンの放った刀子を胸に受けて絶命した。その死はスカールとイシュトヴァーン両人にとってのトラウマとなり、長く続く両者の確執の源となった。
スタック
アルゴス王。父はアルゴス前王スタイン。妻はパロ元聖王アルドロス三世の末妹エマ。息子にスーティン[17]。異母弟にアルゴス黒太子スカール。母はパロの王女。学者肌で英明な名君として名高く、パロの文明・文化を取り入れることによる国の近代化に熱心だが、そのことが国内の一部騎馬民族の反発を招いてもいる。長らく子に恵まれなかったが、魔道師グラチウスの不妊治療を受けて、息子を授かった。が、そのことで騎馬民族からの人気の高い弟スカールへの疑心に苛まれるようになり、スカールが太子の座を退いてからも、かつては仲の良かった弟に対して暗殺者を差し向けるまでになってしまった。

沿海州の人物[編集]

ボルゴ・ヴァレン
アグラーヤ王。妻はデュアナ。娘にパロ前聖王レムス一世妃アルミナ、エリス、ロザリア、ヤスミナ。母はパロの王女。なかなかにやり手の名君として知られ、〈アグラーヤの鷹〉との異名をとる。ノスフェラスからアルゴスへ帰還する途中のレムスと出会って、その才気と可能性に惚れ込み、自らレムスと長女アルミナとの婚約を求め、助力を約束した。その後の第二次黒竜戦役では、沿海州四カ国連合軍の指揮官として参戦し、ケス河を上ってモンゴールを攻略した。
ダゴン・ヴォルフ
アグラーヤの宰相にして、沿海州会議議長を務める七十歳の老人。レンティアの王女を妻に、トラキアの領主オルロックをいとこにもつ。
トール・ダリウ
アグラーヤ海軍の老提督で、アグラーヤの御座船〈サリア号〉の船長。カメロンとは気心の知れた親友同士である。息子にアグラーヤ海軍准提督アール・ダリウ。
フレイ
アグラーヤ海軍の青年士官で、〈サリア号〉の乗組員。
アンダヌス
自由貿易都市ライゴール市長兼評議長。商業の神ミゲルの生まれ変わりともいわれる大商人。肥満体に大きな赤い鼻、分厚い唇、まぶたが垂れ下がった半眼という、醜怪にして印象的な容貌の持ち主。「沿海州でいちばん醜い支配者」、「ライゴールの蛙」などと呼ばれる[18]。第二次黒竜戦役の際には、密かにモンゴール側に味方すべく、陰謀を巡らしていた。その際に彼がモンゴールへあてた密書が、偶然イシュトヴァーンの手に落ちたことが、イシュトヴァーンの運命を変える一つのきっかけとなった。
ロータス・トレヴァーン
ヴァラキアの領主であるヴァラキア公爵。黒髪、黒い瞳、髭をたくわえる英明な名君として知られている。カメロンがヴァラキア海軍提督を辞めてモンゴールに仕官する際には、アムネリスへの紹介状を渡した。
オリー・トレヴァーン
ヴァラキア公弟。兄はヴァラキア公ロータス・トレヴァーン。飽食の神バスにも例えられる肥満体。英明で知られる兄とは対照的に、性格はだらしなく、快楽主義的で極めて享楽的であり、お世辞にも知的であるとはいえず、家臣からの人望はゼロに等しい。食欲と性欲ばかりが旺盛な男色家であり、美男として有名なアルド・ナリスやディモスのような貴族にまで色目を使っていた。少年時代のイシュトヴァーンにも目をつけ、強引に我が物にしようとしたことが、イシュトヴァーンがヴァラキアから出て行くきっかけのひとつともなった。現在は病のために[19]、かつての肥満体の面影もないほどに痩せてしまったと噂される。143巻「永訣の波濤」にて間者によって殺される。
ヨオ・イロナ
レンティアの女王。巨大な肥満体をしている。パロ救援の為の出兵を問う沿海州会議では、自国のレント水軍は出兵させないながらも表向きは出兵に賛成しながら、裏ではアンダヌスの陰謀に加担していた。外伝25巻にて死去する。
アウロラ
レンティアの王女。ヨオ・イロナの娘で、外伝25巻「宿命の宝冠」の主人公。普段から男装をしている。ヨオ・イロナの死後の兄弟間の後継を巡る争いの後はケイロニアに従者とともに滞在している。父はアンテーヌ侯アウルス・フェロン。ケイロニア子爵アウルス・アランやディモスの妻であるアクテは異母兄弟にあたる。
オルロック
トラキア自治領の領主で伯爵。パロ救援の為の出兵を問う沿海州会議では、妻のエリジアの勧めで表向きは出兵に賛成しながら、裏ではアンダヌスの陰謀に加担していた。
コルヴィヌス
イフリキアの総督。パロ救援の為の出兵を問う沿海州会議では、表向きは出兵に賛成しながら、裏ではアンダヌスの陰謀に加担していた。
ミリア
アグラーヤのヴァーレンにある《ウミネコ亭》の娼婦で看板娘。アルゴスでリンダと別れてアグラーヤにやって来たイシュトヴァーンと出会い愛人関係になるが、イシュトヴァーンがアグラーヤ兵に追われているのを庇ってしまったために、アグラーヤ兵に殺害された。

タリア伯爵領の人物[編集]

ギイ・ドルフュス
タリア伯爵領の領主であるタリア伯爵。モンゴール復興戦争では当初傍観の構えを見せており、タリアに亡命していたサイデンの要請も無視していたが、妹のアレンの説得により軍をアレンに指揮させてモンゴールへ向かわせた。
アレン・ドルフュス
ギイの妹でタリア子爵。容姿は優れていないが、高潔な内面が周囲に高く評価されている。〈レントの白いバラ〉と呼ばれている。アムネリスと親交が深く、妹同然に可愛がっていた。モンゴール復興戦争では、当初傍観の構えを見せていたギイを説得して自身がタリア海軍を率いてモンゴールに向かった。アムネリス軍がトーラスを奪還した後にトーラスの城に入り、城の中で偶然にイシュトヴァーンとアリストートスの密談を聞いてしまい、イシュトヴァーンに警戒心を抱く。
後にモンゴールがイシュトヴァーンに再度滅ぼされ、アムネリスが自害した後は、イシュトヴァーンとゴーラ王国をユラニアを奪い取った盗賊の親玉とその集団だと、兄ギイと共に公然と非難している。

ヤガの人物[編集]

イオ・ハイオン
表向きはヤガの大商人だが、実は《新しきミロク》の幹部である中年男性。ヤガに到着したばかりのヨナたちの前に現れ、ヨナとスカールを自分の屋敷に誘って監視し、傀儡にしたマリエ親子を使ってヨナを《新しきミロク》に引き入れようとしたり、ヤガから脱出しようとするスカールとフロリーたちの前に傀儡たちを引き連れて捕らえようとした。なお、その際にスカールに胴を両断されたが平然としているなど、ゾンビーを思わせる様子だが詳細は不明。
エルラン
イオの屋敷でヨナとスカールに忠告した男装の少女。《ミロクの兄弟姉妹の家》に八年も止め置かれている。
ジャミーラ
巨大な黒人女で、「ミロクの聖姫」と名乗っている魔道師。ヤガ郊外に逃れたヨナとスカールの部下たちの前に突然現れ、ガーガーを操ってスカールの部下たちを皆殺しにした後、ヨナを拉致してミロク大神殿に連れ去った。その正体は、外伝「七人の魔道師」に登場する〈黒き魔女〉タミヤ。144巻「流浪の皇女」にて、ヤガの争乱中に消滅する。
カン・レイゼンモンロン
《新しきミロク》の大導師。ミロクのために働く全ての使徒の上に立つとされる。ヤンダル・ゾッグ配下の竜人。ブランとスカールにより殺される。
イグ=ソッグ
外伝「七人の魔道師」に登場するイグ=ソッグ本人。山羊頭、蹄をもつ脚をした一つ目の怪物。理性を失った状態であったがイェライシャによって理性を取り戻し、以降はイェライシャの命に従う。
ベイラー
外伝「七人の魔道師」に登場する〈石の目のルールバ〉。144巻「流浪の皇女」にて、ヤガの争乱中に消滅する。
イラーグ
外伝「七人の魔道師」に登場する〈矮人エイラハ〉。144巻「流浪の皇女」にて、ヤガの争乱中に消滅する。
ババヤガ
外伝「七人の魔道師」に登場する〈長舌のババヤガ〉本人。
ヤロール
《新しきミロク》の最高位である超越大師を名乗る。かつては、ソラ・ウィン、ヤモイ・シンの弟子であった。
ソラ・ウィン
神殿の最下層に閉じ込められていたミロクの老僧。「干した猿の死骸」のようなミイラ状態。
ヤモイ・シン
神殿の最下層に閉じ込められていたミロクの老僧。ソラ・ウィン同様にミイラ状態だが、元から顔に丸みがあるため「千した林橋」のような顔となっている。

キタイの人物[編集]

ヤン・ゲラール
中原ではキタイの暗殺教団として知られる教団〈望星教団〉の第三十代教主。金髪の美男であるが、〈望星教団〉独特のアルゴン化と呼ばれる体の石化が進行しており、右半身は青緑色の水晶状になっている。もっとも、彼のように体の半身だけがアルゴン化するのは、極めて特異な例であるらしい。グインがシルヴィアを救出した際に彼と知り合い、彼の求めに応じて、キタイの少年団のリーダーであるリー・リン・レンの後見役となった。キタイの魔道竜王ヤンダル・ゾッグとは激しく対立しており、現在はリー・リン・レン率いる〈青星党〉とともに、ヤンダル・ゾッグに対する反乱を主導している。
リー・リン・レン
ホータンの抵抗グループ〈青星党〉のリーダーをつとめる青年。小柄で片足が不自由だが、知力、胆力、統率力に極めて秀でた、天性の指導者である。もともとは、魔道竜王ヤンダル・ゾッグの支配下で魔都と化したホータンで生き延びるために少年たちが結成した武装集団〈青鱶団〉のリーダーをつとめ、少年たちの信頼を集めていた。グインがシルヴィア救出のためにホータンを訪れた際に彼と出会い、その天才をグインに認められて、望星教団教主ヤン・ゲラールの後見を得るに到った。いったんホータンを離れたのちに、新たに〈青星党〉を結党し、ヤン・ゲラールとともに、ヤンダル・ゾッグに対する反乱を主導している。

ノスフェラスの人物[編集]

ドードー
ノスフェラスの巨人族ラゴンの族長。勇者ドードー。娘にラナ。2タールをはるかに超える身長と、鋼のように鍛えられた肉体を誇る、グインよりも巨大な数少ない人物のひとりでもある。〈勇者ドードー〉とは一族随一の勇者の称号であり、ドードーと並ぶ一族の指導者である〈賢者カー〉とともに代々受け継がれてきた称号である。グインをノスフェラスの王として崇める一方で、彼の親友のひとりでもあるが、ノスフェラスの王であるグインがノスフェラスを不在にしていることには大いに不満を抱いており、そのことでしばしばグインと衝突し、一騎討ちに及ぶこともあった。
ロトー
ノスフェラスの矮人族セムの最大部族ラク族の前大族長。孫娘にスニ。グインとともにモンゴールと戦った。セム族としては異例の長命を保ったといわれ、他のセム族からも敬意を払われる、セム族全体の族長のような存在でもあった。セム族の中では数少ない、中原の言葉を理解する人物のひとりでもある。その死の際には、グラチウスの魔道によって、実体のない姿となってノスフェラスを訪れたグインと再会し、歓喜の中で息を引き取った。
シバ
ノスフェラスの矮人族セムのラク族の族長。大族長ロトーの後継者。父は同名のシバ。筋肉のよく発達した、セム族としてはかなり大柄な男で、知性も優れており、モンゴールとの戦いにおいては、グインを助けてよく戦った。スカールがグル・ヌーの秘密を求めてノスフェラスを訪れた際も、彼の案内役のひとりとして、ノスフェラスの奥地にまで同行した[20]。いまではセム族としては初老の男となったが、グインに対する深い心酔は、若いころと変わるところはない。

魔道師[編集]

グラチウス
ドールの最高祭司にして、世界三大魔道師のひとりに数えられる黒魔道師。〈闇の司祭〉。限りなく年老いてひからびたミイラのような風貌の老人。年齢は三千歳以上ともいわれるが、パロに残る記録によれば八百余歳程度であるらしい[21]。極めて強力な魔力を誇り、彼ひとりでパロ魔道師ギルドに所属する白魔道師全員を合わせたそれを凌駕するらしい。
若いころから世界支配の野望に満ちており、魔道十二条に背いたものとして、ドール教団を設立したともいわれる。性格は極めて邪悪にして冷酷で、自らの野望の実現のためには他者を破滅させることになんのためらいも見せないが、一方でどこかおちゃらけたような剽軽なところもあり、稚気にあふれた憎めない老人でもある。また、なにかというと自慢話をしたがる困った性癖もあり、第一の手下である淫魔ユリウスの下品さとともに、周囲をいつも辟易させている。自らの魔力の強さに対しては極めて強い自負を持っているが、それだけに、それを脅かす存在に対しては敏感であるようで、特にキタイの魔道竜王ヤンダル・ゾッグに対しては強い対抗心を燃やし、それに対抗するべく、黒魔道師や魔物の勢力を結集した《暗黒魔道師連合》を中心となって設立したこともある。
彼の野望を実現に導くものとして、グイン、パロの古代機械、ノスフェラスのグル・ヌーに対して並々ならぬ関心を持っており、それゆえ、グイン自身と、古代機械の秘密を知るアルド・ナリス、グル・ヌーの秘密を知るスカールに対しては幾度となく接触し、また彼らを手中に収めるべく陰謀をめぐらせてきた。もっとも執着する対象であるグインに対しては、グインがサイロン入りした直後から接触を開始し、二度にわたるケイロニア-ユラニア戦役の黒幕となり、グインに《生涯の檻》の罠をしかけ、またケイロニア皇女シルヴィアを誘拐し、などとその手は苛烈にして休むところを知らない。スカールに対しては、ノスフェラスで彼が患った放射線障害と思しき病の治療を行ったり、また長らく子のなかった彼の兄スタックの妻エマに対して不妊治療を行い、スカールの孤立を図ったりもしている。ナリスに対しては、彼が16歳の時に接触し、彼に将来の反乱を唆すような言動をみせており、実際にナリスが反乱を起こした際にも再び接触を図っている。さらに、2人が出会うときには、世界のエネルギーを変動させる《会》が起こると、古の大科学者アレクサンドロスによって予言された、グインとスカールとの邂逅の実現に、影から動いたのも彼である。が、これまでのところ彼のもくろみは、グイン自身の強大な力や、グラチウスの宿敵である魔道師イェライシャの活躍などにより、ことごとく失敗に終わっている。
ロカンドラス
ノスフェラスの中心部、グル・ヌーの周辺を自らの結界とする、世界三大魔道師のひとりに数えられる魔道師。〈北の賢者〉。齢千年を超えるといわれる、骸骨のように痩せた小柄な老人。白魔道師であるとされるが、かつて魔道十二条の制定者たるアレクサンドロスへの協力を拒んでパロを去ったともいわれ、俗世の争いに関わることなく、ひとり世界生成の秘密と宇宙の黄金律への観相を行うことをもっぱらとしている。魔道師の中では、魔道に対してもっとも科学的な見方をしている人物でもあり、彼が魔道に関して話す際には、グル・ヌーの瘴気を放射能と表現するなど、物理科学的な用語が頻繁に登場するのも特徴である。最近になって入寂し、肉体は滅びたものの、魂は精神生命体となって生き続けており、その魔力もいくつかの制限を除けば、生前とほぼ変わらないようである。
彼の最大の関心は、グル・ヌーと、その地下に眠る星船にあった。自身の類いまれな魔力によって身を守り、ただひとり強烈な瘴気に満ちたグル・ヌー内部へ侵入することの可能であった彼は、その生涯のほとんどをその研究に捧げたといっても過言ではない。スカールがグル・ヌーの秘密を求めて、ノスフェラスの中心部を目指した際には、彼をバリヤーで保護してグル・ヌーへ誘い、星船の秘密の一端を彼に明かした。が、そのバリヤーも、普通の人間であるスカールを守るには不充分であったのか、その後、スカールは放射線障害と思われる病に冒されてしまった。また、精神生命体となってからも、怪物アモンとともに古代機械によってノスフェラスへ転送されたグインを星船へと誘い、また記憶を失って帰還したグインを、消滅後に死者の怨念渦巻く《怨霊海》へと変貌したグル・ヌーから救出する役割を果たした。
アグリッパ
世界三大魔道師のひとりに数えられる大魔道師。ハルコン出身。〈大導師〉。カナンを大災厄が襲う直前に生まれ、三千年以上の齢を誇る。その生涯をひたすら研鑽に努めたゆえ、その魔力は極めて強大で、同じ世界三大魔道師に数えられるロカンドラスやグラチウスも到底及ぶものではない。いくつかの人造生命の創造にも成功しており[22]、そのうちのひとつ“蹄ある”イグ=ソッグは、自ら強力な魔力を身につけ、世界支配の野望を抱くまでに至ることになる(外伝『七人の魔道師』)。アグリッパ自身は、しばらくノスフェラスに居をかまえたのち、地上に存在が許されないほどの強大なエネルギーを持つ精神生命体へと進化を遂げたため、現在は地上を離れて、他の広大な無人の惑星にその身をおいている。魔道師が白魔道師と黒魔道師に分かれる前から存在しているため、どちらにも属さないが、自身の関心が俗世を離れた大宇宙の運命の観相に向いているためか、俗世に対して野望を向ける黒魔道に対しては、あまりよくは思っていないようである。
一部からはその存在が疑問視されるほど、長期にわたって人前に姿を現すことはなかったが、キタイの魔道竜王ヤンダル・ゾッグの野望から中原を守るために、アグリッパの助力を求めて、魔道師イェライシャとともに、ヴァレリウスが彼の結界を訪れた際には、約二百年ぶりに他者に対して自らの結界を開き、彼らを中へと招き入れた。が、すでに俗世に対する興味を完全に失ったアグリッパとヴァレリウスとの思惑は、一致する点すら見出すことができず、ヴァレリウスがアグリッパの助力を得ることはできなかった。だが、アグリッパもグインの動向には少なからぬ興味を引かれているようであり、今後、グインに関連して俗世に対するなんらかの干渉を行う可能性がないとはいえない。
ヤンダル・ゾッグ
キタイの魔道竜王。遠い過去に別の惑星から飛来したインガルスの竜神族の末裔にして、ウルクの竜の民を名乗り、竜頭人身の異形を持つ。種族の悲願でもあった故郷の星への帰還を目指し、そのための足掛かりとして、約20年前にキタイの前王カン・チェン・ルアンを倒して、東方の支配者となった。その後、故郷へ帰還するための拠点となる新都シーアンの建設に必要となる生体エネルギーを集めるため、多くの人々を生贄とし、キタイの人民を恐怖に陥れた。
故郷への帰還を果たすためにはかかすことのできないカイサール転送装置(パロの古代機械)を手に入れるために、早い段階からさまざまな陰謀をめぐらしていた。物語の発端となった黒竜戦役においても、キタイの魔道師カル=モルを通じてモンゴールに働きかけて、パロを奇襲させると同時に、傀儡となっていたパロ宰相リヤをして、王太子レムスと王女リンダを、古代機械によってキタイへ転送させようとした。この際、強力な結界を張ることにより、モンゴールの奇襲をパロの魔道士軍団が察知することを妨げる役目を担ったとのナリスらによる推測もある[23]
その後も、レムスに憑依したカル=モルの亡霊を通じて、徐々にパロへの支配を強め、また古代機械の秘密を知るアルド・ナリスを手中にすべく陰謀をめぐらしてパロ内乱を引き起こした。が、参戦したケイロニア王グインらの活躍と、本拠地たるキタイでリー・リン・レンやヤン・ゲラールが中心となって起こした大規模な反乱などにより、中原からの撤退を余儀なくされた。しかしその後、再び中原に対する野望を燃やしてケイロニアの首都サイロンに大いなる災厄をもたらし(外伝第1巻『七人の魔道師』など)、サイロンで暗躍していた魔道師たちの肉体とパワーを吸収し、ヤガで台頭している《新しきミロク》を裏で操るなど、今後もその動向がおおいに注目される存在である。
イェライシャ
世界三大魔道師に次ぐ力を持つ白魔道師。ハイナム、カナリウム出身。すらりとした長身、長い白髪の老人。〈ドールに追われる男〉。グラチウスの兄弟子にあたり、グラチウスよりも長い千年の齢を誇っている。もともとは悪魔神ドールの徒として、グラチウスとともにドール教団の創設に深く関わり、教団の最高司祭もつとめたという。だが、600年ほど前のある白魔道師との闘いをきっかけにヤヌスの啓示をうけ、ドールに背いてヤヌス大神の徒となり、以来、ドールに追われる身となった。
その数十年後、グラチウスの罠にはまって囚われの身となり、ユラニアの首都アルセイスのザンダロスの塔の地下に幽閉されてしまう。もっとも、身体は拘束されても、精神は比較的自由に行動できたようで、約300年前にはルードの森でアグリッパと邂逅を果たし、またサイロンでグラチウスの罠に落ちかけたグインを救助したこともある。
第二次ケイロニア-ユラニア戦役の際に、アルセイスを訪れたグインの手によって、550年ぶりに自由の身となり、以後グインの忠実な味方となる。グラチウスに拉致されたケイロニア皇女シルヴィアの居場所について、グインに示唆したのも彼である。また、パロ内乱の際には、アグリッパの行方を求めて訪れたヴァレリウスを先導して、ともにアグリッパの結界を訪れ、その後もヴァレリウスの求めに応じて、ナリスをマルガに戻すための佯死の術を施すなど、キタイの魔道竜王ヤンダル・ゾッグの中原進出を阻止するに一役買った。さらに、星船を舞台としたアモンとの闘いから帰還して記憶を失ったグインと、放射線障害と思しき病が再発して死に瀕していたスカールにも救いの手を差し伸べ、スカールに新たな治療を施すとともに、グインをマリウスとともにパロへの道中へと送り出す役目を果たした。
カル=モル
キタイ出身の魔道師。元パロ王立学問所所長カル・ファン、キタイの首都ホータンのゼド教の僧侶カル=カンとは同族であるらしき事が作中で示唆されている[24]。百年ほどの昔、ノスフェラスの秘密を解いてカナンを再興させんとする野望を抱き、大導師アグリッパを求めてノスフェラスへと入った。その後、ノスフェラスの中心部であるグル・ヌーの周辺部に至る(本人はグル・ヌーそのものに到ったものと考えていたらしい)が、周辺部にまで及ぶ、放射能と思われる強烈な瘴気の影響からか、すっかり干からびた骸骨同然の姿となってしまう。なんとかケス河を渡り、モンゴールの辺境にたどり着いた彼は、辺境開拓民に救われ、辺境警備隊の手によってモンゴールの首都トーラスへと送られる。
少なくとも、この頃には彼はキタイの魔道竜王ヤンダル・ゾッグの傀儡となっていたとされる。モンゴール大公ヴラドと謁見した彼は、グル・ヌーについて告げるとともに、パロの古代機械の存在をヴラドにあかし、パロへの奇襲の進言と、その成功の保証を行う。その進言どおりにパロ奇襲が成功したのち、彼はアムネリス率いるノスフェラス侵攻軍に同行して、再びノスフェラスへと入る。しかし、グイン率いるセム・ラゴン連合軍との戦いの中で、ラゴンの槍に刺され、あえなく戦死する。
だが、肉体は滅びても、彼の妄執にまみれた精神は滅びてはいなかった。怨霊と化した彼はパロ王太子レムスの精神に憑依し、徐々に彼をキタイの傀儡に仕立て上げたのちに、ようやくその役目を終えて消滅した。
ルカ
サイロンのまじない小路に住まう魔道師。〈世捨て人〉。もっとも、まじない小路にあるのは、彼の結界の入り口のみであり、結界そのものはノスフェラスにあるらしい。グインが放浪者として初めてサイロンに入った際、彼を出迎えて最初に「王よ」と呼び掛けた人物でもある。予知の力に極めて秀でているものの、それ以外の魔道についてはさほど強い力は持っていない。もっとも、それは予知の力を得るために、その他の力を犠牲にしているためであるらしい。グインの将来などについて、これまでにさまざまな予言をしてきており、外伝『鏡の国の戦士』では、グインとヴァルーサのあいだの初子が男児であることを予言している。
ガユス
モンゴールに程近い自由国境地帯にある派遣魔道士ギルドに所属する魔道師。黒竜戦役では、モンゴールに雇われてアムネリス付きの魔道士としてアムネリスを助けた。第二次黒竜戦役終結後は派遣魔道士ギルドに戻ったが、後にイシュトヴァーンの裁判が行われた際にサイデンによって証人としてトーラスに召喚され、黒竜戦役当時のモンゴールに関する証言を行った。その直後に起こったトーラス動乱の時には、人知れず姿を消していた。
オーノ
アリストートスに雇われていたヤミ魔道師で、あらゆる毒物を扱うことが出来る。実際はホータン魔道師ギルド所属の魔道師で、ヤンダル・ゾッグの部下として中原へと送り込まれていた。アリストートスの命令で常にイシュトヴァーンを監視していたが、ゴーラの動乱の最中にイシュトヴァーンがマルコだけを連れてアルド・ナリスに会いに行った帰路の途中でヴァレリウスによって捕らえられ、魔道により自身とアリストートスの悪事の全てを自白させられる。その後、ヤンダル・ゾッグがパワーを送り込むための端末にされるが、イシュトヴァーンに斬り倒されて死亡した。

怪物、魔物[編集]

ホーリー・チャイルド(フモール)
巨大なひとつ目の巨大な頭を持つ、手も足もない芋虫のような奇怪な胎児状の生物。もっとも有名なものは、ノスフェラスのグル・ヌーの地下に眠っていた星船で発見されたものである。また、レント海の島の洞窟から飛び立った星船でも同様のものがグインによって目撃されている。また、しばしばグインの見る夢や幻覚様のものとしても頻繁に登場しており、かつて幻覚の中に見たその生物に対して、グインが「ホーリー・チャイルド!」と呼び掛けたことがある。その姿はなぜかグインに激烈な恐怖を感じさせるものであるらしく、グインや星船との強い関連性を伺わせる。
魔道師ロカンドラスらの証言によれば、この生物は高い知性を持つという。キタイの魔道竜王ヤンダル・ゾッグの語るところによると、彼の先祖である竜人族が星海の果てで発見した生命の源なる星ユゴスに存在していたとされる生物と同じもので、竜人族によって〈神の種子〉を意味する〈フモール〉と名付けられた。《超越者》と呼ばれる強大な精神生命体種族の一部から派生した種族の末裔であるともいわれる。
ユリウス
2000年生きているといわれる淫魔。夢魔インキュバス。すでに滅亡したとされる古代生物カローンの淫魔族の唯一の生き残りで、魔道師グラチウスの一の手下。変身能力を持ち、普段はぬめるような白い肌に、黒髪、黒い瞳、真紅の唇の妖艶な美青年の姿をしているが、本来は巨大な耳と金色の目に尻尾を持つ、奇怪な姿の生物である。
淫魔と呼ばれるだけあって、その性的な技巧は極めて優れている。グラチウスの命により、ダンス教師エウリュピデスを名乗ってケイロニア宮廷へ潜入した際には、その淫靡な魅力で皇女シルヴィアを誘惑して拉致し、キタイで監禁して、彼女を麻薬と性の快楽に溺れさせた。同時に、監禁していた吟遊詩人マリウスに対しても、性的な虐待を行った。グラチウスの手下らしく、極めて非情な一面もあるが、本性は剽軽にして下品なおちゃらけものである。
〈インキュバスの淫獣責め〉と呼ばれる技によって人の精気を吸収し、自らのエネルギー源としている。だが、グインにその技を仕掛けた際には、グインの無尽蔵のエネルギーを吸収しきることができず、飽和状態となって破裂し、死にかけた。その他にも、幾度となく人々にちょっかいをかけては、しっぺ返しを食らい、手痛い目にあうことが多い。それでも持ち前のしぶとさからすぐに復活し、懲りもせずにさまざまな場面に登場しては、その下品なしぐさで人々を辟易させるという、ピエロ的な役どころを担っている。
ザザ
黄昏の国の女王。ハーピィの血を引くという大鴉。人間界と魔界のあいだにあるという妖魔の国である黄昏の国の門番役を自任し、生身の人間や死人が黄昏の国に入ってこないように見張っているという。
グインのシルヴィア探索行の際、狼王ウーラとともに半ば強引に道案内役となった。その際には、色っぽい妙齢の美女の姿に変身して同行し、時折グインを誘惑して閉口させつつも、キタイや帰途のノスフェラスで幾度となく彼を助けて活躍した。精神生命体アモンとの闘いからノスフェラスに帰還したグインが中原へ向かった際にも、再びウーラとともに同行して、記憶を失った彼をよく補助した。
ウーラ
ノスフェラスの狼王。前狼王ロボと、地獄番犬ガルムの娘シラの子。父ロボのあとを継いでノスフェラスの灰色狼たちを束ねているが、妖魔ガルムの血が入っているために、常にノスフェラスに入ることはできず、普段は黄昏の国や、黄泉の国近くのセトーの森で暮らしているらしい。念波を使って会話をすることもできるが、灰色狼としての立場を守り、滅多にその能力を使うことはない。
グインのシルヴィア探索行の際、黄昏の国の女王ザザとともに半ば強引に道案内役となった。その際には、持ち前の変身能力をいかし、巨大な馬などさまざまなものに姿を変えて、グインをおおいに助けた。その後も、ザザとは息の合ったコンビぶりを見せ、精神生命体アモンとの闘いからノスフェラスに帰還したグインが中原へ向かった際にも、彼女とともに記憶を失った彼をよく補助した。

脚注[編集]

  1. ^ 『このライトノベルがすごい!2006』宝島社、2005年12月10日、103頁。ISBN 4-7966-5012-1 
  2. ^ 正伝第3巻『ノスフェラスの戦い』冒頭の「混沌の時代」と題された一節には、グイン・サーガのその後の展開を暗示するようないくつかの記述がみられる。そこには、「ケイロニアをみすてた豹頭王グイン」と記されている。
  3. ^ ランドック時代のグインの妻の名に関しては、おおむねアウラ・カーと記されている(正伝第94巻『永遠への飛翔』、外伝第11巻『フェラーラの魔女』など)。だが、正伝第44巻『炎のアルセイス』中の一個所でのみ、イェライシャがグインの潜在意識から読み取った名として、アウラ・リーガと記されている。アウラ・カーとアウラ・リーガとの関連については、暁の五人姉妹ということ以外は現時点では不明である。
  4. ^ 正伝第3巻『ノスフェラスの戦い』冒頭の「混沌の時代」と題された一節には、グイン・サーガのその後の展開を暗示するようないくつかの記述がみられる。そこには、「第三次パロ神聖王国の中興の祖となる聖王レムス」と記されている。
  5. ^ この時ヤンダル・ゾッグは、イシュトヴァーンをおのが中に黒き闇の種子を宿す者と評した。
  6. ^ 黒竜戦役緒戦において、ナリス配下の魔道士による情報網がモンゴール軍の動向を見落とした事、戦略戦術に長けた彼が開戦後まもなく負傷し潜伏を余儀なくされた事は不自然であるとして、これらはモンゴールの侵略を黙過する事によって、パロの当時の国王と王党派の排除と、自らの手による中興を目論んだナリスの陰謀であるとする推測もある[要出典]。しかし、ナリス配下の魔道士のみならず、パロ魔道師ギルドが国境に厳重に張り巡らせていた結界によっても、モンゴール軍がクリスタルの北に現れるまで動向を察知できなかったというヴァレリウスの証言(正伝第65巻『鷹とイリス』)や、パロの魔道師たちによる結界や罠が解除される日時を、モンゴール大公らにクリスタル奇襲を進言したキタイの魔道師カル=モルが明言していたというアムネリスの証言(正伝第69巻『修羅』)、さらにはナリス自身による、当時についての数々の回想(正伝第85巻『蜃気楼の彼方』他)など、その説に対しては否定的な証言が多い。
  7. ^ 原点において比較対象がどちらを指すか不明確
  8. ^ ファーンの父の名については、正伝6巻『アルゴスの黒太子』での初出時にのみアーカムと記されていた。その後、正伝6~10巻を収録した単行本『愛蔵版グイン・サーガII』および『限定版グイン・サーガII』(ともに1990年刊行)において、当該個所に関してもアルディスと訂正された。
  9. ^ アニメ版では、スタフォロス城の剣豪ネムの攻撃で致命傷を負って死亡した。
  10. ^ 実際にはマーロールの手によって救出されていた
  11. ^ ガンダルが実際に物語に登場した正伝第113巻『もう一つの王国』以降における、彼の体格の描写には特に該当するような記述は見られないが、正伝第20巻『サリアの娘』における、当時のケイロニア大公ダリウスの証言によれば、ガンダルの右手が左手よりも掌ひとつ分長いというのは有名な話であったという。最もガンダルは自らの伝説性を高めるため、様々なデマを自ら流していた、とも云われる。また、ガンダルの職業については、剣闘士の他、格闘技士、闘技士などとも記されている。
  12. ^ a b アキレウスとマライアとの間には、シルヴィアの他に三男一女が誕生しているが、いずれも二歳を迎えずして死去した。(正伝第18巻『三人の放浪者』参照)
  13. ^ シルヴィアの名については、外伝1巻『七人の魔道師』など一部において「シルウィア」と表記されている。このことについて作者は、『S-Fマガジン 1982年12月増刊号』所収のエッセイ「豹(グイン)より若き友への手紙」の中で、「どっちの語感も好きで、一方をえらぶのがイヤ」だからだ、と述べている。その後、正伝17巻『三人の放浪者』あとがきにおいて、シルヴィアで統一することを宣言した。
  14. ^ 上記「混沌の時代」には「ケイロニアにいったん破滅をもたらすにいたった〈売国妃〉シルヴィア」と記されている。
  15. ^ ディモスの治めるワルスタット選帝侯領は、ケイロニアの中でもっともパロに近い地域に位置しており、そのためワルスタット侯家にはパロ人の血がかなり濃く混じっている。そのため、彼の端麗な容姿は、美貌の人種として知られるパロ人の血の影響であるとも云われる。
  16. ^ グインの言によれば、殺すまでのことはなかったが、薬による痺れの為、手加減できなかったとのこと(正伝22巻『運命の一日』)。
  17. ^ スタックとエマの長男の名について、正伝26巻『白虹』ではエルシウス、正伝63巻『時の潮』ではスーティンと記されている。この齟齬の理由については明らかではないが、『白虹』では、王子につけられたエルシウスというパロ風の名前に代表される、アルゴス王家のパロ化に対する、グル族など遊牧民族の反発を示唆する記述が散見される。なお、解説本『グイン・サーガ・ハンドブック』所収の「人名事典」では、1999年の改訂に伴い、初版時に記載されていたエルシウスの名が削除され、スーティンに統一されている。
  18. ^ 正伝第13巻『クリスタルの反乱』所収の作者あとがきによれば、正伝第12巻『紅の密使』の表紙絵にアンダヌスが描かれた際、その醜さに対する大きな反響が、多数のファンから寄せられたという。
  19. ^ 病との因果関係は明確ではないが、正伝第36巻『剣の誓い』におけるカメロンの証言によれば、その発症に前後する時期、懸想した大貴族の嫡男の家に忍び込んだところをその家の見張りに発見され、容赦ない暴行を受けて大きな怪我を負い、ほとんど寝たきり状態となったという。
  20. ^ この際、スカールに同行したシバを含むセム族全員が、放射能汚染されたと見られる水を飲んでいるが(正伝第19巻『ノスフェラスの嵐』)、同様にその水を飲んだ後、数日を経ずして多くのものが斃れたスカールの部下たちと異なり、彼らの体調にとりわけ変化は見られなかった(正伝第23巻『風のゆくえ』)。
  21. ^ 最近では、グインらに対し、自らの年齢が八百歳程度であることを認めている(正伝93巻『熱砂の放浪者』)
  22. ^ 魔道十二条第十条には「魔道によって失われた生命を復活させ、あるいはいまある生命を奪い、あるいはそのすがたを回復不可能なように変身させ、あるいは人工の生命をつくりだすことはできない」と記されている(正伝第46巻『闇の中の怨霊』)。アグリッパによる人造生命の創造はこれに抵触するものであり、このことはアグリッパが魔道十二条の制約を受けない存在であることの傍証となっている。
  23. ^ 正伝第65巻『鷹とイリス』参照。
  24. ^ 正伝第49巻『緋の陥穽』、外伝第12巻『魔王の国の戦士』参照。